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南プロシアン王国編
マルコ伯爵
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話しは数時間前に遡る。
首都オルジュの城門に初老の紳士っぽい人物が近づいてきた。
紳士っぽいと言うのは、身なりは立派であったが服や靴がボロボロだったのだ。
何日も彷徨い歩き続けてここまでたどり着いたのが見て取れる姿であった。
「私は南プロシアン王国の伯爵でマルコと申します。ここにフロリアーナ王女が訪ねてきてはおりませんでしょうか?」
門番はパトリシアから出ていた連絡を受けていたので、すぐに隊長を呼びに向かった。
報告を受けた隊長がすぐに城門に駆けつけてマルコ伯爵を向かい入れた。
「マルコ伯爵。お話しは伺っております。フロリアーナ王女はご無事でございます。私がご案内致しましょう。しかしそのお姿は。。」
「お見苦しい姿をお見せして申し訳ございません。追手から逃げるのと、フロリアーナ様を一刻も早くお探しするために、ろくに食も睡眠も取らずに来たものですから。しかしご無事で何よりです。感謝致します」
「宮殿に向かわれる前に宿舎にご案内して着替えと食事をご用意致します。フロリアーナ様もそちらにお呼び致しましょう」
「お心遣いありがとうございます」
こうしてマルコは宿舎に案内されると、着替えに食事を提供されて、フロリアーナが来るまでここでゆっくり休むように労われた。
警備隊長からの報告を聞き終えてフロリアーナは安堵の表情を浮かべた。
「それでじいはいまどこにいるのだ?」
「フロリアーナ様が最初に立ち寄られました宿舎で休まれております。ご案内致しますのでどうぞこちらへ」
「フロリアーナ様、私も一緒に参ります」
パトリシアもフロリアーナと共にマルコ伯爵を迎えに出向いた。
「シャローラ、船の造船と反乱軍の制圧を含めると四ヶ月以上は見積もらないとだめだけど、どれくらいロマリア帝国の動きを封じ込められるかが鍵になるね」
「正直四ヶ月は厳しいな。やはりレオニードを出撃させるしかなさそうね」
シャローラの言葉にティファは先日のレオニードとのやり取りを思い出していた。
「あの男を出撃させたら、兵士たちの犠牲が増えるだけ。もちろん出撃させるだけで戦闘行為がなければいいんだけど、出撃だけして威嚇だけで戦闘するなと言ってもあの男は命令無視して、自分の功績のためだけに下手戦をやるだろうね」
「無能な上官の下で働かさせる兵士たちほど気の毒なものはないね」
「レオニードは無能じゃないよ。単に短気で、性格悪くて、度量がなくて、無計画で、威勢がいいだけの何も出来ない人間だよ」
「凄い遠回しに無能と言ってるね」
ティファの言葉にシャローラが苦笑した。
「さて、私も動くとするよ。すでに私が流したバスティアンの謀反の噂はロマリア帝国にも流れ始めているはず。早めに次の手を打つために動かなきゃ」
シャローラとティファは互いに見つめ合ってうなづいた。
⭐︎⭐︎⭐︎
「じい、よく無事でいてくれた」
「フロリアーナ様こそ、よくぞご無事で。タスタニアの皆様、感謝致します」
「マルコ伯爵無事で何よりでした」
「こ心配おかけ致しました」
パトリシアも無事到着したマルコを労った。
「じい。ナサレノは私がタスタニアに亡命した事はすでに知っているだろう。近いうちに何らかの手段に出て来るだろうな」
「はい。おそらくは。あの男は欲の塊ですからな。欲しいと思った物は何がなんでも奪い取ろうとするでしょう」
「先程国王の前でもお話ししたのですが、ナサレノは海軍を叩かない限りフロリアーナ様を狙ってくるでしょう。そのためにも造船を急がせます」
「失礼ながら、タスタニアは海軍力で対抗出来るのですか?」
「いえ。残念ですが、現時点では勝負にならない程の差があります。これを少しでも埋めるべく、三ヶ月で中型船を百隻の建造を計画しています」
マルコの問いにパトリシアが答えた。
「そうですか。南プロシアン艦隊は大型船がほほ占めております。それに中型船で対抗出来るのですか?」
「大きいなら大きいなりの戦い方があるように、小さいなら小さいなりの戦い方があります。私たちは私たちの出来る限りの最善を尽くします」
パトリシアの答えはどこか歯切れが悪かったが、決して自信がない訳ではない。
この場での大言壮語や根拠のない言葉を発しないよう慎重に答えたと言った方がいいかも知れない。
「私も微力ながらお手伝い致しましょう。戦艦の建築構造なら我が家に伝わる設計図がございますからな」
「じい、設計図など私は見た事ないのだが、そんな物持っているのか?」
「設計図と申しましても書面に書かれたものでさございません。私の頭の中にあるという事です」
マルコの申し出にパトリシアは感謝した。
「建造法を知る方がいてくれたら百人、いえ千人力です。お手数おかけしますが、ぜひお願い致します」
「お安い御用ですよ。フロリアーナ様をお守り下さった上に、私たちの国を助けてもらうのですから」
こうしてマルコ伯爵の指導の元、戦艦の建築が急ピッチで勧められていった。
パトリシアはこの造船の際に将来のためにも書面の設計図は残した方がいいと考えて、職人たちを集めて造船設計図を作らせた。
これはタスタニアにとって建造技術を普及させるために必要であった。
これまで職人しか出来なかった造船を、設計図と資材があれば一般人でも出来るようにするためである。
