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第10話
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「さあ、ついたぞ」
「ここって、もしかして…?」
派手に目立ちながら婚約式典の会場から立ち去った二人は、そのままある場所を目指して進み続けていた。
とはいっても、その道中はずっとメリアはクリフォードに抱きかかえられた状態であり続けたため、実質的に進んでいたのはクリフォードのみであった。
そしていよいよクリフォードが導く目的の場所にメリアは到着し、ようやく彼の腕の中からその体を開放されたのだった。
「もしかして、ここが騎士の城…?」
「ご名答。その通りだとも」
メリアの発した言葉に対し、クリフォードはどこかうれしそうな表情を見せながらそう言葉を返す。
「ここは騎士の城。王宮に仕え、王に任命された一流の騎士たちが集う場所。この国に生まれたものなら、ここを見てその目を輝かせない者などいないことだろう」
”城”というのはあくまで愛称であり、実際にこの場所は城の形をしているわけではない。
しかし多くの人々から憧れの存在として君臨していることに変わりはなく、そういった意味では”城”と形容されてもなんらおかしなことではなかった。
「…」
「…?」
しかし、多くの人々が憧れを持つこの場所でありながらも、メリアはどこか冷静な雰囲気を保っている。
そしてその直後、メリアは彼女らしい真剣な表情を浮かべながら、真面目な口調でこう言葉をつぶやく。
「騎士の城って、騎士以外の人間は立ち入りを禁止されているんじゃ…?ましてや私のような部外者が立ち入ることは、この城の存在意義を穢《けが》してしまいかねないかと思うのですけれど…」
…案内された者の言うべき事ではないのかもしれないが、メリアの言っていることはすべて事実であり、この場所は原則、騎士でないものは立ち入りを禁止されている。
ましてや騎士はその全員が男性であるため、女性であるメリアが立ち入ることは確かにそのルールに反するといっても過言ではなく、その言い分はもっともだった。
…しかしそんなメリアの言葉に、クリフォードはやれやれといった表情を浮かべながらこう答えた。
「は?俺はここの騎士長なんだぞ?そんな俺が気に入った相手なんだから、城に入れるのは俺の自由だろうが」
「……」
クリフォードは自身の顔をメリアの顔に近づけ、彼女の目を完全に自身の鋭い目で見据えながら、こう言葉を続ける。
「そもそも、お前そんなこと言える立場なのか?俺のものになる以外にいく当てがあるのか?俺のほかにお前を守れる男がいるとでもいうのか?」
二人は非常に近い距離にそれぞれの顔を置き、それは誰かがその背中を押したなら、たちまち互いの唇が重なってしまいそうなほど。
そんな距離からメリアの顔を見つめつつ、自信に満ちた表情でクリフォードは彼女にこう言葉を告げた。
「まぁ心配するなメリア。ここにいる限り、誰が何を言ってこようとも必ず俺がお前の事を守ってやるさ。例え相手がこの国の王子だろうとな」
クリフォードはそう言うと、自身の手をメリアの肩裏に回し、そのまま彼女の体を抱きしめる態勢を取り始める。
…しかしその時それと同時に、二人のもとに話を聞きつけた騎士たちが列をなして出現した。
「聞きましたよクリフォード様!ハイデル様に喧嘩を売ってきたらしいですね!」
「僕も遠くからこっそり見てました!なんかお姫様を敵から助けるヒーローみたいでしたねぇ。まぁクリフォード様が本当にヒーローなのかどうかは別問題ですけど…」
「あの後会場は大騒ぎになってましたよ。…中でも女性陣の慌てっぷりはすごかったです。あんな光景は今まで見たことがないです…」
彼らにとってクリフォードの行いはよほど強烈であったのか、それぞれが思ったことをそのまま口にし、彼への畏怖《いふ》の念を誇張なしに表した。
しかしそんな中で一人、どこか冷静な雰囲気を醸し出す騎士がいた。
「まったく…。クリフォード、お前はいつもいつもそうやって周りの事を考えずに無鉄砲に…。自分が何をしたか分かっているのか?」
この場で唯一クリフォードにため口で言葉を発したその騎士の名は、クリフォードとは同い年であり同期にあたるリーベ。
クリフォードの後輩騎士たちが色めき立つ中で、彼のみが冷静にこの現状を分析していた。
「なんだリーベ、文句があるのか?」
「文句というわけではないが、こういうのにはきちんとしたやり方というものが…。まぁいい…。お前にこれ以上言ってもなにも変わりはしないだろうからな…」
「よくわかってるじゃないか、さすがはこの俺が認めた戦友よ」
「やれやれ……」
リーベは自身の眼鏡をクイっと手で整えると、それまでクリフォードに向けていた視線をメリアの方に移し、そのまま彼女に対してこうあいさつを行った。
「こんなろくでもない場所ではありますが、どうぞゆっくりしていってください。…とは言っても、騒がしい連中ばかりですのでなかなか気が休まることはないかと思いますが…」
フォードはそう言葉を発しつつ、周囲の騎士たちの事を見ながら苦笑いを浮かべてみせた。
