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両雄激突編
論外
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ブラウゼン要塞に戻ったティファたちを待っていたのはレオニードの怒声であった。
「何故もっと早く助けに来なかった。お前たちがいま一歩早く戦線に加われば相手を敗走させられていたかも知れなかったのだぞ。お前の目はふし穴なのか」
この言葉についにロビーが切れた。
「てめえ、いい加減にしろ!ティファがいなかったら部隊は全滅してお前は今ごろあの世行きだった。助けてもらいながらその言い方はないだろう」
「貴様、口の聞き方に気を付けろ。部下が上官を助けるのは当然の事であろう。何のために後方に配置しているのかわかっているのか、役立たずめが」
「なんだと」
ロビーが剣に手を掛けたがティファがそれを制した。
「ティファ?何で止める。こんな奴ここで私が叩き斬ってやる」
「面白い、出来るものならやってみろ」
レオニードは悪びれる様子もなく上から目線でティファたちを睨み付けていた。
元々無理な攻撃命令したのはレオニードである、それが失敗に終わった時の責任も彼が取るべきであるはずなのに、「お前たちが動かなかったからだ」とはどういう事なのか。
命令だけしておいて状況が悪化したら部下に責任転嫁するのであれば、なんとも気楽な身分である。
そのために犠牲になった兵士たちの事など彼の心に届く事はないだろうが。
ティファはそう思いながらため息混じりにレオニードに問いかけた。
「少将、あなたは今回の戦いが無謀であったとわかっていたはずです。始めから精神論で兵士たちを戦いに向かわせて相手が待ち構えている事すら予測していなかった。その結果多くの犠牲者を出した事について何とも思わないのですか?」
「戦いに勝敗と犠牲は付き物であろう。上官たるものいちいち一兵卒が死んだの何だので涙を流していたら務まらぬわ」
「涙を流せとはいいません。泣いて済むのであれば一人でご勝手に涙を流せばいいでしょう。まずは無駄な戦いを避ける事です。やむを得ず戦うのであれば兵力を整えて補給を確保し、想定出来る事態に対して対応を考えて犠牲を最小限に留めるための戦い方をして頂きたいのです」
「だったら、そういう上官の下で働けばいいではないか」
あまりにも他人事のこの回答にティファは呆然とした。
「そういう問題なのですか?自分で解決しようとは思わないのですか?」
「戦場で雑兵など単なる盾に過ぎない。盾が上官を守るのは当然だろう。その盾の百や二百無くなったところでいちいち将が構っていられるか」
この言葉にティファはもはやこの男と問答は時間の無駄と切り上げる事にした。
「人の命を盾と同じにしないで下さい。あなたは将の器も責任感もないクズだとわかりました。クズにこれ以上人の言葉で話しても通じないでしょうから、これで失礼致します」
「何だと?」
レオニードがティファに詰め寄ろうとしたがらロビーとソフィアが左右からティファを庇うようにレオニードの前に立ちはだかった。
ロビーとソフィアの武力は今回の戦いでレオニードも周知している。
さすがのレオニードもこの二人相手に二対一では部が悪いと怒りを抑えて席に戻った。
ティファは思わず言ってしまったが、我慢が出来ないほどの怒りがあった。
たとえロビーとソフィアの二人が不在で、その場で斬られるとしても言っていたであろう。
無能な上官の下で働かされる兵士たちが不憫でならなかったのもあるが、初めから無謀な作戦を立てて、それが失敗に終われば自分は我先に兵士たちを盾にして逃げ出し、失敗の責任は部下のせいとは何のための将なのか。
だが人を貶めて成り上がったレオニードにティファの怒りの声は届かなかった。
「ロビー、ソフィア。行こう」
ティファに言われてロビーとソフィアも上官室から退室した。
