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第4話

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「第一王子という立場にあるくらいの人なのだから、もっと理知的な人だと思っていたのに…。まさかこんな形でシノンの思いを踏みにじってくるなんて…」
「もういいよユーク、きっとレベック様にはなにか理由があったんだよ」
「理由?何か知っているのかい?」
「それは…。分からないけれど、でもレベック様は第一位王子として仕事をされているくらいの人なのだから、なんの考えもなしに婚約破棄なんてするはずがないでしょう?だからきっと、私たちには言えないような理由があって、仕方なく婚約破棄するしかなかったんだよ…」
「……」

一方的な婚約破棄を告げられたというのに、レベックの事を悪く言ったりはしないシノン。
彼女がそれほど優れた性格だからこそ、レベックの父であるユーゲント国王は彼女の事を自身の息子の婚約者とするよう心を決めたのであったが、当の本人には全く理解ができなかった様子。

「シノン、君は優しすぎるんじゃないだろうか…。もちろんレベック様にはなにかやむにやまれぬ理由があったのかもしれないけれど、だからといってこんなやり方はあんまりじゃないか。…僕は納得がいかない」
「ユーク……」

二人はそれぞれがこれまで一緒に暮らしていた街に戻り、開けた広間のある川のほとりに腰を下ろしてそう言葉を交わしていた。
ここには王宮の人間は誰もいないため、一応好き勝手なことがなんでもいえるロケーションではある。
しかしこの場所にあっても、シノンは王宮の人々やレベックの事を悪く言うことはしなかった。

「そういえば、国王様はどうなったんだ?君とレベック様の婚約を手引きしたのは確か、国王様だっただろう?」
「そうだよ、私は最初国王様からこのお話をいただいたから」
「それじゃあ、もちろんレベック様はきちんと話を通しているんだろうな…。でもシノン、君はその事を聞いているのかい?国王様はその事を知ったうえで君たちの婚約破棄を認めたのかい?」
「分からない…。私が話をされた時はもう、婚約破棄は決定事項見ないな言い方をされていたから…」
「……」

その事が、ユークのなかにひっかかって離れなかった。
二人の関係を誰よりも望んでいたのは他でもない、ユーゲント国王様その人である。
であるのに、シノンがなんの問題も起こしていないというのに一方的に告げられたこの婚約破棄を、果たして彼は納得しているのだろうか、と。

「…もしかしたらレベック様は、国王様に話を通さずにすべて自分の一存で決めたんじゃ…」
「…ユーク?」

ユークには、そう思えるだけのある理由があった。

「…最近、ある噂を聞いたんだ。レベック様は一人の幼馴染である、ユミリアにたぶらかされていると…。彼女に言われた事なら何でも言うことを聞いて、その望みをかなえるためなら第一王子としての持てる権力をフルに活用するのだと…」
「…ユーク、それじゃあレベック様は本命の人との関係を優先するために私を追い出したと?」
「……」

ユークとって、確証はもっていない。
しかし、不自然にしか見えないこの婚約破棄の裏には、そういった理由でもないとつじつまが合わないという考えは、彼の中にはずっとあった。

…そして、その予感はその後まもなく起こったことにより、半ば確証へと変わった。

「シノン様、少しよろしですかな?」
「「っ!?!?」」

それまで二人だけで話をしていたその場に、第三の人物が姿を現した。
これまで王宮で生活していたシノンは、その人物の姿に見覚えがあった。

「あ、あなたがどうしてここに…?王宮で使用人をされていたはずでは…?」
「ええ、その通りでございます」
「おいおい、シノンはお前たちに追い出されたんだろうが?今更彼女にもとに現れて何のつもりだ?」

シノンの事をけなしに来たものと思ったのか、ユークはやや攻撃的な口調になりながらそう言葉を発する。
しかし、王宮使用人はまったくそのようなつもりでこの場に現れたわけではなかった。

「私がここに現れたのは、レベック様からお預かりした伝言をシノン様にお伝えするためです」
「私に?レベック様が?」

なにか言い残されたことなど思い当たらないシノンは、その言葉を聞いて心から不思議そうな表情を浮かべる。

「…いったい何でしょう?」
「はい。実はレベック様から、シノン様との関係を戻したいというお言葉を預かております」
「…それって、もしかして…」
「はい、再びお二人が婚約関係に戻り、これまで通り王宮で第一王子夫人として振る舞ってほしいというお話です」
「「……」」

そんな言葉をかけられるなど想像さえしていなかった二人は、互いに顔を見合わせてその体を硬直させる。
…しかし、うっすらとどこかでこうなる可能性自体は頭に入れていた二人は、互いに心の中に持ち合わせていたある回答をそのまま使用人に対して口にした。
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