ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

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南プロシアン王国編

ナサレノの最後

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ナサレノはメイドに掴みかかり短剣を首に当ててフロリアーナに向かって叫んだ。

「こいつの命を助けたかったら剣を捨てて王家の指輪をよこせ」

「フロリアーナ様。。」

そのメイドはフロリアーナの世話役の一人であった。
王妃が亡くなった後、この離宮を定期的に清掃する役目をアルベルト一世より受けて、今日はその清掃の日であった。

「卑怯な。。」

「早く指輪を渡せ。さもないとこいつの首筋から血が噴き出る事になるぞ」

フロリアーナは指から指輪を外してナサレノに見せた。

「フロリアーナ様、いけません。私に構わず戦ってさい」

「やかましい。黙っていろ」

ナサレノがメイドに恫喝すると、フロリアーナはつまらなそうに指輪をナサレノの方に放り投げ、ナサレノはそれを素早く掴み取った。

「おお。ついに王家の指輪を手に入れたぞ。これで国王の座は俺のものだ」

ナサレノは高らかに笑い声をあげたが、フロリアーナは冷ややかに言い放った。

「そんなものがそんなに大事か?」

「なに?」

「その指輪にどれほどの力があるのだ?王として国と国民を守るのは人間であって指輪じゃない。そんなもので国が統治出来るなら誰も苦労などするものか。お主の目は何を見ているのだ」

フロリアーナがそう言った次の瞬間、「きっと見果てぬ夢でも見ているのでしょう」という声と同時にナサレノの足に剣が突き刺さり、足の激痛に思わずかがみ込んだその隙にメイドはフロリアーナの元へ走って逃げた。

フロリアーナに追いついたマリアがとっさにサラマンダーを分割し、片方をナサレノに投げつけたのだ。

「フロリアーナ様、遅くなりまして申し訳ございません」

「マリア、丁度いいタイミングであったぞ。メイドを助けてくれて礼を言う」

フロリアーナはメイドを助けたマリアに感謝の意を表した。

「ナサレノ、この世から立ち去れ」

「い、命だけは。。お助け下さい。。」

ナサレノがフロリアーナ命乞いしたが、フロリアーナは剣を構えてナサレノに近づいて行こうとした。
しかしマリアがそれを手で制して前に出た。

「フロリアーナ様、あなたは女王となられるお方。このような輩を斬ってお手を汚してはなりません。ここは私がやります」

「助けてくれ。助けて。。」

ナサレノはそう言いながら短剣をマリアの顔めがけて投げつけたが、マリアはサラマンダーでナサレノの投げた短剣を弾き返した。
剣の達人であるマリアにはナサレノの動きは全て見えていた。

「覚悟」

マリアのサラマンダーが一閃されるとナサレノは断末魔の悲鳴をあげて絶命した。

「終わった。。」

フロリアーナはこれまでの長かった経緯を振り返るようにひと言そう言った。
しかしマリアの一言がその安堵感を吹き飛ばした。

「いえ、まだ終わっておりません」

「何?マリア、どう言う事だ?」

「真の黒幕が残っております。ナサレノ如き小物がこんな大それた事を一人では出来ますまい。裏でナサレノを操っていた人物がおります」

「一体誰だ?」

「それをお聞きになられたら、フロリアーナ様はさぞお嘆きになる事でしょう。。」

「それって、まさか。。」

フロリアーナは動揺していたが、助けられたメイドがお礼を言いくると辛うじて動揺を抑えた。

「フロリアーナ様、私如きがお手をわずらわせて申し訳ございません」

メイドはフロリアーナに頭を下げて謝罪したが、フロリアーナはすぐに顔を上げさせた。

「お主が無事で何よりだ。巻き込ませてしまってすまなかったな。私は最後のひと仕事をせねばならない。一人で戻れるか?」

「はい」

「よし、じゃあ宮殿で戦っているヴィンセントたちにナサレノを討ち取ったと報告をしてくれ」

フロリアーナの依頼にメイドは「かしこまりました」と返事をして宮殿へと戻っていった。

⭐︎⭐︎⭐︎

「ナサレノは討ち取った」

メイドからの報告を受けたヴィンセントが高らかに声を上げると宮殿内の戦闘が止まった。

「戦いは終わったのだ。これ以上犠牲を出す必要はない、ここで降伏すれば命は助けよう。剣を捨てよ」

ヴィンセントの声に最後まで抵抗を続けていたナサレノ派閥の兵士たち全員投降した。
こうして三ヶ月以上に及んだナサレノの叛逆軍とフロリアーナの戦いに終止符が打たれた。

マリアがナサレノを討ち取り、宮殿内の反乱軍もほぼ制圧されたという報告を受けて、ティファが立ち上がった。

「みんなよく動いてくれたね。私ももうひと働きしなきゃな。真の黒幕の正体を明かすために」

ティファは密かにパトリシア、シャローラとこれまでの情報を確認し、この一連の反乱の首謀者はナサレノではなく裏でナサレノを操っている人物だと見ていた。
その人物こそ真の黒幕。

「フロリアーナ様はさぞお嘆きになるだろうけど、あの人物のいる限り南プロシアンに平和は訪れない。気が重い仕事だけどやらなきゃ」

ティファは旗艦イリーナから下船し、愛馬ゼプュロスに乗りアイゼレリアへ向かった。

「馬に乗って風を感じながら走るのはいつでも気持ちいいなあ」

ティファの乗馬は見事なものであった。
剣は苦手な彼女であったが、馬に乗るのは大好きであった。
風を切って走ると嫌な事もその一時だけは忘れる事が出来たからだ。
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