私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください

新野乃花(大舟)

文字の大きさ
上 下
30 / 66

第30話

しおりを挟む
フューゲルやクリフォードたちがメリアを手にするべくそれぞれ勝手に立ち回っている一方、王宮では非常に危険な兆候がその姿を現しつつあった。

「ハイデル様、また王宮から取引を取りやめにしたいとのお声が…」
「い、一体どうなっている!!武器の取引や薬の売買はこれまで滞りなく円滑に進んでいたではないか!それがここにきて一体どうして…」

ハイデル第二王子が支配するこの第二王宮では、それらの取引からもたらされる利益が大きな財源となっていた。
それゆえにハイデル自身もその分野には非常に力を入れていたものの、ここにきてそれらの数字が非常に悪くなってしまっていた。

「我々との取引中止……これで何人目だ…。このまま数字が下降し続けたら、それこそいよいよ国王様や第一王子から激しい叱責を受けることに…。そ、それだけは何としても防がなければならないのだが…」

当然、ハイデル自身にも危機感はあった。
それゆえに、彼はこれまで完全に仕事を任せていた人物、そして同時にこうなった原因を知っているであろう人物をその脳内にリストアップし、その代表格と言える人物を即座に自分のもとに呼び出すこととした。

――――

「タイラント、どうしてここに呼ばれたか、その理由が分かるか?」
「……」

二人以外誰もいない王室は、ただただ静寂の空気に支配されている。
たった今ハイデルの前にいる人物は、彼の右腕としてその頭角を現したタイラントである。
ハイデルは非常に冷静な口調でタイラントにそう言葉をかけたものの、どういうわけかタイラントはハイデルに対して言葉を返さない。
…これまでハイデルに背いたことなど一度もなかったタイラントが、急にどうしてそのような態度をとるのか。
それはハイデル自身が一番疑問に思っているところではあったものの、彼はあえてそこには触れず、まずは今回の一件における事実を確認することとした。

「分かっているのか?お前が適当に仕事をしたせいで王宮への信頼は大きく揺らいでいる!このまま収益が右肩下がりとなれば、いずれこの王宮は解体されるかもしれない!そうなったらお前も終わりなんだぞ!本当に分かっているのか!」

なかなかに激しい口調でそう言葉を発するハイデル。
その様子は今の彼の心の中をそのまま表しているようであり、そこに余裕は全く感じられなかった。
するとその時、ようやくハイデルに対して言葉を返す気になったのか、タイラントはやや機嫌の悪そうな表情を浮かべながら、こう言葉を発した。

「分かっていないのは、ハイデル様の方ではありませんか?僕がどれほどハイデル様の行動によって心を傷つけられたのか、あなた様は本当に分かっておられるのですか?」
「…なんだと?」

ハイデルはタイラントの言っていることがさっぱり分からない様子で、やや困惑の表情を浮かべて見せる。
それに対しタイラントは、その表情を変えぬままこう言葉を続けた。

「ハイデル様、僕はこれまで必死に必死にあなた様のために尽くしてきました。それは他でもない、ハイデル様の事を誰よりも大切に思っているからこそです。…しかし、ハイデル様はそんな僕の思いを踏みにじったのです」
「……」

低い口調でなにかを訴えるようにそう言葉を発するタイラントであったが、ハイデルの方は全くその思いになど耳を傾けていない様子…。

「(僕のため?僕の事を大切に思っている?嘘ばかり言いよって…。お前はただただ僕の機嫌をとって、自分がこの王宮の中で偉い立場になることしか考えていなかったじゃないか…。それをよくもまぁぬけぬけと…)」

タイラントはまだ気づいていない様子であるものの、ハイデルの方はすでにタイラントの下心には気づいていた。
だからこそ猫をかぶるタイラントの姿にハイデルはこの上ない嫌悪感を覚えているものの、ひとまずそのままタイラントの言葉を続行させることとした。

「ハイデル様、純粋な僕の思いをもてあそぶのはやめてほしいのです…。ハイデル様は僕と言うものがありながら、最近はクリフォード様やフューゲル様にばかりその目を向けておられます…。臣下たる僕がこんなことを言うのは出過ぎたことであるとは理解していますが、それでも言わずにはいられません…。ハイデル様、どうか彼らなどよりもこの僕の事を見てほしいのです…!」
「(なるほど、そういうことか……)」

ハイデルはようやく、タイラントが何を言いたいのかをその頭の中で理解した。

「(こいつはつまり、クリフォードやフューゲルが王宮に来て自分の仕事を奪われることを恐れているのだな…。どう考えたってあいつらの方が自分よりも優秀で人気がある存在…。なら邪魔になった自分は切り捨てられてしまうに違いないと考え、だからこんなことを…)」

その思惑に気づいたハイデルはどっと深いため息を放つ。
タイラントにはそのため息の意味はまだ理解できなかったものの、ハイデルがその後に続けて発した言葉によって、彼は今の自分の置かれている現実を理解させられることとなるのであった…。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

処理中です...