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第4話
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「端的に言えばあの人は……自分の妹のためならなんでもやってしまう、シスコン伯爵様ですね」
「「…!」」
…私の言葉が少しストレートすぎたのか、集まった人々は少し驚きの表情を浮かべて見せた。
しかしその直後、会場中の人々から立て続けにぼそぼそと言葉をつぶやく様子が感じ取れた。
「は、伯爵様にあそこまでストレートな物言いができるとは…」
「なかなか相当覚悟決まってるんじゃないのか…?」
「だよなぁ…。普通じゃできない気がするが…」
感嘆ともいえる声を上げてくれる人々。
しかし私の話はまだはじまったばかりなのだから、こんなところで驚かれてしまったらこっちが困る。
「伯爵様は、なによりも妹の事を優先されるのです。私が彼女から嫌がらせを受けて伯爵様に相談しても、伯爵様は決まって私を悪者にされます。彼女が欲しいと言ったものは何でも買い与えますし、予定を合わせてほしいと言われればどんな予定を切り捨ててでも彼女との時間を優先します。…今日だって、皆様の前に姿を見せるというこの上なく大切な仕事がありながら、彼女との時間を選んでいる始末です」
「ふむ…。そうだと噂をされている人もいましたが、やはりそれは事実であったと?」
確認のためか、司会の人は私にそう言葉を返してくる。
私はそのまま、自分の知っていることを隠すことなく口にしていく。
「今日は確か、セレスが伯爵様からイヤリングをプレゼントされて1年目の記念日だとか言っていたはずですよ。普通ならそんなものいちいち相手にはしないのでしょうけれど、セレスにねだられたのなら伯爵様にとって話しは違います。記念日を祝ってほしいと彼女から言われたら、伯爵様は断ることなんてとてもできないのでしょうね。一方でセレスの方にしてみれば、伯爵様を誘惑する名目はなんだっていいのでしょう。記念日だといってほしいものをねだれば、伯爵様は決まって自分のいう事を聞いてくれるのですから」
「妹を溺愛してるって話しは…やっぱり本当だったか…」
「一番伯爵の事をそばで見てきた人が言うんだから、この上ないだけの説得力があるな。これなら伯爵側も反論するのは難しいんじゃないのか?」
「俺は最初から分かってたぜ?伯爵に色々と権限を渡すのはまずいんじゃないのかってな」
「皆様落ち着いてください。本日の議題は皆様から感想を募ることではなく、今後の伯爵様の処遇についてどうするかを考えるためです。皆様、忌憚《きたん》のない意見をぜひお寄せください」
少しヒートアップした会場の人々を制し、司会の人は今後の議論にかじを切ろうとする。
…すると当然、伯爵様に辛辣な意見が立て続けに出始める。
「家族の事を思いやるのは大いに結構ですけれど、伯爵様としての仕事をほったらかしにするほど滅茶苦茶な振る舞いをされているように思えてなりません。彼は本当に貴族家としての自覚があるのでしょうか??」
「そもそも、貴族として置いておくことも間違いなんじゃないのか?今日だってこの場に姿を現すこともなかったじゃないか。それはもう、自分が不利になるのが分かり切ってることだから自分の方から尻尾を撒いて逃げ出したんじゃないのか?」
「だろうなぁ…。どうせ大した処分は下されないとでもたかをくくっているんだろう。…まさかここの場に、自分の元婚約者がいるだなんて思ってもいない事だろう」
それに関しては私も同感なところがある。
私がここにいるであろうなんて想像もしていないだろうし、逆に言えば私がここに居るという事を事前に知っていたなら、私の言葉を否定するために絶対乗り込んでいていたと思う。
…もちろん、その隣にはセレスを伴ってね。
「それにしてもマリアさん、よくもまぁあんな場所で生活ができていたものだなぁ…。婚約者もろくでもないし、その妹もろくでもないなんて、とても普通じゃないだろう…」
「いえいえ、私はただただ言われるままにやっていただけですから…」
「いやいや、実際そうだろう。この場に現れないくらいありえないひどい男だというのに、大したもんだ」
なんだか私の知らないうちに、私の事を評価し始めてくれる人々。
ここに集まるほど権威ある人たちからそう言葉をかけられたら、なんだかうれしくなってしまう。
…そういう意味では、私は一応ノレッジ様に感謝の言葉を告げなければいけないのかな…?
「まぁいずれにしても、このままでいくわけにはいかない事でしょう。マリアさんはこれ以外にもいろいろなエピソードをお持ちのご様子ですし、皆さまで今後のノレッジ様の処遇について考えていこうではありませんか。向こうはこの場に現れていないので、いかなる決定にも異議を唱えることはできません。愛する妹のために罰を受け入れる覚悟があるというのなら、その通りにしてあげようではありませんか」
会場にいた誰かが、みんなに向かってそう声を上げた。
その声に賛同する人は瞬く間に多くなっていき、次の瞬間にはこの会場に集められた全員が彼の意見のもとに集まっていた。
…さて、伯爵様、裁きの時は近いですよ…?
