20 / 66
第20話
しおりを挟む
ハイデルは非常に言葉を選んでいるような様子を浮かべながら、クリフォードに対してこう言葉を発した。
「は、恥ずかしい話なのだが、実は最近アリッサが妙に機嫌を悪くしていてな…。僕は彼女を怒らせることなど何もしていないから全く心当たりはないんだが、どうにも召し使いや使用人、料理人に口うるさくあたっている様子なのだ…」
「はぁ」
「まったく、僕がわざわざ婚約者として選んでやったというのに、迷惑な話だとは思わないか?きっとなにか気に入らない事でもあったのだろうが、だからといって分かりやすく機嫌を悪くするなんてまるで子どもじゃないか…。それで彼女の評判が悪くなるだけなら自業自得だが、このままでは彼女を選んだ私の評判にまで火の粉が飛んできそうでな…。どうしたものかと考えあぐねていたんだよ」
ハイデルはその場で深いため息をつきながら、アリッサに対する愚痴をこぼしていく。
クリフォードはおとなしくその言葉を聞き、ハイデルの様子をうかがう。
「もちろん僕だってあの手この手を尽くしてはいるんだ。しかしそのどれもあまり効果を見せなくてな…。そんな時、あるアイディアが頭の中に思い浮かんだんだ。君の力を貸してもらえば、アリッサもその態度を改めるのではないか、と!」
「…俺にどうしろと?アリッサ様の機嫌を取れるような事など、俺にはなにもないことなどないかと思いますが…」
「そんなことはないぞ!アリッサは君の事をかなり気に入っている様子だから、君がこうして会いに来てくれただけでもかなりうれしく思っているはずだ!だからそれに加えて一つだけ、君にやってもらいたいことがあるんだ!」
「なんでしょう?」
クリフォードからの言葉に対し、ハイデルはその言葉を待っていましたとばかりにうれしそうな表情を浮かべると、こう言葉を返した。
「私が記念のメダルを授与した後、アリッサにこう言葉をかけてほしいんだ。「我々王宮騎士団は、ハイデル様から頂いたこの恩に報いるため、これまで以上にアリッサ様のためにこの身を捧げることを誓います」と!」
「……」
ハイデルの思惑をうすうすは察していたクリフォード、ならびにメリアは、やっぱりそうか、といった感情をその心の中に抱いた。
ハイデルのやりたいことは、言ってみれば出来レース。彼がメダルの授与を決め、クリフォードをこの場に呼び寄せたという手柄をアリッサにアピールし、自分の手柄を分かりやすく知らしめる。
そしてそれと同時に、ハイデルの思いに報いてアリッサのために尽くすという言葉を発することで、二重の意味で彼女を喜ばせるという算段だった。
「これも王宮の秩序を守るため。騎士ならばそれも仕事のうちだろう?やってくれるな?」
「はぁ…。まぁ構いませんよ。我々騎士は王宮のために尽くす、というのは何も嘘ではないのですから」
「よしよし!やってくれるか!ふぅ、これでひとまずは安心だ…。アリッサも損ねていた機嫌を元に戻してくれることだろう…!」
クリフォードから了承の返事をもらったハイデルは、それはそれは心から安心したような表情を浮かべていた。
するとその後、ハイデルは少し心が安心したからか、やや小さな声でこう言葉をもらした。
「いやぁ、ほんとにアリッサには困ったものだ…。まぁそれもこれもすべては、そこにいるメリアから始まった事ではあるわけだが…」
「おっと、うちのメリアに対して言いたいことがあるのなら、まずは俺に言っていただきましょうか?」
「わ、悪い悪い…。もう言わないとも…」
メリアに対してはあれほど強く当たっていたハイデルだったものの、クリフォードを前にしてしまっては、まるで親に叱られた子どものようにおとなしくなっていた。
「そうだ、ハイデル様。その代わりというわけではないのですが、式典会場では私に関するあることを発表させていただきたく思うのですが、よろしいですか?」
「あぁ、別に構わないとも。好きにするといい」
「そうですか、ありがとうございます」
「(大方、新しく騎士を目指したいものを募集するとかそういったことだろう…。それが王宮に不利益をもたらすものでもないし、別にそれくらいの事なら好きに言ってくれればいいさ)」
クリフォードからの申し出を、あまり深く考えることなくOKしたハイデル。
しかしクリフォードが式典の場で伝えようとしていることは、彼が想像しているものよりも100段は上を行くものであった…。
「(クリフォード様、出発前の時もそんなことを言っていたけれど、いったい何を言うつもりなんだろう…。たしかあの時は、ちょうどいいタイミングとか、良い機会だとか、そんなことを言っていた気がするけれど…)」
クリフォードが何を言おうとしているのかは、その後ろに控えるメリアも知らない事だった。
彼女もまたクリフォードの言葉をその心の中に予想していたものの、結局その心の中に正解となる言葉が浮かび上がることはなく、そしていよいよ3人はそのまま式典の時を迎えることとなるのだった…。
「は、恥ずかしい話なのだが、実は最近アリッサが妙に機嫌を悪くしていてな…。僕は彼女を怒らせることなど何もしていないから全く心当たりはないんだが、どうにも召し使いや使用人、料理人に口うるさくあたっている様子なのだ…」
