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第5話
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――それから数日後、リルドとエレーナの会話――
「ふざけないでくださいリルド様!私はもうあなたに対する思いなんてこれっぽっちもないんです!!」
「どうしてだエレーナ!!あれほど僕の事を愛してくれると言ってくれていたじゃないか!!今更それをやめるだなんて受け入れられるはずがないだろう!!」
これまでにないほど、二人は互いの言葉を非常に強いものにしていた。
リルドの姿には、全く後がなくなってしまったかのような雰囲気が見て取れる。
…どうしてここまで彼が追い詰められることになってしまったのか、そこにはクレアとローズのとったある行動が大きく関係していた。
「クレアのやつ、魔が差したとか言って僕の事を捨ててきたんだぞ!それを聞いた他の騎士連中や貴族連中はその話を面白がって、そろいもそろって僕の事を馬鹿にしてきやがって!!だから僕はあいつら全員に仕返しをしなければならないんだよ!!」
そう、クレアのとった手段は非常にシンプルなものだった。
相手が魔がさしたと言って浮気ばかりを繰り返すのなら、自分はその反対の事をやろうと考えた。
つまり、普通に考えればありえない女から男への、それも騎士に対しての婚約破棄を、魔がさしたという理由で彼女は行うことにしたのだった。
当然、それだけをきいた周囲の人々はその頭の中を大きく混乱させ、どうしてそんなことになったのかという婚約破棄の理由に注目が集まった。
そこでクレアが理由として発したのが、魔がさしたというものだった。
「魔がさしたという理由で婚約破棄されるような男の人に、私は興味ありませんから!!そんな間抜けな人この世界であなたくらいではありませんか!!」
「それを言うんじゃない!!僕だって完全に油断していたんだ…。まさかクレアがこの僕の事を婚約破棄してこようとは、しかもその理由に僕と同じことを言ってこようとは…」
「だったら、完全にリルド様の負けということではありませんか!私にうつつを抜かす暇があったら今からでもクレア様との関係を復旧する方法でもお考えになられたらいかがですか?あぁでも無理かな?だってその時はまた魔が差したとか言って他の関係ない女性に手を出すんでしょうからね?私の時の同じように」
自分が同じ目にあったからか、非常に饒舌な口調でリルドに食って掛かるエレーナ。
彼女とてそもそもはリルドとの関係を望み、こうしてクレアとの関係にひびを入れることになった張本人であるのだが、そこに関しては彼女は全く触れるつもりはない様子…。
「君が僕を誘惑なんてしなければ、僕はここまで周囲から白い目で見られることはなかったんだ!騎士としての振る舞いは非常に立派なものであるというお墨付きをもらっていたというのに、婚約者から捨てられたという話のせいですべては台無しだ!!こうなるくらいなら最初から…」
最初からエレーナを選んでおくべきだった、と言おうとしたところで彼は自分の言葉を思いとどまった。
…もはや彼の中でも、自分が本当に好きな相手が誰であるのか分からなくなってしまっているのだろう。
「そもそも、私はあなたの事が好きだったわけではありませんからね!少し声をかけたら私になびきそうな間抜けに見えたから声をかけただけで、それ以上のことなんて何も思ってはいませんでしたから!!」
「……!!!」
言われて悔しいのは間違いないものの、それに言葉を返すことが出いないリルド。
…自らもクレアたちに捨てられてしまった手前、同じことをエレーナに対して言う事ができないでいるのだろう。
「…エレーナ、もう一度聞くよ。君が本当に愛しているのは」
「これでお別れですさようなら」
「……」
最後の希望ともいえる質問に対し、エレーナはリルドの欲する答えを告げることなくそのまま彼の前から姿を消していった。
…この場にただ一人残される形となった彼に、もはや味方は誰もいない。
少し街に出れば人々から後ろ指をさされ、屋敷に戻れば使用人たちからあざ笑われる始末。
最愛だったはずの婚約者も失い、次に同じ相手を見つけられる可能性はこの状況を考えれば限りなくゼロに等しい。
「…………」
…哀愁漂う彼の背中に言葉をかける者は、もうどこにもいなくなってしまっていた。
彼はその存在のすべてを、自ら切り捨ててしまったのだから。
「ふざけないでくださいリルド様!私はもうあなたに対する思いなんてこれっぽっちもないんです!!」
「どうしてだエレーナ!!あれほど僕の事を愛してくれると言ってくれていたじゃないか!!今更それをやめるだなんて受け入れられるはずがないだろう!!」
これまでにないほど、二人は互いの言葉を非常に強いものにしていた。
リルドの姿には、全く後がなくなってしまったかのような雰囲気が見て取れる。
…どうしてここまで彼が追い詰められることになってしまったのか、そこにはクレアとローズのとったある行動が大きく関係していた。
「クレアのやつ、魔が差したとか言って僕の事を捨ててきたんだぞ!それを聞いた他の騎士連中や貴族連中はその話を面白がって、そろいもそろって僕の事を馬鹿にしてきやがって!!だから僕はあいつら全員に仕返しをしなければならないんだよ!!」
そう、クレアのとった手段は非常にシンプルなものだった。
相手が魔がさしたと言って浮気ばかりを繰り返すのなら、自分はその反対の事をやろうと考えた。
つまり、普通に考えればありえない女から男への、それも騎士に対しての婚約破棄を、魔がさしたという理由で彼女は行うことにしたのだった。
当然、それだけをきいた周囲の人々はその頭の中を大きく混乱させ、どうしてそんなことになったのかという婚約破棄の理由に注目が集まった。
そこでクレアが理由として発したのが、魔がさしたというものだった。
「魔がさしたという理由で婚約破棄されるような男の人に、私は興味ありませんから!!そんな間抜けな人この世界であなたくらいではありませんか!!」
「それを言うんじゃない!!僕だって完全に油断していたんだ…。まさかクレアがこの僕の事を婚約破棄してこようとは、しかもその理由に僕と同じことを言ってこようとは…」
「だったら、完全にリルド様の負けということではありませんか!私にうつつを抜かす暇があったら今からでもクレア様との関係を復旧する方法でもお考えになられたらいかがですか?あぁでも無理かな?だってその時はまた魔が差したとか言って他の関係ない女性に手を出すんでしょうからね?私の時の同じように」
自分が同じ目にあったからか、非常に饒舌な口調でリルドに食って掛かるエレーナ。
彼女とてそもそもはリルドとの関係を望み、こうしてクレアとの関係にひびを入れることになった張本人であるのだが、そこに関しては彼女は全く触れるつもりはない様子…。
「君が僕を誘惑なんてしなければ、僕はここまで周囲から白い目で見られることはなかったんだ!騎士としての振る舞いは非常に立派なものであるというお墨付きをもらっていたというのに、婚約者から捨てられたという話のせいですべては台無しだ!!こうなるくらいなら最初から…」
最初からエレーナを選んでおくべきだった、と言おうとしたところで彼は自分の言葉を思いとどまった。
…もはや彼の中でも、自分が本当に好きな相手が誰であるのか分からなくなってしまっているのだろう。
「そもそも、私はあなたの事が好きだったわけではありませんからね!少し声をかけたら私になびきそうな間抜けに見えたから声をかけただけで、それ以上のことなんて何も思ってはいませんでしたから!!」
「……!!!」
言われて悔しいのは間違いないものの、それに言葉を返すことが出いないリルド。
…自らもクレアたちに捨てられてしまった手前、同じことをエレーナに対して言う事ができないでいるのだろう。
「…エレーナ、もう一度聞くよ。君が本当に愛しているのは」
「これでお別れですさようなら」
「……」
最後の希望ともいえる質問に対し、エレーナはリルドの欲する答えを告げることなくそのまま彼の前から姿を消していった。
…この場にただ一人残される形となった彼に、もはや味方は誰もいない。
少し街に出れば人々から後ろ指をさされ、屋敷に戻れば使用人たちからあざ笑われる始末。
最愛だったはずの婚約者も失い、次に同じ相手を見つけられる可能性はこの状況を考えれば限りなくゼロに等しい。
「…………」
…哀愁漂う彼の背中に言葉をかける者は、もうどこにもいなくなってしまっていた。
彼はその存在のすべてを、自ら切り捨ててしまったのだから。
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