3 / 3
第3話
しおりを挟む
ミラとの婚約破棄をきっかけにして、それまで以上に親密さを深めている様子だった二人。
しかし、その関係にほころびが生じ始めるきっかけは、ある日突然に訪れた。
「ねぇお兄様、ミラがなにか言ってきているという事はありませんか?」
「ミ、ミラが?どうして?」
伯爵との婚約を失ったミラがこのまま黙っているはずがない。
そう確信していたセレーナは、ある日その疑問を直接伯爵にぶつけてみることにした。
「ミラは伯爵様と婚約関係にあった身ですから、あのまま黙って引き下がるとは思えないのですが…」
「そ、それはどうだろう…。僕にはよくわからないけれど…」
「…?」
その時のソリッドのリアクションが、セレーナの目にはなにか不自然に映った。
「(…お兄様、もしかしてなにか隠してる?ミラの名前を出した途端、分かりやすく目を泳がせ始めたような…)」
しかし、そこに確証はなかった。
あくまでそういう気がする、と言う段階の話…。
「ねぇお兄様、あれからミラはどうなったのでしょう?お兄様から直々に婚約破棄の上で追放を命じられたわけですから、きっと相当に傷を負ったはずですよね?ちょっとやそっとの時間では回復するとも思えないのですが、今頃何をしているのでしょう?」
「だ、だから僕には彼女の事なんてなにもわからないって言って…!!」
その時、ソリッドは少しだけその語気を荒げ、ややイラついているような様子を醸し出した。
しかし本人も途中でその事に気づいたのか、その後すぐに気持ちを冷静なものに戻し、こう言葉を続けた。
「と、とにかくセレーナ、あんな女の事なんて考えるだけ無駄だよ。僕らには僕らにしかない時間があるのだから、余計な事は考えずに行こうじゃないか。…そうだ、どこか行きたい所はないかい?君の願いなら僕はいくらでも…」
「……」
ソリッドはそう言葉を続けていたが、その内容はセレーナの元にはあまり届いていなかった。
彼女はやはりソリッドの態度の中に不審な点を感じている様子であり、そこになにか理由があるのではないかと言う勘繰りを始める。
「はぐらかなさいでくださいお兄様。私たちはどんなことでも言い合える素敵な関係なのでしょう?兄妹間のものにとどまらない、真実の愛とも言うべきものでつながっているのでしょう?にもかかわらずそれを隠したりしてしまったら、私たちの間にある愛が消えてしまいそうになってしまいませんか…?」
「……」
セレーナの言葉が効いたのか、ソリッドはややなにかを考えるそぶりを見せる。
「お兄様、やはりなにか…」
「だ、だから大丈夫だから!!なにもないから!!」
「……」
しかし、それでもセレーナの思惑通りには事が運ばなかった。
…今までは自分の言う事を何でも聞いてきたソリッドが、今回だけは自分の考えを曲げようとしない。
彼女はその点にどうしても不審さを抱かずにはいられなかった。
「(なになに、なにを隠しているわけ??今までこんな事一度だってなかったから、どうしたらいいか分からない…。お兄様は私の前では隠し事なんてなにもしてこなかったはずなのに、一体なんで急にこんなことになっているわけ??ありえないのだけれど)」
なにか不審さを抱かずにはいられないが、そこはミレーナ。
あくまでそれは自分に関わるものなのではないかという考えに転換されていく。
「(…そうだ、もしかしてお兄様ったら私になにかサプライズを考えているんじゃないかしら??それを見抜かれそうになってしまったから、こんな下手な演技で私の言葉を交わしているんじゃないかしら??だとしたらその内容って、ミラに関わるものって事になるわよね??私が向こうの事を嫌っているのをお兄様は知っているだろうから、もしかしたらミラをひどい目に合わせるという罰を与えるというサプライズかしら???)」
一度そういう方向に考え始めたなら、もう止まることはない。
そこにはセレーナの願望も入り混じることとなり、ミラに対する期待とともに連ねられていく。
「(もう、お兄様ったら…。それならそうと言ってくれればいいのに。私を喜ばせたいという気持ちを持ってくださっているのは分かるけれど、そこまで大胆なやり方をしなくてもいいのに…♪)」
「…セレーナ?」
「分かりましたお兄様、今はお兄様のお言葉をすべて信用させていただきますね。だって、昔からずっとそうだったんですもの。お兄様が私にマイナスな事をしたことなんて一度もなかったことですし、ずっとずっと私の事を第一に考えてくださっていたこともよくわかっていますもの。だから今回も、それを繰り返すだけの事ですわ」
「……」
「(ほらやっぱり、図星なのですわね。お兄様、伯爵様として仕事をなさるというのでしたら、もう少し表情を隠される練習をなさったほうがいいかもしれませんわね…♪)」
勝手に自分の中で解決した様子のセレーナであるが、結局最後まで彼女に対してソリッドは言葉を返さなかった。
…それが本当はどういう意味をもたらすのかという事を、この時の彼女は全く知らないままだったものの、その答え合わせをする日はその後すぐに訪れることになる…。
しかし、その関係にほころびが生じ始めるきっかけは、ある日突然に訪れた。
「ねぇお兄様、ミラがなにか言ってきているという事はありませんか?」
「ミ、ミラが?どうして?」
伯爵との婚約を失ったミラがこのまま黙っているはずがない。
そう確信していたセレーナは、ある日その疑問を直接伯爵にぶつけてみることにした。
「ミラは伯爵様と婚約関係にあった身ですから、あのまま黙って引き下がるとは思えないのですが…」
「そ、それはどうだろう…。僕にはよくわからないけれど…」
「…?」
その時のソリッドのリアクションが、セレーナの目にはなにか不自然に映った。
「(…お兄様、もしかしてなにか隠してる?ミラの名前を出した途端、分かりやすく目を泳がせ始めたような…)」
しかし、そこに確証はなかった。
あくまでそういう気がする、と言う段階の話…。
「ねぇお兄様、あれからミラはどうなったのでしょう?お兄様から直々に婚約破棄の上で追放を命じられたわけですから、きっと相当に傷を負ったはずですよね?ちょっとやそっとの時間では回復するとも思えないのですが、今頃何をしているのでしょう?」
「だ、だから僕には彼女の事なんてなにもわからないって言って…!!」
その時、ソリッドは少しだけその語気を荒げ、ややイラついているような様子を醸し出した。
しかし本人も途中でその事に気づいたのか、その後すぐに気持ちを冷静なものに戻し、こう言葉を続けた。
「と、とにかくセレーナ、あんな女の事なんて考えるだけ無駄だよ。僕らには僕らにしかない時間があるのだから、余計な事は考えずに行こうじゃないか。…そうだ、どこか行きたい所はないかい?君の願いなら僕はいくらでも…」
「……」
ソリッドはそう言葉を続けていたが、その内容はセレーナの元にはあまり届いていなかった。
彼女はやはりソリッドの態度の中に不審な点を感じている様子であり、そこになにか理由があるのではないかと言う勘繰りを始める。
「はぐらかなさいでくださいお兄様。私たちはどんなことでも言い合える素敵な関係なのでしょう?兄妹間のものにとどまらない、真実の愛とも言うべきものでつながっているのでしょう?にもかかわらずそれを隠したりしてしまったら、私たちの間にある愛が消えてしまいそうになってしまいませんか…?」
「……」
セレーナの言葉が効いたのか、ソリッドはややなにかを考えるそぶりを見せる。
「お兄様、やはりなにか…」
「だ、だから大丈夫だから!!なにもないから!!」
「……」
しかし、それでもセレーナの思惑通りには事が運ばなかった。
…今までは自分の言う事を何でも聞いてきたソリッドが、今回だけは自分の考えを曲げようとしない。
彼女はその点にどうしても不審さを抱かずにはいられなかった。
「(なになに、なにを隠しているわけ??今までこんな事一度だってなかったから、どうしたらいいか分からない…。お兄様は私の前では隠し事なんてなにもしてこなかったはずなのに、一体なんで急にこんなことになっているわけ??ありえないのだけれど)」
なにか不審さを抱かずにはいられないが、そこはミレーナ。
あくまでそれは自分に関わるものなのではないかという考えに転換されていく。
「(…そうだ、もしかしてお兄様ったら私になにかサプライズを考えているんじゃないかしら??それを見抜かれそうになってしまったから、こんな下手な演技で私の言葉を交わしているんじゃないかしら??だとしたらその内容って、ミラに関わるものって事になるわよね??私が向こうの事を嫌っているのをお兄様は知っているだろうから、もしかしたらミラをひどい目に合わせるという罰を与えるというサプライズかしら???)」
一度そういう方向に考え始めたなら、もう止まることはない。
そこにはセレーナの願望も入り混じることとなり、ミラに対する期待とともに連ねられていく。
「(もう、お兄様ったら…。それならそうと言ってくれればいいのに。私を喜ばせたいという気持ちを持ってくださっているのは分かるけれど、そこまで大胆なやり方をしなくてもいいのに…♪)」
「…セレーナ?」
「分かりましたお兄様、今はお兄様のお言葉をすべて信用させていただきますね。だって、昔からずっとそうだったんですもの。お兄様が私にマイナスな事をしたことなんて一度もなかったことですし、ずっとずっと私の事を第一に考えてくださっていたこともよくわかっていますもの。だから今回も、それを繰り返すだけの事ですわ」
「……」
「(ほらやっぱり、図星なのですわね。お兄様、伯爵様として仕事をなさるというのでしたら、もう少し表情を隠される練習をなさったほうがいいかもしれませんわね…♪)」
勝手に自分の中で解決した様子のセレーナであるが、結局最後まで彼女に対してソリッドは言葉を返さなかった。
…それが本当はどういう意味をもたらすのかという事を、この時の彼女は全く知らないままだったものの、その答え合わせをする日はその後すぐに訪れることになる…。
32
お気に入りに追加
56
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
「おまえを愛することはない。名目上の妻、使用人として仕えろ」と言われましたが、あなたは誰ですか!?
kieiku
恋愛
いったい何が起こっているのでしょうか。式の当日、現れた男にめちゃくちゃなことを言われました。わたくし、この男と結婚するのですか……?
【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
婚約者は幼馴染みを選ぶようです。
香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。
結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。
ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。
空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。
ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。
ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。
今夜、元婚約者の結婚式をぶち壊しに行きます
結城芙由奈
恋愛
【今夜は元婚約者と友人のめでたい結婚式なので、盛大に祝ってあげましょう】
交際期間5年を経て、半年後にゴールインするはずだった私と彼。それなのに遠距離恋愛になった途端彼は私の友人と浮気をし、友人は妊娠。結果捨てられた私の元へ、図々しくも結婚式の招待状が届けられた。面白い…そんなに私に祝ってもらいたいのなら、盛大に祝ってやろうじゃないの。そして私は結婚式場へと向かった。
※他サイトでも投稿中
※苦手な短編ですがお読みいただけると幸いです
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる