ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

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南プロシアン王国編

ナサレノ逃亡

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首都アイゼレリアへ進軍してくるタスタニア軍を食い止めようとナサレノは兵士たちに悲鳴に近い怒声を浴びせていた。

しかし国の歴史始まって以来、ここまで外国軍の侵入を許した事のない南プロシアンの街に三千人もの軍を食い止めるだけの兵力はなく、逆に相手にフロリアーナがいるのを見ると兵士たちは攻撃を躊躇し、タスタニア軍はほとんど抵抗のないまま一気にアイゼレリアまで進軍して行った。

「なんたる醜態。兵力で勝てないまでも、その場に配置されている兵士が全員玉砕覚悟で戦えば、多少なりとも相手の兵力を削る事が出来ようものを、全く戦いもせんとは。。」

ナサレノは怒りと恐怖に声を震わせた。

「カルドザルス騎士団は何をしている。ヴィンセントはどうした?こんな時に宮殿を守るのが奴らの仕事だろう。役立たずどもが」

ナサレノは宮殿内の兵士たちに怒声を浴びせながらアレッシオを探していた。

「アレッシオ、どこに行った?こんな時にどいつもこいつも役に立たぬ奴らめ」

「私ならここにおりますが」

「アレッシオ、この状況を何とかしろ」

「何とかしろと申されましても、具体的に何をどうせよと言うのですか?」

「それを考えるのがお前の仕事だろう。俺にいちいち聞いてくるな」

「私はあなたの頭脳でも、あなたがご自身で考えられないものを代わりに考える道具でもありません。この状況を自力で切り抜けられないならあなたもここまでですな」

「アレッシオ、貴様裏切ったな」

「裏切るとは、忠誠を誓っていた主人を見捨てて敵側に寝返る事を申すのです。私は初めからあなたに忠誠など誓っておりませんので、裏切りなどではありません。本来の役目に戻っただけです」

アレッシオがそう言い終えたところにヴィンセントが王の間に入ってきた。

「ヴィンセント、ようやく来たか。その裏切り者を斬ってタスタニア軍から俺を守ってこの宮殿から脱出させろ」

「カルドザルス騎士団は宮殿を守るのは任務であるが、お前を守る任務など受けた覚えはない」

「なんだと?貴様、王の支配下にある騎士団が俺に盾突くか」

「この国の王はフロリアーナ様だ。お前などではない。お前如きがカルドザルス騎士団を動かせると思うな」

ヴィンセントは吐き捨てるようにそう言うとナサレノに剣を向けた。

「じきにここにフロリアーナ様とタスタニアの兵士たちが来るであろう。本来ならこの手で斬り捨ててやりたいところだが、せめてもの情けをくれてやる」

ヴィンセントがそう言って目配せすると、アレッシオがそこにダメ押しの言葉を浴びせた。

「フロリアーナ様が戻られた今、をしている理由はなくなった」

「貴様ら。。」

「恨むならご自身の人望と力量の無さを恨むんですな。あなたがフロリアーナ様より上回っているのは、口先の巧みさと相手を貶めて自分をよく見せる事だけです。その舌先三寸でこの状況を乗り切ってみせたらどうです」

アレッシオはそう言うと短剣を床に置いた。

「それを使ってこれまでの罪を償い、潔くこの世からご退場される事をお勧めします」

ナサレノはその短剣を手に持つとしばらく見つめていた。
この短剣で二人に襲いかかったところでヴィンセントに一刀両断されるのは目に見えていた。
ナサレノは少しずつ後退りするようにヴィンセントたちと距離を置くと、壁に仕掛けてあった隠し扉から逃げ出した。

「しまった!」

アレッシオがすぐに壁に近寄ったが、中から鍵がかけられて開く事は出来なかった。

「ナサレノの奴、先王が非常用に設置した隠し扉を使って逃走するとは。。迂闊だった」

「この宮殿にはアルベルト様が、万が一襲われた時のための隠し通路が作られていたのは知っていたが、ナサレノがそれを利用するとは」

ヴィンセントも不意を突かれて舌打ちした。

「アレッシオ、この隠し通路はどこに繋がっているかわかるか?」

「隠し通路は王家の者以外には一切教えられていない。フロリアーナ様しかわかる者はいないだろう」

「フロリアーナ様にご報告せねば」

ヴィンセントとアレッシオは王の間から宮殿の外へと急いだ。

「くくく。先王の生前に偶然見つけた隠し扉がよもやここで役に立つとはな。まだ終わりじゃない。フロリアーナを殺して王家の指輪を奪えばこの国は俺の物になる」

ナサレノは隠し通路を走りながらフロリアーナ抹殺を目論んでいた。
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