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第10話

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「ふ、復讐なんてとても…。それに私、もうあのまま終わってもいいかなって思ってましたし…」
「ずいぶんとお人よしだな。お前の家族は全員、いわれのない罪を押し付けられて殺されたも同然じゃないか。そしてその果てにお前もまた、同じ目にあった。これで何も思わないはずがないだろう?」
「そ、それは…」

そう、私はそうは言ったものの、本当の心の中ではそう思ってはいなかった…。
最後の瞬間、あのままジーク伯爵への恨みつらみを口にしていたら、それこそジーク伯爵の思い通りになるんじゃないかと思ってしまったから。
だからこそ、なにも悔いがないかのように意地を張って、そのまま自分の運命を受け入れることを選んだ。
その方が、少しは伯爵への仕返しになるんじゃないかと思ったから…。

「まぁ、お前がジークの事をどう思っていようが正直どうだっていい。しかしこのまま終わっても、何も面白くはないだろう?」
「…あ、あなたの目的は一体…?」
「ククク…。俺は死神だからな。人間同士の争いを見るが大好物なのさ。そしてその人間の憎悪が強ければ強いほど、より最後の瞬間は面白いものになる…!お前は言葉でこそ心残りはないなどと言っているが、その心の中には相当な黒い憎悪が湧き出ているのを感じるぞ?俺はただ、それを解放した結果どうなるかが見たいだけだ♪」
「…」

…この死神様が言っていることがどこまで本当なのか、今の私に知るすべなんてない。
もしかしたら、大げさだけれど彼の言うとおりに行動したら人間界が滅んだりするのかもしれない。
でも確かに、このままジークたちの思惑通りに死んでいくのは、あまりにも悔しい…。
ほんの短い時間でも、彼のことを信じて愛してしまった自分が、今となっては許せない。
私の心をあそこまで痛めつけたジークの事が、やはり憎い。
最後の瞬間、私を処刑することさえ楽しんでいたジークに、同じ思いを味わわせてやりたい。
…いや、彼だけじゃない。
彼と一緒になって私たち家族を一方的に迫害してきた人間たちに、相応の報いを与えてやりたい。
どうせ彼らが罰を受けて死んだところで、誰も困りはしないのだから。

「(ククク…。やっぱりお前の心の中にはどす黒い憎悪が渦巻いているな。それを今まで必死に押し殺してきたんだろう?だから今まで自分でも気づかなかったわけだ。…そんな聖人のようなお前が、憎しみに染まった先にどうなるのか、やはり見てみたいものだ♪)」
「…な、なにか??」
「いや、別に。それじゃあ決まりだろう?俺の提案に乗ってくれるんだな?」
「…わかりました。でも、私は何をすればいいのですか?」
「別に深く考えなくてもいい。新しい命の器はもう用意してある。お前の魂をその器に乗せれば、そのままお前は転生することができる」
「て、転生…」
「別世界に転生することもできるが、お前の場合はそれじゃあ意味がない。あいつらが生きる世界と同じ世界に転生しないとな」
「そ、そんなことが…?」

”異世界転生”という言葉は聞いたことがあった。
けれど今まで生きてきた世界と同じ世界に、それも同じ時代に転生するなんてことは想像さえしたことがなかった。

「…お前の新しい名は、”クレア”だ。間違えるなよ」
「クレア…」
「新しい命は、お前が誰からも迫害されることなく18歳を迎えた命だと思ってくれればいい。ゆえに、同じ世界でも同じ目に合うことはない。年齢も前の命と同じ方が、なにかとやりやすいだろう?」
「え、えっと…」
「それじゃあ決まりだ!」

私の返事もまともに聞かず、彼はそのまま準備を進めていく。
私はなんとか口を開けて言葉をひねり出す。

「こ、ここまでしていただいて、私はあなたにどうお返しすればいいのですか?」
「お返し?別に気にすることはない。お前が見せてくれる復讐劇《おもしろいもの》がお返しだとも」
「そ、それに、復讐を果たした後はどうなるのですか?」
「あぁ、言い忘れてたな…。お前は新しい命で転生するわけだが、絶対に幸せになることはないし、誰も幸せにはできない。死神の力を借りるとは、そういうことだ」
「し、幸せにはならない、ですか…」
「まぁ問題はないだろう?お前はお前を虐げた者たちを不幸にするために転生するんだ。なんのデメリットにもならないさ。じゃあ、まぁせいぜい頑張って来いよ!」

私が覚えている彼との会話は、そこまでだった。
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