4 / 6
第4話
しおりを挟む
「第一王子という立場にあるくらいの人なのだから、もっと理知的な人だと思っていたのに…。まさかこんな形でシノンの思いを踏みにじってくるなんて…」
「もういいよユーク、きっとレベック様にはなにか理由があったんだよ」
「理由?何か知っているのかい?」
「それは…。分からないけれど、でもレベック様は第一位王子として仕事をされているくらいの人なのだから、なんの考えもなしに婚約破棄なんてするはずがないでしょう?だからきっと、私たちには言えないような理由があって、仕方なく婚約破棄するしかなかったんだよ…」
「……」
一方的な婚約破棄を告げられたというのに、レベックの事を悪く言ったりはしないシノン。
彼女がそれほど優れた性格だからこそ、レベックの父であるユーゲント国王は彼女の事を自身の息子の婚約者とするよう心を決めたのであったが、当の本人には全く理解ができなかった様子。
「シノン、君は優しすぎるんじゃないだろうか…。もちろんレベック様にはなにかやむにやまれぬ理由があったのかもしれないけれど、だからといってこんなやり方はあんまりじゃないか。…僕は納得がいかない」
「ユーク……」
二人はそれぞれがこれまで一緒に暮らしていた街に戻り、開けた広間のある川のほとりに腰を下ろしてそう言葉を交わしていた。
ここには王宮の人間は誰もいないため、一応好き勝手なことがなんでもいえるロケーションではある。
しかしこの場所にあっても、シノンは王宮の人々やレベックの事を悪く言うことはしなかった。
「そういえば、国王様はどうなったんだ?君とレベック様の婚約を手引きしたのは確か、国王様だっただろう?」
「そうだよ、私は最初国王様からこのお話をいただいたから」
「それじゃあ、もちろんレベック様はきちんと話を通しているんだろうな…。でもシノン、君はその事を聞いているのかい?国王様はその事を知ったうえで君たちの婚約破棄を認めたのかい?」
「分からない…。私が話をされた時はもう、婚約破棄は決定事項見ないな言い方をされていたから…」
「……」
その事が、ユークのなかにひっかかって離れなかった。
二人の関係を誰よりも望んでいたのは他でもない、ユーゲント国王様その人である。
であるのに、シノンがなんの問題も起こしていないというのに一方的に告げられたこの婚約破棄を、果たして彼は納得しているのだろうか、と。
「…もしかしたらレベック様は、国王様に話を通さずにすべて自分の一存で決めたんじゃ…」
「…ユーク?」
ユークには、そう思えるだけのある理由があった。
「…最近、ある噂を聞いたんだ。レベック様は一人の幼馴染である、ユミリアにたぶらかされていると…。彼女に言われた事なら何でも言うことを聞いて、その望みをかなえるためなら第一王子としての持てる権力をフルに活用するのだと…」
「…ユーク、それじゃあレベック様は本命の人との関係を優先するために私を追い出したと?」
「……」
ユークとって、確証はもっていない。
しかし、不自然にしか見えないこの婚約破棄の裏には、そういった理由でもないとつじつまが合わないという考えは、彼の中にはずっとあった。
…そして、その予感はその後まもなく起こったことにより、半ば確証へと変わった。
「シノン様、少しよろしですかな?」
「「っ!?!?」」
それまで二人だけで話をしていたその場に、第三の人物が姿を現した。
これまで王宮で生活していたシノンは、その人物の姿に見覚えがあった。
「あ、あなたがどうしてここに…?王宮で使用人をされていたはずでは…?」
「ええ、その通りでございます」
「おいおい、シノンはお前たちに追い出されたんだろうが?今更彼女にもとに現れて何のつもりだ?」
シノンの事をけなしに来たものと思ったのか、ユークはやや攻撃的な口調になりながらそう言葉を発する。
しかし、王宮使用人はまったくそのようなつもりでこの場に現れたわけではなかった。
「私がここに現れたのは、レベック様からお預かりした伝言をシノン様にお伝えするためです」
「私に?レベック様が?」
なにか言い残されたことなど思い当たらないシノンは、その言葉を聞いて心から不思議そうな表情を浮かべる。
「…いったい何でしょう?」
「はい。実はレベック様から、シノン様との関係を戻したいというお言葉を預かております」
「…それって、もしかして…」
「はい、再びお二人が婚約関係に戻り、これまで通り王宮で第一王子夫人として振る舞ってほしいというお話です」
「「……」」
そんな言葉をかけられるなど想像さえしていなかった二人は、互いに顔を見合わせてその体を硬直させる。
…しかし、うっすらとどこかでこうなる可能性自体は頭に入れていた二人は、互いに心の中に持ち合わせていたある回答をそのまま使用人に対して口にした。
「もういいよユーク、きっとレベック様にはなにか理由があったんだよ」
「理由?何か知っているのかい?」
「それは…。分からないけれど、でもレベック様は第一位王子として仕事をされているくらいの人なのだから、なんの考えもなしに婚約破棄なんてするはずがないでしょう?だからきっと、私たちには言えないような理由があって、仕方なく婚約破棄するしかなかったんだよ…」
「……」
一方的な婚約破棄を告げられたというのに、レベックの事を悪く言ったりはしないシノン。
彼女がそれほど優れた性格だからこそ、レベックの父であるユーゲント国王は彼女の事を自身の息子の婚約者とするよう心を決めたのであったが、当の本人には全く理解ができなかった様子。
「シノン、君は優しすぎるんじゃないだろうか…。もちろんレベック様にはなにかやむにやまれぬ理由があったのかもしれないけれど、だからといってこんなやり方はあんまりじゃないか。…僕は納得がいかない」
「ユーク……」
二人はそれぞれがこれまで一緒に暮らしていた街に戻り、開けた広間のある川のほとりに腰を下ろしてそう言葉を交わしていた。
