ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

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南プロシアン王国編

謎の少女

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マリアが刀の手入れを終えてザラメスの街から出て馬に乗ろうとした時、一人の少女がマリアの愛馬マリオンの側に立っていた。

「お主そこで何をしているのだ?」

「馬が必要なの」

「馬が?馬でどこに行くつもりだ」

「タスタニア王国」

「タスタニアへ?お主どこの国の者だ?名前は?」

「わからない」

「わからない?自分の名前も国もわからないのか?」

「うん」

「お主、自分の事が思い出せないのか?」

「うん」

少女はブラウンのセミロングにブラウンの瞳。
身長は百六十センチをちょっと越えているくらいであろうか。
みずぽらしい姿をしてはいるが、マリアは何故かこの少女から気品のようなものを感じた。
しかし記憶がないのでは詳しく話しを聞く事も出来ないので、とりあえずはタスタニアに連れて行く事にした。

「私はタスタニアの騎士だ。我が国にどんな用事があるのかわからないが、このまま放っておく訳にもいくまい」

マリアはこの少女を馬に乗せて自分は馬を引きながら歩いて、いったん宿に連れて行き食事を与えて休ませた。
食事の際にも物珍しそうに食べ物を見ているので、不思議に思っていたが突然の来訪者によって食事は中断された。
三人組の男たちはドアを乱暴に開けると剣を構えていてどうみても友好的には見えなかった。

「何者だ?」

「お前には関係ない。そこにいる女をこっちに渡して失せれば命だけは助けてやる」

「事情はわからぬが、お主たちにこの子を引き渡してはならぬという状況だけはつかめた」

マリアはそう言うとサラマンダーを構えた。

「その台詞そのままお返ししよう。お主たちこそ、何もせずこの場から立ち去れば命は助けてやる」

マリアの言葉に男たちは嘲笑した。

「聞いたか?俺たち舐められたものだな」

「別に舐めてはいない。忠告してやったまでよ。人の忠告を聞かぬなら今生の世からご退場頂くまで」

「ならばやってみろ」

三人組の一人がマリアに襲い掛かったが、マリアの剣が一閃されたと思った瞬間に男は床に倒れていた。
これを見た残り二人の顔色が変わった。
二人は左右から当時にマリアに斬りかかったが、マリアはサラマンダーを柄から分割し、両刀として斬撃を食らわせ二人の男は左右同時に斬り裂かれた。
マリアの忠告を聞かなかった三人組は、僅か数秒で今生とお別れする事となった。

「未熟者が。お主たちなど三人合わせてもエミリア殿の足元にも及ばぬ」

三人組を一瞬で葬り去ったマリアの強さを見た少女は唐突にそれまでとは違う姿を見せた。

「南プロシアン王国の強兵を一瞬で葬り去るとはお主相当な使い手だな」

「南プロシアン王国?お主、自分の事を思い出したのか?」

「すまぬ、私はご覧の通り命を狙われている身でな。お主が信用出来る人物かわかるまで過去を忘れたフリをしていたのだ」

「お主はいったい何者なのだ?その話し方は庶民ではないとお見受けするが」

「人に名を聞く時はまずお主から名乗るべきであろう。私はまだお主を完全に信用した訳ではない。私の力になれるかどうかを見定めている段階なのだ」

少女に言われてマリアは自分の名と国を名乗った。

「これは失礼致しました。私の名はマリア・フォン・エアハルト。タスタニア王国の騎士です」

「タスタニアは新興国と思っていたが良い騎士がいるものだな」

少女はマリアの名前を聞くとようやく自分の正体を話し始めた。

「私は南プロシアン王国の王女フロリアーナ・アリゲッティと申す。我が国は平穏であったが、父アルベルト一世が急死し、私が後継者として女王になる事に反対する裏切り者がクーデターを起こし、恥ずかしながらこうして逃げ延びてきているという事だ」

「王女様でいらっしゃられたとは。これまでのご無礼お許し下さい」

「マリアと申したな。無礼など気にせんでもよいが、見ての通り私はこの身である。不躾なのは承知の上でタスタニアに助けを乞う事を依頼したい。今はこの身一つで何も出来ぬが、このお礼は私が国に戻り正式に女王となれたら必ずする」

フロリアーナから話しを聞き、およその事情はわかったものの、マリアは自分の判断でおこなうには案件が大きすぎるためにいったん返事を保留してもらう事にした。

「フロリアーナ様。案件が大きすぎて私一個人では判断出来ません。いったんタスタニア王国の上層部に話しを通してシュミット国王のご判断を仰ぐ形と致します」

「わかった。無理を承知の上で頼むのだ。ここはお主に任せる」

「私を信用してくれるのですか?」

「お主は誠に生粋の騎士のようだからな。実力も並外れだが、無骨で嘘が付けないタイプのようだ。そういう人間は信用出来る」

「これは、参りましたな」

マリアは信用された事にひと安心したが、無骨だから信用出来るというのには内心、そんなに無骨かなと疑問に思うのであった。

この少女はザラメスよりさらに南東に位置する小国南プロシアン王国のフロリアーナ王女であったが、父アルベルト一世の急死で本来であれば後継者として新女王となるはずであった。しかしクーデターにより反対派に制圧されてしまい、城からわずかな兵士たちに守られてザラメスまで逃げて来たのだ。

逃亡の途中で手練れの追手により護衛の兵士たちが全員やられてしまい、彼女は自分の身を守るために汚い服を着て記憶を無くしたフリをしていた。
南プロシアン王国はすでに反対派によって占拠されていたため、国に戻る事が出来ない彼女は追っ手から逃れるだけで精一杯であった。

世話人で「じい」と呼んでいるマルコ・パンダーニという初老の伯爵からタスタニアに助けを求めるよう言われて国から脱出してきて、今ここに至っている。

「私をひと足先に逃してくれたじいも無事に逃げ延びているか心配ではあるが、まずは私自身がタスタニアに辿り着かなければ何も始まらない。マリア、よろしく頼む」

「承知仕りました。タスタニアまで私がその身をお守りしながらご案内致しましょう」

こうしてマリアは南プロシアン王国の王女フロリアーナを連れて首都オルジュへと向かった。
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