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第56話
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「それはおかしいなぁ。俺たちがこいつから聞いた話とは全く正反対のようだが?」
「まったくですね」
エルクからの問いかけに対し、クリフォードとフューゲルの二人は息ピッタリな雰囲気で互いにそう言葉を発する。
「ふ、二人とも今までどこに…?というか、どうしてタイラント様がそこに…?」
メリアは不思議そうな表情を浮かべながら、先ほどから姿を消していた二人にそう疑問の声を上げる。
2人はその疑問に対する答え合わせをするかのように、そのままタイラントに向かってこう言葉を続けた。
「なぁタイラント、ハイデル様とアリッサ様の話は聞いていたな?あれを聞いて率直にどう思った?」
「正直に答えていただいて結構ですよ」
「…嘘ばかりですよ…。お二人とも、何一つ本当のことを言っていませんから…」
タイラントは弱弱しい口調でありながらも、ハイデルの事を強くにらみつけながらそう言葉をつぶやいた。
それを聞いたハイデルは当然、反射的に反論を行い始める。
「お、おいタイラント!!!この期に及んででまかせを言うな!!!」
「でまかせなどではありません!私は長年ハイデル様のお側で仕事をし続けてきたのです!ゆえにメリアの婚約破棄の裏でお二人がどのようなお考えを持っていたのか、そのすべてを知っています!」
「いい加減にしろ!この僕の事を一方的に逆恨みして、僕の立場を追い落とすべくそんなことを言っているのだろうが!お前の言葉などもはや信用に値しない!」
「おっと、それを決めるのはハイデル、お前じゃない。この俺だ」
「う……」
タイラント相手に強く当たっていたハイデルだったものの、その前にエルクが立ちふさがるや否やその語気を一気に弱める。
「そもそもハイデル、お前はもうすでに第二王子の立場から退くという事はもう決まっているんだ。今問題になっているのは、お前が独断でメリアを追い出すことを決めたのか、それともアリッサの思惑によってメリアを追い出すことに決めたのかどうかということだ。ゆえに、お前を追い落とすために嘘をつくメリットはタイラントにはないはずだが?」
「そ、それは…」
毅然《きぜん》とした雰囲気で間違いのない言葉を放つエルクを前に、ハイデルはなんの反論もできない。
「さぁタイラント、全て話すといい。メリアを婚約破棄するよう働きかけた黒幕は、いったい誰だ?」
その瞬間、会場中の視線がタイラントのもとに向けられる。
彼がハイデルやアリッサと非常に近い関係にあったことはこの場の誰もが知るところであるため、彼ならばすべての真実を知っているであろうことは間違いのない所だった。
ゆえにこの瞬間、ハイデルも、アリッサも、それぞれ自身の心の中を大いに震え上がらせていた…。
そしてそんな二人の心を打ち砕くかのように、はっきりとした口調でタイラントはこう言葉を発した。
「メリアの事を婚約破棄に誘導したのは……他でもない、アリッサ様です」
「ほぅ」
その瞬間、ハイデルとアリッサはそろってその表情を凍り付かせる。
「もともと、アリッサ様はハイデル様とは幼馴染の関係。ゆえにその距離は近いものでした。しかしその一方で、ハイデル様は貴族会の推薦によってメリア様との婚約を内定させていた。自分こそがハイデル様の隣に立つにふさわしいと考えてたアリッサ様にとってその事実は、それはそれは面白くないものだった事でしょう」
「なるほど、それで?」
「…それで、アリッサ様はハイデル様に迫ったのです。メリアの事を婚約破棄の上で追放し、その代わりに自分の事を婚約者とするようにと…」
「「っ!?!?」」
淡々と事実を話すタイラントの姿を見て、心の底から何か言いたげなハイデルとアリッサ。
しかし、この場において言い訳をすることが出来るほどの度胸を、二人は併せ持ってはいなかった。
「…という事は、ハイデルとアリッサはそろってこの俺に嘘をついていたわけだな。さて、お前たち、なにか俺に弁明する言葉はあるか?」
エルクは二人の方に視線を移すと、恐ろしいほど高圧的な表情を浮かべながら、刺々しい口調でそう言葉をかけた。
そんな姿を見せられてしまった二人が何か言葉など返せるはずもなく、二人はただ黙ってその場で顔を伏せ、自分たちの嘘を認める他にできることはなかった。
「…さすが、第一王子様ですね。迫力がハイデル様のそれとは全く違います…」
「あぁ。さすがはこの国の頂点に立たれるお方…。生半可な覚悟で嘘なんかついたって、通用するわけがねぇ」
全てを見届けたクリフォードとフューゲルの二人は、それぞれエがルクに対する思いを口にした。
その一方、二人に連れられてくる形となったタイラントは、その表情に不気味な笑みを浮かべながらこう言葉を発していた。
「ハイデル…ざまぁみろ…何年も仕え続けてきた僕を追放するからこうなるんだ…道ずれにしてやると…お前の大好きなアリッサともども…」
飼い犬に手を嚙まれる、とはまさにこの事なのだろう。
