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第78話
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「お父様…!お父様!!!!」
グローリアが姿を現したとほぼ同時に、セシリアはその腕の中に飛び込んでいった。
彼女の記憶に残るグローリアの姿は今の姿とは違っているものの、その雰囲気やオーラは当時と全く変わっておらず、一目見ただけでそれが紛れもない自分の父親であることを彼女は心で感じ取った。
「セシリア、約束を守ってくれてありがとう。良く戻ってきてくれた。ずっとずっと、会いたくて仕方がなかったよ」
「お父様…!心配をかけてしまってごめんなさい…!私が勝手なことをしてしまったばかりに、迷惑をかけてしまってごめんなさい…!私、ずっとずっとその事を謝りたくて…」
「なにを謝ることがあるんだ。君はこうして試練を乗り越えて、再び私に元気そうな顔を見せてくれたじゃないか。私にとってはそれが、何よりも大事な事なんだよ」
グローリアは非常に温かい口調でそう言葉を発しながら、優しくセシリアの体を自身の胸の中に抱き寄せ、彼女の頭をなでる。
その父性にを全身に感じ取ったセシリアはその目に涙を浮かべ、心から嬉しそうな表情を浮かべていた。
「おっと、うれしいのはそれだけじゃないぞ?セシリア、君はこれから自分と一緒に未来を歩むべき相手を見つけたらしいじゃないか♪」
「そ、それは…!わ、私そこまでは…!っていうか、聞いておられたんですかお父様!?」
「はっはっは、これはこれは…♪」
グローリアはからかうようにセシリアにそう言葉を発して見せると、分かりやすいリアクションを浮かべる彼女の姿を見て非常に愉快そうな表情を浮かべる。
「時は経ってしまったものの、そういう可愛らしさは昔から全く変わっていないな。私もクラインも、君のそういうところが大好きだったのだから」
「う……」
グローリアはセシリアの反応を見ては楽しそうな表情を見せ、心地の良さそうな時間を過ごしていた。
しかしその後彼は自身の表情を真剣なものとすると、セシリアに対してこう言葉を告げた。
「セシリア、君がレベッカとしての未来を歩むことを選んだとしても、君はいつまでもこの私のたった一人の娘だ。それはこれから先どんなことが起ころうとも、変わることはない。だからなにかあったなら、いつでも変わらず私やクラインを頼ると良い」
「お父様……ありがとうございます…!」
「うむうむ♪」
グローリアは非常に満足気な表情を浮かべ、再びセシリアの頭をそっとなでる。
彼はこうして娘と直接話をすることは久方ぶりであるからこそ、彼女に聞いてみたいことは山のようにあるであろうに、グローリアは自分の感情をおしとどめて彼女に深堀をせず、彼女の思いを優先することを選んだのだった。
「ラクス侯爵、レベッカの事をよろしく頼むよ。直接話をしてみてよくわかった。君ならば、いや君たちならば、必ず私の娘を幸せにしてくれるとね」
グローリアは皇帝らしいするどい目つきで、それでいて優しき父親らしき温かい口調で、ラクスに対してそう言葉を告げた。
ラクスはそんなグローリアの言葉に力強くうなずいてみせ、自信をもって返事をした。
「侯爵様、リーゲルたちの後の事はすべて我々にお任せください。また、なにかお困りの事がありましたら、いつでもご連絡ください。近衛兵一同、いつでもお力になりますよ」
「助かるよクライン、心から感謝する」
グローリアに続き、クラインもまたラクスに対してそう言葉をかけた。
その口調もまた、近衛兵らしく鋭く、それでいて友人らしく温かいもののように感じられた。
「それじゃあ侯爵、さっさとレベッカを連れて家に帰ると良い。きっとそこには、レベッカの帰りを待っている者たちが大勢いるのだろう?」
「グローリア…」
「あぁ、お戻りの際はマルンをお使いになってもらって構いませんよ。彼は優秀ですから、屋敷に到着した後は一人でこちらまで戻ってこられますから」
「そ、それはありがたいが二人はどうするんだ?このまま王宮に戻らないといけないんだろう?」
「たまにはクラインと二人でまったり散歩をするのも悪くはない。いいな、クライン?」
「もちろん、どこまでもお供させていただきます」
「二人とも…」
グローリアとクラインは笑みを浮かべながらそう言うと、クラインはラクスの、グローリアはレベッカの背中をぽんと叩き、自分たちの居場所に向けて進むよう示した。
2人からそう心遣いをかけられたラクスとレベッカは、その場で二人に向けて深く、深く頭を下げた後、やや恥ずかしそうにその場で手をつなぐと、マルンが待っている教会の外を目指して歩き始めていった。
そしてそんな二人の背中が夜の闇の中へと消えていった時、グローリアはやや苦笑いを浮かべながらクラインに対してこう言葉を告げた。
「やれやれ…。ふられてしまったな、我々は」
「ですね。でも、なんだか澄んだ気持ちです」
「澄んだ?」
グローリアの言葉に対し、クラインはどこかすっきりしたような表情を浮かべながらこう言葉を返した。
「彼女が私の前から消えていくのはこれが二度目。ですが今回は、一度目とは違って後悔や悔しさは一切ありません。むしろそれどころか、彼女の明るい表情を見られてうれしい自分さえいます。…おかしいですかね?」
「おかしくなどはないさ。私も全く同じ思いなのだから」
「グローリア様も?」
「さぁ、モテない男同士、寂しく酒でも飲みに行こうじゃないか。この近くに、かつて私の部下だった男がやっているお店がある。クライン、朝まで付き合ってもらうぞ?」
