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第45話

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「お前の話はそれで終わったのか?なら今度は我々の話をお前に聞いてもらおうか」
「…」

皇帝らしい威圧感を大いに感じさせる口調で、グローリアはノルドに対してそう言い放った。
その言葉を聞いたノルドは、普段であればこのようなことをその心の中に思ったはず。

「(こ、皇帝が俺に話があるということは…。そうか、今回の俺の働きぶりを認めて、なにか特別な報酬を与えるという話だな!長きにわたって所在が不明だった皇帝令嬢を見つけ出したんだ、きっとその報酬は想像もつかないくらい価値あるものであることは間違いない!)」

しかし、この場におけるノルドの胸中はそうではなかった。
そんな楽天的なことを考える余裕がないくらいに、この場における雰囲気は非常に重苦しいものであったためだ。

「(な、なんだなんだこの空気は…。俺はお前が長らく探し続けていた一人娘を見つけ出した英雄なんだぞ…?そ、それなのにこの部屋の空気はまるで俺の事を罪人とでも見ているような雰囲気じゃないか…。な、なにがどうなって…)」

焦りの感情を隠せないノルドに対し、グローリアは落ち着いた口調で、それでいて迫力を感じさせるような雰囲気で、こう言葉を続けた。

「さてノルド、順番に話を進めていこうか。まず、私は今回の調査を行うにあたり、決して乱暴な真似はするなと厳命したはずだ。にもかかわらずラクス侯爵の話によれば、お前は先頭を切って侯爵家の中に強引に押し入り、彼にとって家族同然の人々を大いに傷つけて回ったそうだが…。それは事実か?」

グローリアから投げかけられたその言葉に、ノルドは必死になって弁明を図る。

「そ、それはこいつたちが悪いのです!!グローリア様の命を受けたこのノルドの協力を断ると言ってきたのですから、痛い目に合わせて教育してやることは至極当然の事!!私はなんら間違ったことなどしていません!!」

ノルドはこれまでで一番といってもいいほどの大きな声を上げ、自身の無実を主張する。
その言葉を隣で聞いていたラクスはノルドに対して反論しようとしたものの、グローリアがそれを自身の手で制し、そのままノルドに言葉を返した。

「なるほど、それじゃあ次はこれについて聞かせてもらおうか?」
「っ!?そ、それは…!?」

グローリアが机の中から取り出したのは、封筒に入った一通の手紙だった。
…ノルドはその封筒を見たとたんにその表情を青くし、わかりやすく”しまった”という表情を浮かべる。

「これはお前の”友人”がお前にあてて書いた手紙だな?王宮の監査を通さずに秘密裏にお前に送られようとしていたところを”ある男”が発見し、その場で差し押さえたわけだが…。どういうわけかここにはおかしなことが書かれていてな…」
「…!?」

明らかにその表情を動揺の色で染めていくノルドに対し、グローリアはそれまでと全く分からない冷静な口調でじわじわと言葉を詰めていく。

「見たところここには、『現皇帝を打倒するために必要な情報を送ってくれたこと、感謝する。これからもいい付き合いを』などと書かれているが……心当たりは?」
「そ、それは……」

絶対にバレることはないだろうと過信し、やり取りを行っていたそれらの手紙。
それがまさか見破られようとは思ってもいなかったノルドは、手紙に関する言い訳を一切考えていなかった。
それゆえに彼は一段と強く表情を焦りの色で染め、自身の体を小刻みに震わせていく…。

「そして最後に。お前はここに来る前に会っていた男がいるな?誰だ?」
「っ!?!?!?!?」

…手紙のやり取りを見抜かれていただけでも致命的であったノルドにとって、その事をグローリアに知られてしまっていることはもはや致死的と言っても大げさではなかった。

「これもまた、”ある男”が先ほど私に報告してくれてな。お前がリーゲルと親し気に話をしている姿を確認した、と」
「…!?!?」

…ノルドはすっかり自身の体を震え上がらせ、何の言葉を発することもできていない。
グローリアはゆっくりと足を動かし、そんな彼の隣に立つと、恐ろしいほど低い口調で彼にこう言葉を告げた。

「…セシリアの失踪において、怪しげな点が多いリーゲルと共謀していること、侯爵家に対して私の命を無視し、強引な調査を行ったこと、旧王制派の人間とつながっていること…。もはやここに何の疑いも抱くなという方が無理な話だと思うが、ノルド、君自身はどう思う?」

…ノルドは完全に恐怖に取りつかれてしまっているのか、グローリアに対して何の言葉も返せないでいる。
そんなノルドに構わず、グローリアは恐ろしいほど威圧的な口調で言葉を続けた。

「…まだ話をしたくないか?それならお前が話をしたくなるまで待ってやっても構わないぞ?お前はもうここから永久に出られないのだから、時間はいくらでもあるというもの。なんなら、この私が直々にお前の話を聞き取る相手になってやってもいい。お前が心の中ではどれだけセシリアの存在を軽んじていたのか、その口で教えてもらおうじゃないか。もはや何を隠す必要もないのだからな」
「ひっ………」

…優しい口調ではあるものの、そのすさまじいばかりの殺気に耐えられなくなったらしいノルドは、そのそばにたたずんでいたラクスのもとまで駆け寄ると、二人にしか聞こえないほどの小さな声で、それでいてかなりの早口でこう言葉を発した。

「と、取引しよう侯爵!!助けてくれ!!」
「はぁ?取引?」
「こ、侯爵家の連中に乱暴したことは謝る!!もちろん壊した家具や荒らした土地を治すだけの金も払う!おまえが望むなら、貴族家としての位を格上げするよう王宮の連中に取り計らってやったっていい!だからここは俺を助けてくれ!侯爵家を荒らしたのが俺じゃなく、別の近衛兵だったということにしてくれ!!そうすればきっとグローリア様も」
バゴッ!!!!!!!
「ぅぐっ!?!??!」

刹那、それまで饒舌に言葉を発していたノルドの腹部に、ラクスすさまじい威力の右ストレートが命中した。
ノルドはその衝撃によって自身の体を壁に強く打ち付けて体を地に伏せ、同時に彼が胸元に大事そうに付けていた近衛兵の証のバッジが音を立てて床に落ちる。

「バ、バッジが…!こ、近衛兵としての…証…!!」

ノルドは絞《しぼ》り出すような声でそう言葉を漏らしながら、地に体を伏せた状態のまま床に落ちたバッジを拾おうと、必死になって自身の右手を伸ばす。
しかし、その手がバッジを掴むことは叶わなかった。

バギィッッ!!!!!
「あぁあっ!!??」

ラクスは床に落ちたバッジを、自身の足で踏み割った。
…奇しくもそれは、エリカのアクセサリーを破壊したノルドに対する報いのようにも感じられた。

…自分がこれまですがってきた近衛兵としての立場の終わりを目の前で痛感させられる形となったノルドは、消沈する気持ちのままに自身の意識を体から手放し、全身を脱力させた…。

そしてその光景を傍《はた》から見つめていたグローリアはラクスに対し、やや苦笑いを浮かべながら一言つぶやいた。

「お前がこの場に同席させろと言ってきたのは、ノルドに一発こぶしを入れるためか?」
「さぁな」
「攻撃もなかなかいいものだった。鍛えているのか?誰かのために?」
「さぁな」
「(…デジャヴ、だな…)」

以前にも誰かクラインが見たことがあるそのリアクションに、グローリアはやれやれといった表情を苦笑いとともに浮かべてみせるのだった。
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