私を追い出しても大丈夫だというのなら、どうぞそうなさってください

新野乃花(大舟)

文字の大きさ
上 下
23 / 66

第23話

しおりを挟む
クリフォードとフューゲルの二人はそろってハイデルの方に視線を移し、無言で彼の言葉を待った。
そんな二人に対し、ハイデルはやや低い口調でこう言葉を放った。

「王族の人間との婚約を破棄されたものは、その後誰とも婚約を果たしてはならないルールだ。それは相手がだれであろうとも関係はない」
「「っ!?」」

ハイデルの口から発せられたその言葉を聞き、二人はともに心から驚いたような表情を浮かべる。
…それもそのはず、勤勉で博識な二人からしても、そんなルールなどこれまで一度も聞いたことがないためだ。
ハイデルに対し、最初に抗議の声を上げたのはクリフォードの方だった。

「どういうことだハイデル第二王子!?そんなルールは聞いたことがないぞ!?」
「無論だ。このルールが成立したのはつい先日の事だからな」
「!?」

突然に告げられても到底理解しがたい内容のその言葉。
ハイデルはそこに一切のうしろめたさなど感じさせることなく、堂々とした口調でそう言って見せた。

「この私が直々に調印を行ったルールだ。ゆえにたとえお前たちが相手であろうとも例外ではない。このルールに縛られない者と言えば、私よりも上位の権限を持つ人物であるシュラフ国王か、エルク第一王子くらいだろう。まぁもっとも、その二人がメリアのために名乗りを上げることなど、ここが夢も中でもない限りはありえない事であろうが」
「「……」」

うっすらとした笑みを浮かべながらそう言葉を放つハイデルに対し、二人は互いに言葉をい淀んでいる様子。
そんな二人の姿を見てか、それまで自分の席に控えていたアリッサが席から立ち上がり、ハイデルに続く形で言葉を放った。

「もう十分でしょう二人とも。いい加減に目を覚ましなさい?メリアにどうたらしこまれたのかは知らないけれど、あなた方二人が言い争うほどの魅力を持つ女では決してないでしょう?ハイデル様がわざわざここまでしたのだから、その思いにきちんと答えてもらわないと困るわよ?」
「そうだぞ二人とも。君ら二人はこの私が直々に将来を期待している男たちなのだ。そんな二人が、まさかこんなろくでもない女を奪い合っているなど、恥ずかしくて他の者に話すこともできない。僕に対する忠誠心があるなら、僕のイメージが下がるようなことは避けてもらいたいものだ」

アリッサに背中を押されるような形でそう言葉を発したハイデルだったものの、その言葉は彼が期待した通りには働かず、むしろ二人の心を自分の元から遠ざけることとなっていることに彼自身は気づいていない様子…。

「(メリアの事をろくでもない女、などと…。騎士の長としては当然第二王子に絶対忠誠ではあるものの、こればかりは受け入れ難い言葉だな…)」
「(僕の未来に期待しているとのお言葉、もちろんうれしく思います。ですが、僕の未来はメリアの存在があってこそなのですよ、ハイデル様…)」

互いに心の中につぶやいた言葉、それは紛れもないメリアに対する思いのものであった。
その後、二人はハイデルに対して言葉を返すことはせず、二人だけの世界にその意識を向けていく…。
ここでも最初に言葉を発したのはクリフォードの方だった。

「いずれ必ず婚約はするものの、別にその形にこだわる必要はない。俺はいつまでもメリアの隣に立ち、ともに生きていくだけの事。フューゲル、そこにお前の席はない。いずれ開かれる婚約式典の場においては席を設けてやってもいいが、それまでは邪魔だ」
「おっと、それはこちらのセリフですね。すでに僕が描くの未来ページにはメリアの存在がはっきりと描かれているのです。むしろそこにいないのはクリフォード騎士長、あなたの方ですよ。僕は事を穏便に済ませたいので、あなたとこうして直接対峙することを望んではいません。ここは僕のために身を引いていただけるとありがたいのですが?」
「なんだ、言いたいことがあるなら言えばいいじゃないか。男は直接対峙してなんぼだろう。若いくせに達観してるんだな」
「それはお互い様かと思いますが…。まぁいいでしょう。それならこの書類を見てください」
「…??」

フューゲルはクリフォードに対してそう言うと、自身の懐から一枚の紙を取り出した。

「あなたがメリアを不当に監禁していることを認める正式な書類です」
「…どこでそんなものを?お前まさか…」
「なんですか?まるで僕がこざかしい事でもしているかのような表情ですね。でもこれはれっきとした公的な書類ですよ?ここにきちんと、第二王子夫人であらせられるアリッサ様の調印がありますからね」
「……」
「なっ!?!?」

フューゲルが資料を提示した相手はクリフォードであったが、その事実にもっとも驚きを見せていたのはアリッサであった。

「ちょっとフューゲル様!!それはメリアの事を糾弾するために依頼したものだって言ってたじゃない!」

アリッサはすぐにフューゲルに対して抗議の声を上げるものの、当のフューゲルは素知らぬ顔でこう言葉を返す。

「言ってませんよそんなことは一言も。勘違いされては困ります」
「い、言ってなくってもそうだって思うような態度をとってたじゃない!その書類を使ってメリア、ひいてはクリフォード様の事を攻撃するんだって!そうやって二人の間で私の事を奪い合うんだって!」
「ちょっと待てアリッサ!それはどういう事だ!僕は何も聞いていないぞ!」
「ハイデル様は黙っていてください!今私はフューゲル様と話をしているんです!」

もはやあまり周りが見えていない様子のアリッサ…。
ある意味でこの場は彼女を中心とし、状況はさらに混沌を極めていくこととなるのだった…。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

処理中です...