102 / 118
南プロシアン王国編
サウジレジア海戦
しおりを挟む
熟練度に劣るタスタニアの船はよろよろと進み艦隊整列もままならなかった。
これをみた南プロシアン海軍はタスタニア海軍を嘲笑った。
ナサレノは赤子の手を握り潰すようなものと勝利を確信していた。
南プロシアンの兵士たちはフロリアーナを生かしたまま捉えた者、斬り捨てて証拠の品を持参した者には莫大な恩賞が出ると通達が出ていたので、誰が恩賞を手に入れるか賭けをする者まで現れた。
まるで手掴みで金貨を取れるだけ取るゲームでもやるかのような感覚であった。
しかしこれがティファの作戦であったのだ。
もちろん海上での操船熟練度においては南プロシアン兵士たちの方が一枚も二枚も上手であろう。
だが、タスタニアの市民兵たちも二ヶ月の訓練で指令通りに動けるようになっていた。
戦闘が開始されると、南プロシアン海軍はティファの第一艦隊を包囲殲滅するために中央艦隊が後方に下がり、両翼が前に出る形となった。
そして前進してきたティファの第一艦隊を両翼が側面から攻撃するという作戦であった。
しかし、レイラとレジーナの後続艦隊に挟撃される恐れがあったので、両翼の艦隊は後陣のレイラとレジーナの艦隊へ攻撃するために前進してきた。
これを見て、まずレジーナの第三艦隊は右側の浅瀬に向かって逃げるような動きを見せた。
南プロシアンの左翼艦隊はそれを追撃したが、浅瀬を思うように速度が出せない南プロシアンの三段櫂船に対してレジーナの第三艦隊はのらりくらりと後方へ退却するように下がっていき、距離は縮まらなかった。
一方南プロシアンの右翼はタスタニアの左翼レイラの第二艦艦隊の側面まで船を進めたところで左へ旋回したが、ここでレイラの第二艦隊も右へ旋回して両艦隊は激しく衝突した。
この戦いは海上戦と漕ぎ手の熟練度に勝る南プロシアン艦隊が押す形となった。
これを見た南プロシアンの中央艦隊は勝機とみて後退から前進へ切り替えたが、これを狙っていたティファはよろよろした偽装の動きから一気に速度を上げて相手の軍船に体当たり攻撃を仕掛けた。
「いまだ!全軍全速前進!相手の横腹に突撃せよ」
ティファの号令でタスタニア艦隊は全速で南プロシアン中央艦隊の横っ腹に次々と衝突させた。
ディエクスリスと呼ばれる正面突破攻撃である。
船の先端には鋭い金属製衝角を取り付けてあり、南プロシアンの三段櫂船はこの攻撃により半数が動きを封じ込められてしまった。
さらにタスタニア兵士たちが次々と南プロシアンの船に飛び移って斬り込んでいった。
陸上戦ではタスタニアに分がある。
船上での白兵戦はタスタニアの一方的な展開となり、南プロシアンの兵士たちは斬り倒されるか海に飛び込んで逃げていき、こうなると、海戦で負けた事がなかった南プロシアンの兵士たちは恐怖にかられて、次々に敗走を始めた。
これまで海戦で敗れた事がなかったため、パニックに陥ったのである。
高みの見物を決め込んでいたナサレノは、自慢の艦隊が見るも無惨に撃沈されていく様子を目の当たりにし、顔を引き攣らせて退却命令を出し、主力艦アスガルドの敗走に他の船も慌てて退却していった。
「逃げる船は追わなくていい。反転して第二、第三艦隊と合流し、残る南プロシアン艦隊を挟撃する」
ティファは逃げる南プロシアン中央艦隊を追わずに第一艦隊を二手に分けて相手の挟撃に向かった。
レジーナの第三艦隊はティファの第一艦隊が相手を打ち破ったのを確認すると、のらりくらりの後退から一転して前進を開始した。
これに驚いた南プロシアン艦隊も対応しようとするが、そこへティファの第一が後方から迫ってきた。
前後から挟撃された南プロシアン左翼艦隊は一隻一隻刈り取られるように撃沈させられていった。
同様に一進一退の戦いをしていたレイラの第二艦隊にも第一艦隊が背後から南プロシアン艦隊を襲いかかり、これを見た南プロシアン艦隊は戦闘を放棄してサウジレジア海洋から逃走していった。
戦闘開始から三時間弱で圧倒的な差であったはずの戦いは南プロシアン海軍が百隻以上もの船を破壊されるか捕獲される事となった。
