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第41話
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そしてついに、日付はタイラントとフューゲルの決戦の日を迎えた。
王宮全体を包む空気は非常に静かではあるものの、二人の対決の存在を知る者たちは忙しそうに王宮の中を駆けまわり、会場だけは独特の空気に包まれていた。
「ハイデル様、もうまもなく準備が完了いたします」
「分かった」
「……」
ハイデルは部下からの知らせを受け、落ち着いた口調でそう言葉を返した。
…しかし、部下の男はもうひとつなにか言いたげであった様子。
「…どうした?なにかあったのか?」
「い、いえ…。タイラント様の事なのですが、なにか妙な動きがありまして…」
「…どういうことだ?」
「はい…。これからまさにフューゲル様との対決が行われるというのに、なにかもう勝ったかのような雰囲気を浮かべておられるというか、ちょっと不自然といいますか…」
「……」
部下の男は不思議そうな表情を浮かべながら、ハイデルに対してそう進言を行った。
それはハイデル自身も抱いていた違和感ではあったため、彼も同じような表情を浮かべながらこう言葉を返す。
「やはりそうか…。あいつは一体何を考えているのか…。相手がフューゲル君であることを知って、あきらめて壊れてしまったのかもしれんな…。どうせ負けなら盛大に負けてやろうとでも考えているのかもしれん。なにか妙な事をしでかす可能性もあるから、よくよく見張っておけ」
「承知しました」
ハイデルはこの対決がタイラントを追い出すための形式的なものであるという事を、部下たちには伝えていなかった。
しかしこの組み合わせを見ればどう考えてもそうであろうと王宮の人間たちは気づいていたために、このような違和感を抱くものが増えていたのだった。
「(万が一ここでタイラントが勝つようなことになれば、それこそ計画倒れも良い所だ…。あいつが今回の勝利を鼻にかけて王宮で大きな態度をとるところは目に見えているのだから、なんとしてもそんな未来は防がなければ…。しかしまぁ、たとえ少々卑怯な手を使われようともフューゲル君が敗れる可能性など皆無であろうから、余計な心配だとは思うが…)」
自分の知らないところでいろいろな事が起こっているという事も知らず、ハイデルはそう自分に言い聞かせる他なかったのだった。
――――
「フューゲル様!!!!!」
「こちらを向いて下さーーーーい!!!」
「ちょっと押さないでよ!!!先にここに居たのは私でしょ!!!」
「うるさいうるさい!!!見えないじゃない!!!!」
…王宮の入り口には、多くの観衆がその顔をのぞかせていた。
二人の対決は完全に非公開で行われることとなっていたものの、やはりどこからか情報は漏れるというもので、気づけばこうして彼のファンが大量に押し寄せる事態となっていた。
「も、申し訳ありませんハイデル様…。まさかこのような事態になってしまうとは…。さ、さきほどから解散するよう言ってはいるのですが、いかんせん数が多いもので…」
「まぁいいさ、放っておけ。中に入れなければ何の問題もない」
「申し訳ありません…。情報統制は徹底していたのですが…」
心から申し訳なさろうな表情を浮かべる召使いに対し、ハイデルはややいぶかしげな表情を浮かべながらこう言葉を返す。
「お前の責任ではない。情報が漏れたのは王宮の中からでは無いだろうからな」
「…と、言いますと?」
「漏らしたのはおそらく、タイラントの奴だろう。いったい何を狙っているのかは知らんが…」
「フューゲルの事を推す者たちをここに集めたとしても、彼にメリットなどなにもないかと思うのですが…。どういうつもりなんでしょう?」
「もし、もしもあいつが対決に勝つ気でいるのなら、フューゲルが負けたという事実をこいつたちを通じて広めたいのかもしれないな…。そうやって観衆の事を味方につけ、自分はぬくぬくと王宮に居座るつもりなのかもしれん」
「そ、そんなまさか…」
「おっと、ついに今日の主役の到着だぞ。しっかり失礼のないようにもてなししろ」
「わ、分かりました!」
タイラントはすでに王宮の中に控えているため、フューゲルの到着をもって役者はそろった。
彼は集まった観衆からの黄色い声援を背に受けながら、堂々とした雰囲気で王宮の中に足を踏み入れていく。
…互いの思惑が複雑に絡み合い、非常に混沌とした雰囲気が王宮全体を包んでいく中、決着の見えない戦いがいよいよ始まろうとしていたのだった…。
王宮全体を包む空気は非常に静かではあるものの、二人の対決の存在を知る者たちは忙しそうに王宮の中を駆けまわり、会場だけは独特の空気に包まれていた。
「ハイデル様、もうまもなく準備が完了いたします」
「分かった」
「……」
ハイデルは部下からの知らせを受け、落ち着いた口調でそう言葉を返した。
…しかし、部下の男はもうひとつなにか言いたげであった様子。
「…どうした?なにかあったのか?」
「い、いえ…。タイラント様の事なのですが、なにか妙な動きがありまして…」
「…どういうことだ?」
「はい…。これからまさにフューゲル様との対決が行われるというのに、なにかもう勝ったかのような雰囲気を浮かべておられるというか、ちょっと不自然といいますか…」
「……」
部下の男は不思議そうな表情を浮かべながら、ハイデルに対してそう進言を行った。
それはハイデル自身も抱いていた違和感ではあったため、彼も同じような表情を浮かべながらこう言葉を返す。
「やはりそうか…。あいつは一体何を考えているのか…。相手がフューゲル君であることを知って、あきらめて壊れてしまったのかもしれんな…。どうせ負けなら盛大に負けてやろうとでも考えているのかもしれん。なにか妙な事をしでかす可能性もあるから、よくよく見張っておけ」
「承知しました」
ハイデルはこの対決がタイラントを追い出すための形式的なものであるという事を、部下たちには伝えていなかった。
しかしこの組み合わせを見ればどう考えてもそうであろうと王宮の人間たちは気づいていたために、このような違和感を抱くものが増えていたのだった。
「(万が一ここでタイラントが勝つようなことになれば、それこそ計画倒れも良い所だ…。あいつが今回の勝利を鼻にかけて王宮で大きな態度をとるところは目に見えているのだから、なんとしてもそんな未来は防がなければ…。しかしまぁ、たとえ少々卑怯な手を使われようともフューゲル君が敗れる可能性など皆無であろうから、余計な心配だとは思うが…)」
自分の知らないところでいろいろな事が起こっているという事も知らず、ハイデルはそう自分に言い聞かせる他なかったのだった。
――――
「フューゲル様!!!!!」
「こちらを向いて下さーーーーい!!!」
「ちょっと押さないでよ!!!先にここに居たのは私でしょ!!!」
「うるさいうるさい!!!見えないじゃない!!!!」
…王宮の入り口には、多くの観衆がその顔をのぞかせていた。
二人の対決は完全に非公開で行われることとなっていたものの、やはりどこからか情報は漏れるというもので、気づけばこうして彼のファンが大量に押し寄せる事態となっていた。
「も、申し訳ありませんハイデル様…。まさかこのような事態になってしまうとは…。さ、さきほどから解散するよう言ってはいるのですが、いかんせん数が多いもので…」
「まぁいいさ、放っておけ。中に入れなければ何の問題もない」
「申し訳ありません…。情報統制は徹底していたのですが…」
心から申し訳なさろうな表情を浮かべる召使いに対し、ハイデルはややいぶかしげな表情を浮かべながらこう言葉を返す。
「お前の責任ではない。情報が漏れたのは王宮の中からでは無いだろうからな」
「…と、言いますと?」
「漏らしたのはおそらく、タイラントの奴だろう。いったい何を狙っているのかは知らんが…」
「フューゲルの事を推す者たちをここに集めたとしても、彼にメリットなどなにもないかと思うのですが…。どういうつもりなんでしょう?」
「もし、もしもあいつが対決に勝つ気でいるのなら、フューゲルが負けたという事実をこいつたちを通じて広めたいのかもしれないな…。そうやって観衆の事を味方につけ、自分はぬくぬくと王宮に居座るつもりなのかもしれん」
「そ、そんなまさか…」
「おっと、ついに今日の主役の到着だぞ。しっかり失礼のないようにもてなししろ」
「わ、分かりました!」
タイラントはすでに王宮の中に控えているため、フューゲルの到着をもって役者はそろった。
彼は集まった観衆からの黄色い声援を背に受けながら、堂々とした雰囲気で王宮の中に足を踏み入れていく。
…互いの思惑が複雑に絡み合い、非常に混沌とした雰囲気が王宮全体を包んでいく中、決着の見えない戦いがいよいよ始まろうとしていたのだった…。
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