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第3話

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ミラとの婚約破棄をきっかけにして、それまで以上に親密さを深めている様子だった二人。
しかし、その関係にほころびが生じ始めるきっかけは、ある日突然に訪れた。

「ねぇお兄様、ミラがなにか言ってきているという事はありませんか?」
「ミ、ミラが?どうして?」

伯爵との婚約を失ったミラがこのまま黙っているはずがない。
そう確信していたセレーナは、ある日その疑問を直接伯爵にぶつけてみることにした。

「ミラは伯爵様と婚約関係にあった身ですから、あのまま黙って引き下がるとは思えないのですが…」
「そ、それはどうだろう…。僕にはよくわからないけれど…」
「…?」

その時のソリッドのリアクションが、セレーナの目にはなにか不自然に映った。

「(…お兄様、もしかしてなにか隠してる?ミラの名前を出した途端、分かりやすく目を泳がせ始めたような…)」

しかし、そこに確証はなかった。
あくまでそういう気がする、と言う段階の話…。

「ねぇお兄様、あれからミラはどうなったのでしょう?お兄様から直々に婚約破棄の上で追放を命じられたわけですから、きっと相当に傷を負ったはずですよね?ちょっとやそっとの時間では回復するとも思えないのですが、今頃何をしているのでしょう?」
「だ、だから僕には彼女の事なんてなにもわからないって言って…!!」

その時、ソリッドは少しだけその語気を荒げ、ややイラついているような様子を醸し出した。
しかし本人も途中でその事に気づいたのか、その後すぐに気持ちを冷静なものに戻し、こう言葉を続けた。

「と、とにかくセレーナ、あんな女の事なんて考えるだけ無駄だよ。僕らには僕らにしかない時間があるのだから、余計な事は考えずに行こうじゃないか。…そうだ、どこか行きたい所はないかい?君の願いなら僕はいくらでも…」
「……」

ソリッドはそう言葉を続けていたが、その内容はセレーナの元にはあまり届いていなかった。
彼女はやはりソリッドの態度の中に不審な点を感じている様子であり、そこになにか理由があるのではないかと言う勘繰りを始める。

「はぐらかなさいでくださいお兄様。私たちはどんなことでも言い合える素敵な関係なのでしょう?兄妹間のものにとどまらない、真実の愛とも言うべきものでつながっているのでしょう?にもかかわらずそれを隠したりしてしまったら、私たちの間にある愛が消えてしまいそうになってしまいませんか…?」
「……」

セレーナの言葉が効いたのか、ソリッドはややなにかを考えるそぶりを見せる。

「お兄様、やはりなにか…」
「だ、だから大丈夫だから!!なにもないから!!」
「……」

しかし、それでもセレーナの思惑通りには事が運ばなかった。
…今までは自分の言う事を何でも聞いてきたソリッドが、今回だけは自分の考えを曲げようとしない。
彼女はその点にどうしても不審さを抱かずにはいられなかった。

「(なになに、なにを隠しているわけ??今までこんな事一度だってなかったから、どうしたらいいか分からない…。お兄様は私の前では隠し事なんてなにもしてこなかったはずなのに、一体なんで急にこんなことになっているわけ??ありえないのだけれど)」

なにか不審さを抱かずにはいられないが、そこはミレーナ。
あくまでそれは自分に関わるものなのではないかという考えに転換されていく。

「(…そうだ、もしかしてお兄様ったら私になにかサプライズを考えているんじゃないかしら??それを見抜かれそうになってしまったから、こんな下手な演技で私の言葉を交わしているんじゃないかしら??だとしたらその内容って、ミラに関わるものって事になるわよね??私が向こうの事を嫌っているのをお兄様は知っているだろうから、もしかしたらミラをひどい目に合わせるという罰を与えるというサプライズかしら???)」

一度そういう方向に考え始めたなら、もう止まることはない。
そこにはセレーナの願望も入り混じることとなり、ミラに対する期待とともに連ねられていく。

「(もう、お兄様ったら…。それならそうと言ってくれればいいのに。私を喜ばせたいという気持ちを持ってくださっているのは分かるけれど、そこまで大胆なやり方をしなくてもいいのに…♪)」
「…セレーナ?」
「分かりましたお兄様、今はお兄様のお言葉をすべて信用させていただきますね。だって、昔からずっとそうだったんですもの。お兄様が私にマイナスな事をしたことなんて一度もなかったことですし、ずっとずっと私の事を第一に考えてくださっていたこともよくわかっていますもの。だから今回も、それを繰り返すだけの事ですわ」
「……」
「(ほらやっぱり、図星なのですわね。お兄様、伯爵様として仕事をなさるというのでしたら、もう少し表情を隠される練習をなさったほうがいいかもしれませんわね…♪)」

勝手に自分の中で解決した様子のセレーナであるが、結局最後まで彼女に対してソリッドは言葉を返さなかった。
…それが本当はどういう意味をもたらすのかという事を、この時の彼女は全く知らないままだったものの、その答え合わせをする日はその後すぐに訪れることになる…。
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