7 / 66
第7話
しおりを挟む
会場の注目がハイデルたちに向けられ、式典の流れを完全にその手に支配した彼は、ついに言いたくて仕方がなかったことを口にした。
「さて。僕がアリッサとの未来を選ぶこととしたという事は、必然的に一人の女がその座を追われることとなるわけだが…。今日そいつは来てくれているかな?」
ある意味、こうしてメリアの事をつるし上げて辱めるために開かれたこの式典。
ハイデルはもちろんの事、その隣に立つアリッサもまた非常に心地よさそうな表情を浮かべていた。
「その女は……名前は何と言ったかな?確かメリアとか言ったか?僕の婚約者として選ばれたところまではよかったものの、その事に浮かれて自分勝手なふるまいを繰り返し、最終的に僕からの愛想を尽かされれることになったのは」
「私もお噂は聞いたことがありますよ、ハイデル様。この王宮にはこれまでいろんな性格女性たちが出入りしてきたものの、その中でも群を抜いて性格の悪い女だったとか…」
「まったくだ。君が現れてくれたおかげでメリアを追い出すことが叶い、本当にうれしく思っているよ」
二人は意気揚々とした口調でそう言葉を発し、メリアに対する攻撃に快感を感じながらその機嫌をさらにいいものとしていく。
…その一方で、参加した人々はメリアに対してどこか同情的な感情を抱いていた。
「またはじまったよ…。気に入らない相手をつるし上げてひたすら嫌味を言いまくる、ハイデル様のお得意の芸が…」
「前もあったよな、これ…。あの時は婚約者ではなかったが、確か食事をおいしく作れなかった女性シェフに対してだったか?あれも言いがかりだったよなぁ…」
「仕方ないさ…。ここで第二王子の言葉に反論でもしたら、今度は反論した奴がつるし上げられることになるんだからな…。黙っているのが正解だ」
ハイデルに対し小さな声で苦言を呈し、メリアに対して同情的な言葉を発する。
そうしているのは彼らだけではなく、他にも多くの者たちがそのような思いを抱いていた。
そしてその後もハイデルたちの言葉は続き…。
「みなさん、どう思われますか?僕の期待に応えず、身勝手なふるまいを繰り返したメリアの事、許すことなどできませんよね?」
「その通りですハイデル様!私もハイデル様のお考えに同意です!悪しきことをした人間には、きちんとそれにふさわしいだけの罰を与えなければなりません!」
「君もそう思うかアリッサ。うーむ、僕は実は寛大であるから、彼女がきちんと反省さえしているのなら許してやってもいいかと思っていたが…。しかし君がそう言うのなら仕方がない、やはりメリアを許すことはやめにしよう」
「まぁ、なんだか悪いことをしてしまったみたい!ごめんなさいねメリア!」
茶番ともいえる言葉を互いに繰り出し、非常に楽し気な表情を浮かべて見せる二人。
そこにはそれぞれの意図があり、ハイデルはアリッサの言う事だから仕方なく聞き入れるという姿勢を見せることで、アリッサの影響力の強さを周囲に知らしめることと、あえて一度許すかのような雰囲気を見せておいて突き落とすことで、メリアへのダメージをより強いものに感じさせてやろうという意図があった。
「さて、それではこの場でメリアに対する罪を通告してやろう。メリア、会場の中央まで足を進めよ」
ハイデルの発した言葉を聞き、それまで会場の隅いたメリアは素直にその言葉に従って会場中央にその姿を現した。
…多くの人々がメリアに対して憐みの視線を向ける中、ハイデルはそんな会場の雰囲気など意に介さず、自分のペースで言葉を続ける。
「メリア、今日は僕とアリッサがめでたく婚約関係となった記念の日なのだ。そんな美しい日にあって、わざわざお前を罰することに時間を割かせたこと、重ねて罪を感じよ」
「……」
「僕は心から君に期待し、君ならば僕の心を満足させてくれるだろうと信じていたのだ。…しかしふたを開けてみれば、君は他の男との関係をもって僕を裏切る始末…。それは僕の信頼できる人間からもたらされた確定的な情報であるというのに、君はその事を最後まで認めず、悪あがきを続けて反省を見せることもなかった。罰せられて当然の行いだな?」
「……」
もはやハイデルに手を差し伸べることは諦めたメリアは、何も言葉にすることはなくただただ静かにその言葉を聞き入れていた。
そんなメリアの態度にアリッサはどこかイライラを隠せない様子であったものの、それも所詮はメリアの強がりなのだろうと思うこととし、自分への評価が下がることも恐れてかこの場で彼女への追撃を行うことはしなかった。
そして最後、ハイデルはメリアに対して罰の内容を告知しにかかる。
「メリア、お前は第二王子の権限を持って、この国からの永久追放を」
「お待ちください、ハイデル様」
「「!?」」
…その時、それまで会場からは聞こえてこなかった声が会場にこだました。
ハイデルの言葉を途中で遮るような怖いもの知らずの存在に心当たりがない観衆たちは、その胸を詰まらせて絶句する…。
そしてそれはハイデルとアリッサもまた同じであり、二人は見たことのないほどその表情をこわばらせ、声の主は一体だれかとその視線を一斉に動かす。
そして一瞬の間を置いたのち、参加者の一人の貴族令嬢が小さな声でこうつぶやいた。
「ク、クリフォード騎士長様!?!?」
「さて。僕がアリッサとの未来を選ぶこととしたという事は、必然的に一人の女がその座を追われることとなるわけだが…。今日そいつは来てくれているかな?」
ある意味、こうしてメリアの事をつるし上げて辱めるために開かれたこの式典。
ハイデルはもちろんの事、その隣に立つアリッサもまた非常に心地よさそうな表情を浮かべていた。
「その女は……名前は何と言ったかな?確かメリアとか言ったか?僕の婚約者として選ばれたところまではよかったものの、その事に浮かれて自分勝手なふるまいを繰り返し、最終的に僕からの愛想を尽かされれることになったのは」
「私もお噂は聞いたことがありますよ、ハイデル様。この王宮にはこれまでいろんな性格女性たちが出入りしてきたものの、その中でも群を抜いて性格の悪い女だったとか…」
「まったくだ。君が現れてくれたおかげでメリアを追い出すことが叶い、本当にうれしく思っているよ」
二人は意気揚々とした口調でそう言葉を発し、メリアに対する攻撃に快感を感じながらその機嫌をさらにいいものとしていく。
…その一方で、参加した人々はメリアに対してどこか同情的な感情を抱いていた。
「またはじまったよ…。気に入らない相手をつるし上げてひたすら嫌味を言いまくる、ハイデル様のお得意の芸が…」
「前もあったよな、これ…。あの時は婚約者ではなかったが、確か食事をおいしく作れなかった女性シェフに対してだったか?あれも言いがかりだったよなぁ…」
「仕方ないさ…。ここで第二王子の言葉に反論でもしたら、今度は反論した奴がつるし上げられることになるんだからな…。黙っているのが正解だ」
ハイデルに対し小さな声で苦言を呈し、メリアに対して同情的な言葉を発する。
そうしているのは彼らだけではなく、他にも多くの者たちがそのような思いを抱いていた。
そしてその後もハイデルたちの言葉は続き…。
「みなさん、どう思われますか?僕の期待に応えず、身勝手なふるまいを繰り返したメリアの事、許すことなどできませんよね?」
「その通りですハイデル様!私もハイデル様のお考えに同意です!悪しきことをした人間には、きちんとそれにふさわしいだけの罰を与えなければなりません!」
「君もそう思うかアリッサ。うーむ、僕は実は寛大であるから、彼女がきちんと反省さえしているのなら許してやってもいいかと思っていたが…。しかし君がそう言うのなら仕方がない、やはりメリアを許すことはやめにしよう」
「まぁ、なんだか悪いことをしてしまったみたい!ごめんなさいねメリア!」
茶番ともいえる言葉を互いに繰り出し、非常に楽し気な表情を浮かべて見せる二人。
そこにはそれぞれの意図があり、ハイデルはアリッサの言う事だから仕方なく聞き入れるという姿勢を見せることで、アリッサの影響力の強さを周囲に知らしめることと、あえて一度許すかのような雰囲気を見せておいて突き落とすことで、メリアへのダメージをより強いものに感じさせてやろうという意図があった。
「さて、それではこの場でメリアに対する罪を通告してやろう。メリア、会場の中央まで足を進めよ」
ハイデルの発した言葉を聞き、それまで会場の隅いたメリアは素直にその言葉に従って会場中央にその姿を現した。
…多くの人々がメリアに対して憐みの視線を向ける中、ハイデルはそんな会場の雰囲気など意に介さず、自分のペースで言葉を続ける。
「メリア、今日は僕とアリッサがめでたく婚約関係となった記念の日なのだ。そんな美しい日にあって、わざわざお前を罰することに時間を割かせたこと、重ねて罪を感じよ」
「……」
「僕は心から君に期待し、君ならば僕の心を満足させてくれるだろうと信じていたのだ。…しかしふたを開けてみれば、君は他の男との関係をもって僕を裏切る始末…。それは僕の信頼できる人間からもたらされた確定的な情報であるというのに、君はその事を最後まで認めず、悪あがきを続けて反省を見せることもなかった。罰せられて当然の行いだな?」
「……」
もはやハイデルに手を差し伸べることは諦めたメリアは、何も言葉にすることはなくただただ静かにその言葉を聞き入れていた。
そんなメリアの態度にアリッサはどこかイライラを隠せない様子であったものの、それも所詮はメリアの強がりなのだろうと思うこととし、自分への評価が下がることも恐れてかこの場で彼女への追撃を行うことはしなかった。
そして最後、ハイデルはメリアに対して罰の内容を告知しにかかる。
「メリア、お前は第二王子の権限を持って、この国からの永久追放を」
「お待ちください、ハイデル様」
「「!?」」
…その時、それまで会場からは聞こえてこなかった声が会場にこだました。
ハイデルの言葉を途中で遮るような怖いもの知らずの存在に心当たりがない観衆たちは、その胸を詰まらせて絶句する…。
そしてそれはハイデルとアリッサもまた同じであり、二人は見たことのないほどその表情をこわばらせ、声の主は一体だれかとその視線を一斉に動かす。
そして一瞬の間を置いたのち、参加者の一人の貴族令嬢が小さな声でこうつぶやいた。
「ク、クリフォード騎士長様!?!?」
572
お気に入りに追加
1,217
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
とある公爵令嬢の復讐劇~婚約破棄の代償は高いですよ?~
tartan321
恋愛
「王子様、婚約破棄するのですか?ええ、私は大丈夫ですよ。ですが……覚悟はできているんですね?」
私はちゃんと忠告しました。だから、悪くないもん!復讐します!
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる