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第2話
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――ルリドとエレーナの会話――
「エレーナ、どうして僕が君の事を第二婚約者として受け入れることにしたのか、その理由がわかるかい?」
「言っていただけないと分かりませんわ♪」
「そうか、なら仕方ない、言うしかないな♪」
ルリドは自らの屋敷を目指して進む馬車の中でエレーナと二人きりになり、互いにその距離を詰めながら非常にいやらしい笑みを浮かべ、そう言葉を発した。
…その雰囲気はとても、自らの婚約者を待たせている者の見せるものではなかった。
「エレーナ、僕はどうしても君との関係を現実のものにしたいんだ。ともに仕事をするうえで、君の存在は僕の中で非常に大きなものになっていった。それこそ、僕はもう君なしではいられないというほどに…。だからこそ、君にはこれからずっと僕の隣に居続けてほしい。他の男のものになどならないでほしいんだ」
クレアに向けるべきはずの言葉と思いを、あろうことかエレーナに向けてしまっているルリド。
エレーナはルリドから見て3つほど年下の部下に当たり、常日頃から立場上その距離は近いものではあった。
しかし、ルリドはついに我慢がきかなくなってしまったのか、そのままエレーナの事を自らの隣に置くことを決め、こうして自らの屋敷まで案内することとしたのだった。
そんなルリドの言葉に対し、なかなかまんざらでもないような雰囲気を浮かべてみせるエレーナ。
しかし、彼女はこのまま素直にルリドの言葉を受け入れるほど盲目になっているわけではなかった。
「でもルリド様、このまま私がルリド様の第二夫人になってしまったら、きっとクレア様は黙ってはいないと思いますよ?お二人の関係に傷をつけてしまうことになるかもしれませんし、私、素直にルリド様の思いに応じることができないような気がしていて…」
「エレーナ…。そこまで僕の事を気にしてくれて…」
心配そうな表情を浮かべてみせるエレーナ。
しかし、彼女が本当にその心の中に想っていたことはルリドに対する心配などではなく、自分の立場をより確かなものにするための計画的な戦略だった。
「(ルリド様の事を心配なんてしていませんとも。私が気になっているのは、私を第二夫人として受け入れた後の事です。私にとっては当然クレアは邪魔な存在でしかないのですから、いてもらってはこまります。なら、少なくとも彼女よりは良い待遇で迎え入れてもらわないと)」
心の中でひとつ、またひとつと着実に計画を作り上げていくエレーナ。
そんな彼女の狙いに、ルリドは気づかないままだった。
エレーナは心から自分の事を慕い、好いてくれている。
今のルリドの中にあるのはそれだけであり、そこにエレーナに対する疑いの気持ちなど欠片も存在していなかった。
「僕の事を心配してくれるのはうれしいよ。でも、そんなのは余計な心配だ。だって、すでにクレアは僕の言うことを何でも聞く存在なんだ。僕がひとたび君の事を受け入れろと彼女に命じたなら、彼女はそれに従うしかない。それくらいに僕たちの関係は確かなもので、ちょっとやそっとのノイズで崩れるようなものではないんだから」
現実には、決してルリドの想っているほど二人の結束は強いものではない。
すでに彼の使用人であるローズはその点に気づき始めているし、クレアとてそんなローズの考えを受け入れるのは時間の問題であるためだ。
…そのことにいまだ気づいていないルリドは、ただ自分が盲目に信じるままの道を進んでいく…。
「エレーナ、君が望むのなら第一夫人と第二夫人の立場を逆転させてもいいぞ?君が第一夫人になるかい?僕はそれでもかまわないぞ?」
「それもいいですね…」
その提案はエレーナにとっては待ち望んでいたものであったはずのもの。
しかし、この時彼女はやや冷静になり、その申し出にすぐに返事をすることをしなかった。
「(そんな簡単に婚約者の立場を入れ替えられると、それはそれで困るじゃない…。だって、もしも私の後にまた誰かを自分のもとに引き入れるとなったなら、その時もまた私はその女と立場を入れ替えられるかもしれないということでしょ?第一夫人はいずれ私がこの手で追い出すことができるかもしれないけれど、立場を逆転なんてされたらたまったものではないわね…)」
「…どうしたエレーナ?なにか悩んでいることがあるのかい?」
「いえ、大丈夫です。リルド様、非常にうれしい申し出なのですが、それには及びません。私は第二夫人のままでも構いませんよ?たとえ順番がどうであろうとも、あなたの隣に立てるということに変わりはないのですから」
「エレーナ…。本当に君は僕の聞きたい言葉をそのまま言ってくれる…。最初から君に婚約の声をかけるべきだっただろうか…」
「(それならそれで、また別の誰かに声をかけているのでしょうけれど。まぁいいわ。2番目でも騎士の婚約者になれるというのなら、こんなに周りに自慢できることはないんだもの。それに、いずれ私が一番になればいいだけの話なのだから)」
すでにルリドの心を略奪することに自信を持っているエレーナ。
しかし、その考えはルリドの帰還後すぐに破綻してしまうこととなるのであった…。
「エレーナ、どうして僕が君の事を第二婚約者として受け入れることにしたのか、その理由がわかるかい?」
「言っていただけないと分かりませんわ♪」
「そうか、なら仕方ない、言うしかないな♪」
ルリドは自らの屋敷を目指して進む馬車の中でエレーナと二人きりになり、互いにその距離を詰めながら非常にいやらしい笑みを浮かべ、そう言葉を発した。
…その雰囲気はとても、自らの婚約者を待たせている者の見せるものではなかった。
「エレーナ、僕はどうしても君との関係を現実のものにしたいんだ。ともに仕事をするうえで、君の存在は僕の中で非常に大きなものになっていった。それこそ、僕はもう君なしではいられないというほどに…。だからこそ、君にはこれからずっと僕の隣に居続けてほしい。他の男のものになどならないでほしいんだ」
クレアに向けるべきはずの言葉と思いを、あろうことかエレーナに向けてしまっているルリド。
エレーナはルリドから見て3つほど年下の部下に当たり、常日頃から立場上その距離は近いものではあった。
しかし、ルリドはついに我慢がきかなくなってしまったのか、そのままエレーナの事を自らの隣に置くことを決め、こうして自らの屋敷まで案内することとしたのだった。
そんなルリドの言葉に対し、なかなかまんざらでもないような雰囲気を浮かべてみせるエレーナ。
しかし、彼女はこのまま素直にルリドの言葉を受け入れるほど盲目になっているわけではなかった。
「でもルリド様、このまま私がルリド様の第二夫人になってしまったら、きっとクレア様は黙ってはいないと思いますよ?お二人の関係に傷をつけてしまうことになるかもしれませんし、私、素直にルリド様の思いに応じることができないような気がしていて…」
「エレーナ…。そこまで僕の事を気にしてくれて…」
心配そうな表情を浮かべてみせるエレーナ。
しかし、彼女が本当にその心の中に想っていたことはルリドに対する心配などではなく、自分の立場をより確かなものにするための計画的な戦略だった。
「(ルリド様の事を心配なんてしていませんとも。私が気になっているのは、私を第二夫人として受け入れた後の事です。私にとっては当然クレアは邪魔な存在でしかないのですから、いてもらってはこまります。なら、少なくとも彼女よりは良い待遇で迎え入れてもらわないと)」
心の中でひとつ、またひとつと着実に計画を作り上げていくエレーナ。
そんな彼女の狙いに、ルリドは気づかないままだった。
エレーナは心から自分の事を慕い、好いてくれている。
今のルリドの中にあるのはそれだけであり、そこにエレーナに対する疑いの気持ちなど欠片も存在していなかった。
「僕の事を心配してくれるのはうれしいよ。でも、そんなのは余計な心配だ。だって、すでにクレアは僕の言うことを何でも聞く存在なんだ。僕がひとたび君の事を受け入れろと彼女に命じたなら、彼女はそれに従うしかない。それくらいに僕たちの関係は確かなもので、ちょっとやそっとのノイズで崩れるようなものではないんだから」
現実には、決してルリドの想っているほど二人の結束は強いものではない。
すでに彼の使用人であるローズはその点に気づき始めているし、クレアとてそんなローズの考えを受け入れるのは時間の問題であるためだ。
…そのことにいまだ気づいていないルリドは、ただ自分が盲目に信じるままの道を進んでいく…。
「エレーナ、君が望むのなら第一夫人と第二夫人の立場を逆転させてもいいぞ?君が第一夫人になるかい?僕はそれでもかまわないぞ?」
「それもいいですね…」
その提案はエレーナにとっては待ち望んでいたものであったはずのもの。
しかし、この時彼女はやや冷静になり、その申し出にすぐに返事をすることをしなかった。
「(そんな簡単に婚約者の立場を入れ替えられると、それはそれで困るじゃない…。だって、もしも私の後にまた誰かを自分のもとに引き入れるとなったなら、その時もまた私はその女と立場を入れ替えられるかもしれないということでしょ?第一夫人はいずれ私がこの手で追い出すことができるかもしれないけれど、立場を逆転なんてされたらたまったものではないわね…)」
「…どうしたエレーナ?なにか悩んでいることがあるのかい?」
「いえ、大丈夫です。リルド様、非常にうれしい申し出なのですが、それには及びません。私は第二夫人のままでも構いませんよ?たとえ順番がどうであろうとも、あなたの隣に立てるということに変わりはないのですから」
「エレーナ…。本当に君は僕の聞きたい言葉をそのまま言ってくれる…。最初から君に婚約の声をかけるべきだっただろうか…」
「(それならそれで、また別の誰かに声をかけているのでしょうけれど。まぁいいわ。2番目でも騎士の婚約者になれるというのなら、こんなに周りに自慢できることはないんだもの。それに、いずれ私が一番になればいいだけの話なのだから)」
すでにルリドの心を略奪することに自信を持っているエレーナ。
しかし、その考えはルリドの帰還後すぐに破綻してしまうこととなるのであった…。
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