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第3話
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ハイデル第二王子がメリアとの婚約を切り捨て、新たにアリッサを自分の婚約者に置いたその日、気の早いハイデルは、その事実を王宮に住まう全員に向けて発信しようという計画を思いついた。
「どうだいアリッサ?みんなに向けて僕たちの愛の深さを見せつけるんだ。メリアの時はそんな大掛かりの式典なんてなにも開かなかったから、皆の注目を集められることは間違いない!」
「まぁ!私すっごくうれしいわ!ハイデル様が私の事をそこまで思ってくれているなんて!」
ハイデルからの言葉を聞き、アリッサもまたその表情を一段と明るくする。
派手なことが好きな彼女にとって、自らの立場の強さを王宮中の人間にアピールするということは快感でしかなかったのだろう。
「ただ僕たちの婚約を祝う、それだけじゃないぞ?その場にはサプライズとして、あえてメリアを呼んでやろうと思う」
「えぇ…。どうしてあんな女をわざわざ呼ぶの?むしろ一人だけほったらかしにして傷を与えるくらいがちょうどいいでしょ」
「それは逆だとは思わないか?」
「逆?」
疑問符をその頭上に浮かべるアリッサに対し、ハイデルは得意げな表情を浮かべながら言葉を続ける。
「自らが一方的に切り捨てられてしまった婚約など、一刻も早くその記憶から消し去ってしまいたくて仕方がないことだろう。しかしそこであえて彼女を式典に招待するとどうなる?忘れたくて仕方がない思い出を強制的にあぶりだされることとなり、その心はより一層ダメージを受けてしまうとは思わないか?」
「…!!!」
ハイデルの説明を聞いたアリッサは、それはそれは愉悦に満ちた表情を浮かべて見せる。
「そんな手があっただなんて…!確かに、式典から締め出してしまうよりも逆にあえて呼んであげる方が彼女にとっては嫌に決まってるわね…!しかもその相手が、この世に生まれた女性なら絶対にあこがれを持つハイデル第二王子…!自分はこんなにも素晴らしい方との婚約を逃してしまったのだという後悔は、とてつもないものがあるでしょうね…!」
「だろう?よし決まりだ!式典には第二王子命令でメリアを強制出席させることとする!」
「素晴らしい式典になること、間違いなしね!今から楽しみで仕方ないわ!」
二人はそろってうっきうきな表情を浮かべながら、早速その準備に取り掛かることとしたのだった。
――――
一方その時、王宮に設けられた剣技場で、一人の騎士が訓練を行っていた。
「たぁっ!!!!!」
ザシュッ!!!!
醸《かも》し出される鬼気《きき》迫る雰囲気と、圧倒的な美しき剣技。
一人の騎士が繰り出すその攻撃は、男女問わず見る者の心を一気に奪い去っていく。
「はぁっ!!!」
ズバッ!!!
「クリフォード様…!!今日もなんとお美しい…!!」
「素晴らしい剣技…!お体はスラッとされた細身なのに、あんなに力強い攻撃を…!」
「生で見られて私感動です…。心臓が早くなりすぎて、もう今日で死んじゃうかも…」
そんな彼の姿を見ながら、無数の女性たちがその瞳を輝かせている。
彼に心を奪われるのは貴族令嬢の女性から平民の女性まで様々で、もはやそこに身分の違いなど関係なかった。
女性たちの視線を一心に集める男、その名はクリフォード。
王宮に仕える騎士たちの中で、最も実力と人気を兼ね備えている男。
「やれやれ…思ったよりも汗をかいてしまったな…。これではいざという時、敵を前にして剣を滑らせてしまうかもしれん…。俺もまだまだだな…」
「あぁクリフォード様!私のタオルを使ってください!」
「ちょ、ちょっと!勝手なことしないでよ!私は今日のために何日も何日もかけて特性のタオルを準備してきたんだから!」
「あんたこの前もそんなこと言って、クリフォード様の使ったタオルを洗わずに自分の部屋の金庫の中に置いてたじゃない!そんな女のいう事なんて信用ならないわ!」
「はぁ!!なんでそのこと知って…!!!」
なにやら勝手に取っ組み合いを始める彼のファンたち。
クリフォードはそんな彼女たちの横を一瞬のうちに通り過ぎると、そのまま騎士の部屋を目指して歩き始めた。
その時、一人の男がクリフォードの元を訪れた。
「騎士長!今日も訓練ご苦労様です!」
「あぁ。…それでどうした?俺に何か用か?」
「はい!ハイデル第二王子からの伝言をお預かりしております!」
「伝言…?なんだ?」
その場に現れたのはクリフォードの部下である騎士であり、彼はそう言葉を発すると、自身の懐に抱えていたタオルをクリフォードに差し出しつつ、そのままこう言葉を続けた。
「急な話なのですが、明日、この王宮にてハイデル様の婚約式典が行われることとなったそうです。つきましては、クリフォード様にも出席してほしいとの事」
「……」
部下からの言葉を聞き、クリフォードは少しその機嫌を悪くしたかのような表情を浮かべながら、そっけない口調でこう言葉を返した。
「俺は参加しない。第二王子にはそう言っておいてくれ」
「えぇ!?か、かなり盛大に行われる式典とのことですよ??絶対に参加されたほうがよろしいかと思いますが…」
「知らん。行きたいならお前だけで行け」
「ど、どうして…?クリフォード様、もしかしてなにか参加されたくない理由がおありに…?」
部下の騎士が発したその言葉に、クリフォードは独り言をつぶやくかのような静かな口調で、こう言葉を漏らした。
「ハイデル第二王子とメリアとの婚約式典……俺はそんなもの見たくはないんでね」
「い、いえ………それがどうやら、婚約されるのはメリア様ではなく、ハイデル様と同郷で幼馴染であられるアリッサ様とのことで…」
「…なに?」
「私も詳しくは知らないのですが、なにかあったことだけは確かなようで…」
「………」
部下からそう事情を告げられたクリフォードは、腕を組んでなにかを考える姿勢を見せる。
その後しばらくその状態を維持した後、彼はそれまでと態度を翻して考えを一転させ、こう言葉を返した。
「それならば行こうか。いったい何があったのかを確かめなければな」
「了解しました!!」
…クリフォードの参加により、この婚約式典に始まるハイデルの運命が大きく変化したということなど、この時の彼はまだ知る由もないのであった…。
「どうだいアリッサ?みんなに向けて僕たちの愛の深さを見せつけるんだ。メリアの時はそんな大掛かりの式典なんてなにも開かなかったから、皆の注目を集められることは間違いない!」
「まぁ!私すっごくうれしいわ!ハイデル様が私の事をそこまで思ってくれているなんて!」
ハイデルからの言葉を聞き、アリッサもまたその表情を一段と明るくする。
派手なことが好きな彼女にとって、自らの立場の強さを王宮中の人間にアピールするということは快感でしかなかったのだろう。
「ただ僕たちの婚約を祝う、それだけじゃないぞ?その場にはサプライズとして、あえてメリアを呼んでやろうと思う」
「えぇ…。どうしてあんな女をわざわざ呼ぶの?むしろ一人だけほったらかしにして傷を与えるくらいがちょうどいいでしょ」
「それは逆だとは思わないか?」
「逆?」
疑問符をその頭上に浮かべるアリッサに対し、ハイデルは得意げな表情を浮かべながら言葉を続ける。
「自らが一方的に切り捨てられてしまった婚約など、一刻も早くその記憶から消し去ってしまいたくて仕方がないことだろう。しかしそこであえて彼女を式典に招待するとどうなる?忘れたくて仕方がない思い出を強制的にあぶりだされることとなり、その心はより一層ダメージを受けてしまうとは思わないか?」
「…!!!」
ハイデルの説明を聞いたアリッサは、それはそれは愉悦に満ちた表情を浮かべて見せる。
「そんな手があっただなんて…!確かに、式典から締め出してしまうよりも逆にあえて呼んであげる方が彼女にとっては嫌に決まってるわね…!しかもその相手が、この世に生まれた女性なら絶対にあこがれを持つハイデル第二王子…!自分はこんなにも素晴らしい方との婚約を逃してしまったのだという後悔は、とてつもないものがあるでしょうね…!」
「だろう?よし決まりだ!式典には第二王子命令でメリアを強制出席させることとする!」
「素晴らしい式典になること、間違いなしね!今から楽しみで仕方ないわ!」
二人はそろってうっきうきな表情を浮かべながら、早速その準備に取り掛かることとしたのだった。
――――
一方その時、王宮に設けられた剣技場で、一人の騎士が訓練を行っていた。
「たぁっ!!!!!」
ザシュッ!!!!
醸《かも》し出される鬼気《きき》迫る雰囲気と、圧倒的な美しき剣技。
一人の騎士が繰り出すその攻撃は、男女問わず見る者の心を一気に奪い去っていく。
「はぁっ!!!」
ズバッ!!!
「クリフォード様…!!今日もなんとお美しい…!!」
「素晴らしい剣技…!お体はスラッとされた細身なのに、あんなに力強い攻撃を…!」
「生で見られて私感動です…。心臓が早くなりすぎて、もう今日で死んじゃうかも…」
そんな彼の姿を見ながら、無数の女性たちがその瞳を輝かせている。
彼に心を奪われるのは貴族令嬢の女性から平民の女性まで様々で、もはやそこに身分の違いなど関係なかった。
女性たちの視線を一心に集める男、その名はクリフォード。
王宮に仕える騎士たちの中で、最も実力と人気を兼ね備えている男。
「やれやれ…思ったよりも汗をかいてしまったな…。これではいざという時、敵を前にして剣を滑らせてしまうかもしれん…。俺もまだまだだな…」
「あぁクリフォード様!私のタオルを使ってください!」
「ちょ、ちょっと!勝手なことしないでよ!私は今日のために何日も何日もかけて特性のタオルを準備してきたんだから!」
「あんたこの前もそんなこと言って、クリフォード様の使ったタオルを洗わずに自分の部屋の金庫の中に置いてたじゃない!そんな女のいう事なんて信用ならないわ!」
「はぁ!!なんでそのこと知って…!!!」
なにやら勝手に取っ組み合いを始める彼のファンたち。
クリフォードはそんな彼女たちの横を一瞬のうちに通り過ぎると、そのまま騎士の部屋を目指して歩き始めた。
その時、一人の男がクリフォードの元を訪れた。
「騎士長!今日も訓練ご苦労様です!」
「あぁ。…それでどうした?俺に何か用か?」
「はい!ハイデル第二王子からの伝言をお預かりしております!」
「伝言…?なんだ?」
その場に現れたのはクリフォードの部下である騎士であり、彼はそう言葉を発すると、自身の懐に抱えていたタオルをクリフォードに差し出しつつ、そのままこう言葉を続けた。
「急な話なのですが、明日、この王宮にてハイデル様の婚約式典が行われることとなったそうです。つきましては、クリフォード様にも出席してほしいとの事」
「……」
部下からの言葉を聞き、クリフォードは少しその機嫌を悪くしたかのような表情を浮かべながら、そっけない口調でこう言葉を返した。
「俺は参加しない。第二王子にはそう言っておいてくれ」
「えぇ!?か、かなり盛大に行われる式典とのことですよ??絶対に参加されたほうがよろしいかと思いますが…」
「知らん。行きたいならお前だけで行け」
「ど、どうして…?クリフォード様、もしかしてなにか参加されたくない理由がおありに…?」
部下の騎士が発したその言葉に、クリフォードは独り言をつぶやくかのような静かな口調で、こう言葉を漏らした。
「ハイデル第二王子とメリアとの婚約式典……俺はそんなもの見たくはないんでね」
「い、いえ………それがどうやら、婚約されるのはメリア様ではなく、ハイデル様と同郷で幼馴染であられるアリッサ様とのことで…」
「…なに?」
「私も詳しくは知らないのですが、なにかあったことだけは確かなようで…」
「………」
部下からそう事情を告げられたクリフォードは、腕を組んでなにかを考える姿勢を見せる。
その後しばらくその状態を維持した後、彼はそれまでと態度を翻して考えを一転させ、こう言葉を返した。
「それならば行こうか。いったい何があったのかを確かめなければな」
「了解しました!!」
…クリフォードの参加により、この婚約式典に始まるハイデルの運命が大きく変化したということなど、この時の彼はまだ知る由もないのであった…。
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