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第46話

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自分の号令ですべて解決だと言わんばかりの表情を浮かべるハイデルに対し、あまり納得できていないという雰囲気で異を唱える人物が二人、いた。

「それはおかしいだろ、ハイデル様。この男はハイデル様が用意した神聖な対決の場で、王宮の人間として考えられない卑怯な手を使ったんだぞ?なのにお咎《とが》めもなしだっていうのか?」
「クリフォード…。まぁお前の言い分も分かる。しかしタイラントは私の事を思って今回の行動をとったというじゃないか。僕の事を思ってくれている臣下の行動を、軽々しく否定する気にはなれんな」

クリフォードからの抗議の声に、ハイデルは堂々とした口調でそう言葉を返す。
タイラントの言ったことが本心からのものではなく、自分を守るためのただの言い逃れに過ぎないことなど、ハイデル自身もよくわかっている所ではあるものの、彼はこの場においてひとまずその言い逃れに乗っかる形を選んだ様子だ。

「ハイデル様、失礼を承知で申し上げますが、僕もひとつだけ納得できないところがあります」
「…なんだ、フューゲル君」
「今回の一件における責任が、メリアにあるとおっしゃられたところです」
「(おいおい、そこかよ…。卑怯な手を使ったタイラントには何も思わないのかよ…)」

クリフォードに続き、今度はフューゲルの方からハイデルに対して抗議の声があげられる。
その抗議の内容に若干の違和感を抱くクリフォードではあったものの、その内容自体は彼も同じことを思っていた。

「責任はメリアにあるじゃないか。この女が身分不相応を理解せず、君に近づいたことがすべての始まりなのだ。僕との婚約を捨てられたのち、おとなしく静かにしていればこんなことは起きなかったことだろう。にもかかわらずこんなことが起こったという事は、それはもうこの女に責任があると考えるのが一番自然ではないか」
「そうではありませんハイデル様、彼女の事を誘ったのは僕の方からであり、そこには…」
「おいおいおい、いい加減にしてくださいよフューゲル様?」

フューゲルがハイデルに返そうとしたその言葉は、途中でタイラントによって遮られた。
さきほどまでは死んだ動物のような雰囲気を漂わせていたタイラントだったものの、とっさに絞り出した言い訳によってハイデルの事を味方につけられたことが自信になったのか、ここではやや得意げな様子でフューゲルに対して言葉を発し始める。

「まだ勝負の途中じゃありませんか。聞いていたでしょう?僕の行いはハイデル様からすでに許しを頂いているのです。ゆえにこの一件はもうここで終わりで、そのまま勝負は再開されます。だって中断の合図は出されていないのですから」
「おいタイラント!!お前そこまで卑怯な真似をしてまで勝ちたいのか!?」
「外野は黙っていてください!!そうですよね、ハイデル様!?」

クリフォードからかけられた言葉にかなり感情的な様子で言葉を返したタイラントは、そのまま勝負の続行の可否をハイデルに問う。

「ハイデル様、この勝負このまま続行させるのか!?いくらなんでもタイラントに分がありすぎるじゃないか。フューゲルはここまで人質を取られていたにも等しいんだぞ??」
「そんなもの関係ない!どんな状況でも常に全力で当たることこそハイデル様のそばにいる者としてふさわしい能力だ!僕はその事をハイデル様のそばで一番理解している!!」
「……」

両者からの声を聞き、ハイデルはそのまで腕を組んで静かに考え始める。

「(…ここで勝負を中止させることは簡単だが、それではまるでクリフォードとメリアが現れたために僕が身を引いたとも見られかねない…。ここで弱腰な姿勢を見ることだけは避けなければならないわけだが…。まぁよかろう。勝負の結果はすでに見えているのだ。課題を終わらせにかかっているタイラントに対して、フューゲル君の方は手つかずの状態。ここはタイラントに華を持たせて、王宮の威厳というものを誇示する方向にかじを切ることとしよう)」

心の中でそう考えをまとめたハイデルは、そのまま二人に対して高らかにこう言葉を発した。

「勝負は続行することとする。ルールはこれまで通り、先に課題をクリアした方が勝利だ」
「ほれみろ♪」
「おいおい、本当にそれでいいのかよ…」

タイラントは得意げな表情を、クリフォードは納得のいっていなさそうな表情をそれぞれ浮かべる。
しかしその中に一人だけ、ほとんど表情を変えない人物が存在した。

「ありがとうございます、タイラント様。僕はどうにもわざと負けるというのは性に合わないので、その方がうれしい限りです」
「…は、はぁ?そ、そっちはまだひとつも進んでない状況なのだろう?なにを余裕な事を言って…」

反射的にそう言葉を発したタイラント。
しかしフューゲルの言葉に驚きの表情を浮かべたのは、タイラントのみならずこの場にいる全員であった。

「フューゲルの奴……こ、ここから始めて間に合うというのか…??」

クリフォードさえも信じられない者を見る目を浮かべ、そう言葉をつぶやいた。
それがこの場にいる者たちの正直な思いであり、現実であった。
…しかしフューゲルはそんな現実をはねのけるかのように、信じられないスピードで課題に取り掛かり始めるのだった。
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