大臣のアレッシオは複雑な心境であった。
何かやってくるとは思っていたが、よもや最強を自負していた南プロシアンの海軍がここまでやられるとは想像していなかった。
フロリアーナ王女が国へ戻れるルートが出来た事は喜ばしいが、壊滅的打撃を受けた海軍の再編には少し時間がかかるであろう。
「船は造船すればまた元に戻る。今はフロリアーナ王女が戻って来られる事を素直に喜ぶべきであろうな」
ナサレノはタスタニア艦隊を待ち受けてサウジレジア海洋で沈めるつもりであったが、ティファに逆に誘い込まれたのだ。
相手は大陸最強艦隊。
まともにぶつかっては数の上から言っても勝ち目はない。
そう考えたティファは弱点である側面の片側を消す事が出来る浅瀬での戦いを選択したのだ。
湾岸線を沿う形で進行してきたのはこのためでもあった。
もちろん大きな理由としては、大海原に出てしまうと未熟な漕ぎ手が方向感覚を失ってしまうために、常に地が見えるように湾岸線を沿って行ったのがまず第一であったが。
南プロシアン海軍を撃破したタスタニアの軍船は一路南プロシアン本土に向けて進行した。
「フロリアーナ様、ようやく国へ戻れますね」
「そうだな。まだ何も終わってないから油断は禁物だが、ようやくここまで来れた事に胸を撫で下ろしている」
「このまま一気にナサレノを倒しましょう」
マリアの言葉にフロリアーナもうなづいた。
タスタニアはこの海戦の勝利から一気に南プロシアン本国へ進攻する速攻に出た。
理由は二つある。
一つはロマリア帝国との戦いもあるため、長期戦が出来ないからである。
もう一つは今回は奇策と言ってもいい作戦で勝利したが、時間的余裕を与えてしまうと南プロシアン海軍はまだ余力もあり、すぐに立て直して来る。
再度戦えば次は勝てる可能性が低く、逆にこちらが大損害を被るであろう。
虎の子の艦隊を撃沈されれば、タスタニアは一巻の終わりなので、相手に立て直しの時間を与えないためである。
制海権を取り、補給線の確保が出来ている今のうちに一気に攻め込むというのがティファたちの作戦であった。
これをみた南プロシアン海軍はタスタニア海軍を嘲笑った。
ナサレノは赤子の手を握り潰すようなものと勝利を確信していた。
南プロシアンの兵士たちはフロリアーナを生かしたまま捉えた者、斬り捨てて証拠の品を持参した者には莫大な恩賞が出ると通達が出ていたので、誰が恩賞を手に入れるか賭けをする者まで現れた。
まるで手掴みで金貨を取れるだけ取るゲームでもやるかのような感覚であった。
しかしこれがティファの作戦であったのだ。
もちろん海上での操船熟練度においては南プロシアン兵士たちの方が一枚も二枚も上手であろう。
だが、タスタニアの市民兵たちも二ヶ月の訓練で指令通りに動けるようになっていた。
戦闘が開始されると、南プロシアン海軍はティファの第一艦隊を包囲殲滅するために中央艦隊が後方に下がり、両翼が前に出る形となった。
そして前進してきたティファの第一艦隊を両翼が側面から攻撃するという作戦であった。
しかし、レイラとレジーナの後続艦隊に挟撃される恐れがあったので、両翼の艦隊は後陣のレイラとレジーナの艦隊へ攻撃するために前進してきた。
これを見て、まずレジーナの第三艦隊は右側の浅瀬に向かって逃げるような動きを見せた。
南プロシアンの左翼艦隊はそれを追撃したが、浅瀬を思うように速度が出せない南プロシアンの三段櫂船に対してレジーナの第三艦隊はのらりくらりと後方へ退却するように下がっていき、距離は縮まらなかった。
一方南プロシアンの右翼はタスタニアの左翼レイラの第二艦艦隊の側面まで船を進めたところで左へ旋回したが、ここでレイラの第二艦隊も右へ旋回して両艦隊は激しく衝突した。
この戦いは海上戦と漕ぎ手の熟練度に勝る南プロシアン艦隊が押す形となった。
これを見た南プロシアンの中央艦隊は勝機とみて後退から前進へ切り替えたが、これを狙っていたティファはよろよろした偽装の動きから一気に速度を上げて相手の軍船に体当たり攻撃を仕掛けた。
「いまだ!全軍全速前進!相手の横腹に突撃せよ」
