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第2話

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――エリック侯爵視点――

「どうでしょう侯爵様、これでソフィアは心を婚約破棄を決心してきますかね?」
「あぁ、間違いないとも。わざと向こうに聞こえるように言葉をかけ、その神経を逆なでしてやったんだ。すぐにでも婚約の破棄を申し出てくるに決まっているとも」

僕の隣に座り、僕の肩に自身の頭をのせて甘えてくるエレナ。
そんな彼女の愛らしい姿に心を奪われながら、僕は言葉を続ける。

「そもそも、これで婚約破棄を言い出してこなかったらそれこそ性格が悪すぎる話だ。僕はあえて彼女が身を引きやすいように舞台を整えてやっているというのに、その優しさを不意にするような事をするというのならそれこそ目も当てられないというものだろう。彼女にはきちんと僕の優しさを受け入れてもらいたいものだ」

僕の方から婚約破棄を告げてしまっては、立場の強いものが立場の弱いものに強権を発したように見られてしまい、やはり他の貴族家たちから白い眼で見られてしまう可能性が高い。
しかし向こうから言ってきたということにできれば、僕は彼女に騙された被害者なのだと言い張ることが出来る。
貴族家に生きる人間にとって建前というのは大事であり、決して軽視できるものではないのだから。

「ねぇ侯爵様、その計画がうまく行ってソフィアが婚約破棄を申し出てきたとして、侯爵様はそれにどう返事をするのですか?」
「そんなもの決まっているだろう。それを素直に受け入れるとも。おそらく、ソフィアは僕に止めてほしいから食い下がってくるかもしれないが、そんなものに付き合っている時間は無いからな♪」
「まぁ、ひどいお方♪」

口ではそう言いつつも、僕の肩に手をまわして僕の言葉を肯定してくれるエレナ。

「それで、その後はどうされるのですか?」
「そうだなぁ…。ソフィアさえいなくなったら後はもうどうでもいいのだから、やり方はいろいろとあるが…。しかし、ひとつだけもう決めていることがある」
「決めていること?それは一体?」
「エレナ、君の事を正妻として迎え入れるということだとも!」
「まぁ!」

僕はそう言葉を告げると、そのまま彼女の胸の中に自分の顔をうずめる。
これはもう何物にも代えがたいほどの思いで心を満たしてくれるものであり、僕はこのために生きていると言っても過言ではない思いを抱いていた。

「エレナ、僕の隣にいるのは君の方が絶対にふさわしい。ソフィアなんて、僕の心を少しも癒してくれないがっかりな女だった。見た目は好みだったから少しは期待していたんだが、まったく期待外れも良い所だったよ」
「それはお気の毒ですわね…。期待して結んだ婚約関係がそんな結末を迎えてしまったら、誰だって悲しいですもの」
「だが、今はもうどうとも思っていないよ。なぜなら、もうすでに僕にはエレナとの明るい未来が想像できているんだからね」
「もう、侯爵様ったら♪」

ソフィアを前にしては絶対に浮かび上がってこない言葉たちが、彼女を前にするとポンポンと浮かび上がってくる。
やはり、僕にとって最もふさわしい存在であるのはエレナに違いない。

「でも、今はまだソフィアが侯爵様の正式な婚約者なのでしょう?今私とここまでくっついてしまったら、浮気になってしまうのではありませんか?」
「そんなものどうでもいいとも♪」

事実、エレナとてそんなことを言いながらも、ノリノリで僕の言葉に応じてくれている。
僕はこの段階にある彼女との関係にもうれしさを感じつつ、興奮を覚えているだ。
であるならば、この関係が正式なものとなったなら今以上に熱い関係になることは明らかである。
これを見て、エレナよりもソフィアの事を選ぶ男がどこにいようか♪

「さぁ、これからの事をもっともっと話し合おうじゃないか。きっともうソフィアもいなくなっているだろうから、ここから先は僕らだけの時間だとも」
「あら、話し合うだけでいいのですか?もっと先の事も期待されているのではないですか?」
「あぁ、もちろん♪」

そこから先、僕たち二人は本当の夫婦以上に気持ちを熱くし、愛を確かめ合ったのだった。

――翌日――

「…もう、まさかあんなに激しくしてくるだなんて…」
「仕方ないだろう、それくらいに君が魅力的だったんだから」

幸せの時間は一瞬のうちに過ぎ去っていくものであり、まさに僕とエレナの時間は幸福の中にあるままに過ぎ去っていた。
ソフィアと過ごす時間は苦痛で苦痛で仕方がないと言うのに、全く正反対である。

「さて、今日はなにをして過ごそうか…。エレナが一緒にいてくれるなら何をしても楽しくなりそうだけど、そうなると選択肢が多すぎて悩むなぁ…」
「侯爵様、そういう時は何も考えずに自由な発想で決めると良いと思いますよ。ほら、侯爵様は昔…」
ドンドンドン!!!!
「侯爵様!!いらっしゃいますか侯爵様!!!」

エレナとの心地の良い時間を過ごしていたその時、突然使用人の一人が僕たちのいる部屋の扉を強くノックし始めた。
なにかただならぬ事態が起こったであろうことは察することが出来るものの、タイミングがタイミングであるために僕はやや機嫌を斜めにして返事をしてしまう。

「おいうるさいぞ。もっと冷静に話をすることはできないのか」
「大変なのです!!!気づいた時にはソフィア様が、失踪されてしまっていたのです!!!」
「……はぁ?」

…それが、侯爵としての僕の人生を切り崩す最初の出来事であった…。
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