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第43話
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「もういい、早くその手を放せっ!」
侯爵家における調査を引き上げる形となったノルドは、その体を身内の近衛兵たちに引きずられる形で屋敷の外に引っ張り出されていた。
最初はセシリアを見逃すことに猛反発していたノルドだったものの、この状況を彼なりに理解したのか、ひとまず興奮した心を落ち着かせ、この場から退避することをひとまずは受け入れた様子だった。
「(チッ…。あと少しで計画は大成功だったというのに…)」
計画の完全成功まで目前に迫っていただけに、ノルドは心の中でイライラを隠せない様子ではあるものの、それでも十分な出来ではあったと自負し始める。
「(まぁいいさ。皇帝のもとに送り付けられたラクスは極刑は避けられないだろうし、奴の仲間だってもれなく同罪になるだろう。そうなってしまえばもはやこちらのものだ。侯爵たちがどれだけ言い逃れをしようとも、死んでしまえばなにもしゃべることはできないのだからな…♪)」
「…ノルド?何を考えている?」
「いや、別に何も♪」
考えていることが表情にすべて出ていたのか、そんな様子のノルドの事を不審な目で見つめる仲間たち。
ノルドはどこか勝ち誇ったような様子で彼らに視線を返すと、やや嬉しそうな口調でこう言葉を発した。
「俺はこの後人と会う約束があるから、お前たちとはここまでだ。じゃあな」
「お、おいノルド!何を勝手なことを…!!」
適当な軽口で兵たちの元から離れていったノルド。
そんな彼が目指していったのは、ある1人の仲間の元だった。
――――
「見させてもらったぜノルド!お前が引き連れる兵たちが雪崩のように侯爵家に押し入っていく姿を!」
「あぁ、なかなかに面白い光景だっただろう?♪」
「これで俺に対する皇帝の疑いの目は完全に侯爵家に向けられたことだろう…!いやぁー、ひやひやしたぜー(笑)」
そう、ノルドが話をしに向かったのは、ノルドたちが侯爵家に押し入る姿を遠目に見ていたリーゲルの元だった。
二人は互いの思惑の達成を確信した様子で、心の底から自分たちの感情を高ぶらせていた。
「まったくだな。いったいどこの国に皇帝令嬢をいじめぬく男と家族がいるんだか…」
「仕方ないだろう。あんな何の面白みもない女がまさか皇帝令嬢だっただなんて、どんな天才にだって見抜けるわけがない」
「まぁ、そのおかげで俺はこうして国の英雄になることができたんだから、ある意味じゃ感謝しているがな(笑)」
ノルドはリーゲルの顔を見つめながらけらけらと笑い、その言葉をからかって見せる。
一方でリーゲルの方はまだ少し表情を硬くしたまま、ノルドに対してこう言葉を返した。
「それで、相談していた件はどうなった…?うまくやってくれているんだろう…?」
「あぁ、あの話ね」
リーゲルに言われたことで、ノルドはそれまで忘れていた事を思い出したかのような様子を見せる。
「あれだろ?お前がかわいがっていた方の娘を近衛兵のクラインって男と結ばせたいって話だろ?」
そう、かねてからマイアはクラインに対して恋心を抱いており、その事をリーゲルに相談したこともあったのだった。
「マイアはクラインという男にかなり心酔している様子でな…。なんとかしてくれと頼みこまれて、すべて俺に任せておけと言ってしまったんだ…」
「調子がいいなぁ…」
マイアに対しては良い格好をしたいがためにそう言ってしまったリーゲルだったものの、彼自身に近衛兵につながるつてなどありはしなかった。
そこで彼が頼ることにしたのが、彼とは旧友の中であったノルドだったのだ。
つまり、リーゲルはノルドの王宮における出世を持ち出す代わりに、自分たちのセシリア迫害の罪の帳消しと、セシリアを一緒になって迫害していたマイアの近衛兵との婚約の手配を実現させようともくろんだのだった。
「まぁ心配するなリーゲル。俺はそいつと同じ近衛兵だから、いくらでもやりようはある。ちゃんと二人の事を結び付けてやろうじゃないか♪」
「ククク、やっぱり持つべきものは友だな。お互い良い思いができそうじゃないか♪」
二人はそろって気色の悪い笑みを浮かべ、互いの思惑の達成を確信する。
「これでマイアへの面目もたつというもの…。お前がさっき言っていたことだが、俺もレベッカには感謝しないといけないかもな。娘は近衛兵のエリートとくっつくことができて、俺自身は皇帝令嬢を救った恩人となることができる。こんなに良い思いをたくさんさせてくれたのだからな…♪」
「だろう?お前にしてみれば殴り得だったな♪」
そこまで話を終えた時、リーゲルはその場からゆっくりと立ち上がり、解散の言葉を口にし始める。
「それじゃあ、俺はこのまま家に戻ってマイアにそのことを伝えるとしよう。間違いなく心から喜んでくれることだろう」
「ったく…。俺はこのまま王宮に戻って、侯爵の罪を断罪することとしよう。後始末って仕事が残ってるからな」
「おい、最後の最後にしくじるんじゃないぞ?」
「当たり前だろ。完全に勝敗が決しているっていうのに、ここから負ける方が難しいって話だ♪」
「ま、それもそうだな♪」
二人はともに余裕の笑みを浮かべつつ、互いに目指す場所を目指して足を進めるのだった。
