私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください

新野乃花（大舟）

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第29話

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その翌日、自室のベッドの上で目を覚ましたメリアの元をフューゲルが訪れ、彼女にこう言葉を発した。

「おはようメリア。昨日はよく眠れたかい？」
「はい、おかげさまでぐっすりと。嫌な夢を見ることもなかったですし」
「それはよかった」

メリアの表情を見たフューゲルは、それはそれはうれしそうな表情を浮かべて見せる。
冷静な表情を浮かべる彼も、心の中ではメリアの事を心配していたのだろう。

「さぁ、それじゃあ朝食にしよう。昨晩は叶わなかったけれど、僕は君と一緒に食事をするのを心待ちにしていたんだ」
「そ、そんないいものでもありませんよ…？私別に話が面白いわけでもありませんし…」
「いいからいいから、一緒に食べよう」

やや苦笑いを浮かべるメリアをフューゲルは手で制すと、そのまま自身が運んできた朝食を彼女の部屋の机の上に並べていき、そのまま二人は一緒に食事の時に移ったのであった。

――――

一方、メリアを奪われてしまう形となった騎士の城は大いにあれていた…。

「なにしてるんですかクリフォード様！！みすみすメリア様を奪われてしまうだなんて！！」
「これじゃこの城は男だけのむさくるしい場所に逆戻りではありませんか！せっかく華のある女性がこの城にやってきてくれたというのに！！」

部下の者たちは非常に感情的になりながら、その思いを激しい口調で言葉にしていた。
一方、それらの騎士たちの事を冷静な様子でたしなめる人物が一人、いた。

「おいおい、今はおとなしくしてろ」
「リーベさん…」

クリフォードとは同期であり彼のよき理解者であるリーベは、ひとまず冷静になるよう部下の騎士たちに言って回っていた。

「この騎士の城は原則、女性の立ち入りを許していない。向こうはおそらくそのあたりを突いてきたのだろう。クリフォードが勝手なことをしている、と言いがかりをつけてな」
「無茶苦茶ですよそんなの！ここのボスはクリフォード様なのであって、クリフォード様がお決めになられたのならそれがこの城のルールではありませんか！」
「そうですよ！…これは間違いなく、クリフォード様とメリア様の恋路を邪魔しようとする相手方の策略に違いありません！！このままみすみす黙って引き下がれるはずがないですよ！」
「いいから落ち着け。当然クリフォードの奴だってこのままでいいとは思っていないだろう。しかし、かといってここでもめ事を起こすのはさらに事態を混乱させることとなりかねない。今は様子をうかがうしかないんだよ」
「し、しかし…！」
「リーベの言うとおりだとも」
「！？！？」

リーベと複数の部下たちが熱い言葉を交わしていたその場に、この一件の当事者であるクリフォードが姿を現した。

「メリアは必ずおれがここに連れ戻す。しかし今下手に動いたら、それこそ向こうの思うつぼだろう。奴はかなりの切れ者だ。慎重に動かなければならない」
「ったく。ただの学生だと思ったら手を噛まれるなこれは。まさかここまでやれる男だったとは…」
「あぁ、俺も同じ思いだ」

その将来を期待されたものとして、王宮に招かれるほどにまで頭角を現しているフューゲル。
当然その存在はクリフォードたちも知るところではあったものの、まさかここまで派手に動いてこようとは、さすがの彼らも想定外であった様子。

「はぁ…。メリアさんがいない騎士の城というのは寂しいものですよ…。みんなあんなにうきうきしながら毎日楽しそうにしていたのに…」
「確かにな…。あぁ、あの日常が戻ってくるのはいつになることか…」

リーベに言われた通り、怒りの感情をコントロールすることには成功した様子の部下たち。
しかし今度は寂しさの感情が沸き上がってきてしまったようで、彼らはどこかその語気を弱弱しいものにしながらそう言葉をつぶやいた。
すると、そんな部下たちの様子を見たリーベがこう言葉を返した。

「なんだ？お前たち知らないのか？ハイデル様が式典の場で言った言葉を」
「な、なんですか？」
「ハイデル様が作ったというルールによれば、彼との婚約を破棄された女性は今後誰とも婚約を果たせないというんだ」
「な、なんですかそれ！？」
「め、めちゃくちゃな…」
「めちゃくちゃ？本当にそうか？」
「「え？」」
「よく考えてみろ。新たに婚約できないというルールには、もちろんクリフォードやフューゲルも縛られることとなる。ということは、お前たちにもメリア様と結ばれるチャンスがあるという事だぞ？」
「「！！！！！！！！」」

…その瞬間、さきほどまで弱音を吐いていた騎士たちの目の色が変わり、一気に情熱的な熱気を醸し出し始める。

「おっと、これはついに俺の時代が来たかもしれないな…！！」
「待て待て、メリア様争奪戦には俺も手を上げさせてもらおうかな。文句を言われる筋合いはないんだろう？ほかでもないハイデル様のお墨付きなんだからな♪」
「おいリーベ、お前一体どういうつもりで…」
「おっと、私はなにも嘘は言っていないぞ？」
「ったく……」

クリフォードはやれやれといった表情を浮かべながら、色めき立ち始める部下たちの姿を横目に見つめるのであった。

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