それは、メリアにとって今後の人生が大きく変わる出来事の序章に過ぎなかった。
「ここって、もしかして…?」
派手に目立ちながら婚約式典の会場から立ち去った二人は、そのままある場所を目指して進み続けていた。
とはいっても、その道中はずっとメリアはクリフォードに抱きかかえられた状態であり続けたため、実質的に進んでいたのはクリフォードのみであった。
そしていよいよクリフォードが導く目的の場所にメリアは到着し、ようやく彼の腕の中からその体を開放されたのだった。
「もしかして、ここが騎士の城…?」
「ご名答。その通りだとも」
メリアの発した言葉に対し、クリフォードはどこかうれしそうな表情を見せながらそう言葉を返す。
「ここは騎士の城。王宮に仕え、王に任命された一流の騎士たちが集う場所。この国に生まれたものなら、ここを見てその目を輝かせない者などいないことだろう」
”城”というのはあくまで愛称であり、実際にこの場所は城の形をしているわけではない。
しかし多くの人々から憧れの存在として君臨していることに変わりはなく、そういった意味では”城”と形容されてもなんらおかしなことではなかった。
「…」
「…?」
しかし、多くの人々が憧れを持つこの場所でありながらも、メリアはどこか冷静な雰囲気を保っている。
そしてその直後、メリアは彼女らしい真剣な表情を浮かべながら、真面目な口調でこう言葉をつぶやく。
「騎士の城って、騎士以外の人間は立ち入りを禁止されているんじゃ…?ましてや私のような部外者が立ち入ることは、この城の存在意義を穢《けが》してしまいかねないかと思うのですけれど…」
…案内された者の言うべき事ではないのかもしれないが、メリアの言っていることはすべて事実であり、この場所は原則、騎士でないものは立ち入りを禁止されている。
ましてや騎士はその全員が男性であるため、女性であるメリアが立ち入ることは確かにそのルールに反するといっても過言ではなく、その言い分はもっともだった。
…しかしそんなメリアの言葉に、クリフォードはやれやれといった表情を浮かべながらこう答えた。
「は?俺はここの騎士長なんだぞ?そんな俺が気に入った相手なんだから、城に入れるのは俺の自由だろうが」
「……」
クリフォードは自身の顔をメリアの顔に近づけ、彼女の目を完全に自身の鋭い目で見据えながら、こう言葉を続ける。
「そもそも、お前そんなこと言える立場なのか?俺のものになる以外にいく当てがあるのか?俺のほかにお前を守れる男がいるとでもいうのか?」
二人は非常に近い距離にそれぞれの顔を置き、それは誰かがその背中を押したなら、たちまち互いの唇が重なってしまいそうなほど。
そんな距離からメリアの顔を見つめつつ、自信に満ちた表情でクリフォードは彼女にこう言葉を告げた。
「まぁ心配するなメリア。ここにいる限り、誰が何を言ってこようとも必ず俺がお前の事を守ってやるさ。例え相手がこの国の王子だろうとな」
クリフォードはそう言うと、自身の手をメリアの肩裏に回し、そのまま彼女の体を抱きしめる態勢を取り始める。
…しかしその時それと同時に、二人のもとに話を聞きつけた騎士たちが列をなして出現した。
「聞きましたよクリフォード様!ハイデル様に喧嘩を売ってきたらしいですね!」
「僕も遠くからこっそり見てました!なんかお姫様を敵から助けるヒーローみたいでしたねぇ。まぁクリフォード様が本当にヒーローなのかどうかは別問題ですけど…」
「あの後会場は大騒ぎになってましたよ。…中でも女性陣の慌てっぷりはすごかったです。あんな光景は今まで見たことがないです…」
彼らにとってクリフォードの行いはよほど強烈であったのか、それぞれが思ったことをそのまま口にし、彼への畏怖《いふ》の念を誇張なしに表した。
しかしそんな中で一人、どこか冷静な雰囲気を醸し出す騎士がいた。
「まったく…。クリフォード、お前はいつもいつもそうやって周りの事を考えずに無鉄砲に…。自分が何をしたか分かっているのか?」
この場で唯一クリフォードにため口で言葉を発したその騎士の名は、クリフォードとは同い年であり同期にあたるリーベ。
クリフォードの後輩騎士たちが色めき立つ中で、彼のみが冷静にこの現状を分析していた。
「なんだリーベ、文句があるのか?」
「文句というわけではないが、こういうのにはきちんとしたやり方というものが…。まぁいい…。お前にこれ以上言ってもなにも変わりはしないだろうからな…」
「よくわかってるじゃないか、さすがはこの俺が認めた戦友よ」
「やれやれ……」
リーベは自身の眼鏡をクイっと手で整えると、それまでクリフォードに向けていた視線をメリアの方に移し、そのまま彼女に対してこうあいさつを行った。
「こんなろくでもない場所ではありますが、どうぞゆっくりしていってください。…とは言っても、騒がしい連中ばかりですのでなかなか気が休まることはないかと思いますが…」
フォードはそう言葉を発しつつ、周囲の騎士たちの事を見ながら苦笑いを浮かべてみせた。
それは、メリアにとって今後の人生が大きく変わる出来事の序章に過ぎなかった。
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