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南プロシアン王国編
初対面
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「フロリアーナ様、我々の体制が整うまではここでごゆっくりお過ごし下さい。それとマルコ伯爵は現在捜索しておりますので、時期に行方がわかると思います」
「いろいろと済まぬな」
「それと今日は私たちのリーダー的存在であるティファニー・オブ・エヴァンスとその妹で、マリアと同格の実力を持つ騎士レイラの二人がこのオルジュに到着致します。ティファニーは今回の作戦の中心となる者でフロリアーナ様にも是非お会い頂きたく存じます」
「お主たちのリーダー格とはさぞかし凄い人物なんだろうな。会うのが楽しみだな」
シャローラがフロリアーナ王女にマルコ伯爵の捜索とティファとレイラが来る事などを報告していた。
「じいは無事なら私がタスタニアに逃げ延びたと考えてじきにここへくるであろう」
「私どもも、いつマルコ伯爵が来られてもいいように城門の門番にも伝えております。ご無事であられるといいですね」
「ナサレノの狙いはこの私と王家の指輪だからな。じいは多少痛めつけられる事はあっても、命までは取られる事はないと思っているが」
「王家の指輪?」
「この右手の薬指に付けている指輪だ。私は父君からこの指輪を持つ者が南プロシアンの王となる証だと幼少から教えられてきた。父君には私しか子供が残らなかったからな」
フロリアーナの右手薬指には竜の紋章が入った指輪がはめられていた。
竜の紋章は南プロシアンの国旗でもあった。
アルベルト一世は男子に恵まれず、女の子ばかり三人が産まれた。
フロリアーナはその次女であった。
母親は三人目の出産時に子供と共に亡くなり、姉もまた病で亡くなって、アルベルト一世の後継者はフロリアーナ一人となっていた。
そのため、アルベルト一世はフロリアーナが幼少の頃から後継者としての教育をしていた。
臣下たちにも後継者はフロリアーナだと伝えて後継者争いが起きないために尽力していたが、表向き一番従順であったナサレノに謀反を起こされるなど考えてもいなかったであろう。
フロリアーナにしてみれば犬猿の仲であったナサレノが自分が後継者だと認めているわけがない事などわかっていたのだが。
「宰相ナサレノもそれを知っている以上、この指輪を狙って来ている。奴とは犬猿の仲だからな。私と婚約して正当な国の王となる事など奴は考えていまい。先日の追手から見ても私の命と指輪を奪うつもりでいるのは明白だ」
「しかし一国の王女様を暗殺したなどと民衆や他国に知られたら、暴動や侵略の餌食になります」
「ナサレノは口先だけは饒舌だからな。私が国と民衆を捨てて逃げたとでも言って民衆を煽動しているのだろう。そして私を始末して国王になった後は、王女は逃亡先で病に倒れて死んだと嘘の公表をし、出来もしない公約をいくつも掲げて上っ面だけはにこやかにしながら、民衆を天国から地獄へと突き落としていく事になろう」
シャローラは呆気に取られたが、他国の事に関して口を挟んでいいものか迷っていた。
フロリアーナはそれを察したのかにこりと笑った。
「シャローラ、お主の思うところがあったら遠慮なく言ってくれていいぞ。私は国に戻る事が出来たら、直すべきところは少しでも直していい国を作っていきたいのでな」
そう言われてシャローラは言いづらそうにしながらもひと言だけ疑問を投げた。
「公約というのは実行されないものの事を指し示すのでしょうか?」
古代イシュタニア帝国でも元老院に入閣するには、出来もしない公約を掲げて民衆からの票を得るのが常套手段になっていたようだが、シャローラにはそれが理解できなかった。
「自身の役職や階級を上げるには三、四しかない実力を十に見せるハッタリや、出来もしない公約を吹聴する話術も必要だという事であろうな。私もまだ十五歳だから、その点が理解出来ぬ。故にナサレノに不覚を取ってしまった」
「では逆に出来る事だけを確実にやっていけばよろしいのではないでしょうか」
「民衆というのは不思議なものでな。不可能な事に挑戦する形だけでも示せば困難に立ち向かう勇者として共感を得られる。一方で確実に出来る事をこなしていっても、当然のようにしか見てくれぬ。故に人の目を引くような"出来もしない公約"というものが定例化しているのだろう」
それを聞いてシャローラは考えていた。
理由はいくつかあろうが、具体的で実現可能な公約を掲げると、周囲からは出来て当然に見え、出来なかった時の言い訳が難しくダメージが大きい。
であれば、曖昧で実現が難しい。あるいは不可能に近いものを公約に掲げた方が見栄えもいいし、出来なかった時の言い訳が容易だという事なのだろう。
あとは守らなくても罰則もない。
信頼がなくなるであろうが、それもある程度計算に入れているのだろう。
そんな話しをしているうちにティファとレイラが迎賓館にやって来た。
「初めまして。私はティファニー・オブ・エヴァンスと申します。お会いできて光栄でございます」
「私は南プロシアン王国のフロリアーナ・アリゲッティ。この度はタスタニアの方々に大変世話になって済まないが、何卒よろしく頼む」
フロリアーナはティファとレイラの二人と初めて顔を合わせて挨拶したが、レイラにはマリアに匹敵する気を感じたが、ティファに関してはどう見ても普通の女性にしか見えなかった。
この人にどれだけの力があるのだろうと一瞬は疑問に思った。
だが、この一日足らずの間に出会ったマリアに、パトリシアとシャローラもフロリアーナの目には優れた人物に映っていた。
その三人が口を揃えて私たちのリーダー的存在というのだから、このティファニーという人物はやはり凄いのであろうなと思う事にしたのだ。