ティファの号令でタスタニア艦隊は全速で南プロシアン中央艦隊の横っ腹に次々と衝突させた。
ディエクスリスと呼ばれる正面突破攻撃である。
船の先端には鋭い金属製衝角を取り付けてあり、南プロシアンの三段櫂船はこの攻撃により半数が動きを封じ込められてしまった。
さらにタスタニア兵士たちが次々と南プロシアンの船に飛び移って斬り込んでいった。
陸上戦ではタスタニアに分がある。
船上での白兵戦はタスタニアの一方的な展開となり、南プロシアンの兵士たちは斬り倒されるか海に飛び込んで逃げていき、こうなると、海戦で負けた事がなかった南プロシアンの兵士たちは恐怖にかられて、次々に敗走を始めた。
これまで海戦で敗れた事がなかったため、パニックに陥ったのである。
高みの見物を決め込んでいたナサレノは、自慢の艦隊が見るも無惨に撃沈されていく様子を目の当たりにし、顔を引き攣らせて退却命令を出し、主力艦アスガルドの敗走に他の船も慌てて退却していった。
「逃げる船は追わなくていい。反転して第二、第三艦隊と合流し、残る南プロシアン艦隊を挟撃する」
ティファは逃げる南プロシアン中央艦隊を追わずに第一艦隊を二手に分けて相手の挟撃に向かった。
レジーナの第三艦隊はティファの第一艦隊が相手を打ち破ったのを確認すると、のらりくらりの後退から一転して前進を開始した。
これに驚いた南プロシアン艦隊も対応しようとするが、そこへティファの第一が後方から迫ってきた。
前後から挟撃された南プロシアン左翼艦隊は一隻一隻刈り取られるように撃沈させられていった。
同様に一進一退の戦いをしていたレイラの第二艦隊にも第一艦隊が背後から南プロシアン艦隊を襲いかかり、これを見た南プロシアン艦隊は戦闘を放棄してサウジレジア海洋から逃走していった。
戦闘開始から三時間弱で圧倒的な差であったはずの戦いは南プロシアン海軍が百隻以上もの船を破壊されるか捕獲される事となった。
大臣のアレッシオは複雑な心境であった。
何かやってくるとは思っていたが、よもや最強を自負していた南プロシアンの海軍がここまでやられるとは想像していなかった。
フロリアーナ王女が国へ戻れるルートが出来た事は喜ばしいが、壊滅的打撃を受けた海軍の再編には少し時間がかかるであろう。
「船は造船すればまた元に戻る。今はフロリアーナ王女が戻って来られる事を素直に喜ぶべきであろうな」
ナサレノはタスタニア艦隊を待ち受けてサウジレジア海洋で沈めるつもりであったが、ティファに逆に誘い込まれたのだ。
相手は大陸最強艦隊。
まともにぶつかっては数の上から言っても勝ち目はない。
そう考えたティファは弱点である側面の片側を消す事が出来る浅瀬での戦いを選択したのだ。
湾岸線を沿う形で進行してきたのはこのためでもあった。
もちろん大きな理由としては、大海原に出てしまうと未熟な漕ぎ手が方向感覚を失ってしまうために、常に地が見えるように湾岸線を沿って行ったのがまず第一であったが。
南プロシアン海軍を撃破したタスタニアの軍船は一路南プロシアン本土に向けて進行した。
「フロリアーナ様、ようやく国へ戻れますね」
「そうだな。まだ何も終わってないから油断は禁物だが、ようやくここまで来れた事に胸を撫で下ろしている」
「このまま一気にナサレノを倒しましょう」
マリアの言葉にフロリアーナもうなづいた。
タスタニアはこの海戦の勝利から一気に南プロシアン本国へ進攻する速攻に出た。
理由は二つある。
一つはロマリア帝国との戦いもあるため、長期戦が出来ないからである。
もう一つは今回は奇策と言ってもいい作戦で勝利したが、時間的余裕を与えてしまうと南プロシアン海軍はまだ余力もあり、すぐに立て直して来る。
再度戦えば次は勝てる可能性が低く、逆にこちらが大損害を被るであろう。
虎の子の艦隊を撃沈されれば、タスタニアは一巻の終わりなので、相手に立て直しの時間を与えないためである。
制海権を取り、補給線の確保が出来ている今のうちに一気に攻め込むというのがティファたちの作戦であった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる