私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください

新野乃花(大舟)

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第51話

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「確認しようか、ハイデル。私は第一王子としてこの国を導く立場にあり、有する権力は第二王子であるお前の存在を包括するものである。そうだな?」
「も、もちろんですエルクお兄様!第二王子の権力が第一王子を上回るはずがありませんから…」
「であれば、お前が作成したメリアルールはこの私には及ばないという事になると考えてもいいわけだな?」
「そ、それはそうですが…。しかしエルクお兄様に及ばないからと言っても、他の者たちがこのルールの影響を受けないわけではありませんが…」

エルクからの言葉に非常に丁寧に答えていくハイデルだったものの、エルクの真意があまり見えてこないのか、やや不思議そうな表情を浮かべている。
それに対してエルクはどこか得意げな表情を浮かべながら、こう言葉を返した

「なら、俺がメリアと婚約するのはなんの問題もないというわけだな?」
「「っ!?!?!?!?!?」」

…その瞬間、その場に集まっていた人々の全員がエルクに対して驚愕の視線を向ける。
第一王子でありながら、今なお浮いた話などはなにもなかったエルク。
エルク自信が特にそれについて言及することも少なかったため、巷では大小さまざまな噂話が入り乱れ、将来エルクの隣に立つ妃が誰になるかを予想するというのが雑談における定番の流れだった。
…そんなエルクが突然発したその言葉に、驚くなと言う方が無理な話であるのかもしれない…。

「じょ、冗談はよしてくださいエルクお兄様!!あの女は第二王宮を混乱に陥れた張本人ですよ??それをどうあっても認めず、今だこうやって私たち王宮側の人間にたてついているのですよ??そんな者との婚約など、到底受け入れられるはずがないでしょう!!」

ハイデルがいの一番にエルクに対して声を上げる。
そんな事が現実に実現してしまったなら、それこそ彼は完全に自分の立場を失ってしまう。
自分がいらないと判断して追い出した婚約者が、自分より立場の上の相手と結ばれ、その結果過去の自分の判断が大間違いであったなどという事が発覚してしまったなら、もう後がなくなってしまうのだから…。

「おいおいエルク、やけに動揺しているようだが?俺はただルールの確認をしただけだぞ?」
「そ、そうですか…。た、ただの確認ですか…。お、驚かせないでください…」
「驚かない?お前は俺とメリアが婚約しても驚かないという事か?」
「そ、それはどういう意味ですか!?や、やはり本気なのですか!?」
「さぁな」

その様子を見るに、ハイデルは完全にエルクの手のひらの上で転がされている。
エルクの方がどこまで本気で言葉を発しているのかは分からないものの、ハイデルにとって今のエルクの言動は脅威でしかなく、その心を震え上がらせずにはいられなかった…。

「…エルク様、どこまで本気なんだ…?」
「今まで全く婚約相手の話は出てこなかったのに、ここに来て一気に急展開じゃないか…!」
「それも相手がメリア様だなんて…。最初にハイデル様が関係を結んだ時から想っていたが、やっぱり彼女にはなにか特別ななにかがあるのでは…?」

エルクの言葉を聞いて当然、貴族の者たちをはじめとする権力者たちは色めき立ち始める。
やはり彼らにとってもその言葉はハイデルと同じく、とても興味を惹かれるものであることに違いはなく、もはやここが何の集まりであるかなどどうでもいいような雰囲気で雑談が始められていく。
…が、その中でもクールな態度を示し、あまり驚きの表情を見せていない人物が3人、存在した。

「エルク様、一体どういうおつもりなんだろう…。私を婚約者にするだなんて
…」

一人はメリア。
彼女はこのような状況にあっても普段通り冷静な態度を崩さず、落ち着いた口調でそう言葉をつぶやいた。

「エルク様、やっぱりそう言う事かよ…。もしかしたらとは思っていたが、まさかこんな形でその思惑を知らされるとはね…」
「まさかでもありませんよ、クリフォード様。メリアのような魅力的な女性を、エルク様ともあろうお方が放っておくはずがありませんから」
「まぁ、それもそうだが…」

もう二人は他でもない、互いにメリアの事を思い慕っているクリフォードとフューゲルであった。
彼らはまるでこうなることが分かっていたかのような雰囲気を見せながら、自然な口調でそう言葉をつぶやいた。

「(あ、ありえないありえないありえない…!!!これじゃあ本当に、メリアの事をほいほいと追放した僕が馬鹿みたいじゃないか…!!これほど王国の人気者たちからモテる存在の女を、どうして過去の僕は婚約破棄してしまったのだ…!!!)」

そんな二人とは対極的に、自らメリアの事を手放してしまったことを後悔し始める者が一人…。
その感情は最初、自分に対するいら立ちであったものの、自分の心を守るという防衛本能からか、次第に攻撃の向きが違う方向へと向いていく…。

「(…そうだ、これは僕のやった事ではない…。僕とメリアを婚約破棄に至らせたのは、アリッサとタイラントとの二人ではないか…。そうだ、僕は心の中ではメリアの事を気に入っていたのだ。なのにあの二人がいらぬ嫉妬心をメリアに抱き、僕たちの関係を切り裂いたのだ…!悪いのは完全にあいつらで、僕ではないのだ…!)」
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