「ロビー、ソフィア。結局いつも犠牲になるのは現場にいる兵士たちなんだよね。敗戦の責任、兵を犠牲にするような戦いをした責任は当然将にある。私だってここまでは運良く勝ってこれたけど、ここから先も同じ様にいくなんて思ってない。いずれ敗れる時が来るかも知れない」
ティファはそこまで言って次の言葉を控えた。
「自分が命を落とす事になっても味方の兵士たちを一人でも多く助けたい」と。
将が自分が命を落とす事を前提にしてたら勝てる戦いも勝てない。
そう思ってそのひと言は頭の中で思うだけにした。
「ティファが負けるなんてオレは考えたくないな」
「私もだよ」
「そう言ってくれるのはありがたいけど、私だって人間だもん。いつかは負けるよ。むしろここまでが順調過ぎて二人とも私を過大評価しているんだよ」
「そんな事あるもんか。オレはティファは凄い戦術家だって認めてるんだ。過大評価なんかじゃないよ」
ティファはロビーとソフィアの自分に対する評価が過大だと感じていた。
もちろん、それだけ評価してくれるのは嬉しいが、あまりにそれが過ぎると信頼を通り越して信仰になってしまう。
自分は神じゃない一人の人間である。
ティファニーについて行けば勝てる。生き残れる。と言う噂が一人歩きしていったら、いずれティファ自身にも手が負えなくなってしまうだろう。
「ひとまず宿舎に戻ろう。レイラたちと一緒にこれからの事を考えなきゃ」
ティファはロビー、ソフィアと共にいったん宿舎に戻りみんなで今後の事を話し合う事にした。
この時ティファは口には出さなかったがある予感が頭の中をよぎった。
ティファは相手の動きを読み、待ち伏せされている事も的中させたが、それは戦術的な定石であったからで、定石を知る者であればある程度予測がつくものである。
しかしレオニードの考えている事だけはどうにも読めないのだ。何も考えていないからのか相手の知力、それも悪知恵の方がティファを上回っているのかはわからないが。
ティファはもしかしたらレオニードの背後に誰が別の人間がいる可能性があるのかもと考えた。
(あの人、本当に今回の攻撃を自分から発案したのだろうか?あまりにも稚拙過ぎる。もしかしたら誰かに命令された?でも誰が?少将の地位にある軍人に命令出来る立場の人間は限られている。
後先考えずに進撃を強行するように。とでも命令されなければこんな戦いはしないと思うのは私の考えすぎだろうか。。この愚将を裏で操ったところで大した結果は得られまいが、それでもやらざるを得ない人物がいるとしたら誰なんだろう。。)
何故なのか理由はわからないが、レオニードのあまりにも人ごと過ぎる態度と雰囲気からティファにはそう感じ取ったのだ。
「レイラ、マリア。お世話になったね。私たちはこれでベンタインに戻るけど、二人はあの少将の下だからこれは危ないと感じたら自己判断で動いて何とか自分の身を守って」
「ティファ、いろいろと大変だったし気苦労もかけたね。私たちの事は心配しなくていいからベンタインに戻ったら少しゆっくり休んで」
「ティファ、本当に色々とすまない。もう少し私たちに力があれば。。」
マリアのいう力とは階級的な上下関係の事であった。もう少し階級が上であればまだレオニードも聞く耳を持って自重したかもしれない。
こればかりは昇級しない限りどうにもならず、マリアは歯痒かった。
「レイラ、マリアありがとう。シャローラもオルジュに帰ったら少しゆっくり休んで」
「ティファ、また一緒に仕事が出来る時を楽しみにしているよ」
こうしてティファたちはベンタインへ、シャローラはオルジュへと帰還していった。
ティファにとってセリアという新たなライバルの出現はあったものの虚しいだけの出撃であった。
余談になるが、この話しには続きがあり、レオニードは今回の敗北の責任をティファに押し付けた。
オルジュには新米の中尉の動きが遅かったせいで敗北したと報告されたが、実際に戦場を見ていたシャローラが帰途すると、嘘の報告があっけなく暴かれた。
「呆れてものも言えない。ティファのおかげでどれだけの兵士が救われたと思っているんだろう」
シャローラが憤慨するも、カール宰相に「あの男の虚偽報告などわかっているから気にするな」と言われて、宰相がわかってくれたならと怒りをかろうじて抑えた。
だが、パトリシアとシャローラはこの一件からレオニードを排除する案件を密かに相談するようになっていった。
「何故もっと早く助けに来なかった。お前たちがいま一歩早く戦線に加われば相手を敗走させられていたかも知れなかったのだぞ。お前の目はふし穴なのか」
この言葉についにロビーが切れた。
「てめえ、いい加減にしろ!ティファがいなかったら部隊は全滅してお前は今ごろあの世行きだった。助けてもらいながらその言い方はないだろう」
「貴様、口の聞き方に気を付けろ。部下が上官を助けるのは当然の事であろう。何のために後方に配置しているのかわかっているのか、役立たずめが」
「なんだと」
ロビーが剣に手を掛けたがティファがそれを制した。
「ティファ?何で止める。こんな奴ここで私が叩き斬ってやる」
「面白い、出来るものならやってみろ」
レオニードは悪びれる様子もなく上から目線でティファたちを睨み付けていた。
元々無理な攻撃命令したのはレオニードである、それが失敗に終わった時の責任も彼が取るべきであるはずなのに、「お前たちが動かなかったからだ」とはどういう事なのか。
命令だけしておいて状況が悪化したら部下に責任転嫁するのであれば、なんとも気楽な身分である。
そのために犠牲になった兵士たちの事など彼の心に届く事はないだろうが。
ティファはそう思いながらため息混じりにレオニードに問いかけた。
「少将、あなたは今回の戦いが無謀であったとわかっていたはずです。始めから精神論で兵士たちを戦いに向かわせて相手が待ち構えている事すら予測していなかった。その結果多くの犠牲者を出した事について何とも思わないのですか?」
「戦いに勝敗と犠牲は付き物であろう。上官たるものいちいち一兵卒が死んだの何だので涙を流していたら務まらぬわ」
「涙を流せとはいいません。泣いて済むのであれば一人でご勝手に涙を流せばいいでしょう。まずは無駄な戦いを避ける事です。やむを得ず戦うのであれば兵力を整えて補給を確保し、想定出来る事態に対して対応を考えて犠牲を最小限に留めるための戦い方をして頂きたいのです」
「だったら、そういう上官の下で働けばいいではないか」
あまりにも他人事のこの回答にティファは呆然とした。
「そういう問題なのですか?自分で解決しようとは思わないのですか?」
「戦場で雑兵など単なる盾に過ぎない。盾が上官を守るのは当然だろう。その盾の百や二百無くなったところでいちいち将が構っていられるか」
この言葉にティファはもはやこの男と問答は時間の無駄と切り上げる事にした。
「人の命を盾と同じにしないで下さい。あなたは将の器も責任感もないクズだとわかりました。クズにこれ以上人の言葉で話しても通じないでしょうから、これで失礼致します」
「何だと?」
レオニードがティファに詰め寄ろうとしたがらロビーとソフィアが左右からティファを庇うようにレオニードの前に立ちはだかった。
ロビーとソフィアの武力は今回の戦いでレオニードも周知している。
さすがのレオニードもこの二人相手に二対一では部が悪いと怒りを抑えて席に戻った。
ティファは思わず言ってしまったが、我慢が出来ないほどの怒りがあった。
たとえロビーとソフィアの二人が不在で、その場で斬られるとしても言っていたであろう。
無能な上官の下で働かされる兵士たちが不憫でならなかったのもあるが、初めから無謀な作戦を立てて、それが失敗に終われば自分は我先に兵士たちを盾にして逃げ出し、失敗の責任は部下のせいとは何のための将なのか。
だが人を貶めて成り上がったレオニードにティファの怒りの声は届かなかった。
「ロビー、ソフィア。行こう」
ティファに言われてロビーとソフィアも上官室から退室した。
「ロビー、ソフィア。結局いつも犠牲になるのは現場にいる兵士たちなんだよね。敗戦の責任、兵を犠牲にするような戦いをした責任は当然将にある。私だってここまでは運良く勝ってこれたけど、ここから先も同じ様にいくなんて思ってない。いずれ敗れる時が来るかも知れない」