…そんな自分たちの姿を、一人の男がはっきりとその目にとらえていたと知らず…。
侯爵家における調査を引き上げる形となったノルドは、その体を身内の近衛兵たちに引きずられる形で屋敷の外に引っ張り出されていた。
最初はセシリアを見逃すことに猛反発していたノルドだったものの、この状況を彼なりに理解したのか、ひとまず興奮した心を落ち着かせ、この場から退避することをひとまずは受け入れた様子だった。
「(チッ…。あと少しで計画は大成功だったというのに…)」
計画の完全成功まで目前に迫っていただけに、ノルドは心の中でイライラを隠せない様子ではあるものの、それでも十分な出来ではあったと自負し始める。
「(まぁいいさ。皇帝のもとに送り付けられたラクスは極刑は避けられないだろうし、奴の仲間だってもれなく同罪になるだろう。そうなってしまえばもはやこちらのものだ。侯爵たちがどれだけ言い逃れをしようとも、死んでしまえばなにもしゃべることはできないのだからな…♪)」
「…ノルド?何を考えている?」
「いや、別に何も♪」
考えていることが表情にすべて出ていたのか、そんな様子のノルドの事を不審な目で見つめる仲間たち。
ノルドはどこか勝ち誇ったような様子で彼らに視線を返すと、やや嬉しそうな口調でこう言葉を発した。
「俺はこの後人と会う約束があるから、お前たちとはここまでだ。じゃあな」
「お、おいノルド!何を勝手なことを…!!」
適当な軽口で兵たちの元から離れていったノルド。
そんな彼が目指していったのは、ある1人の仲間の元だった。
――――
「見させてもらったぜノルド!お前が引き連れる兵たちが雪崩のように侯爵家に押し入っていく姿を!」
「あぁ、なかなかに面白い光景だっただろう?♪」
「これで俺に対する皇帝の疑いの目は完全に侯爵家に向けられたことだろう…!いやぁー、ひやひやしたぜー(笑)」
そう、ノルドが話をしに向かったのは、ノルドたちが侯爵家に押し入る姿を遠目に見ていたリーゲルの元だった。
二人は互いの思惑の達成を確信した様子で、心の底から自分たちの感情を高ぶらせていた。
「まったくだな。いったいどこの国に皇帝令嬢をいじめぬく男と家族がいるんだか…」
「仕方ないだろう。あんな何の面白みもない女がまさか皇帝令嬢だっただなんて、どんな天才にだって見抜けるわけがない」
「まぁ、そのおかげで俺はこうして国の英雄になることができたんだから、ある意味じゃ感謝しているがな(笑)」
ノルドはリーゲルの顔を見つめながらけらけらと笑い、その言葉をからかって見せる。
一方でリーゲルの方はまだ少し表情を硬くしたまま、ノルドに対してこう言葉を返した。
「それで、相談していた件はどうなった…?うまくやってくれているんだろう…?」
「あぁ、あの話ね」
リーゲルに言われたことで、ノルドはそれまで忘れていた事を思い出したかのような様子を見せる。
「あれだろ?お前がかわいがっていた方の娘を近衛兵のクラインって男と結ばせたいって話だろ?」
そう、かねてからマイアはクラインに対して恋心を抱いており、その事をリーゲルに相談したこともあったのだった。
「マイアはクラインという男にかなり心酔している様子でな…。なんとかしてくれと頼みこまれて、すべて俺に任せておけと言ってしまったんだ…」
「調子がいいなぁ…」
マイアに対しては良い格好をしたいがためにそう言ってしまったリーゲルだったものの、彼自身に近衛兵につながるつてなどありはしなかった。
そこで彼が頼ることにしたのが、彼とは旧友の中であったノルドだったのだ。
つまり、リーゲルはノルドの王宮における出世を持ち出す代わりに、自分たちのセシリア迫害の罪の帳消しと、セシリアを一緒になって迫害していたマイアの近衛兵との婚約の手配を実現させようともくろんだのだった。
「まぁ心配するなリーゲル。俺はそいつと同じ近衛兵だから、いくらでもやりようはある。ちゃんと二人の事を結び付けてやろうじゃないか♪」
「ククク、やっぱり持つべきものは友だな。お互い良い思いができそうじゃないか♪」
二人はそろって気色の悪い笑みを浮かべ、互いの思惑の達成を確信する。
「これでマイアへの面目もたつというもの…。お前がさっき言っていたことだが、俺もレベッカには感謝しないといけないかもな。娘は近衛兵のエリートとくっつくことができて、俺自身は皇帝令嬢を救った恩人となることができる。こんなに良い思いをたくさんさせてくれたのだからな…♪」
「だろう?お前にしてみれば殴り得だったな♪」
そこまで話を終えた時、リーゲルはその場からゆっくりと立ち上がり、解散の言葉を口にし始める。
「それじゃあ、俺はこのまま家に戻ってマイアにそのことを伝えるとしよう。間違いなく心から喜んでくれることだろう」
「ったく…。俺はこのまま王宮に戻って、侯爵の罪を断罪することとしよう。後始末って仕事が残ってるからな」
「おい、最後の最後にしくじるんじゃないぞ?」
「当たり前だろ。完全に勝敗が決しているっていうのに、ここから負ける方が難しいって話だ♪」
「ま、それもそうだな♪」
二人はともに余裕の笑みを浮かべつつ、互いに目指す場所を目指して足を進めるのだった。
…そんな自分たちの姿を、一人の男がはっきりとその目にとらえていたと知らず…。
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