「もちろん、どこまでも」
グローリアが姿を現したとほぼ同時に、セシリアはその腕の中に飛び込んでいった。
彼女の記憶に残るグローリアの姿は今の姿とは違っているものの、その雰囲気やオーラは当時と全く変わっておらず、一目見ただけでそれが紛れもない自分の父親であることを彼女は心で感じ取った。
「セシリア、約束を守ってくれてありがとう。良く戻ってきてくれた。ずっとずっと、会いたくて仕方がなかったよ」
「お父様…!心配をかけてしまってごめんなさい…!私が勝手なことをしてしまったばかりに、迷惑をかけてしまってごめんなさい…!私、ずっとずっとその事を謝りたくて…」
「なにを謝ることがあるんだ。君はこうして試練を乗り越えて、再び私に元気そうな顔を見せてくれたじゃないか。私にとってはそれが、何よりも大事な事なんだよ」
グローリアは非常に温かい口調でそう言葉を発しながら、優しくセシリアの体を自身の胸の中に抱き寄せ、彼女の頭をなでる。
その父性にを全身に感じ取ったセシリアはその目に涙を浮かべ、心から嬉しそうな表情を浮かべていた。
「おっと、うれしいのはそれだけじゃないぞ?セシリア、君はこれから自分と一緒に未来を歩むべき相手を見つけたらしいじゃないか♪」
「そ、それは…!わ、私そこまでは…!っていうか、聞いておられたんですかお父様!?」
「はっはっは、これはこれは…♪」
グローリアはからかうようにセシリアにそう言葉を発して見せると、分かりやすいリアクションを浮かべる彼女の姿を見て非常に愉快そうな表情を浮かべる。
「時は経ってしまったものの、そういう可愛らしさは昔から全く変わっていないな。私もクラインも、君のそういうところが大好きだったのだから」
「う……」
グローリアはセシリアの反応を見ては楽しそうな表情を見せ、心地の良さそうな時間を過ごしていた。
しかしその後彼は自身の表情を真剣なものとすると、セシリアに対してこう言葉を告げた。
「セシリア、君がレベッカとしての未来を歩むことを選んだとしても、君はいつまでもこの私のたった一人の娘だ。それはこれから先どんなことが起ころうとも、変わることはない。だからなにかあったなら、いつでも変わらず私やクラインを頼ると良い」
「お父様……ありがとうございます…!」
「うむうむ♪」
グローリアは非常に満足気な表情を浮かべ、再びセシリアの頭をそっとなでる。
彼はこうして娘と直接話をすることは久方ぶりであるからこそ、彼女に聞いてみたいことは山のようにあるであろうに、グローリアは自分の感情をおしとどめて彼女に深堀をせず、彼女の思いを優先することを選んだのだった。
「ラクス侯爵、レベッカの事をよろしく頼むよ。直接話をしてみてよくわかった。君ならば、いや君たちならば、必ず私の娘を幸せにしてくれるとね」
グローリアは皇帝らしいするどい目つきで、それでいて優しき父親らしき温かい口調で、ラクスに対してそう言葉を告げた。
ラクスはそんなグローリアの言葉に力強くうなずいてみせ、自信をもって返事をした。
「侯爵様、リーゲルたちの後の事はすべて我々にお任せください。また、なにかお困りの事がありましたら、いつでもご連絡ください。近衛兵一同、いつでもお力になりますよ」
「助かるよクライン、心から感謝する」
グローリアに続き、クラインもまたラクスに対してそう言葉をかけた。
その口調もまた、近衛兵らしく鋭く、それでいて友人らしく温かいもののように感じられた。
「それじゃあ侯爵、さっさとレベッカを連れて家に帰ると良い。きっとそこには、レベッカの帰りを待っている者たちが大勢いるのだろう?」
「グローリア…」
「あぁ、お戻りの際はマルンをお使いになってもらって構いませんよ。彼は優秀ですから、屋敷に到着した後は一人でこちらまで戻ってこられますから」
「そ、それはありがたいが二人はどうするんだ?このまま王宮に戻らないといけないんだろう?」
「たまにはクラインと二人でまったり散歩をするのも悪くはない。いいな、クライン?」
「もちろん、どこまでもお供させていただきます」
「二人とも…」
グローリアとクラインは笑みを浮かべながらそう言うと、クラインはラクスの、グローリアはレベッカの背中をぽんと叩き、自分たちの居場所に向けて進むよう示した。
2人からそう心遣いをかけられたラクスとレベッカは、その場で二人に向けて深く、深く頭を下げた後、やや恥ずかしそうにその場で手をつなぐと、マルンが待っている教会の外を目指して歩き始めていった。
そしてそんな二人の背中が夜の闇の中へと消えていった時、グローリアはやや苦笑いを浮かべながらクラインに対してこう言葉を告げた。
「やれやれ…。ふられてしまったな、我々は」
「ですね。でも、なんだか澄んだ気持ちです」
「澄んだ?」
グローリアの言葉に対し、クラインはどこかすっきりしたような表情を浮かべながらこう言葉を返した。
「彼女が私の前から消えていくのはこれが二度目。ですが今回は、一度目とは違って後悔や悔しさは一切ありません。むしろそれどころか、彼女の明るい表情を見られてうれしい自分さえいます。…おかしいですかね?」
「おかしくなどはないさ。私も全く同じ思いなのだから」
「グローリア様も?」
「さぁ、モテない男同士、寂しく酒でも飲みに行こうじゃないか。この近くに、かつて私の部下だった男がやっているお店がある。クライン、朝まで付き合ってもらうぞ?」
「もちろん、どこまでも」
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