私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください

新野乃花（大舟）

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第48話

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「お、終わった……だって…？」

その言葉は誰がつぶやいたものなのか分からない。
しかし、この場にいるほぼ全員がその頭の中に思った言葉だった。

「か、確認します…！！！」

会場全体を独特な空気が包む中、司会の男は迅速にフューゲルの元まで歩み寄り、彼の机の上に置かれている解析結果に目を向ける。
そしてそのまま、事前に準備されていた解答とフューゲルが算出した答えを見比べていき、判定を行う準備に取り掛かる。
…その時間は、現実にはほんの10秒ほどの出来事だった。
しかしこの場に集まった者たちにしてみれば、その時間は10秒どころか数分、数時間のように長く感じられた。

「(ほ、本当にこんな短時間で終わったというのか…？さ、さすがに嘘だよな…？)」
「(いくらなんでも速すぎる…。これは時間稼ぎをしているだけで、本当はまだ終わってないってことだよな…？)」

観衆たちはもちろん、ハイデルやクリフォード、メリアに至る人物まで固唾をのんで行く末を見守る。
果てしなく長く感じられる時間が過ぎた後、司会の男は自身の右腕を大きく上げ、課題の判定結果を大声で示した。

「確認が終わりました！！正解です！！！」
「「っ！？！？！？」」

その瞬間、あまりに現実離れしたその光景に集まった者たちは声を発せないでいた。
しかしただ一人、司会の声を聞いた瞬間にその場から立ち上がり、一目散にフューゲルの元を目指して歩き始める男がいた。

「嘘だ！！！！そんなはずがない！！！ぼ、僕が確認してやる！！見せろ！！！」

タイラントはその場で大きな声でそう言うと、フューゲルの書き上げた課題の分析結果に目を移す。
きっと何かの間違いに違いない、あるいはなにかずるをしたに違いない。
頭の中にそう考えずにはいられないフューゲルは、目の色を変えたような雰囲気でなにか粗を探そうと端から端までくまなくチェックしていく。
…が、その課題を見れば見るほど、答えに至るまでのルートの合理性や正確性、さらには計算の異常なまでの速さなどが理解されていき、タイラントは時間とともにその表情を暗くしていく…。

「…うそだ…うそだ…こんな事、あるはずがない…」

それからしばらくの時が経過し、タイラントはいよいよフューゲルの書き上げた課題の内容が正確なものであるという事を理解したのか、その場に膝から崩れ落ちるように倒れこみ、喪失感に満たされた雰囲気を体中から発していく…。

「ハ、ハイデル様！フューゲル様が書き上げられた解析は非常に正確なものです！この勝負はフューゲル様の勝利をもって決着の宣言をしたいのですが、いかがお考えでしょうか？？」
「……」

司会の男がそう号令を発したことで、会場中の視線はすべてハイデルのもとに向けられる。
ハイデルはその場で腕を組み、一体なんというのが最も自分にとって得であるのかを考え抜いたのち、静かな口調でこう言葉を発した。

「ククク……はっはっはっは！！これは見事見事！！まさかあれほど劣勢な状況からこうも簡単に形勢をひっくり返してしまうとは！！フューゲル君、さすが君はこの僕が見込んだだけのことはある！！僕はこの場に君を招待したことを心から自慢したい！」
「どうも、ありがとうございます」
「…それに対して、タイラント。お前はなんだ？フューゲル君の心を揺さぶるような卑怯な真似をして、圧倒的有利な状況を作っておきながら、まさかそこからひっくり返されるなど…。しかも、僕の事を思ってメリアを誘拐したなどと言っていたから助け船を出してやったというのに、それさえも無に帰してしまうとは…」
「……」

先ほどまでの態度とは一転、タイラントが有利なうちは向こうを持ち上げるような事を言っておきながら、決着がついた途端今度はフューゲルに好意的な言葉を発し始める。
とげとげしい言葉がタイラントに対して投げかけられるものの、タイラントに反論するだけの気力は残されていない様子で、彼はただ黙ってハイデルからの失望の言葉を受け止める他なかった。

「お前にはほとほと愛想が尽きたよ。こうして挽回できるチャンスを与えてやったというのに、これが僕に対する返事だという事だろう？確かに相手をしたフューゲル君は優秀な頭脳を持っているわけだが、これまでの経歴や立場を考えればお前の方が圧倒的にアドバンテージのある戦いだったはずだ。…僕は心からお前に期待していたというのに、それももう無意味な事らしい…。タイラント、今日をもってお前はこの王宮には必要のない男となった。これからはお前の後はこのフューゲル君が引き継ぐ。とっととすべての荷物をまとめ、出ていく準備を整えるんだな。…あ、そうそう。それとお前が今まで好き勝手やってきたことをクリフォードやフューゲルに詫びるんだな」

ハイデルは非常に淡々とした口調でそう言葉を告げる。
それは、タイラントに対する死刑宣告にも等しかった…。

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