「「…!」」
…私の言葉が少しストレートすぎたのか、集まった人々は少し驚きの表情を浮かべて見せた。
しかしその直後、会場中の人々から立て続けにぼそぼそと言葉をつぶやく様子が感じ取れた。
「は、伯爵様にあそこまでストレートな物言いができるとは…」
「なかなか相当覚悟決まってるんじゃないのか…?」
「だよなぁ…。普通じゃできない気がするが…」
感嘆ともいえる声を上げてくれる人々。
しかし私の話はまだはじまったばかりなのだから、こんなところで驚かれてしまったらこっちが困る。
「伯爵様は、なによりも妹の事を優先されるのです。私が彼女から嫌がらせを受けて伯爵様に相談しても、伯爵様は決まって私を悪者にされます。彼女が欲しいと言ったものは何でも買い与えますし、予定を合わせてほしいと言われればどんな予定を切り捨ててでも彼女との時間を優先します。…今日だって、皆様の前に姿を見せるというこの上なく大切な仕事がありながら、彼女との時間を選んでいる始末です」
「ふむ…。そうだと噂をされている人もいましたが、やはりそれは事実であったと?」
確認のためか、司会の人は私にそう言葉を返してくる。
私はそのまま、自分の知っていることを隠すことなく口にしていく。
「今日は確か、セレスが伯爵様からイヤリングをプレゼントされて1年目の記念日だとか言っていたはずですよ。普通ならそんなものいちいち相手にはしないのでしょうけれど、セレスにねだられたのなら伯爵様にとって話しは違います。記念日を祝ってほしいと彼女から言われたら、伯爵様は断ることなんてとてもできないのでしょうね。一方でセレスの方にしてみれば、伯爵様を誘惑する名目はなんだっていいのでしょう。記念日だといってほしいものをねだれば、伯爵様は決まって自分のいう事を聞いてくれるのですから」
「妹を溺愛してるって話しは…やっぱり本当だったか…」
「一番伯爵の事をそばで見てきた人が言うんだから、この上ないだけの説得力があるな。これなら伯爵側も反論するのは難しいんじゃないのか?」
「俺は最初から分かってたぜ?伯爵に色々と権限を渡すのはまずいんじゃないのかってな」
「皆様落ち着いてください。本日の議題は皆様から感想を募ることではなく、今後の伯爵様の処遇についてどうするかを考えるためです。皆様、忌憚《きたん》のない意見をぜひお寄せください」
少しヒートアップした会場の人々を制し、司会の人は今後の議論にかじを切ろうとする。
…すると当然、伯爵様に辛辣な意見が立て続けに出始める。
「家族の事を思いやるのは大いに結構ですけれど、伯爵様としての仕事をほったらかしにするほど滅茶苦茶な振る舞いをされているように思えてなりません。彼は本当に貴族家としての自覚があるのでしょうか??」
「そもそも、貴族として置いておくことも間違いなんじゃないのか?今日だってこの場に姿を現すこともなかったじゃないか。それはもう、自分が不利になるのが分かり切ってることだから自分の方から尻尾を撒いて逃げ出したんじゃないのか?」
「だろうなぁ…。どうせ大した処分は下されないとでもたかをくくっているんだろう。…まさかここの場に、自分の元婚約者がいるだなんて思ってもいない事だろう」
それに関しては私も同感なところがある。
私がここにいるであろうなんて想像もしていないだろうし、逆に言えば私がここに居るという事を事前に知っていたなら、私の言葉を否定するために絶対乗り込んでいていたと思う。
…もちろん、その隣にはセレスを伴ってね。
「それにしてもマリアさん、よくもまぁあんな場所で生活ができていたものだなぁ…。婚約者もろくでもないし、その妹もろくでもないなんて、とても普通じゃないだろう…」
「いえいえ、私はただただ言われるままにやっていただけですから…」
「いやいや、実際そうだろう。この場に現れないくらいありえないひどい男だというのに、大したもんだ」
なんだか私の知らないうちに、私の事を評価し始めてくれる人々。
ここに集まるほど権威ある人たちからそう言葉をかけられたら、なんだかうれしくなってしまう。
…そういう意味では、私は一応ノレッジ様に感謝の言葉を告げなければいけないのかな…?
「まぁいずれにしても、このままでいくわけにはいかない事でしょう。マリアさんはこれ以外にもいろいろなエピソードをお持ちのご様子ですし、皆さまで今後のノレッジ様の処遇について考えていこうではありませんか。向こうはこの場に現れていないので、いかなる決定にも異議を唱えることはできません。愛する妹のために罰を受け入れる覚悟があるというのなら、その通りにしてあげようではありませんか」
会場にいた誰かが、みんなに向かってそう声を上げた。
その声に賛同する人は瞬く間に多くなっていき、次の瞬間にはこの会場に集められた全員が彼の意見のもとに集まっていた。
…さて、伯爵様、裁きの時は近いですよ…?
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