88 / 118
南プロシアン王国編
ルーファスの問い
しおりを挟む
ロマリア帝国首都ハーフェンの宮殿アンタレスでは皇帝ルーファスにオスカーが呼ばれていた。
ルーファスが直々にオスカーを呼び出す事はほぼ無いため、オスカーはこちらの動向が知れたのではと不安を感じながら出向いたが、ルーファスは唐突にオスカーに二人の兄について質問してきた。
「オスカーよ、お前はパトリックをどう見ておる?予の後継者たるに相応しいと思うか?」
その問いにオスカーは内心驚いたが、努めて冷静に表情を出さないようにして質問を返した。
「私はその考えを述べるよりも、何故そのような質問を陛下が私になさるのかがわかりかねます。願わくば、私の愚見をお聞き下さる理由をお聞かせ頂ければと存じます」
「深く考えなくともよい。同じ質問を他の二人にもしておるからな。お前たち兄弟が互いをどう思っているのかを知りたいだけだ」
オスカーは皇帝ルーファスの真意が読み取れず、この場で思っている事を全て話すのは得策でないとあえて自重して答えた。
「では私の愚見を申し上げます。パトリック卿は風格も備わっておりますし、現段階では一番陛下の跡継ぎに近い存在である事は私も認めております。しかしながらパトリック卿には決断力が今ひとつ感じられません」
「ほう、どういったところにだ?」
「パトリック卿は後継者の第一候補としての自覚が高うございますが、ご自身の立場を守る気持ちが強い故に、ここ一番の決断力が鈍る傾向がございます。これはいざと言う時に相手に先手を取られ、後手後手に回る事となり、あまりいいとは申し上げられません」
「なるほど。ではお前はパトリックよりもバスティアンが良いというのか?」
「バスティアン卿は勇猛ですが、時に行動が度と超えてしまう事がございます。確かに戦えば強いのはバスティアン卿でしょうが、総合的に見れば後継者はやはりパトリック卿でございましょう」
「理由は?」
「消去法に過ぎません。勇猛ですが行動が度を超えてしまうバスティアン卿と、決断が遅いですがその分慎重なパトリック卿。どちらか一人残すならパトリック卿というだけです。私にはそれ以上申し上げられません」
「それではお前はどうなのだ?自分が兄二人を追いやって後継者になろうとは考えないのか?」
「恐れ多くも私は陛下の嫡子ではございませんし、三男の身。上に正当な後継者である陛下の御子息二人がいるのにどうして後継者になれましょう。私はどちらが後継者になったとしても、それに従うのみでございます」
「欲がないのだな。それは時にいい結果を生まぬ事もあるぞ」
「あまり欲深くてもいい結果は得られません。これも度の問題でございましょう」
「そうか。予はお前が三人の中で一番能力があると見ておったがな」
オスカーは内心冷や汗をかいていた。
よもや自分の考えが読まれている?
しかしここまで細心の注意を払って己の実力を隠していた。
ルーファスにそれを見破られたとなると、最悪すべてが水泡に帰す事となってしまう。
「予の後継者に相応しいのは誰か。いずれ白黒付けさせる機会を設ける必要があるな」
ルーファスは不気味な薄笑いを浮かべたが、オスカーはルーファスがオスマン帝国のように後継者争いで勝ち残った者を後継者とするやり方を再現しようとしているでは?と考えていた。
(だとすると俺もいずれパトリック、バスティアンのどちらかと戦わされる事になるな)
「それから余談だが、辺境地南プロシアンの宰相とか申す者が我々と手を結びたいと言ってきたが、辺境地の宰相如きが我が帝国を手を結ぶなど人間が猿と協力するような物であろう。その場で書簡を破り捨てたわ」
ルーファスはそう言って笑った。
オスカーはクーデターを起こしたその宰相はおそらくフロリアーナとタスタニアによって倒されるであろう事を予測していたので、この件に関しては「御意」とひと言返答するにとどめた。
ルーファスが直々にオスカーを呼び出す事はほぼ無いため、オスカーはこちらの動向が知れたのではと不安を感じながら出向いたが、ルーファスは唐突にオスカーに二人の兄について質問してきた。
「オスカーよ、お前はパトリックをどう見ておる?予の後継者たるに相応しいと思うか?」
その問いにオスカーは内心驚いたが、努めて冷静に表情を出さないようにして質問を返した。
「私はその考えを述べるよりも、何故そのような質問を陛下が私になさるのかがわかりかねます。願わくば、私の愚見をお聞き下さる理由をお聞かせ頂ければと存じます」
「深く考えなくともよい。同じ質問を他の二人にもしておるからな。お前たち兄弟が互いをどう思っているのかを知りたいだけだ」
オスカーは皇帝ルーファスの真意が読み取れず、この場で思っている事を全て話すのは得策でないとあえて自重して答えた。
「では私の愚見を申し上げます。パトリック卿は風格も備わっておりますし、現段階では一番陛下の跡継ぎに近い存在である事は私も認めております。しかしながらパトリック卿には決断力が今ひとつ感じられません」
「ほう、どういったところにだ?」
「パトリック卿は後継者の第一候補としての自覚が高うございますが、ご自身の立場を守る気持ちが強い故に、ここ一番の決断力が鈍る傾向がございます。これはいざと言う時に相手に先手を取られ、後手後手に回る事となり、あまりいいとは申し上げられません」
「なるほど。ではお前はパトリックよりもバスティアンが良いというのか?」
「バスティアン卿は勇猛ですが、時に行動が度と超えてしまう事がございます。確かに戦えば強いのはバスティアン卿でしょうが、総合的に見れば後継者はやはりパトリック卿でございましょう」
「理由は?」
「消去法に過ぎません。勇猛ですが行動が度を超えてしまうバスティアン卿と、決断が遅いですがその分慎重なパトリック卿。どちらか一人残すならパトリック卿というだけです。私にはそれ以上申し上げられません」
「それではお前はどうなのだ?自分が兄二人を追いやって後継者になろうとは考えないのか?」
「恐れ多くも私は陛下の嫡子ではございませんし、三男の身。上に正当な後継者である陛下の御子息二人がいるのにどうして後継者になれましょう。私はどちらが後継者になったとしても、それに従うのみでございます」
「欲がないのだな。それは時にいい結果を生まぬ事もあるぞ」
「あまり欲深くてもいい結果は得られません。これも度の問題でございましょう」
「そうか。予はお前が三人の中で一番能力があると見ておったがな」
オスカーは内心冷や汗をかいていた。
よもや自分の考えが読まれている?
しかしここまで細心の注意を払って己の実力を隠していた。
ルーファスにそれを見破られたとなると、最悪すべてが水泡に帰す事となってしまう。
「予の後継者に相応しいのは誰か。いずれ白黒付けさせる機会を設ける必要があるな」
ルーファスは不気味な薄笑いを浮かべたが、オスカーはルーファスがオスマン帝国のように後継者争いで勝ち残った者を後継者とするやり方を再現しようとしているでは?と考えていた。
(だとすると俺もいずれパトリック、バスティアンのどちらかと戦わされる事になるな)
「それから余談だが、辺境地南プロシアンの宰相とか申す者が我々と手を結びたいと言ってきたが、辺境地の宰相如きが我が帝国を手を結ぶなど人間が猿と協力するような物であろう。その場で書簡を破り捨てたわ」
ルーファスはそう言って笑った。
オスカーはクーデターを起こしたその宰相はおそらくフロリアーナとタスタニアによって倒されるであろう事を予測していたので、この件に関しては「御意」とひと言返答するにとどめた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる