私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください

新野乃花(大舟)

文字の大きさ
上 下
65 / 66

第65話

しおりを挟む
「…まさか、こんな形で決着を迎えることにあろうとは…」

非常に良い雰囲気で進められつつある式典の場において、会場の隅で一人寂しそうに言葉をつぶやく人物の姿があった。
今日の主役であるメリアとはかつて婚約者の関係であった、ハイデル元第二王子その人である。

「…彼女がこれほど多くのものに慕われていたとは…。これこそ、婚約破棄の場においてメリアが僕に言い放った言葉の正体と言うわけか…」

自分を婚約破棄などしない方が良い、そうしてしまえば王宮は大きな混乱に包まれ、きっと後悔することとなる。
メリアは婚約破棄を告げられたその場で、はっきりとした口調でそう言葉を返した。

「最初はただの強がりだと思っていたんだが…。まさかあれが本心から出ていた言葉だったとはね…」

その後の顛末は言うまでもない。
彼女はこの国における非常に多くの者たちから慕われており、第二王子の婚約者だったからこそ落ち着いていた彼女の争奪戦は、婚約破棄をきっかけにして開戦を迎えることとなったのだった。

「…しかも、その果てに用済みとなったこの僕の事をこうして王宮に残すなどと…。もしかしたらメリアは、最初からこうなることが分かっていたとでも言うのか…?」
「分かっていたさ」
「!?!?」

ぼそぼそと独り言をつぶやいていたハイデルのもとに、一人の男が声をかけた。
ハイデルにとっては兄に当たり、第一王子として国の頂点に君臨しているエルクその人である。

「エ、エルクお兄様…!?」
「ハイデル、逃した獲物は大きいぞ?あんなに度胸があって政治的な駆け引きに長けている女を、俺はこれまで見たことがない」
「そ、それは……」

その点は、もはやハイデルも素直に痛感しているところであった。
果たしてメリア本人が狙っているのかどうかは別にして、少なくとも彼女の思った通りに事が運ばれて行っていることは他でもない事実なのだから。

「…エルクお兄様、改めて感謝の言葉を言わせてください。僕がこうしてこの王宮に残ることができるよう、国王様に取り計らってくださったのでしょう?」
「それは俺じゃない、メリアだとも」
「しかし、その間を取り持ったのはお兄様だと…」
「だとしても、俺は間を取り持っただけ。話をしたのはメリアだとも」
「……」

エルクは軽い口調でそう言葉を発すると、机の上に置かれた料理に手を伸ばし、そのまま口に運んで平らげる。
小さな声で料理の感想を口にしながら、この状況を心から楽しんでいるような様子だった。
一方のハイデルはまだ固い様子で、いまだ少し動揺しているような様子だった。

「…僕は、やはり間違っていたようですね…。メリアがここまで大きな存在になってしまうことになろうとは…」
「あぁ、まったくだな。いったい何を間違えたらメリアよりもアリッサを選びに行くのか、俺には想像もつかない」

アリッサはすでに王宮を追われ、その立場を失っている。
そしてアリッサを選んだことの愚かさはすでにハイデルも自覚しており、その思いを隠すつもりもなかった。

「最初はかわいいと思ったのですが…。僕には人を見る目が全くなかったようです…」
「あぁ、まったくだな。俺なら絶対にそんな判断はしなかった」

エルクは軽い口調でそう言葉を発し、ハイデルに少しくぎをさす。
しかしその後、変わらぬ口調でこう言葉を続けた。

「だからこそ、お前にはこれから今までのマイナス分を取り戻してもらわなければならない。お前は腐っても元第二王子なのだ。この王宮に残って仕事をするというのなら、今度こそメリアのために動いてもらわなければならない」
「はい、分かっています…。僕に何ができるのかも今はまだわかりませんが…」
「まぁ、それはいずれ分かるだろうさ」

エルクはそう言葉を告げると、そのままハイデルの元を去っていった。
彼の向かった先には、多くの人に囲まれるメリアの姿がある。

「…メリア、一体君は…」

自分が一度は壊してしまったその光景。
それを再び見つめながら、ハイデルはその心の中に様々な思いを抱くのだった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

処理中です...