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第25話
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フューゲルがメリアの手を取り、そそくさと式典会場を後にしていった時、会場はなかなかに混乱した空気に包まれていた。
「ちょっとどういうことよ!なんでもフューゲル様がメリアの事を連れて行ったわけ!!(将来的に彼が連れていくのは私だったはずなのに…!)」
「べ、別にいいじゃないかアリッサ…。メリアの事がどうなろうと構わないといっていたのは、他でもない君だろう?たぶんフューゲル君はクリフォードの事をけん制したかっただけで、メリアに対してなにか特別な思いを抱いているわけではないさ…」
「あら、随分と分かったような口を利くのね…。私の思いも知らないで…」
「思い…?」
「……」
ハイデルとアリッサは人目を気にすることもなく、変わらず口論を続けている。
そんな二人の様子をまじかで見て、貴族や王宮の関係者たちが快い思いを抱くはずもない。
「あ、あんまり大きな声じゃ言えないけど、本当に大丈夫なのかこの王宮…。今日はめでたい日のはずじゃなかったのか…?」
「ハイデル様とアリッサ様が婚約を発表してからというもの、こんなことばかり怒ってるよな…?こんなことが何度も何度も続いたら、婚約関係がまた破綻してしまうことだってありうるんじゃないか…?」
「勘弁してくれ…。二人の婚約式典に当たっては、我々貴族家から莫大なお祝い金を出したんだ…。我々の事を良きに取り計らってもらうお金はそこからねん出されるというのに、こんなにも早く婚約関係に暗雲が立ち込めるというのは貴族家全体にとって危機的だぞ…」
この式典、元はアリッサが機嫌を損ねたことから始まり、その機嫌を直すべくはい出るが計画したものであったものの、今やその影響は非常に大きなものとなっており、当初の目的はおろか王宮全体を巻き込むほどの問題になりつつあった。
このような危機的状況を肌で感じ、ハイデルはその心の中にある不安をつぶやく。
「(こ、これはまずい…。こんなにも第二王宮を混乱させてしまっているということはもしも、もしもシュラフ国王やエルク第一王子の耳に入ったら、いったいどんな目にあわされてしまうかわからない…。なんとしても、なんとしてもそれだけは阻止しなければ…)」
正直な彼の思いで言えば、アリッサとの関係やメリアとの関係が少々複雑なものになることなど、特に大きな問題ではなかった。
なによりも彼が心の中で恐れていたのは、自分が原因で第二王宮で大混乱が巻き起こっていることを国王や第一王子に勘づかれ、罰を与えられることだった。
「(二人は僕よりも数段頭の切れる人物…。だからこそ僕は今まで二人に媚びを売りまくって、ようやくこの王宮を任されるに至ったんだ…。それを、こんなくだらない痴話喧嘩のために失うわけには絶対に行かない…!)」
思い立ったハイデルの行動は早かった。
彼はいまだその場に立ち尽くしているクリフォードのもとにそそくさと向かうと、彼に向けてこう言葉を発した。
「クリフォード、少し話がある!」
「ハイデル様…。あいにく、俺は今非常に機嫌が悪いです。なにか頼み事をされるなら日を改められた方がいいかと思いますよ…?」
「そうはいかない!時間がないのだ!」
「…?」
ハイデルは意を決したような表情を浮かべた後、真剣なまなざしを向けながらこう言葉を発した。
「クリフォードよ、君はシュラフ国王やエルク第一王子とも懇意にしている仲だったな?」
「あぁ。よくお声をかけてもらっている」
「おそらく二人も君の事を心から信頼していることだろう、だからこそ君に頼みたい」
「なんだ?」
「…今、この王宮は非常に大きな混乱に包まれている。それはもう、今までになかったほどにな…。これはただの成り行きであるがゆえ、僕自身に落ち度はないと考えている。しかし、このことが国王や第一王子の耳に入ったなら、きっと二人は僕の事を第二王子の座から降ろすかもしれない…」
「かもしれないな」
「それは何としても防がなければならない!だから、君に頼みたい…!」
「俺に何をしろと?」
その時、ハイデルはやや周囲の様子を見まわし、自分がこれから発する言葉がクリフォード以外の人間の耳に入らないことを確認した後、小さな声でこう言葉を告げた。
「…この王宮の混乱は、すべてメリアによって引き起こされたのだということにしてほしい。二人には君の口からそう告げてほしい」
「……」
「無論、君にもメリットはある!この話に乗ってくれたなら、僕は直々に君とメリアとの婚約を認めようじゃないか!あの決定書もすべて破棄させてやる!君の願う通りに…!」
「……」
ハイデルの出した計画、それはクリフォードにとっては悪魔の契約と言えるものだった。
国王と第一王子に対してうそをつく代わりに、メリアを手に入れることができるというのだ。
「君にだって悪い話じゃない、僕にだって悪い話じゃない、お互いウィンウィンというものじゃないか!どうだ、やってくれないか?」
「……」
非常にうれしそうな表情で言葉を発するハイデルに対し、クリフォードは何も言葉を返すことはなく、静かに彼に背中を向け、その場から去っていった。
「(だめか……やはり、クリフォードにこの手の方法はきかないか…)」
うすうす、最初からこうなることを想像していたハイデル。
そこにがっかりしたような様子はなかったものの、そんな二人の姿を見て心の中にがげしい憎悪を抱く者が一人、いた。
「(どういうことですかハイデル様…!!!そのお役目はあなたに長年仕えてきた、この私の役目ではないのですか…!!!どうして私よりもクリフォードの方が先に……先に…!!!!!)」
「ちょっとどういうことよ!なんでもフューゲル様がメリアの事を連れて行ったわけ!!(将来的に彼が連れていくのは私だったはずなのに…!)」
「べ、別にいいじゃないかアリッサ…。メリアの事がどうなろうと構わないといっていたのは、他でもない君だろう?たぶんフューゲル君はクリフォードの事をけん制したかっただけで、メリアに対してなにか特別な思いを抱いているわけではないさ…」
「あら、随分と分かったような口を利くのね…。私の思いも知らないで…」
「思い…?」
「……」
ハイデルとアリッサは人目を気にすることもなく、変わらず口論を続けている。
そんな二人の様子をまじかで見て、貴族や王宮の関係者たちが快い思いを抱くはずもない。
「あ、あんまり大きな声じゃ言えないけど、本当に大丈夫なのかこの王宮…。今日はめでたい日のはずじゃなかったのか…?」
「ハイデル様とアリッサ様が婚約を発表してからというもの、こんなことばかり怒ってるよな…?こんなことが何度も何度も続いたら、婚約関係がまた破綻してしまうことだってありうるんじゃないか…?」
「勘弁してくれ…。二人の婚約式典に当たっては、我々貴族家から莫大なお祝い金を出したんだ…。我々の事を良きに取り計らってもらうお金はそこからねん出されるというのに、こんなにも早く婚約関係に暗雲が立ち込めるというのは貴族家全体にとって危機的だぞ…」
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このような危機的状況を肌で感じ、ハイデルはその心の中にある不安をつぶやく。
「(こ、これはまずい…。こんなにも第二王宮を混乱させてしまっているということはもしも、もしもシュラフ国王やエルク第一王子の耳に入ったら、いったいどんな目にあわされてしまうかわからない…。なんとしても、なんとしてもそれだけは阻止しなければ…)」
正直な彼の思いで言えば、アリッサとの関係やメリアとの関係が少々複雑なものになることなど、特に大きな問題ではなかった。
なによりも彼が心の中で恐れていたのは、自分が原因で第二王宮で大混乱が巻き起こっていることを国王や第一王子に勘づかれ、罰を与えられることだった。
「(二人は僕よりも数段頭の切れる人物…。だからこそ僕は今まで二人に媚びを売りまくって、ようやくこの王宮を任されるに至ったんだ…。それを、こんなくだらない痴話喧嘩のために失うわけには絶対に行かない…!)」
思い立ったハイデルの行動は早かった。
彼はいまだその場に立ち尽くしているクリフォードのもとにそそくさと向かうと、彼に向けてこう言葉を発した。
「クリフォード、少し話がある!」
「ハイデル様…。あいにく、俺は今非常に機嫌が悪いです。なにか頼み事をされるなら日を改められた方がいいかと思いますよ…?」
「そうはいかない!時間がないのだ!」
「…?」
ハイデルは意を決したような表情を浮かべた後、真剣なまなざしを向けながらこう言葉を発した。
「クリフォードよ、君はシュラフ国王やエルク第一王子とも懇意にしている仲だったな?」
「あぁ。よくお声をかけてもらっている」
「おそらく二人も君の事を心から信頼していることだろう、だからこそ君に頼みたい」
「なんだ?」
「…今、この王宮は非常に大きな混乱に包まれている。それはもう、今までになかったほどにな…。これはただの成り行きであるがゆえ、僕自身に落ち度はないと考えている。しかし、このことが国王や第一王子の耳に入ったなら、きっと二人は僕の事を第二王子の座から降ろすかもしれない…」
「かもしれないな」
「それは何としても防がなければならない!だから、君に頼みたい…!」
「俺に何をしろと?」
その時、ハイデルはやや周囲の様子を見まわし、自分がこれから発する言葉がクリフォード以外の人間の耳に入らないことを確認した後、小さな声でこう言葉を告げた。
「…この王宮の混乱は、すべてメリアによって引き起こされたのだということにしてほしい。二人には君の口からそう告げてほしい」
「……」
「無論、君にもメリットはある!この話に乗ってくれたなら、僕は直々に君とメリアとの婚約を認めようじゃないか!あの決定書もすべて破棄させてやる!君の願う通りに…!」
「……」
ハイデルの出した計画、それはクリフォードにとっては悪魔の契約と言えるものだった。
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「君にだって悪い話じゃない、僕にだって悪い話じゃない、お互いウィンウィンというものじゃないか!どうだ、やってくれないか?」
「……」
非常にうれしそうな表情で言葉を発するハイデルに対し、クリフォードは何も言葉を返すことはなく、静かに彼に背中を向け、その場から去っていった。
「(だめか……やはり、クリフォードにこの手の方法はきかないか…)」
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そこにがっかりしたような様子はなかったものの、そんな二人の姿を見て心の中にがげしい憎悪を抱く者が一人、いた。
「(どういうことですかハイデル様…!!!そのお役目はあなたに長年仕えてきた、この私の役目ではないのですか…!!!どうして私よりもクリフォードの方が先に……先に…!!!!!)」
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