私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください

新野乃花(大舟)

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第63話

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「おぉ、思ったよりも人数が集まったな」

会場に集まった人々、および会場の外で入場の時を待っている人々の群れを見て、エルクは少し驚いたような雰囲気でそう言葉を発した。

「エルク様、無理もありませんよ。だって今日はメリア様はもちろんの事、人々から絶大な人気を得ているクリフォード騎士長やフューゲル様までお越しになられる上、エルク様まで…。みなさん目当ての人々も大勢押し寄せるわけですから、それはもう王国始まって以来の一大イベントになるかと思いますよ?」
「クックック、なかなか面白いことになりそうじゃないか。一体どう決着することになるのかはまだ想像もできないが、どう転んでもみんなの思い出に深く刻まれる式典になることは間違いないだろうからな♪」
「エルク様…。気楽に楽しまれている場合じゃないというのに…」

部下の心配そうな表情などなんのその、エルクは心の底から今の状況を楽しんでいた。
まさに王国始まって以来の一大イベントを前にして、胸に高ぶる思いを抑えることに必死なことだろう。

「とりあえず、騎士たちに警備のレベルを上げるよう指示を出しておいてくれ。パニックには気をつけろともな」
「承知しました」

エルクは最低限の指示を部下に告げた後、そのまま会場における特等席へと移動する。
その足取りは非常に軽やかで、第一王子という格式の高い人物でありながらもこの式典を本当に楽しもうとしている感情を、まるで隠せていないのだった。

――――

「フューゲル様がいらっしゃったわ!!!!!」
「「フューゲル様ーー!!!!!」」

その時、会場の周囲にこだまする声の大きさが一段と大きくなる。
他でもない、学院の卒業後に王宮に入ることが決定し、そのままメリアの秘書の立場に内定したフューゲルの登場だった。
その身が馬車から降ろされ、王宮前の地に立った瞬間、歓声は一段と強く、大きくなっていた。

「さぁさぁフューゲル様、目的地に到着でございます!」
「学院長……ご厚意はありがたいんですが、僕はもう学院の生徒ではないのでお気遣いは無用だと…」
「いえいえ、そうはいきません!!私とフューゲル様の仲ではありませんか!むしろ卒業された今こそ、私たちは今まで以上に強い絆で結ばれているものと感じております!これからもどうぞ我が学院をごひいきにお願いいたしますよ!!」
「は、はぁ……」

学院長はへりくだった姿勢でフューゲルにそう言葉を告げると、その低い姿勢のままにフューゲルの事を見送る。
その時、それと同時に一人の男性がフューゲルの前に姿を現した。

「キャーー!!!クリフォード様よ!!!!」
「「クリフォード様ぁぁぁ!!!!!!」」

その人物はきらびやかな騎士の正装を身にまとい、明らかに普通の人間とは違うオーラを存分に放っている。
騎士長としての美しいたたずまいを見せつけるその者は、皇女となったメリアの専属騎士として任命されたクリフォードその人であった。

「来たか、フューゲル。いろいろと忙しいらしいから今日は欠席かと思ったが」
「まさか。将来の婚約者の晴れの舞台だというのに、見逃すわけがないじゃありませんか。むしろクリフォード様の方こそ、今日は僕の警護も行ってくれるのでしょう?嫌になって投げ出されるのではないかと心配していましたよ?」
「言ってろ」

二人は出会った時から立場こそ変わったものの、互いが互いを見る目は相変わらずであった。

「さっさとついてこい。もうすぐ式典の開始時刻だ。ここで油打ってる時間なんてないぞ」
「了解です」

大勢の人間の集まった場所において、クリフォードはその慣習をかき分けながら会場を目指して進んでいく。
フューゲルはクリフォードの先導に従い、そのままゆっくりと目的の場所を目指して進んでいった。
周囲から浴びせられる黄色い声援などなんのその、二人の脳内にある人物の姿はもう完全に一人のみの様子であり、彼らが周りに対してリアクションを示すことは結局最後までなかった。

――――

「エルク様、準備が整いました」
「よし、はじめてくれ」

メリアを皇女として即位させる式典の準備、そのすべてが整えられ、部下の男はエルクに対して最後の確認を行った。
エルクから合図を受け取った部下の男は、そのまま大勢の人間たちが集まった会場に向け、大きな声でこう言葉を発した。

「それではこれより、メリア様の皇女即位を記念する式典を開始させていただきます」

その声が発せられると同時に、会場は大きな歓声に包まれる。
いよいよ、この国を大きく動かす盛大なイベントがその幕をあけたのであった。
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