こうしてタスタニアの造船は予想を超えるスピードで進められていった。
首都オルジュの城門に初老の紳士っぽい人物が近づいてきた。
紳士っぽいと言うのは、身なりは立派であったが服や靴がボロボロだったのだ。
何日も彷徨い歩き続けてここまでたどり着いたのが見て取れる姿であった。
「私は南プロシアン王国の伯爵でマルコと申します。ここにフロリアーナ王女が訪ねてきてはおりませんでしょうか?」
門番はパトリシアから出ていた連絡を受けていたので、すぐに隊長を呼びに向かった。
報告を受けた隊長がすぐに城門に駆けつけてマルコ伯爵を向かい入れた。
「マルコ伯爵。お話しは伺っております。フロリアーナ王女はご無事でございます。私がご案内致しましょう。しかしそのお姿は。。」
「お見苦しい姿をお見せして申し訳ございません。追手から逃げるのと、フロリアーナ様を一刻も早くお探しするために、ろくに食も睡眠も取らずに来たものですから。しかしご無事で何よりです。感謝致します」
「宮殿に向かわれる前に宿舎にご案内して着替えと食事をご用意致します。フロリアーナ様もそちらにお呼び致しましょう」
「お心遣いありがとうございます」
こうしてマルコは宿舎に案内されると、着替えに食事を提供されて、フロリアーナが来るまでここでゆっくり休むように労われた。
警備隊長からの報告を聞き終えてフロリアーナは安堵の表情を浮かべた。
「それでじいはいまどこにいるのだ?」
「フロリアーナ様が最初に立ち寄られました宿舎で休まれております。ご案内致しますのでどうぞこちらへ」
「フロリアーナ様、私も一緒に参ります」
パトリシアもフロリアーナと共にマルコ伯爵を迎えに出向いた。
「シャローラ、船の造船と反乱軍の制圧を含めると四ヶ月以上は見積もらないとだめだけど、どれくらいロマリア帝国の動きを封じ込められるかが鍵になるね」
「正直四ヶ月は厳しいな。やはりレオニードを出撃させるしかなさそうね」
シャローラの言葉にティファは先日のレオニードとのやり取りを思い出していた。
「あの男を出撃させたら、兵士たちの犠牲が増えるだけ。もちろん出撃させるだけで戦闘行為がなければいいんだけど、出撃だけして威嚇だけで戦闘するなと言ってもあの男は命令無視して、自分の功績のためだけに下手戦をやるだろうね」
「無能な上官の下で働かさせる兵士たちほど気の毒なものはないね」
「レオニードは無能じゃないよ。単に短気で、性格悪くて、度量がなくて、無計画で、威勢がいいだけの何も出来ない人間だよ」
「凄い遠回しに無能と言ってるね」
ティファの言葉にシャローラが苦笑した。
「さて、私も動くとするよ。すでに私が流したバスティアンの謀反の噂はロマリア帝国にも流れ始めているはず。早めに次の手を打つために動かなきゃ」
シャローラとティファは互いに見つめ合ってうなづいた。
⭐︎⭐︎⭐︎
「じい、よく無事でいてくれた」
「フロリアーナ様こそ、よくぞご無事で。タスタニアの皆様、感謝致します」
「マルコ伯爵無事で何よりでした」
「こ心配おかけ致しました」
パトリシアも無事到着したマルコを労った。
「じい。ナサレノは私がタスタニアに亡命した事はすでに知っているだろう。近いうちに何らかの手段に出て来るだろうな」
「はい。おそらくは。あの男は欲の塊ですからな。欲しいと思った物は何がなんでも奪い取ろうとするでしょう」
「先程国王の前でもお話ししたのですが、ナサレノは海軍を叩かない限りフロリアーナ様を狙ってくるでしょう。そのためにも造船を急がせます」
「失礼ながら、タスタニアは海軍力で対抗出来るのですか?」
「いえ。残念ですが、現時点では勝負にならない程の差があります。これを少しでも埋めるべく、三ヶ月で中型船を百隻の建造を計画しています」
マルコの問いにパトリシアが答えた。
「そうですか。南プロシアン艦隊は大型船がほほ占めております。それに中型船で対抗出来るのですか?」
「大きいなら大きいなりの戦い方があるように、小さいなら小さいなりの戦い方があります。私たちは私たちの出来る限りの最善を尽くします」
パトリシアの答えはどこか歯切れが悪かったが、決して自信がない訳ではない。
この場での大言壮語や根拠のない言葉を発しないよう慎重に答えたと言った方がいいかも知れない。
「私も微力ながらお手伝い致しましょう。戦艦の建築構造なら我が家に伝わる設計図がございますからな」
「じい、設計図など私は見た事ないのだが、そんな物持っているのか?」
「設計図と申しましても書面に書かれたものでさございません。私の頭の中にあるという事です」
マルコの申し出にパトリシアは感謝した。
「建造法を知る方がいてくれたら百人、いえ千人力です。お手数おかけしますが、ぜひお願い致します」
「お安い御用ですよ。フロリアーナ様をお守り下さった上に、私たちの国を助けてもらうのですから」
こうしてマルコ伯爵の指導の元、戦艦の建築が急ピッチで勧められていった。
パトリシアはこの造船の際に将来のためにも書面の設計図は残した方がいいと考えて、職人たちを集めて造船設計図を作らせた。
これはタスタニアにとって建造技術を普及させるために必要であった。
これまで職人しか出来なかった造船を、設計図と資材があれば一般人でも出来るようにするためである。
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