ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

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南プロシアン王国編

カルドザルス騎士団

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南プロシアン王国
三方が海に面したギガンティア大陸最南端の国。国土面積はタスタニアの四分の一ほどで人口八万五千人の小国である。
特産物は塩でその産出量は大陸全体の二割にも及び国の重要な資金源となっている。

他にも南国の温帯地域なだけあり、いい葡萄が採取出来る事もあってワインも特産品であった。
ワインは神の血と言われて、この時代には非常に高価な品物であったが、南プロシアン産のワインは大陸内の各国でも高い値段で取引され人気であった。
平和であったこの国がアルベルト一世の急死により動乱を迎えていた。

首都アイゼレリアにある王室一家が居住する宮殿「アイゼレリア」は現在宰相ナサレノが牛耳っていた。
ナサレノは宮殿のベランダに立つと下で見ている大勢の民衆の前でフロリアーナが国外に逃亡した事を伝えた。

「皆の者、非常に残念な事を報告せねばならない。フロリアーナ王女はこの国を見捨てて国外に逃亡した」

ナサレノの言葉に兵士と民衆は動揺した。

「フロリアーナ様が国を見捨てたって?」

「父君であるアルベルト王が築き上げた国を何故見捨てたんだ?」

民衆の動揺が広がっているのを見ながらナサレノは演説を続けた。

「私は大恩ある先王の御恩に報いるためにもフロリアーナ王女に代わりこの国を救いたい。無論、私は王家の一族ではないし、王位継承の資格もない事は重々承知している。しかしフロリアーナ王女がいなくなった今となっては宰相である私が国の舵取りをしなければこの国は迷走しまうだろう。さらには暴君皇帝ルーファスのいるロマリア帝国からの脅威にもさらされる事になる。皆の者、どうか私に力を貸して欲しい」

ナサレノがそう言うと兵士や民衆から拍手が巻き起こった。
それはだんだんと大きくなっていき、ナサレノは逃亡した王女に代わり南プロシアンを救うべく立ち上がった重臣の役を演じて見事に成功したのである。
この拍手もあらかじめ兵士や民衆に紛れ込ませた手下の誘導であった。

買収工作もフロリアーナよりナサレノの方が一枚上手で、宮廷の臣下のほとんどがナサレノに付き、フロリアーナはマルコ以外の味方を失ってしまい、国外に逃亡せざるを得ない状況に追い込まれたのである。
ナサレノはさらに自らの命令に忠実に従う親衛隊を作り上げ、逆らう者の粛清をおこなっていった。

「少しばかりうすら涙の一つでも浮かべてりゃ、コロッと騙されてこっちの思う壺よ。これだから愚民どもは扱いやすい」

演説後、王の間に戻ったナサレノは落ち着かない様子で追手からの報告を待っていたが、大臣アレッシオの報告と予想外の展開に怒りが込み上げていた。

「ナサレノ様、フロリアーナはどうやらタスタニア王国に助けを求めに行ったようです」

「タスタニアだと?」

「ザラメスの近くの宿でカルドザルス騎士三人の追手が倒されていました。宿の主人の話しでは、やったのはタスタニアの騎士という事でした。フロリアーナはその騎士と共にタスタニアに入国したようです」

「三人がかりで一人にやられたというのか?騎士団は何をしているのだ、役立たずどもが。フロリアーナをむざむざとタスタニアに入国させてしまったとは。タスタニアの兵力を持って攻め込んで来たら厄介な事になるぞ」

「ナサレノ様、タスタニアは今ロマリア帝国と戦争中でフロリアーナを助ける余裕などございますまい。亡命して保護してもらうだけであれば害はございません」

ナサレノは大臣であるアレッシオの言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻した。

「なるほど、タスタニアに逃げ込んだところで、奴の命が少しばかり延びただけと言う事か」

「左様でございます。万が一タスタニアがフロリアーナに協力して軍を差し向けたとしても、我が海軍は無敵。付け焼き刃のタスタニアの軍船など一網打尽にして身の程を思い知らせてやるだけでございます」

「アレッシオ。お前の言う通り、海上戦になれば我が海軍は敗れる事などないであろうが、面倒な仕事はなるべく早く終わらせた方がいいであろう。愚民どもに言ったように俺は王家の血筋ではない。王になるにはフロリアーナの持つ王家の指輪が必要だ。奴から指輪を奪い取らなければならぬ。指輪さえありゃフロリアーナの生死は問わぬ」

ナサレノはそう言うと近くにいた部下に声を掛けた。

「ヴィンセントを呼べ」

ナサレノが呼んだヴィンセントとはカルドザルス騎士団の団長ヴィンセント・ドルフィーニである。
身長は一九〇センチあり、その武力は南プロシアン最強と言われているが、気難しい性格で先王アルベルト一世のみに忠誠を誓い、他の者では使いこなせないと言われている人物である。

「お呼びでしょうか?」

「ヴィンセントよ、フロリアーナの追手として差し向けた騎士団三人がたった一人のタスタニアの騎士にやられたそうだ。カルドザルス騎士団は新興国の無名の騎士一人にやられる程度だったとは知らなんだぞ」

「誰が団長の私に無断でカルドザルス騎士団を動かした?カルドザルス騎士団を侮辱する事は許さぬ」

「侮辱される程度の実力しか持たぬであろう」

「侮辱される程度とは、どの程度だ?」

ヴィンセントはナサレノを睨みつけた。
しかしナサレノはそれに動じる事もなく言葉を続けた。

「ヴィンセント、団長たるお主はそうではあるまい。騎士団から選りすぐりの者を選別してタスタニアへ潜入し、フロリアーナから王家の指輪を奪って俺のところに持ってこい。フロリアーナは斬り捨てて構わぬ。奴に味方するタスタニアの兵士も同様だ」

「上から命令するだけの立場のお方はいいご身分でございますな。私にはなれそうもありません。自分では何もせず命令するだけの立場とあなた以下の人間には」

ヴィンセントはそう吐き捨てるように言いながら出撃準備のため、王室から出て行った。
ナサレノはヴィンセントの言葉に怒り心頭であった。

「何という無礼な。たかが騎士団団長の分際で」

「ナサレノ様、抑えて下さい。カルドザルス騎士団は我が国最強の武力を持つ騎士の集まり。これを敵に回すような事になれば、国王の座どころじゃなくなりますぞ」

アレッシオそう言われてナサレノはかろうじて怒りを堪えた。

「国王の座が手に入るまでの辛抱という事か」

「王家の指輪と国王の座を手に入れれば、あのような騎士団などどうにでもなります。今は役に立つ物は使うべきでございます」

「頭に来るが、お前の言う通りだ。今いっときの辛抱をしよう。指輪が手に入ったらヴィンセントも騎士団もフロリアーナもまとめて始末してやる」

(何かある度に癇癪を起こし、その都度落ち着かせなければならぬ。この男がこの国の王などになったら国が滅びるだろう)

アレッシオはナサレノの暴走を何とか食い止めていたが、それもいつまで持つか自分でも自信がなかった。
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