ティファはそこまで言って次の言葉を控えた。
「自分が命を落とす事になっても味方の兵士たちを一人でも多く助けたい」と。
将が自分が命を落とす事を前提にしてたら勝てる戦いも勝てない。
そう思ってそのひと言は頭の中で思うだけにした。
「ティファが負けるなんてオレは考えたくないな」
「私もだよ」
「そう言ってくれるのはありがたいけど、私だって人間だもん。いつかは負けるよ。むしろここまでが順調過ぎて二人とも私を過大評価しているんだよ」
「そんな事あるもんか。オレはティファは凄い戦術家だって認めてるんだ。過大評価なんかじゃないよ」
ティファはロビーとソフィアの自分に対する評価が過大だと感じていた。
もちろん、それだけ評価してくれるのは嬉しいが、あまりにそれが過ぎると信頼を通り越して信仰になってしまう。
自分は神じゃない一人の人間である。
ティファニーについて行けば勝てる。生き残れる。と言う噂が一人歩きしていったら、いずれティファ自身にも手が負えなくなってしまうだろう。
「ひとまず宿舎に戻ろう。レイラたちと一緒にこれからの事を考えなきゃ」
ティファはロビー、ソフィアと共にいったん宿舎に戻りみんなで今後の事を話し合う事にした。
この時ティファは口には出さなかったがある予感が頭の中をよぎった。
ティファは相手の動きを読み、待ち伏せされている事も的中させたが、それは戦術的な定石であったからで、定石を知る者であればある程度予測がつくものである。
しかしレオニードの考えている事だけはどうにも読めないのだ。何も考えていないからのか相手の知力、それも悪知恵の方がティファを上回っているのかはわからないが。
ティファはもしかしたらレオニードの背後に誰が別の人間がいる可能性があるのかもと考えた。
(あの人、本当に今回の攻撃を自分から発案したのだろうか?あまりにも稚拙過ぎる。もしかしたら誰かに命令された?でも誰が?少将の地位にある軍人に命令出来る立場の人間は限られている。
後先考えずに進撃を強行するように。とでも命令されなければこんな戦いはしないと思うのは私の考えすぎだろうか。。この愚将を裏で操ったところで大した結果は得られまいが、それでもやらざるを得ない人物がいるとしたら誰なんだろう。。)
何故なのか理由はわからないが、レオニードのあまりにも人ごと過ぎる態度と雰囲気からティファにはそう感じ取ったのだ。
「レイラ、マリア。お世話になったね。私たちはこれでベンタインに戻るけど、二人はあの少将の下だからこれは危ないと感じたら自己判断で動いて何とか自分の身を守って」
「ティファ、いろいろと大変だったし気苦労もかけたね。私たちの事は心配しなくていいからベンタインに戻ったら少しゆっくり休んで」
「ティファ、本当に色々とすまない。もう少し私たちに力があれば。。」
マリアのいう力とは階級的な上下関係の事であった。もう少し階級が上であればまだレオニードも聞く耳を持って自重したかもしれない。
こればかりは昇級しない限りどうにもならず、マリアは歯痒かった。
「レイラ、マリアありがとう。シャローラもオルジュに帰ったら少しゆっくり休んで」
「ティファ、また一緒に仕事が出来る時を楽しみにしているよ」
こうしてティファたちはベンタインへ、シャローラはオルジュへと帰還していった。
ティファにとってセリアという新たなライバルの出現はあったものの虚しいだけの出撃であった。
余談になるが、この話しには続きがあり、レオニードは今回の敗北の責任をティファに押し付けた。
オルジュには新米の中尉の動きが遅かったせいで敗北したと報告されたが、実際に戦場を見ていたシャローラが帰途すると、嘘の報告があっけなく暴かれた。
「呆れてものも言えない。ティファのおかげでどれだけの兵士が救われたと思っているんだろう」
シャローラが憤慨するも、カール宰相に「あの男の虚偽報告などわかっているから気にするな」と言われて、宰相がわかってくれたならと怒りをかろうじて抑えた。
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