ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

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南プロシアン王国編

進撃タスタニア艦隊

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南プロシアン艦隊を打ち破ったタスタニア艦隊は、港町エクレイネを目指す途中で主力艦イーリスにレイラとレジーナが打ち合わせのために小型船で移動していた。
レジーナはフロリアーナと初めての対面に緊張していたが、この作戦に抜擢され第三艦隊を任されるという事はそれだけの実力者である事はフロリアーナは言わずともわかっていたので、気さくに対応してくれた。

「あ、あの。。レジーナと申します」

緊張するレジーナに横からレイラが助け舟を出した。

「フロリアーナ様、このレジーナは私とマリアの同級生でまだ士官学校の学生なのですが、志願してこの戦いに参加してくれたのです」

そう聞いてフロリアーナはにこりと笑った。

「レジーナと申したな。そんなに緊張しなくても私は別にお主を食べたりしないぞ」

「え?食べる?」

レジーナが驚くと周りから笑いが起きた。

「いや、冗談のつもりだったが通じなかったみたいですまぬ。少しでも緊張が和らげばと思ったのだがな。レジーナ、協力してくれて感謝する。ありがとう」

フロリアーナにお礼を言われて恐縮しながらもレジーナの緊張も解けたところで、今後の計画を話し合った。

「ナサレノはエクレイネの防備を固めているだろう。逆を言えばエクレイネ以外の港町がガラ空きという事になる。ここはエクレイネを迂回し、他の港町から首都アイゼレリアに向かう陽動作戦を取ったらどうだろう」

というフロリアーナの案にティファがレイラとレジーナにも相談、検討するためであった。
ティファたちにとって南プロシアンの地理に詳しいフロリアーナがいるのが強みであった。

「フロリアーナ様、エクレイネ以外にも船を停泊出来る港町はあるのですか」

ティファの質問にフロリアーナが答える。

「規模はエクレイネほどではないが他に二箇所ある。クレナとレスラントという港街だが、ここから近いのはクレナの方でレスラントは現在地からだと大陸の向こう側に位置する。迂回することになるが」

マルコが南プロシアンの地図を出し、フロリアーナが港町の場所を指で指して見せた。
南プロシアンは海洋国家なだけあり、三箇所ある港町から首都アイゼレリアまではほとんど同じ距離であった。

これは塩や魚を港から中心地に送り、そこから各地に運輸出来るようにするため、三箇所の港町を結んだ中心地点に首都アイゼレリアが作られたからである。

「ナサレノは優柔不断だからな。予測の範囲外の事態が起こると、どこにどう兵を配置するか決める事が出来ずに兵士たちは混乱する事になろう」

地図を見たティファはフロリアーナの案に賛同してレスラント迂回作戦を取る事を決定した。
フロリアーナの言う通り、ティファもナサレノには会ったことは当然なかったが、これまでの話しや艦隊の動かし方などからも、エクレイネに兵力を集中させて他がガラ空きだろうと予測したからである。

「フロリアーナ様の案を採用させて頂きます。エクレイネを通過して湾岸線を迂回しながらレスラントへ上陸し、アイゼレリアに向かう。これでいきましょう」

ティファの決定にレイラとレジーナも賛同した。

「レスラントへの案内は私が致します」

レスラントの案内はマルコ伯爵がやってくれる事となり、タスタニア艦隊は防備が薄いと予測されるレスラントの港町から首都アイゼレリアの宮殿を目指す事となった。
フロリアーナの読み通り、ナサレノはエクレイネのみに兵を集中させて他の港町は無防備であった。

人を貶めたり舌先三寸で言いくるめる事に関してはナサレノの方が上であったが、相手の性格を読んでそれを利用するという点に関してはフロリアーナが上であった。

海洋国家南プロシアンには海上の船が湾岸近くを航海していれば場所がわかるように高さ三十メートルの灯台を設置してあった。

「この灯台には「アリアドネ」という名前がついている。迷宮を脱出する道標でもあるアリアドネの糸の神話からこの名称が付いたと言う事だ。私も幼少の頃、父上から聞いた説明をそのまましているだけだがな」

フロリアーナが照れ笑いを浮かべて説明してくれ、ティファはアリアドネの灯台をじっと見てひと言呟いた。

「アリアドネの糸か。。私たちも戦争という迷宮から少しでも早く脱出出来るといいな」

ティファがそういうとフロリアーナは「そうだな、私もそう願っているぞ」とティファの心情を理解した。

⭐︎⭐︎⭐︎

タスタニア軍の来襲に備えてエクレイネの港は航路を封鎖するために三段櫂船でバリケードが張られ、街にはナサレノの命令を受けて防備のために三千人の兵士たちが配置されていた。
アレッシオは宮殿のバルコニーでそれを見ながらため息をつき、ヴィンセントは憮然とした表情で腕組みをしていた。

「愚かな。。相手にはフロリアーナ様とマルコ伯爵がいるのだ。こちらの地理に詳しい二人なら、ナサレノの性格を読んで別の港町に迂回する事も十分にあり得よう。エクレイネだけに兵を集中させるとは」

「アレッシオ、お主はタスタニア軍はどこから進行してくると思う?」

「一番可能性が高いのはレスラント。あとは艦隊を三方向に分割させてエクレイネ、クレナ、レスラントの三箇所から攻めてくるというのも考えられるが、三艦隊が分割してそれぞれの港から首都アイゼレリアで合流するには日にちと時間を合わせるのに無理がある。兵を分散させる危険を冒すよりは迂回作戦を取るであろうな」

現代なら時計で確認して待ち合わせの日程を決めらるが、この当時はまだ懐中時計などなかった時代である。
海上で分散した艦隊と兵士たちが、決められた日時に陸上で合流するなど奇跡に近いレベルで不可能であった。
そしてアレッシオの読み通りティファもそんな危険を冒すより確実な迂回作戦を選択したのである。

「なるほど。それをナサレノに教えてやる筋合いもないという事か」

「いちいち私が教えてやらねば何も出来ないのであれば、王の資格も器もない。奴は既にメッキの剥がれた鉄屑。いくら舌先三寸で相手を貶めようとしても本物の宝石の輝きには敵わぬ。

ヴィンセント、私は今回の一連の反乱を利用して我が国民にストーリーを見せようと考えていた。宰相ナサレノの謀略によって国を追われた王女がタスタニアの力を借りて凱旋し、ナサレノを倒して新女王となって国をまとめる。

民衆は熱狂し、フロリアーナ様の支持率は跳ね上がるであろう。我々は主人公を盛り立てる脇役に徹するとしようぞ」

「今ひとつ独創性に欠けるストーリーだな。だが俺も既にその舞台に上げられている以上、お主の言う通り脇役に徹するとしよう」

「この舞台に独創性は必要ない。あるのは真実だけだ。だが、民衆が求めているものは真実でもあり、幻想でもあるのだ。それも上手く演出しなければならない」

二人は互いに向き合いうなづき合った。

「思えば先代アルベルト一世の時には互いに役目も任務も違う事から会議以外での親交がなかったな。もし我々が先王の時から共に手を合わせていれば、或いはこんな事にはならなかったかも知れぬ。この責任は全て私にある」

「アレッシオ、お主妙な事考えておらぬだろうな?」

「まずはフロリアーナ様の凱旋をお迎えするのが先決だ。私の事などその後でよい」

「お主だけの責任ではない。俺にも責任はある。一人で何もかも抱え込むな。その事は一旦棚上げして、まずはフロリアーナ様をお助けする事に全力を尽くそう」

ヴィンセントはそう言うとアレッシオの肩をポンと叩いた。
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