人は見た目で判断してはいけない。
ナサレノの一件だけでもフロリアーナは思い知らされていただけに、あらためて自分に言い聞かせるのだった。
「いろいろと済まぬな」
「それと今日は私たちのリーダー的存在であるティファニー・オブ・エヴァンスとその妹で、マリアと同格の実力を持つ騎士レイラの二人がこのオルジュに到着致します。ティファニーは今回の作戦の中心となる者でフロリアーナ様にも是非お会い頂きたく存じます」
「お主たちのリーダー格とはさぞかし凄い人物なんだろうな。会うのが楽しみだな」
シャローラがフロリアーナ王女にマルコ伯爵の捜索とティファとレイラが来る事などを報告していた。
「じいは無事なら私がタスタニアに逃げ延びたと考えてじきにここへくるであろう」
「私どもも、いつマルコ伯爵が来られてもいいように城門の門番にも伝えております。ご無事であられるといいですね」
「ナサレノの狙いはこの私と王家の指輪だからな。じいは多少痛めつけられる事はあっても、命までは取られる事はないと思っているが」
「王家の指輪?」
「この右手の薬指に付けている指輪だ。私は父君からこの指輪を持つ者が南プロシアンの王となる証だと幼少から教えられてきた。父君には私しか子供が残らなかったからな」
フロリアーナの右手薬指には竜の紋章が入った指輪がはめられていた。
竜の紋章は南プロシアンの国旗でもあった。
アルベルト一世は男子に恵まれず、女の子ばかり三人が産まれた。
フロリアーナはその次女であった。
母親は三人目の出産時に子供と共に亡くなり、姉もまた病で亡くなって、アルベルト一世の後継者はフロリアーナ一人となっていた。
そのため、アルベルト一世はフロリアーナが幼少の頃から後継者としての教育をしていた。
臣下たちにも後継者はフロリアーナだと伝えて後継者争いが起きないために尽力していたが、表向き一番従順であったナサレノに謀反を起こされるなど考えてもいなかったであろう。
フロリアーナにしてみれば犬猿の仲であったナサレノが自分が後継者だと認めているわけがない事などわかっていたのだが。
「宰相ナサレノもそれを知っている以上、この指輪を狙って来ている。奴とは犬猿の仲だからな。私と婚約して正当な国の王となる事など奴は考えていまい。先日の追手から見ても私の命と指輪を奪うつもりでいるのは明白だ」
「しかし一国の王女様を暗殺したなどと民衆や他国に知られたら、暴動や侵略の餌食になります」
「ナサレノは口先だけは饒舌だからな。私が国と民衆を捨てて逃げたとでも言って民衆を煽動しているのだろう。そして私を始末して国王になった後は、王女は逃亡先で病に倒れて死んだと嘘の公表をし、出来もしない公約をいくつも掲げて上っ面だけはにこやかにしながら、民衆を天国から地獄へと突き落としていく事になろう」
シャローラは呆気に取られたが、他国の事に関して口を挟んでいいものか迷っていた。
フロリアーナはそれを察したのかにこりと笑った。
「シャローラ、お主の思うところがあったら遠慮なく言ってくれていいぞ。私は国に戻る事が出来たら、直すべきところは少しでも直していい国を作っていきたいのでな」
そう言われてシャローラは言いづらそうにしながらもひと言だけ疑問を投げた。
「公約というのは実行されないものの事を指し示すのでしょうか?」
古代イシュタニア帝国でも元老院に入閣するには、出来もしない公約を掲げて民衆からの票を得るのが常套手段になっていたようだが、シャローラにはそれが理解できなかった。
「自身の役職や階級を上げるには三、四しかない実力を十に見せるハッタリや、出来もしない公約を吹聴する話術も必要だという事であろうな。私もまだ十五歳だから、その点が理解出来ぬ。故にナサレノに不覚を取ってしまった」
「では逆に出来る事だけを確実にやっていけばよろしいのではないでしょうか」
「民衆というのは不思議なものでな。不可能な事に挑戦する形だけでも示せば困難に立ち向かう勇者として共感を得られる。一方で確実に出来る事をこなしていっても、当然のようにしか見てくれぬ。故に人の目を引くような"出来もしない公約"というものが定例化しているのだろう」
それを聞いてシャローラは考えていた。
理由はいくつかあろうが、具体的で実現可能な公約を掲げると、周囲からは出来て当然に見え、出来なかった時の言い訳が難しくダメージが大きい。
であれば、曖昧で実現が難しい。あるいは不可能に近いものを公約に掲げた方が見栄えもいいし、出来なかった時の言い訳が容易だという事なのだろう。
あとは守らなくても罰則もない。
信頼がなくなるであろうが、それもある程度計算に入れているのだろう。
そんな話しをしているうちにティファとレイラが迎賓館にやって来た。
「初めまして。私はティファニー・オブ・エヴァンスと申します。お会いできて光栄でございます」
「私は南プロシアン王国のフロリアーナ・アリゲッティ。この度はタスタニアの方々に大変世話になって済まないが、何卒よろしく頼む」
フロリアーナはティファとレイラの二人と初めて顔を合わせて挨拶したが、レイラにはマリアに匹敵する気を感じたが、ティファに関してはどう見ても普通の女性にしか見えなかった。
この人にどれだけの力があるのだろうと一瞬は疑問に思った。
だが、この一日足らずの間に出会ったマリアに、パトリシアとシャローラもフロリアーナの目には優れた人物に映っていた。
その三人が口を揃えて私たちのリーダー的存在というのだから、このティファニーという人物はやはり凄いのであろうなと思う事にしたのだ。
人は見た目で判断してはいけない。
ナサレノの一件だけでもフロリアーナは思い知らされていただけに、あらためて自分に言い聞かせるのだった。
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