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第15話

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「ねぇ、あれってフューゲル様じゃない!!」
「ほんとだわ!!まだ学生なのにハイデル様から王宮に招かれるなんて、やっぱり将来を約束されたお方であるって噂は本当なのね!」

ある日の王宮、一人の人物の訪れに令嬢たちは大いにそれぞれの心を躍らせていた。
王国の中でもトップクラスの頭脳と、同時に由緒ある生まれを併せ持つ者のみが通うことを許される、王立レントリア学院。
彼女たちの前にたった今現れた人物は、そんなレントリア学院にてトップの成績と人気を併せ持つ、フューゲル・クロウである。

「でも彼がここに来られたってことは、今日は学院はお休みなのかしら…?」
「バカね、そんなわけないでしょ!でもフューゲル様だけは学院の中でも特別な扱いをされていて、今はもう学院長でさえ彼には逆らえないって話よ!」
「そ、そこまでだったんだ…!フューゲル様と同じ部屋で同じ空気を吸えるだなんて、今彼と一緒に学院に通えている子がうらやましいわぁ…」

様々な黄色い声援がいろいろな場所から沸き上がるものの、フューゲルはそれらの声にまったく興味を示してはいなかった。
むしろその表情は「またか…」とでも言いたげであり、この状況を彼自身が楽しんでいるような様子は全く感じられなかった。

フューゲルはそのままハイデルの待つ第二王室へと足を進めていき、面会の準備に移るのだった。

――――

「失礼します。フューゲル・クロウです」
「おお!来たか!さあ入れ入れ!」

ハイデルは上機嫌な様子でフューゲルの事を迎え入れ、彼が部屋の中に足を踏み入れるや否やこう言葉をかけた。

「よく来たよく来た!!君は今やこの王国の未来を背負う期待の男!ぜひ私も君と話をしてみたいと思ってね!」
「それはどうも」

非常に明るい口調で言葉をかけるハイデルだったものの、一方のフューゲルはどこかテンションが低めであった。

「なんだフューゲル君、もしかして私を前にして緊張してしまっているのか??はっはっは、君ほどの男であってもそうなることがあるのだな!」
「は、はぁ…」
「まぁそう固くなる必要はない!私はフランクに君と話がしたいだけなんだ!体の力を抜いてリラックスしてくれたまえ」

フューゲルの様子を自分なりに分析したハイデルは、彼に対してそう気遣いを見せた。
しかし今のフューゲルのテンションの低さは、ハイデルを前にしての緊張からきているものではないのだった。

「聞いたよ、この間のテストでも軽く歴代トップの成績をたたき出したそうじゃないか!」
「テストが簡単だっただけですよ」
「それどころか、剣を用いた模擬の剣術戦の学院内大会でも1位になったとか!」
「剣を振ったらたまたま当たっただけですよ」
「いやいや、君の将来には大いに可能性を感じずにはいられない!私はまるで自分の事のように体が興奮しているとも!」

ハイデルは分かりやすくその口調を荒げ、自身の思いをフューゲルに対してストレートに告げる。
しかしここでもフューゲルはあまりうれしそうな様子を見せないため、ハイデルはとっておきの隠し玉を繰り出すこととした。

「フューゲル君、これはこれまで誰にも言ったことのない、君にしか言わない言葉だ。よく聞いてほしい。君が学院を卒業した暁にはそのまま我が王宮に入り、私の元で私を支える仕事をしてはもらえないだろうか?」

それは、第二王子の口から直々に発せられたスカウトであった。

「(第二王子である私にここまで言わせたんだ…!いくら感情を表に出さないフューゲルであろうとも、その心の中では私への思いが大いにあふれてきているはず…!フューゲルを我が味方に引き入れ、その人気をそのまま私が手にすることができたなら、これほど私の立場が盤石になることはない!)さぁフューゲル君、ぜひ君の考えを聞かせてほしい!この王宮で人々のため、そして王のために働く!これ以上ない魅力ある話だとは思わないか!」

ハイデルは声高らかに誘いに念を押し、フューゲルからの返事に期待する。
しかし彼が返事を発する前に、何者かがこの部屋の扉にノックを行った。

コンコンコン
「な、なんだ…今私たちは大事な話をしている最中で…」
「失礼します」
「お、おいアリッサ!勝手に入って来ては困る!私は今フューゲル君と大事な話の最中で…」
「勝手なのはどっちですか!フューゲル様をここにお呼びしたのはこの私です!勝手ン話を進めないでください!」

二人の前に姿を現したのは他でもない、ハイデルの婚約者であるアリッサだ。
彼女はハイデルを前に非常にイライラした様子で、語気を荒々しくしながらこう言葉を続ける。

「フューゲル様の事を自分の方に取り込もうだなんて、やり方が汚いわ!それでも第二王子なの!?」
「話をしたいから話をして何が悪いというんだ!」
「ならもう話は終わったでしょう!さあ次は私の番です!フューゲル様、そのまま私の部屋までいらしてください!」
「お、おい何を勝手な…!」

ハイデルの言葉をアリッサが聞き入れるはずもなく、彼女はそのままフューゲルの腕をつかむと、自分の部屋の方向を目指して彼を強引に連れて行った。

「(ア、アリッサのやつ…。今度という今度は本当に…!!)」

ただ一人残された王室の中で、ハイデルは言葉にならない怒りをその心の中に沸騰させるのだった…。
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