上 下
45 / 66

第45話

しおりを挟む
「(な、なんでメリアがこんなところに!?閉じ込めていたはずじゃないのか!?)」

その場にいるはずのないメリアの姿を見て、タイラントは課題を進める自身の手を完全に停止させる。
目の前で起こっていることに対して理解が追い付かず、完全にフリーズしてしまっている様子だった。

「(ま、まさかメリアが自力であそこから脱出したのか…??いや、そんなはずはない…。ガードは完ぺきだったはずの上、あんなひ弱な女がたった一人でここまでたどり着けるはずがない…)」

しかし、タイラントはメリアの隣に立つ者の存在を見て瞬時に答えにたどり着く。

「(メリアと一緒に、クリフォードが…?ま、まさか…まさかあいつ、メリアを取り戻すために僕の手下たちの所に乗り込んできたのか…!?それでメリアを連れ出して、はるばるここまで来たっていうのか…!?)」

心の中で着々と動揺を大きくしていくタイラント。
それは彼のみならず、様子を見守っていたハイデル、さらには対戦相手のフューゲルまでも同じであった。

「(メ、メリア、一体何しにここまで来たのだ…!?クリフォードの奴が連れてきたのか?全くあいつらはどこまで僕の邪魔を…!どうして第二王子である僕のいう事を素直に聞けないのだ…!!)」
「(メリア…!?連れ去られてしまっていたはずじゃ…!?)」

ハイデルの方はメリアが連れ去られてしまっていた事自体知らないため、彼女がこの場に現れることの不可解さを理解できないでいた。
一方、フューゲルの方はすべての事情を理解していたため、この場にメリアが現れたことの不可解さをきちんと理解し、またクリフォードの存在からすぐにその理由を察した。
2人は互いに課題に取り掛かる手を止め、揃ってメリアやクリフォードの方に視線を移す。
そんな彼らの視線に応えるかのように、クリフォードが堂々とした雰囲気でこう言葉を発した。

「やれやれ、自分の事を大きく見せたいからといって、ちょっとばかり非道なやり方に手を染めてしまったのではないか、タイラント様?」
「っ!?」

タイラントは分かりやすく自身の体をびくっと反応させ、クリフォードの方から目を背ける。
しかしクリフォードはそんなタイラントに構わず、そのまま強い口調でこう言葉を続ける。

「フューゲルがメリアに気があるという事を知って、その上でメリアの事を一方的に誘拐し、無事に返してほしかったら自分との勝負にわざと負けろだなんて、真っ当な男ならなかなかできることじゃないよな。大したもんだぜ」
「っ!?!?!?!?!?」

その言葉を聞き、タイラントは一段と強く自身の体を震わせる。
この場にいる誰もが、タイラントがなんと言葉を返すことに注目したものの、クリフォードのその言葉に返事を返したのはハイデルだった。

「ど、どういうことだクリフォード!?それは事実なのか!?」
「事実ですよハイデル様。騎士として嘘を言ったりはしません。この俺がこの目で見たのですから」
「そ、それじゃあ……それじゃあタイラント、お前は私に一泡吹かせるために、わざわざこんな手の込んだ茶番をしたのか?」
「……!?」
「どうなんだタイラント!答えろ!」
「……!!!」

ハイデルからの叱責ともとれるほどの口調の言葉の前に、タイラントは自身の口を閉じたままだった。
…それからしばしの間、会場は重い沈黙の空気に包まれる。
この場の空気はこれからどのようになっていくのかと、誰もが心の中に不安感を抱いていく中、タイラントは絞り出すような口調でこう言葉をつぶやいた。

「…ハイデル様、全てはハイデル様のためなのです…」
「…信用できると思うのか?誰の目にもお前が自分のためにやった事のようにしか見えないが?」
「違うのです……私の真の目的は、勝負に勝利することではなかったのです。私の真の目的は、王宮の宝であるフューゲル様から、メリアの事を引き離すことにあったのです…!」
「……ほぅ」

ハイデルの言った通り、今回の一件は誰の目にもタイラントが自分のためにやった事のように思われた。
しかし、この場でとっさに放ったタイラントの言い訳は、ハイデルにとっても非常に都合のいいものであった…。

「なるほど、であればお前はフューゲル君の心をもてあそぶメリアの事が許せず、二人の関係を正すためにこのような事をやったというわけか?」
「その通りでございますハイデル様…。相談もなく勝手にこのようなことをやってしまいました事、申し訳ございません…」
「ふむ…」

タイラントはこれまでも、今回のようにハイデルを持ち上げる行いばかりを繰り返してきた。
ゆえに彼はなんの能力がなくともここまで王宮に残ることが許され、第二王子の右腕と言う立場を保証され続けてきた。
その力がここでも発揮され、ハイデルは自身の心の中でこう言葉をつぶやく。

「(…まぁ、それならそれでいいとするか。すべての原因がメリアにああるという事にできるのなら、僕にとってもこれほど都合のいいことはない。勝手なことをしでかしたタイラントに思う所はあるが、ここはひとまずこいつの話に乗っておくとするか…)」
「ハイデル様、本当に申し訳ありませんでした…。しかしどうか僕の行いを、許してはいただけませんでしょうか?」
「それならまぁ仕方ないなぁ。メリアの言動には僕も思うところがたくさんあったのだ。ゆえに今回の一件は、すべてメリアの自業自得であるという事になる。さぁ、話はこれで終わりだ」

ハイデルはさっさと話を切り上げ、結局すべてメリアのせいで起こったことだと片付けようとし始める。
…しかしこの場には、たとえハイデルの言葉であろうともそれを受け入れられない人物が二人、存在していた…。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

とある公爵令嬢の復讐劇~婚約破棄の代償は高いですよ?~

tartan321
恋愛
「王子様、婚約破棄するのですか?ええ、私は大丈夫ですよ。ですが……覚悟はできているんですね?」 私はちゃんと忠告しました。だから、悪くないもん!復讐します!

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...