私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください

新野乃花(大舟)

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第62話

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エルク第一王子とシュラフ国王からの後押しを受けて皇女として王宮に入ることになったメリアは、それはそれは忙しい日々を送っていた。

「その衣装、非常によくお似合いですよ、メリア様」
「ありがとうございます。しかしまだまだこの衣装にふさわしい人間にはなれていませんから、もっと勉強しないといけません」
「さすが、しっかりされていますねぇ…。少しくらい気を抜かれたって誰にも怒られないでしょうに…」

メリアの元まで挨拶に訪れた貴族家の男性は、やや驚嘆の様子を見せながらそう言葉を発した。
これまでに彼は貴族家に生きるものとして、数多の権力者たちを見てきた。
そんな中にあって、彼女ほど油断もせず気を抜くこともなく仕事に取り掛かる人物の事を見たのは、今回が初めてであった。

「そのたたずまい、さすがはエルク様とシュラフ様が信頼を置かれるだけの事はあります。メリア様、私たち貴族家はあなた様の手となり足となり、全力でお支えしてまいる所存です。なにか私たちにできることがございましたら、なんなりとお申しつけください」
「ありがとうございます。こちらこそ、皆さんに助けられてばかりで恐縮です」

ハイデルの影響によって混沌としていた第二王宮は、メリアの働きかけもあって非常にスムーズに落ち着きを取り戻していった。
しかしそれは当然、彼女一人の成果と言うわけではない。
彼女の裏には騎士長のクリフォード、優れた能力を有するフューゲル、貴族家たち、さらにはエルク第一王子やシュラフ国王が常に控えており、彼女にとって非常にやりやすい環境が整えられていたという事も大きな理由であったと言えるだろう。

「メリア様!!クリフォード様がいらっしゃってます!!」

その時、使用人の一人がメリアに対して大きな声でそう言葉を発した。
その内容をそばで聞いていた貴族家の男性は、気遣い無用といった雰囲気でメリアにこう言葉をかけた。

「あぁ、それじゃあ私はここで。それではメリア様、お忙しいことと思いますが、お体にはお気をつけて」
「ありがとうございます」

丁寧な口調で挨拶を行ったのち、貴族家の男性はそのままメリアの元から姿を消していく。
そしてそんな彼と入れ違うかのように、クリフォードがこの場に姿を現した。

「やれやれ、この間までは会おうと思えばいつでも会えてたのに、今や面倒な手続きを経ないと会えもしないとは。王宮に入るっていうのも考え物だなこれは」

クリフォードはやれやれといった雰囲気を醸し出しつつ、メリアの前まで足を進める。
彼は口でこそ愚痴のような言葉こそ吐いてはいるものの、メリアと会うことが出来たことをその心の中では喜んでいるのが感じられる。

「クリフォード様、どうかされましたか?」
「お前の皇女即位を記念する式典、その詳細が決められた」

その式典は、エルクの発案により行われるものとなっていた。
狙いはいろいろとあるのだろうが、やはりハイデルを排除したメリアの存在というものを皆に知らしめるためというのが大きなところだろう。

「詳細、と言いますと?」
「日程だよ。明日だとさ」
「は、はい……?」

…メリアはクリフォードの言ったことが一瞬、理解できなかった。

「聞こえなかったか?式典の開催は明日に決まった。シュラフ国王様の一存でな」
「こ、国王様…」

元々はかなり先の日程に設定されていたはずの式典、それが突然に早められたことに違和感を感じずにはいられないメリアだったものの、国王の性格を考えるとすぐに納得がいった様子…。

「…もしかして国王様、私がハイデル様の処遇の件で国王様を驚かせてしまったから、そのお返しに私の事を驚かせようとしたんじゃ…」
「はい、せいかーい」

クリフォードはメリアの事を指さしながら、かるーい口調でそう言葉を発した。

「まぁ国王様は昔からああいう感じだ。メリア、こればっかりは諦めるんだな」
「別に私は構いませんよ?明日やったって1年後にやったって特に何か変わるわけでもありませんし…」
「…さすがの芯の強さだな…」

相変わらずの図太さを見せるメリアの前に、クリフォードはややたじたじになってしまう。
しかし、心の中ではそんな彼女の反応を期待していたのか、その後クリフォードは特に態度を変えるわけでもなく、そのまま自然な雰囲気で明日の話に移っていく。

「俺はお前の警護の立場になった。誰が来ようとも守ってやるから、好きにやればいい」
「ありがとうございます。心強いですね」
「あぁ、日程を早められた腹いせに国王様にけりかかっても助けないから、その時は恨まないでくれよ」
「し、しませんよそんな事…」

軽口でそう言葉をかけるクリフォードに対し、ややしかめっ面を浮かべて見せるメリア。
二人の雰囲気もまた独特なものに包まれている中、時刻はそのまま式典の日を迎えることとなるのだった。
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