ここには王宮の人間は誰もいないため、一応好き勝手なことがなんでもいえるロケーションではある。
しかしこの場所にあっても、シノンは王宮の人々やレベックの事を悪く言うことはしなかった。
「そういえば、国王様はどうなったんだ?君とレベック様の婚約を手引きしたのは確か、国王様だっただろう?」
「そうだよ、私は最初国王様からこのお話をいただいたから」
「それじゃあ、もちろんレベック様はきちんと話を通しているんだろうな…。でもシノン、君はその事を聞いているのかい?国王様はその事を知ったうえで君たちの婚約破棄を認めたのかい?」
「分からない…。私が話をされた時はもう、婚約破棄は決定事項見ないな言い方をされていたから…」
「……」
その事が、ユークのなかにひっかかって離れなかった。
二人の関係を誰よりも望んでいたのは他でもない、ユーゲント国王様その人である。
であるのに、シノンがなんの問題も起こしていないというのに一方的に告げられたこの婚約破棄を、果たして彼は納得しているのだろうか、と。
「…もしかしたらレベック様は、国王様に話を通さずにすべて自分の一存で決めたんじゃ…」
「…ユーク?」
ユークには、そう思えるだけのある理由があった。
「…最近、ある噂を聞いたんだ。レベック様は一人の幼馴染である、ユミリアにたぶらかされていると…。彼女に言われた事なら何でも言うことを聞いて、その望みをかなえるためなら第一王子としての持てる権力をフルに活用するのだと…」
「…ユーク、それじゃあレベック様は本命の人との関係を優先するために私を追い出したと?」
「……」
ユークとって、確証はもっていない。
しかし、不自然にしか見えないこの婚約破棄の裏には、そういった理由でもないとつじつまが合わないという考えは、彼の中にはずっとあった。
…そして、その予感はその後まもなく起こったことにより、半ば確証へと変わった。
「シノン様、少しよろしですかな?」
「「っ!?!?」」
それまで二人だけで話をしていたその場に、第三の人物が姿を現した。
これまで王宮で生活していたシノンは、その人物の姿に見覚えがあった。
「あ、あなたがどうしてここに…?王宮で使用人をされていたはずでは…?」
「ええ、その通りでございます」
「おいおい、シノンはお前たちに追い出されたんだろうが?今更彼女にもとに現れて何のつもりだ?」
シノンの事をけなしに来たものと思ったのか、ユークはやや攻撃的な口調になりながらそう言葉を発する。
しかし、王宮使用人はまったくそのようなつもりでこの場に現れたわけではなかった。
「私がここに現れたのは、レベック様からお預かりした伝言をシノン様にお伝えするためです」
「私に?レベック様が?」
なにか言い残されたことなど思い当たらないシノンは、その言葉を聞いて心から不思議そうな表情を浮かべる。
「…いったい何でしょう?」
「はい。実はレベック様から、シノン様との関係を戻したいというお言葉を預かております」
「…それって、もしかして…」
「はい、再びお二人が婚約関係に戻り、これまで通り王宮で第一王子夫人として振る舞ってほしいというお話です」
「「……」」
そんな言葉をかけられるなど想像さえしていなかった二人は、互いに顔を見合わせてその体を硬直させる。
…しかし、うっすらとどこかでこうなる可能性自体は頭に入れていた二人は、互いに心の中に持ち合わせていたある回答をそのまま使用人に対して口にした。
501
お気に入りに追加
509
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
【完結】要らない私は消えます
かずきりり
恋愛
虐げてくる義母、義妹
会わない父と兄
浮気ばかりの婚約者
どうして私なの?
どうして
どうして
どうして
妃教育が進むにつれ、自分に詰め込まれる情報の重要性。
もう戻れないのだと知る。
……ならば……
◇
HOT&人気ランキング一位
ありがとうございます((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【短編】婚約者に虐げられ続けた完璧令嬢は自身で白薔薇を赤く染めた
砂礫レキ
恋愛
オーレリア・ベルジュ公爵令嬢。
彼女は生まれた頃から王妃となることを決められていた。
その為血の滲むような努力をして完璧な淑女として振舞っている。
けれど婚約者であるアラン王子はそれを上辺だけの見せかけだと否定し続けた。
つまらない女、笑っていればいいと思っている。俺には全部分かっている。
会う度そんなことを言われ、何を言っても不機嫌になる王子にオーレリアの心は次第に不安定になっていく。
そんなある日、突然城の庭に呼びつけられたオーレリア。
戸惑う彼女に婚約者はいつもの台詞を言う。
「そうやって笑ってればいいと思って、俺は全部分かっているんだからな」
理不尽な言葉に傷つくオーレリアの目に咲き誇る白薔薇が飛び込んでくる。
今日がその日なのかもしれない。
そう庭に置かれたテーブルの上にあるものを発見して公爵令嬢は思う。
それは閃きに近いものだった。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?
Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。
指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。
どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。
「こんなところで密会していたとはな!」
ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。
しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる