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第5話
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貴族男性たちの元を離れ、キョロキョロと周囲を見回しながら、ある人物を探して歩き回るタイラント。
そんなタイラントが向かった先、それはどういうわけかこの婚約式典に招待された一人の女性の元だった。
「こんにちは。お久しぶりですね」
「タイラントさん、どうも…」
タイラントの向かった先は、会場の中でただ孤独に一人たたずむ、メリアがいる場所であった。
彼は普段と変わらぬ嫌味たらしい表情を浮かべながら、メリアに対してこう言葉を発した。
「いやぁ、それにしても驚きました。まさかあなたがあんな風にして婚約を破棄されてしまうことになるとは♪」
「…なんだかうれしそうですね。この婚約破棄、あなたも何か関わっていたんですか?」
「いえいえ、そんなことは。ただ私は、ハイデル様にアドバイスを進呈させていただいただけの事ですよ」
「…アドバイス?」
タイラントの発した意味深な言葉に、メリアはやや怪訝《けげん》な表情を浮かべる。
それに対しタイラントは、どこか面白くてたまらないといった表情を浮かべながら、上機嫌な口調でこう言葉を返した。
「なぁに、単純な事ですよ。メリア様にはほかに男がいる可能性があるから、このあたりで婚約関係は切り上げてしまった方がよろしいのではないですか、とお伝えしただけの事ですよ」
「私に男??なんのことですか??」
「さぁ??それを本気にされたという事は、ハイデル様にはなにか心当たりがあったのではないですかねぇ?」
ニヤニヤとした表情を浮かべながら、挑発的な口調でそう言葉を放つタイラント。
メリアは彼の言っていることが全く理解できず、ただただその頭上に疑問符を浮かべていた。
それもそのはず、タイラントの言ったメリアに音がいるという言葉に、彼女自身全く心当たりがないためである。
「私にはハイデル様以外に男性なんていませんでしたけど?そんなでっち上げを行って私を婚約破棄に追いこんで、一体どういうおつもりですか?」
「別にいいじゃないですか、少しくらい嘘をついたって。この世に100のうち100の真実なんてありはしないでしょ?100の中に多少の嘘が混じったって何が悪いんですか?世の中それで回っているんだから、文句を言われる筋合いなんてないじゃないですか」
「…何がおっしゃりたいのですか?」
「そうですね…。まぁこの際ですからはっきりと申し上げるなら、あなたがハイデル様の隣にいると、私は面白くないんですよ。だってあなた、どれだけ賄賂《わいろ》を積まれても考えを変えることがないでしょう?裏取引に応じることもないでしょう?偽善ぶってまっとうな妃を演じたいのはよーくわかりますが、そんなものはあなたの自己満足にすぎないのですよ。王宮で働く私の仲間が欲しているのは、自分の言いなりになってくれる都合のいい女だけですから♪」
「……」
メリアを前にして、ほんの少しの本音をひけらかしたタイラント。
彼女がハイデルから突然の婚約破棄を告げられることになってしまったことの要因の一つには、彼の存在があったことが本人の口から明らかにされた。
「そんなことをして、何が楽しいのですか?私を婚約破棄で追い出して、それがなにになると?」
「分からない女だねぇ…。例えば、妃になったあなたに私が『あの貴族が気に入らないから消してくれ』と頼んだとしますよね。あなたそれに応じてくれますか?応じてくれないでしょう?『私を第二王子に仕える臣下の中でもっとも高い位にしてくれ』と頼んだとして、あなた応じてくれますか?くれないでしょ?そんなの私はなにも面白くもないじゃないですか」
「……それじゃあ、アリッサはそれに応じたと?」
「無論ですとも。彼女はあなたの数百倍は賢明でしたよ?ハイデル様と距離が近い私との関係は、良いものにしておいた方が違いないときちんと理解されていました。私とてその方がやりがいも感じ、楽しく仕事が行えるというもの。そうでしょう?」
「……」
自分がどれだけまずいことをしているのかなど、全く理解していない様子のタイラント。
かけらも救いのない性格をしているそんな彼の事であっても、メリアは真摯に向き合おうと思い続けていたのであったが、結局まじめな彼女の思いが実を結ぶことはなく、彼女のまっすぐな思いは結局、一方的な婚約破棄を通告されるきっかけを作ったに過ぎなかった。
「おっと、そろそろ準備の時間か…。私はこれで失礼しますので、後はどうぞご自由に。…まぁもっとも、未来の妃ではなくなり、何の存在価値も持たなくなったあなたが自由になったところで、拾ってくれる人も、温かい言葉をかけてくれる人も、誰もなんにもいないのでしょうけれどね♪」
タイラントはそう言葉を発しながら、自身の手をひらひらと振りつつ、メリアに対して別れの言葉を吐き捨てていった。
その場にひとりポツンと残される形となったメリアは、その心の中で今の正直な心境を言葉にし、つぶやいた。
「(これだけろくでもない人がわんさといるこの王宮…。今までは私がなんとかバランスを維持してきたけれど、もう疲れちゃったな…。私がいなくても王宮は大丈夫だって彼らは言うんだし、それならもう彼らに任せちゃった方がいいよね。邪魔者はさっさと退散しちゃおっかな…)」
メリアが心の中につぶやいたその言葉。
それは、王宮破滅の瞬間までのカウントダウンがいよいよ始まってしまったことを意味していた。
しかしハイデルをはじめ、王宮幹部の中でその事に気づく人間は誰一人いないのであった…。
そんなタイラントが向かった先、それはどういうわけかこの婚約式典に招待された一人の女性の元だった。
「こんにちは。お久しぶりですね」
「タイラントさん、どうも…」
タイラントの向かった先は、会場の中でただ孤独に一人たたずむ、メリアがいる場所であった。
彼は普段と変わらぬ嫌味たらしい表情を浮かべながら、メリアに対してこう言葉を発した。
「いやぁ、それにしても驚きました。まさかあなたがあんな風にして婚約を破棄されてしまうことになるとは♪」
「…なんだかうれしそうですね。この婚約破棄、あなたも何か関わっていたんですか?」
「いえいえ、そんなことは。ただ私は、ハイデル様にアドバイスを進呈させていただいただけの事ですよ」
「…アドバイス?」
タイラントの発した意味深な言葉に、メリアはやや怪訝《けげん》な表情を浮かべる。
それに対しタイラントは、どこか面白くてたまらないといった表情を浮かべながら、上機嫌な口調でこう言葉を返した。
「なぁに、単純な事ですよ。メリア様にはほかに男がいる可能性があるから、このあたりで婚約関係は切り上げてしまった方がよろしいのではないですか、とお伝えしただけの事ですよ」
「私に男??なんのことですか??」
「さぁ??それを本気にされたという事は、ハイデル様にはなにか心当たりがあったのではないですかねぇ?」
ニヤニヤとした表情を浮かべながら、挑発的な口調でそう言葉を放つタイラント。
メリアは彼の言っていることが全く理解できず、ただただその頭上に疑問符を浮かべていた。
それもそのはず、タイラントの言ったメリアに音がいるという言葉に、彼女自身全く心当たりがないためである。
「私にはハイデル様以外に男性なんていませんでしたけど?そんなでっち上げを行って私を婚約破棄に追いこんで、一体どういうおつもりですか?」
「別にいいじゃないですか、少しくらい嘘をついたって。この世に100のうち100の真実なんてありはしないでしょ?100の中に多少の嘘が混じったって何が悪いんですか?世の中それで回っているんだから、文句を言われる筋合いなんてないじゃないですか」
「…何がおっしゃりたいのですか?」
「そうですね…。まぁこの際ですからはっきりと申し上げるなら、あなたがハイデル様の隣にいると、私は面白くないんですよ。だってあなた、どれだけ賄賂《わいろ》を積まれても考えを変えることがないでしょう?裏取引に応じることもないでしょう?偽善ぶってまっとうな妃を演じたいのはよーくわかりますが、そんなものはあなたの自己満足にすぎないのですよ。王宮で働く私の仲間が欲しているのは、自分の言いなりになってくれる都合のいい女だけですから♪」
「……」
メリアを前にして、ほんの少しの本音をひけらかしたタイラント。
彼女がハイデルから突然の婚約破棄を告げられることになってしまったことの要因の一つには、彼の存在があったことが本人の口から明らかにされた。
「そんなことをして、何が楽しいのですか?私を婚約破棄で追い出して、それがなにになると?」
「分からない女だねぇ…。例えば、妃になったあなたに私が『あの貴族が気に入らないから消してくれ』と頼んだとしますよね。あなたそれに応じてくれますか?応じてくれないでしょう?『私を第二王子に仕える臣下の中でもっとも高い位にしてくれ』と頼んだとして、あなた応じてくれますか?くれないでしょ?そんなの私はなにも面白くもないじゃないですか」
「……それじゃあ、アリッサはそれに応じたと?」
「無論ですとも。彼女はあなたの数百倍は賢明でしたよ?ハイデル様と距離が近い私との関係は、良いものにしておいた方が違いないときちんと理解されていました。私とてその方がやりがいも感じ、楽しく仕事が行えるというもの。そうでしょう?」
「……」
自分がどれだけまずいことをしているのかなど、全く理解していない様子のタイラント。
かけらも救いのない性格をしているそんな彼の事であっても、メリアは真摯に向き合おうと思い続けていたのであったが、結局まじめな彼女の思いが実を結ぶことはなく、彼女のまっすぐな思いは結局、一方的な婚約破棄を通告されるきっかけを作ったに過ぎなかった。
「おっと、そろそろ準備の時間か…。私はこれで失礼しますので、後はどうぞご自由に。…まぁもっとも、未来の妃ではなくなり、何の存在価値も持たなくなったあなたが自由になったところで、拾ってくれる人も、温かい言葉をかけてくれる人も、誰もなんにもいないのでしょうけれどね♪」
タイラントはそう言葉を発しながら、自身の手をひらひらと振りつつ、メリアに対して別れの言葉を吐き捨てていった。
その場にひとりポツンと残される形となったメリアは、その心の中で今の正直な心境を言葉にし、つぶやいた。
「(これだけろくでもない人がわんさといるこの王宮…。今までは私がなんとかバランスを維持してきたけれど、もう疲れちゃったな…。私がいなくても王宮は大丈夫だって彼らは言うんだし、それならもう彼らに任せちゃった方がいいよね。邪魔者はさっさと退散しちゃおっかな…)」
メリアが心の中につぶやいたその言葉。
それは、王宮破滅の瞬間までのカウントダウンがいよいよ始まってしまったことを意味していた。
しかしハイデルをはじめ、王宮幹部の中でその事に気づく人間は誰一人いないのであった…。
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