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南プロシアン王国編
オスカーとニーナ 後編
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「殿下、この部屋は来賓客の宿泊に使用しているもので、普段は人の出入りはございません。それにパトリック卿は父上がお相手しておりますのでご安心下さい」
「色々と手配してもらってすまぬな」
「シュトライト家はオスカー殿下にお力添えをする事をお約束したのです。これくらいお気になさらないで下さい」
ニーナが父親に言った決意とは皇帝ルーファスを倒す事であった。
元々シュトライト家は先代ミカエルに味方していたのだが、フィリップはルーファスのやり方にこの国の行く末に不安を感じ、この先ルーファスに付くか次の国を継ぐ者に力添えをするかの選択に迫られていた。
そんな時、ニーナは父フィリップに「今の皇太子の中で誰に付くのかと言うのであれば、私はオスカー殿下に付きます」と宣言したのである。
ニーナの言葉に驚いたフィリップがその理由を聞くと次のような答えが返ってきた。
「一つはシュタインベルク伯爵の存在です。我がシュトライト家はシュタインベルク伯爵とは古くからの知り合いですので、私も何度かお会いした事があります。
あの伯爵はやや曲者ではありますが、人を見る目は長けています。オスカー卿が本当に惰弱であれば、味方に付くとは思えません。あの伯爵が味方に付いているというのは何か見所があるからではないかと思うのです」
「なるほど。他にも理由があるのか?」
「もう一つはモニカ姫の存在です。彼女は国民的ヒーローでもあり、武芸に秀でている事でも有名です。そのモニカ姫もオスカー卿と仲がいい兄妹だと聞いています。
ルーファスを始めとする親、兄弟とは犬猿の仲で、唯一オスカー卿のみと仲がいいという事です。宮殿内にこの二人が味方につく人物が果たして惰弱なのか?そう考えるとオスカー卿の惰弱は自身をルーファスの粛正から身を守る為のものではないかと推測したのです」
フィリップはニーナの推測に感心した。
「ニーナ、お前はこのシュトライト家の跡継ぎだ。お前がそう決めたのならば、シュトライト家は今後オスカー殿下を陰ながら支える事にしよう。私が全面支援する。お前の望む通りにやるといい」
と全面的に協力をしてくれる事となったのだ。
フィリップはさっそくシュタインベルク伯爵に声を掛けてオスカーとニーナを引き合わせ、以降二人は皇帝ルーファス打倒のために裏で手を結ぶ事となったのである。
こうして、父であるフィリップ公爵が二、三ヶ月に一度晩餐会を開催して、その都度オスカーを招待しニーナと裏で皇帝ルーファス打倒の準備を着々と進めていたのだ。
貴族間では晩餐会など日常茶飯事なので、怪しまれずに顔合わせが出来る絶好の催しであった。
「ニーナ、本題に入りたいが、その前に一つ気になる点がある。ルーファスは私がクーデターを起こそうとしているのを薄々気が付いているように思えてな。細心の注意を払っているが、それでも油断のならぬ相手だからな」
「相手はルーファス。殿下がそうお感じになるのであれば、既に殿下のお心を見抜いていると見てお間違えないでしょう。そうなればタスタニアが南プロシアンとの戦いで動けない今、こちらも行動を起こす絶好の機会です」
ニーナはそう言うと地図を持ち出してきてテーブルの上に広げた。
「まず手始めに首都ハーフェンの北に位置するドナウゼンとハルバッハ、エスファンの三都市を占領している反乱軍と手を結び、これを首都ハーフェンとルーファス攻略の足掛かりとします」
この三都市はイアル民族以外の民族が奴隷や重労働に従事させられるために作られた収容所があり、ルーファスに反感が高い地域であった。
ここを打倒ルーファスを掲げてオスカーが立てば地盤が築ける事になる。
ニーナはそれに目をつけて、既にユージット民族とネープ民族の貴族たちに書簡を送っていた。
「次にフェルデンです。ここは殿下の妹君であるモニカ姫が目をつけたセリア・フォン・フレーベルが守る地でもあり、帝国の主要網が集約された重要拠点です。セリアを味方に付けてフェルデンも支配下に収めれば帝国の主要道路を抑える事になります」
「わかっている。モニカに任せているが、セリアという人物のフリードリヒ家嫌いは相当なものらしくてな。モニカももう少し時間が欲しいと言っている」
「かなり厄介ですね。人の気持ちはそう簡単には変えられませんから。しかし私もセリアという人物を調べましたところ、戦いで功績を上げて出世したいという出世欲は人の何倍もありますが、基本は戦いを終わらせて平和な国を築きたいという考えのようです。
この点に関しては私たちと考えは一致しています。ルーファスを倒して新たな国を作ると殿下とモニカ様が説得すれば味方に付いてくれると思います」
「そうか。そうなってくれる事を期待しよう。タスタニアとはこれ以上戦うべきではない。早急に和平の道を探り戦争終結に向かわなければ、新たな敵に対して遅れを取る事になる」
「おっしゃる通りです」
オスカーとニーナは皇帝ルーファスを倒し、ロマリア帝国を統一してタスタニアとの戦争を早期終結させる事に全力を注いでいた。
それはさらなる巨大な敵に対抗するために不可欠であったのだ。
「色々と手配してもらってすまぬな」
「シュトライト家はオスカー殿下にお力添えをする事をお約束したのです。これくらいお気になさらないで下さい」
ニーナが父親に言った決意とは皇帝ルーファスを倒す事であった。
元々シュトライト家は先代ミカエルに味方していたのだが、フィリップはルーファスのやり方にこの国の行く末に不安を感じ、この先ルーファスに付くか次の国を継ぐ者に力添えをするかの選択に迫られていた。
そんな時、ニーナは父フィリップに「今の皇太子の中で誰に付くのかと言うのであれば、私はオスカー殿下に付きます」と宣言したのである。
ニーナの言葉に驚いたフィリップがその理由を聞くと次のような答えが返ってきた。
「一つはシュタインベルク伯爵の存在です。我がシュトライト家はシュタインベルク伯爵とは古くからの知り合いですので、私も何度かお会いした事があります。
あの伯爵はやや曲者ではありますが、人を見る目は長けています。オスカー卿が本当に惰弱であれば、味方に付くとは思えません。あの伯爵が味方に付いているというのは何か見所があるからではないかと思うのです」
「なるほど。他にも理由があるのか?」
「もう一つはモニカ姫の存在です。彼女は国民的ヒーローでもあり、武芸に秀でている事でも有名です。そのモニカ姫もオスカー卿と仲がいい兄妹だと聞いています。
ルーファスを始めとする親、兄弟とは犬猿の仲で、唯一オスカー卿のみと仲がいいという事です。宮殿内にこの二人が味方につく人物が果たして惰弱なのか?そう考えるとオスカー卿の惰弱は自身をルーファスの粛正から身を守る為のものではないかと推測したのです」
フィリップはニーナの推測に感心した。
「ニーナ、お前はこのシュトライト家の跡継ぎだ。お前がそう決めたのならば、シュトライト家は今後オスカー殿下を陰ながら支える事にしよう。私が全面支援する。お前の望む通りにやるといい」
と全面的に協力をしてくれる事となったのだ。
フィリップはさっそくシュタインベルク伯爵に声を掛けてオスカーとニーナを引き合わせ、以降二人は皇帝ルーファス打倒のために裏で手を結ぶ事となったのである。
こうして、父であるフィリップ公爵が二、三ヶ月に一度晩餐会を開催して、その都度オスカーを招待しニーナと裏で皇帝ルーファス打倒の準備を着々と進めていたのだ。
貴族間では晩餐会など日常茶飯事なので、怪しまれずに顔合わせが出来る絶好の催しであった。
「ニーナ、本題に入りたいが、その前に一つ気になる点がある。ルーファスは私がクーデターを起こそうとしているのを薄々気が付いているように思えてな。細心の注意を払っているが、それでも油断のならぬ相手だからな」
「相手はルーファス。殿下がそうお感じになるのであれば、既に殿下のお心を見抜いていると見てお間違えないでしょう。そうなればタスタニアが南プロシアンとの戦いで動けない今、こちらも行動を起こす絶好の機会です」
ニーナはそう言うと地図を持ち出してきてテーブルの上に広げた。
「まず手始めに首都ハーフェンの北に位置するドナウゼンとハルバッハ、エスファンの三都市を占領している反乱軍と手を結び、これを首都ハーフェンとルーファス攻略の足掛かりとします」
この三都市はイアル民族以外の民族が奴隷や重労働に従事させられるために作られた収容所があり、ルーファスに反感が高い地域であった。
ここを打倒ルーファスを掲げてオスカーが立てば地盤が築ける事になる。
ニーナはそれに目をつけて、既にユージット民族とネープ民族の貴族たちに書簡を送っていた。
「次にフェルデンです。ここは殿下の妹君であるモニカ姫が目をつけたセリア・フォン・フレーベルが守る地でもあり、帝国の主要網が集約された重要拠点です。セリアを味方に付けてフェルデンも支配下に収めれば帝国の主要道路を抑える事になります」
「わかっている。モニカに任せているが、セリアという人物のフリードリヒ家嫌いは相当なものらしくてな。モニカももう少し時間が欲しいと言っている」
「かなり厄介ですね。人の気持ちはそう簡単には変えられませんから。しかし私もセリアという人物を調べましたところ、戦いで功績を上げて出世したいという出世欲は人の何倍もありますが、基本は戦いを終わらせて平和な国を築きたいという考えのようです。
この点に関しては私たちと考えは一致しています。ルーファスを倒して新たな国を作ると殿下とモニカ様が説得すれば味方に付いてくれると思います」
「そうか。そうなってくれる事を期待しよう。タスタニアとはこれ以上戦うべきではない。早急に和平の道を探り戦争終結に向かわなければ、新たな敵に対して遅れを取る事になる」
「おっしゃる通りです」
オスカーとニーナは皇帝ルーファスを倒し、ロマリア帝国を統一してタスタニアとの戦争を早期終結させる事に全力を注いでいた。
それはさらなる巨大な敵に対抗するために不可欠であったのだ。
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