タイラントの事を切り捨てようとしたハイデルはタイラントに手を噛まれ、ハイデルの事を捨てようとしたアリッサもまたタイラントにその手を噛まれることとなったのだから…。
「まったくですね」
エルクからの問いかけに対し、クリフォードとフューゲルの二人は息ピッタリな雰囲気で互いにそう言葉を発する。
「ふ、二人とも今までどこに…?というか、どうしてタイラント様がそこに…?」
メリアは不思議そうな表情を浮かべながら、先ほどから姿を消していた二人にそう疑問の声を上げる。
2人はその疑問に対する答え合わせをするかのように、そのままタイラントに向かってこう言葉を続けた。
「なぁタイラント、ハイデル様とアリッサ様の話は聞いていたな?あれを聞いて率直にどう思った?」
「正直に答えていただいて結構ですよ」
「…嘘ばかりですよ…。お二人とも、何一つ本当のことを言っていませんから…」
タイラントは弱弱しい口調でありながらも、ハイデルの事を強くにらみつけながらそう言葉をつぶやいた。
それを聞いたハイデルは当然、反射的に反論を行い始める。
「お、おいタイラント!!!この期に及んででまかせを言うな!!!」
「でまかせなどではありません!私は長年ハイデル様のお側で仕事をし続けてきたのです!ゆえにメリアの婚約破棄の裏でお二人がどのようなお考えを持っていたのか、そのすべてを知っています!」
「いい加減にしろ!この僕の事を一方的に逆恨みして、僕の立場を追い落とすべくそんなことを言っているのだろうが!お前の言葉などもはや信用に値しない!」
「おっと、それを決めるのはハイデル、お前じゃない。この俺だ」
「う……」
タイラント相手に強く当たっていたハイデルだったものの、その前にエルクが立ちふさがるや否やその語気を一気に弱める。
「そもそもハイデル、お前はもうすでに第二王子の立場から退くという事はもう決まっているんだ。今問題になっているのは、お前が独断でメリアを追い出すことを決めたのか、それともアリッサの思惑によってメリアを追い出すことに決めたのかどうかということだ。ゆえに、お前を追い落とすために嘘をつくメリットはタイラントにはないはずだが?」
「そ、それは…」
毅然《きぜん》とした雰囲気で間違いのない言葉を放つエルクを前に、ハイデルはなんの反論もできない。
「さぁタイラント、全て話すといい。メリアを婚約破棄するよう働きかけた黒幕は、いったい誰だ?」
その瞬間、会場中の視線がタイラントのもとに向けられる。
彼がハイデルやアリッサと非常に近い関係にあったことはこの場の誰もが知るところであるため、彼ならばすべての真実を知っているであろうことは間違いのない所だった。
ゆえにこの瞬間、ハイデルも、アリッサも、それぞれ自身の心の中を大いに震え上がらせていた…。
そしてそんな二人の心を打ち砕くかのように、はっきりとした口調でタイラントはこう言葉を発した。
「メリアの事を婚約破棄に誘導したのは……他でもない、アリッサ様です」
「ほぅ」
その瞬間、ハイデルとアリッサはそろってその表情を凍り付かせる。
「もともと、アリッサ様はハイデル様とは幼馴染の関係。ゆえにその距離は近いものでした。しかしその一方で、ハイデル様は貴族会の推薦によってメリア様との婚約を内定させていた。自分こそがハイデル様の隣に立つにふさわしいと考えてたアリッサ様にとってその事実は、それはそれは面白くないものだった事でしょう」
「なるほど、それで?」
「…それで、アリッサ様はハイデル様に迫ったのです。メリアの事を婚約破棄の上で追放し、その代わりに自分の事を婚約者とするようにと…」
「「っ!?!?」」
淡々と事実を話すタイラントの姿を見て、心の底から何か言いたげなハイデルとアリッサ。
しかし、この場において言い訳をすることが出来るほどの度胸を、二人は併せ持ってはいなかった。
「…という事は、ハイデルとアリッサはそろってこの俺に嘘をついていたわけだな。さて、お前たち、なにか俺に弁明する言葉はあるか?」
エルクは二人の方に視線を移すと、恐ろしいほど高圧的な表情を浮かべながら、刺々しい口調でそう言葉をかけた。
そんな姿を見せられてしまった二人が何か言葉など返せるはずもなく、二人はただ黙ってその場で顔を伏せ、自分たちの嘘を認める他にできることはなかった。
「…さすが、第一王子様ですね。迫力がハイデル様のそれとは全く違います…」
「あぁ。さすがはこの国の頂点に立たれるお方…。生半可な覚悟で嘘なんかついたって、通用するわけがねぇ」
全てを見届けたクリフォードとフューゲルの二人は、それぞれエがルクに対する思いを口にした。
その一方、二人に連れられてくる形となったタイラントは、その表情に不気味な笑みを浮かべながらこう言葉を発していた。
「ハイデル…ざまぁみろ…何年も仕え続けてきた僕を追放するからこうなるんだ…道ずれにしてやると…お前の大好きなアリッサともども…」
飼い犬に手を嚙まれる、とはまさにこの事なのだろう。
タイラントの事を切り捨てようとしたハイデルはタイラントに手を噛まれ、ハイデルの事を捨てようとしたアリッサもまたタイラントにその手を噛まれることとなったのだから…。
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