ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

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南プロシアン王国編

オスカーとニーナ 前編

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ロマリア帝国の貴族たちは、前線でルンベルク要塞の兵士たちやフェルデンのセリアたちが戦いと防衛をしている間も首都ハーフェンの宮殿で夜な夜な晩餐会や舞踏会を開催していた。

そこは貴族たちそれぞれの思惑や打算で満ち溢れていた。
この夜にシュトライト公爵が開いた晩餐会にも数多くの侯爵、伯爵たちが招かれていた。
フィリップ・フォン・シュトライト公爵は四十五歳になる。

シュトライト家はロマリア帝国が建国される以前には今の首都ハーフェンのあった旧ハーフェン王国でも有数の家柄で、フィリップの父であるマルクスは若き日の初代皇帝ミカエル一世にこれは将来大物になると投資を行い、陰からロマリア帝国建国を支えた人物でもある。

その功績でシュトライト家は帝国公爵の身分を与えられ、フリードリヒ一族に次ぐ地位を手にしたのである。
マルクスの後を継ぎシュトライト家の当主となったフィリップもまたすぐれた政治手腕を発揮し、首都ハーフェンの南に位置する港町リスホルンを統治する地位でもあった。

帝国のナンバーツーであるシュトライト公爵に少しでも近づいて恩恵にあやかろうする貴族たちで晩餐会は盛況であった。
伯爵や男爵たちにとって、シュトライト公爵と肩を並べて会話をするだけでも栄誉になるとあって、シュトライト公爵は一晩で何百人もの人間と挨拶をしなければならなかった。

そしてこの日の晩餐会には皇太子パトリックにオスカーとシュタインベルク伯爵も招かれていた。
パトリックにはシュトライト公爵自ら挨拶に赴いた。

「パトリック殿下、本日はお越し頂き光栄でございます」

「シュトライト閣下はロマリア帝国の元老とも言えるお方。そのお方のお誘いを断るのは無礼というものですからな」

「今夜の晩餐会は、殿下の日頃の政務のお疲れをご慰労するために開催させて頂きました。どうぞごゆっくりお楽しみ下さい」

「これはお心遣い感謝致します」

オスカーはこの晩餐会でも「惰弱」を装いパトリックより目立たない姿で最低限の挨拶だけ済ませると部屋の隅のテーブルで少しだけワインを飲んでいた。

「オスカー殿下」

オスカーに声を掛けお辞儀をしたのはシュトライト公爵の娘、ニーナ・フォン・シュトライトであった。
ニーナはこの年で二十歳になる。
シュトライト一族は優秀な人材が揃っていたが、その中でもニーナは一族の将来を期待された才能を持っていた。

ロマリア帝国ナンバーツーの家柄の娘なだけに、婚約の話しは数十どころか百を軽く超えていたが、ニーナには父であるフィリップに伝えた決意があった。
その決意を果たすまで結婚はしないと決めてフィリップもそれを容認したのである。
身長百六十センチ。ロングヘアの茶髪に緑色の瞳。
公爵の娘というだけあって教養も高く美人であった。

その容姿に惹かれた者や公爵の地位を狙う貴族たちに何度も声をかけられ、呼び止められたが、社交辞令の会釈だけで済ますとオスカーの元へと足を運んだのだ。

「ニーナ、しばらく見ないうちにまた綺麗になったな」

「しばらくと申されても三ヶ月ほどですよ。殿下も随分とお世辞が上手になられましたね」

そう言ってニーナはにこりと笑ったが、すぐに笑みは消えて真剣な面持ちに変わった。

「殿下、別室をご用意してあります。どうぞ、こちらへ」

ニーナはオスカーを晩餐会の会場から別室へと案内した。
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