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南プロシアン王国編
始祖への誓い
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キルス歴一〇九六年七月十五日
アレッシオの手配で宮殿内の迎賓館で一夜を過ごしたティファたちが本宮殿に向かうと、そこにはいつもと変わらないフロリアーナの姿があった。
「お、ティファたちもお目覚めか?いい朝だな」
「はい。フロリアーナ様もすっかり元気になられたようで安心しました」
「こうして笑っていた方がいくらか気持ちも違うし、何よりこれから民衆の前に立って新しい女王としての挨拶もしなければならないからな。
しょげた顔の女王を見たら民衆も先行き不安になるだろう。だから私は昨日までの自分に別れを告げて今日から生まれ変わった気持ちで政務をやっていく」
「ご立派です。私たちも微力ながら今後もお力添え致します」
「お主たちが後ろ盾になってくれれば百万の味方を得たような安心感がある。って私はいつもこれしか言えぬな」
フロリアーナはそう言って照れながら最後にひと言ティファ達にこう言った。
「こんな私だけど、これからもよろしく頼む」
「はい」
フロリアーナは大勢の民衆が詰めかけた中、宮殿のバルコニーに立ち、新女王の戴冠式と挨拶を力強く話し、民衆から耳が破れんばかりの声援と拍手を受けた。
南プロシアンの国民の全てが新女王の誕生を祝ってくれている訳ではない。
若干十五歳の女王に先行きの不安を感じている人も多数いよう。
それでも今は構わない、どうか信じてついて来てほしいと民衆に呼びかけた。
それからティファ、レイラ、マリア、レジーナの四人はアレッシオ、ヴィンセントと共にフロリアーナに連れられて首都アイゼレリアの一角にある神殿に向かった。
小さな神殿であるが、築年数はおそらく数百年以上前の相当古い建物だと見てわかる風情があった。
神殿の中に入ると奥に一体の女性と思われる銅像が祀られてあった。
「フロリアーナ様、この銅像は?」
「この南プロシアンを未開の地からここまでの国に築き上げる礎を築いてくれた始祖マリー・フォン・ハメスファール。この国の人たちにとってマリー様は国母であり守り神でもあるのだ。
代々この南プロシアンを統治する王家の継承者は必ずマリー様に新王としてのご報告と国の安泰を祈願するのがこの国の慣わしとなっていてな、私もこうして祈願しに来たのだ」
「そんな凄い方でしたのですね。ならば私たちもタスタニアの安泰を祈願させてもらいます」
ティファたちもマリーの銅像にお辞儀してタスタニアの安泰を祈願した。
「開拓主マリー様が築き上げたこの国を私は守る!」
フロリアーナはそうマリーの銅像に誓った。
⭐︎⭐︎⭐︎
キルス歴一〇九六年七月十六日
フロリアーナにとって南プロシアン女王として政務にあたる初日となった。
この後、人事の発表もあり、カルドザルス騎士団は宮殿警備隊となり、アレッシオが宰相としフロリアーナを支え、助ける事を誓った。
またヴィンセントは宮殿警備隊の隊長に加えてフロリアーナの護衛と新設された陸軍の総指揮官も努める事となり、海軍は新たな将が育成するまでアレッシオが統括する事となった。
内政のアレッシオ、防衛のヴィンセントと二人の側近の力でアルベルト一世時代よりも強固な体制となった。
ティファたちも戴冠式からタスタニア軍の歓迎式典まで招かれ、人生二度目のドレスアップに嬉しいような恥ずかしいような気分であった。
レジーナはこれが初めての晩餐会にドレスアップだったが、他の三人よりもドレスを着こなしていた。
しかしレジーナは自分はおまけの身だからと、マリアやレイラの影に隠れるように小さくなっていて、これにはマリアとレイラも「レジーナも活躍したのだから、そんな遠慮せずにもう少し楽しもう」と苦笑しながら言うしかなかった。
「何度経験してもドレスアップって慣れない気がする」
そんなティファを見てフロリアーナがにこりと笑った。
「本来ならもっと気楽な服装でやりたかったのだが、アレッシオが正式な場ではそれなりの服装は礼儀でございますとうるさくてな」
「私も気楽な晩餐会など聞いた事がございませんので、それが当然でしょう。私の育ちがこのような環境に身分不相応で慣れないだけです」
「身分か。お主たちとはいつか身分など関係のない状況で気楽に時を過ごしたい。私にとってお主たちは仲間であり友人だ。いっときは別れてしまうが、いつでも心はそばにいる」
フロリアーナはティファたちと過ごした日々を思い起こして別れを惜しんだが、ティファたちにはまだロマリオ帝国との戦いがある。
自分たちも南プロシアンの再建に取り掛からなくてはならない。
いつまでも別れを名残惜しむ訳にはいかないと迷いを断ち切るのであった。
それはティファやマリアたちも同じであった。
「私は涙でハッピーエンドを迎えるのが苦手でして。最後は笑顔で終わりましょう」
ティファがそう言うとフロリアーナも笑顔でそれに応えた。
フロリアーナとアレッシオたちはこれまで自分を助けてくれたティファ、マリア、レイラを始めとするタスタニアの兵士たちに感謝の歓迎会や慰労を二日間開催し、別れの日がやってきた。
アレッシオの手配で宮殿内の迎賓館で一夜を過ごしたティファたちが本宮殿に向かうと、そこにはいつもと変わらないフロリアーナの姿があった。
「お、ティファたちもお目覚めか?いい朝だな」
「はい。フロリアーナ様もすっかり元気になられたようで安心しました」
「こうして笑っていた方がいくらか気持ちも違うし、何よりこれから民衆の前に立って新しい女王としての挨拶もしなければならないからな。
しょげた顔の女王を見たら民衆も先行き不安になるだろう。だから私は昨日までの自分に別れを告げて今日から生まれ変わった気持ちで政務をやっていく」
「ご立派です。私たちも微力ながら今後もお力添え致します」
「お主たちが後ろ盾になってくれれば百万の味方を得たような安心感がある。って私はいつもこれしか言えぬな」
フロリアーナはそう言って照れながら最後にひと言ティファ達にこう言った。
「こんな私だけど、これからもよろしく頼む」
「はい」
フロリアーナは大勢の民衆が詰めかけた中、宮殿のバルコニーに立ち、新女王の戴冠式と挨拶を力強く話し、民衆から耳が破れんばかりの声援と拍手を受けた。
南プロシアンの国民の全てが新女王の誕生を祝ってくれている訳ではない。
若干十五歳の女王に先行きの不安を感じている人も多数いよう。
それでも今は構わない、どうか信じてついて来てほしいと民衆に呼びかけた。
それからティファ、レイラ、マリア、レジーナの四人はアレッシオ、ヴィンセントと共にフロリアーナに連れられて首都アイゼレリアの一角にある神殿に向かった。
小さな神殿であるが、築年数はおそらく数百年以上前の相当古い建物だと見てわかる風情があった。
神殿の中に入ると奥に一体の女性と思われる銅像が祀られてあった。
「フロリアーナ様、この銅像は?」
「この南プロシアンを未開の地からここまでの国に築き上げる礎を築いてくれた始祖マリー・フォン・ハメスファール。この国の人たちにとってマリー様は国母であり守り神でもあるのだ。
代々この南プロシアンを統治する王家の継承者は必ずマリー様に新王としてのご報告と国の安泰を祈願するのがこの国の慣わしとなっていてな、私もこうして祈願しに来たのだ」
「そんな凄い方でしたのですね。ならば私たちもタスタニアの安泰を祈願させてもらいます」
ティファたちもマリーの銅像にお辞儀してタスタニアの安泰を祈願した。
「開拓主マリー様が築き上げたこの国を私は守る!」
フロリアーナはそうマリーの銅像に誓った。
⭐︎⭐︎⭐︎
キルス歴一〇九六年七月十六日
フロリアーナにとって南プロシアン女王として政務にあたる初日となった。
この後、人事の発表もあり、カルドザルス騎士団は宮殿警備隊となり、アレッシオが宰相としフロリアーナを支え、助ける事を誓った。
またヴィンセントは宮殿警備隊の隊長に加えてフロリアーナの護衛と新設された陸軍の総指揮官も努める事となり、海軍は新たな将が育成するまでアレッシオが統括する事となった。
内政のアレッシオ、防衛のヴィンセントと二人の側近の力でアルベルト一世時代よりも強固な体制となった。
ティファたちも戴冠式からタスタニア軍の歓迎式典まで招かれ、人生二度目のドレスアップに嬉しいような恥ずかしいような気分であった。
レジーナはこれが初めての晩餐会にドレスアップだったが、他の三人よりもドレスを着こなしていた。
しかしレジーナは自分はおまけの身だからと、マリアやレイラの影に隠れるように小さくなっていて、これにはマリアとレイラも「レジーナも活躍したのだから、そんな遠慮せずにもう少し楽しもう」と苦笑しながら言うしかなかった。
「何度経験してもドレスアップって慣れない気がする」
そんなティファを見てフロリアーナがにこりと笑った。
「本来ならもっと気楽な服装でやりたかったのだが、アレッシオが正式な場ではそれなりの服装は礼儀でございますとうるさくてな」
「私も気楽な晩餐会など聞いた事がございませんので、それが当然でしょう。私の育ちがこのような環境に身分不相応で慣れないだけです」
「身分か。お主たちとはいつか身分など関係のない状況で気楽に時を過ごしたい。私にとってお主たちは仲間であり友人だ。いっときは別れてしまうが、いつでも心はそばにいる」
フロリアーナはティファたちと過ごした日々を思い起こして別れを惜しんだが、ティファたちにはまだロマリオ帝国との戦いがある。
自分たちも南プロシアンの再建に取り掛からなくてはならない。
いつまでも別れを名残惜しむ訳にはいかないと迷いを断ち切るのであった。
それはティファやマリアたちも同じであった。
「私は涙でハッピーエンドを迎えるのが苦手でして。最後は笑顔で終わりましょう」
ティファがそう言うとフロリアーナも笑顔でそれに応えた。
フロリアーナとアレッシオたちはこれまで自分を助けてくれたティファ、マリア、レイラを始めとするタスタニアの兵士たちに感謝の歓迎会や慰労を二日間開催し、別れの日がやってきた。
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