「はぁ」
「まったく、僕がわざわざ婚約者として選んでやったというのに、迷惑な話だとは思わないか?きっとなにか気に入らない事でもあったのだろうが、だからといって分かりやすく機嫌を悪くするなんてまるで子どもじゃないか…。それで彼女の評判が悪くなるだけなら自業自得だが、このままでは彼女を選んだ私の評判にまで火の粉が飛んできそうでな…。どうしたものかと考えあぐねていたんだよ」
ハイデルはその場で深いため息をつきながら、アリッサに対する愚痴をこぼしていく。
クリフォードはおとなしくその言葉を聞き、ハイデルの様子をうかがう。
「もちろん僕だってあの手この手を尽くしてはいるんだ。しかしそのどれもあまり効果を見せなくてな…。そんな時、あるアイディアが頭の中に思い浮かんだんだ。君の力を貸してもらえば、アリッサもその態度を改めるのではないか、と!」
「…俺にどうしろと?アリッサ様の機嫌を取れるような事など、俺にはなにもないことなどないかと思いますが…」
「そんなことはないぞ!アリッサは君の事をかなり気に入っている様子だから、君がこうして会いに来てくれただけでもかなりうれしく思っているはずだ!だからそれに加えて一つだけ、君にやってもらいたいことがあるんだ!」
「なんでしょう?」
クリフォードからの言葉に対し、ハイデルはその言葉を待っていましたとばかりにうれしそうな表情を浮かべると、こう言葉を返した。
「私が記念のメダルを授与した後、アリッサにこう言葉をかけてほしいんだ。「我々王宮騎士団は、ハイデル様から頂いたこの恩に報いるため、これまで以上にアリッサ様のためにこの身を捧げることを誓います」と!」
「……」
ハイデルの思惑をうすうすは察していたクリフォード、ならびにメリアは、やっぱりそうか、といった感情をその心の中に抱いた。
ハイデルのやりたいことは、言ってみれば出来レース。彼がメダルの授与を決め、クリフォードをこの場に呼び寄せたという手柄をアリッサにアピールし、自分の手柄を分かりやすく知らしめる。
そしてそれと同時に、ハイデルの思いに報いてアリッサのために尽くすという言葉を発することで、二重の意味で彼女を喜ばせるという算段だった。
「これも王宮の秩序を守るため。騎士ならばそれも仕事のうちだろう?やってくれるな?」
「はぁ…。まぁ構いませんよ。我々騎士は王宮のために尽くす、というのは何も嘘ではないのですから」
「よしよし!やってくれるか!ふぅ、これでひとまずは安心だ…。アリッサも損ねていた機嫌を元に戻してくれることだろう…!」
クリフォードから了承の返事をもらったハイデルは、それはそれは心から安心したような表情を浮かべていた。
するとその後、ハイデルは少し心が安心したからか、やや小さな声でこう言葉をもらした。
「いやぁ、ほんとにアリッサには困ったものだ…。まぁそれもこれもすべては、そこにいるメリアから始まった事ではあるわけだが…」
「おっと、うちのメリアに対して言いたいことがあるのなら、まずは俺に言っていただきましょうか?」
「わ、悪い悪い…。もう言わないとも…」
メリアに対してはあれほど強く当たっていたハイデルだったものの、クリフォードを前にしてしまっては、まるで親に叱られた子どものようにおとなしくなっていた。
「そうだ、ハイデル様。その代わりというわけではないのですが、式典会場では私に関するあることを発表させていただきたく思うのですが、よろしいですか?」
「あぁ、別に構わないとも。好きにするといい」
「そうですか、ありがとうございます」
「(大方、新しく騎士を目指したいものを募集するとかそういったことだろう…。それが王宮に不利益をもたらすものでもないし、別にそれくらいの事なら好きに言ってくれればいいさ)」
クリフォードからの申し出を、あまり深く考えることなくOKしたハイデル。
しかしクリフォードが式典の場で伝えようとしていることは、彼が想像しているものよりも100段は上を行くものであった…。
「(クリフォード様、出発前の時もそんなことを言っていたけれど、いったい何を言うつもりなんだろう…。たしかあの時は、ちょうどいいタイミングとか、良い機会だとか、そんなことを言っていた気がするけれど…)」
クリフォードが何を言おうとしているのかは、その後ろに控えるメリアも知らない事だった。
彼女もまたクリフォードの言葉をその心の中に予想していたものの、結局その心の中に正解となる言葉が浮かび上がることはなく、そしていよいよ3人はそのまま式典の時を迎えることとなるのだった…。
532
お気に入りに追加
1,217
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
とある公爵令嬢の復讐劇~婚約破棄の代償は高いですよ?~
tartan321
恋愛
「王子様、婚約破棄するのですか?ええ、私は大丈夫ですよ。ですが……覚悟はできているんですね?」
私はちゃんと忠告しました。だから、悪くないもん!復讐します!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる