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第34話
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「なんの御用でしょう、タイラント様」
「そう焦らないでください、フューゲル様。夜は長いのですから。ゆっくりと互いの思いを語り合おうではありませんか」
状況の打開を図るタイラントが書き上げた手紙、その送り先は今回の当事者であるフューゲルであった。
タイラントはその手紙の中で、「対決前に直接会って話がしたい」と言葉を語り、自分が手配した街中のレストランにフューゲルの事を呼び出したのだった。
当初手紙を受け取った時、フューゲルはややいぶかしげな表情を浮かべていたものの、向こうが会いたいと言っているのなら会ってみてはどうかとメリアから言葉をかけられたことが後押しとなり、タイラントからの誘いを受けることとしたのだった。
「フューゲル様、あなたのお噂は王宮にて働く僕の所にも届いていますよ。本当に優秀な頭脳をお持ちであり、間違いなく将来はこの国を支える重要なポジションにつくべき人物であると。…それはもう、妬いてしまいそうになるほどにね」
「他人の評価など関係ありませんし、僕は別に大した事はしていませんよ。机の上でいくら点数を稼ごうが、現実に結果を出せなければ何の意味もありませんから」
「(こいつ……言ってくれる……)」
フューゲルはタイラントに対して、早速強烈な皮肉を繰り出して見せる。
仕事の上で何も結果を出さず、ただただハイデルの機嫌を取ることのみでここまで生き残ってきたタイラントにとって、フューゲルの言葉は大いに突き刺さるものがあった。
「(まぁ落ち着け…ここでイライラしてしまっては、完全にこいつの思うつぼ…)」
ここでフューゲルに逆上することは簡単だが、そんなことをしてしまってはわざわざフューゲルをこの場に呼び出した意味がなくなる。
タイラントは湧き出る思いを必死にその心の中に押し込むと、そのまま強引に余裕ですと言わんばかりの作り笑顔を浮かべ、こう言葉を返した。
「僕自身もフューゲル様の事は相当高く評価していたのですが、だからこそあの一件は本当に残念でした。がっかりさせられましたね」
「なんのことでしょう?」
「決まってるじゃないですか、メリアの事ですよ。これほどまでに周囲から将来を期待されている男であるならば、それはそれはさぞ魅力的な女性を自分のパートナーとしてお選びになるのであろうと思っていたのに、それがまさかあんなろくでもない女を選ばれるとは…。ハイデル様も心から失望されていることでしょう」
タイラントはしてやったりと言わんばかりの雰囲気で得意げな表情を浮かべながら、フューゲルに対してそう言葉を発した。
これは効いただろうと手ごたえを実感している様子のタイラントであったものの、当のフューゲルはそんなものどこ吹く風といった雰囲気で涼しい顔を浮かべ…。
「そうですか、それは僕も残念ですね…。ハイデル様には第二王子として素晴らしい力量がおありの事と確信していますが、メリアの事を王宮から捨ててしまったことだけは間違いであったと確信しています。彼女の魅力を理解できないとは、それはそれはただただ悲しいですね…」
「(こいつ……)」
「タイラント様も、心の中ではそう思われているのでしょう?」
「ふざけないでもらいたい。僕はハイデル様の判断が間違っていたなど全く思っていない。僕とてメリアとは何度も話をしたことがあるが、魅力などこれっぽっちも感じたことはない」
「それは、どうして?」
「そうだな…。自分を通しすぎるからだな。ハイデル様が白と言えば白、黒と言えば黒、それが王宮と言うところであり、王子の妃たる者であればだれよりもその事を心得ていなければならない。しかしあいつはハイデル様の言葉に反抗的な言葉や言動を繰り返し、それを直そうともしなかった。元々貴族たちから推薦のあった婚約者だったが、そんなろくでもない女がハイデル様の隣に立つにふさわしいはずもない。婚約破棄されて当然というものだ」
「では、僕が彼女と婚約を果たすことにいったい何の問題が?僕は皆さまとは違って芯ある彼女の魅力を感じ取っています。そこにあれこれ言われる筋合いなどないかと思いますが?」
タイラントに対するフューゲルの言葉は、それはそれは真っ当なものであった。
しかし、今のタイラントがフューゲルの言葉を真っ当に受け止めるはずはなかった…。
「筋合い、ねぇ…。まぁ、どちらにしてももう婚約することなど無理だと思いますが?」
「それはどういう意味ですか?」
「…今、メリアはあなたの別荘にいるのですか?それも学院の私有地ですから、護衛などもいないはず…。それが何を意味するか、お分かりかな?」
「…!?!?」
不敵な笑みを浮かべながらそう言葉を発するタイラントの言葉を受け、フューゲルはここに来て初めて驚きの表情を浮かべる。
「ま、まさか……」
「おっと、この事は内密にお願いしますよ?彼女の事を無事に返したいのならね」
「……」
…タイラントは完全に形勢を取ったような余裕の表情を浮かべながら、流れるような口調でこう言葉を続ける。
「無駄にまっすぐな性格のメリアなら、こんな怪しい食事の場でもあなたの背中を押すことと思いましたが、まさかここまで読みやすい性格をしているとは…♪」
「…それで、あなた方の目的は?まさか、これにはハイデル様も関わっているなどという事はないでしょうね?」
「そんなことはありません、僕が勝手にやった事ですよ。出なければ意味がありませんからね」
「意味…?」
「僕が提示するメリアの開放条件はただ一つ。王宮対決の場において、僕にわざと負けていただくこと。ただそれだけです」
「…!!!」
その言葉を聞くや否や、フューゲルは座っていた席を急ぎ立ち上がり、そのまま店の外に向け駆けだしていったのだった。
「そう焦らないでください、フューゲル様。夜は長いのですから。ゆっくりと互いの思いを語り合おうではありませんか」
状況の打開を図るタイラントが書き上げた手紙、その送り先は今回の当事者であるフューゲルであった。
タイラントはその手紙の中で、「対決前に直接会って話がしたい」と言葉を語り、自分が手配した街中のレストランにフューゲルの事を呼び出したのだった。
当初手紙を受け取った時、フューゲルはややいぶかしげな表情を浮かべていたものの、向こうが会いたいと言っているのなら会ってみてはどうかとメリアから言葉をかけられたことが後押しとなり、タイラントからの誘いを受けることとしたのだった。
「フューゲル様、あなたのお噂は王宮にて働く僕の所にも届いていますよ。本当に優秀な頭脳をお持ちであり、間違いなく将来はこの国を支える重要なポジションにつくべき人物であると。…それはもう、妬いてしまいそうになるほどにね」
「他人の評価など関係ありませんし、僕は別に大した事はしていませんよ。机の上でいくら点数を稼ごうが、現実に結果を出せなければ何の意味もありませんから」
「(こいつ……言ってくれる……)」
フューゲルはタイラントに対して、早速強烈な皮肉を繰り出して見せる。
仕事の上で何も結果を出さず、ただただハイデルの機嫌を取ることのみでここまで生き残ってきたタイラントにとって、フューゲルの言葉は大いに突き刺さるものがあった。
「(まぁ落ち着け…ここでイライラしてしまっては、完全にこいつの思うつぼ…)」
ここでフューゲルに逆上することは簡単だが、そんなことをしてしまってはわざわざフューゲルをこの場に呼び出した意味がなくなる。
タイラントは湧き出る思いを必死にその心の中に押し込むと、そのまま強引に余裕ですと言わんばかりの作り笑顔を浮かべ、こう言葉を返した。
「僕自身もフューゲル様の事は相当高く評価していたのですが、だからこそあの一件は本当に残念でした。がっかりさせられましたね」
「なんのことでしょう?」
「決まってるじゃないですか、メリアの事ですよ。これほどまでに周囲から将来を期待されている男であるならば、それはそれはさぞ魅力的な女性を自分のパートナーとしてお選びになるのであろうと思っていたのに、それがまさかあんなろくでもない女を選ばれるとは…。ハイデル様も心から失望されていることでしょう」
タイラントはしてやったりと言わんばかりの雰囲気で得意げな表情を浮かべながら、フューゲルに対してそう言葉を発した。
これは効いただろうと手ごたえを実感している様子のタイラントであったものの、当のフューゲルはそんなものどこ吹く風といった雰囲気で涼しい顔を浮かべ…。
「そうですか、それは僕も残念ですね…。ハイデル様には第二王子として素晴らしい力量がおありの事と確信していますが、メリアの事を王宮から捨ててしまったことだけは間違いであったと確信しています。彼女の魅力を理解できないとは、それはそれはただただ悲しいですね…」
「(こいつ……)」
「タイラント様も、心の中ではそう思われているのでしょう?」
「ふざけないでもらいたい。僕はハイデル様の判断が間違っていたなど全く思っていない。僕とてメリアとは何度も話をしたことがあるが、魅力などこれっぽっちも感じたことはない」
「それは、どうして?」
「そうだな…。自分を通しすぎるからだな。ハイデル様が白と言えば白、黒と言えば黒、それが王宮と言うところであり、王子の妃たる者であればだれよりもその事を心得ていなければならない。しかしあいつはハイデル様の言葉に反抗的な言葉や言動を繰り返し、それを直そうともしなかった。元々貴族たちから推薦のあった婚約者だったが、そんなろくでもない女がハイデル様の隣に立つにふさわしいはずもない。婚約破棄されて当然というものだ」
「では、僕が彼女と婚約を果たすことにいったい何の問題が?僕は皆さまとは違って芯ある彼女の魅力を感じ取っています。そこにあれこれ言われる筋合いなどないかと思いますが?」
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しかし、今のタイラントがフューゲルの言葉を真っ当に受け止めるはずはなかった…。
「筋合い、ねぇ…。まぁ、どちらにしてももう婚約することなど無理だと思いますが?」
「それはどういう意味ですか?」
「…今、メリアはあなたの別荘にいるのですか?それも学院の私有地ですから、護衛などもいないはず…。それが何を意味するか、お分かりかな?」
「…!?!?」
不敵な笑みを浮かべながらそう言葉を発するタイラントの言葉を受け、フューゲルはここに来て初めて驚きの表情を浮かべる。
「ま、まさか……」
「おっと、この事は内密にお願いしますよ?彼女の事を無事に返したいのならね」
「……」
…タイラントは完全に形勢を取ったような余裕の表情を浮かべながら、流れるような口調でこう言葉を続ける。
「無駄にまっすぐな性格のメリアなら、こんな怪しい食事の場でもあなたの背中を押すことと思いましたが、まさかここまで読みやすい性格をしているとは…♪」
「…それで、あなた方の目的は?まさか、これにはハイデル様も関わっているなどという事はないでしょうね?」
「そんなことはありません、僕が勝手にやった事ですよ。出なければ意味がありませんからね」
「意味…?」
「僕が提示するメリアの開放条件はただ一つ。王宮対決の場において、僕にわざと負けていただくこと。ただそれだけです」
「…!!!」
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