ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

文字の大きさ
上 下
67 / 118
両雄激突編

激突 後編

しおりを挟む
戦況は五分五分の展開だった。
しかし両軍とも本隊は既に退却している。
しんがり同士の戦いに互角も何もない。
セリアもティファもそう考えて引き際を見極めていた。

「やるな。あの部隊、おそらくタスタニアでも相当な実力者の集まった部隊だろう。あれがしんがりとは」

セリアはジュディたちがこれほど苦戦するのを初めて見て、ティファの部隊がしんがりでなく本気で戦ったらどうなるかを考えていた。

「相手のしんがり、やるね。これが本気で戦ったらどうなっただろう。今は考えたくもないな」

ティファも同様の言葉を口に出した。
セリアは自軍を少しずつ後退させて誘い込みをかけるが、ティファはその意図に気づき深追いしない。
レイラもマリアもジュディとエミリアの誘い込みに乗らず相手が後退してるとわかると自らも後退し始めた。

「こちらの誘い込みにもまったく乗って来ないか。必要以上の戦いはしない。戦術眼にも長けてる優秀な将のようだ」

セリアがそう言うとティファも同様の目で相手を見ていた。

「こちらが誘い込みに乗らないとわかれば、それ以上攻めて来ずに引き揚げて行く。あの将はいい判断をするな」

そして味方の兵士たちがすでに安全圏まで逃げている頃合いであろうとティファが合図をするとロビー、ソフィアたちも撤退を開始する。
それを見たセリアは「ここら辺が切り上げどきだな」とジュディたちに合図を送り自分たちも撤退を開始したが、その際にティファに向かって大声で叫んだ。

「タスタニアの将よ。見事なしんがりだった。私は帝国軍中尉セリア・フォン・フレーベルだ。今度会う時は互いに互角の条件で思う存分戦える事を望みたい」

それを聞いたティファはこの相手と再び戦うなど真っ平であったがセリアに対する返礼として答えた。

「私はタスタニア軍中尉ティファニー・オブ・エヴァンス。セリア中尉、あなたたちのしんがりも見事でした。でも私は出来ればあなたのような実力者とは戦いたくない。次に会う時にはこの戦争が終わって平和になっている事を望みます」

ティファはそう言うとくるりとセリアたちに背を向けて戦場から離脱していった。
セリアとティファ、この戦いでの二人の目的は明確であった。

「目的から外れた無駄な努力はしない」

この一点のみ。

「ティファニーか。私たちと変わらない歳に見えるが中尉と言う事は余程の実力者なんだろう。しかし次に会う時は平和な時とは不思議な人物だ」

セリアは気位の高い帝国軍の貴族を多くみていただけにティファの人柄がとても奇異に見えたがむしろ好印象を感じた。

「あのティファニーはこれから先、おそらく私たちの最大で最強の敵になる。それにティファニーを取り巻く騎士たちの強さ。今回は互いにしんがりで撤退が目的だったから手合わせ程度であったが、本気で戦ったらどちらかが確実に死ぬ事になるだろう」

ジュディもエミリアたち他のメンバーもみな同じ感想であった。

「称賛すべき敵に出会えるのは騎士の誉れという奴もいるが、出来れば避けたいものだな。戦いは少しでも楽に勝てる方がいい」

ソレーヌがそう言うとセリアも「ああ、そうだな」と返事をする。
それと同時にある予感が頭をよぎった。

「なあ、ソレーヌ。今回はレオニードとか言う無能者が指揮したから我々は勝ったが、あのティファニーが指揮してルンベルク要塞に攻め込んで来たら、ルンベルクは陥落させられていたんじゃないか?」

「ルンベルク要塞が陥落?そんな事は考えた事なかったが、セリアはあのティファニーをそれほどの将と見ているのか」

「私はまだあのティファニーという人物をよく知らぬが、何となくだ。もしもルンベルク要塞が陥落するような事があったらこの戦争は膠着状態から一気に動きだすかもしれないな」

セリアは今出会ったばかりのティファの事は当然ながらよく知らなかったが、この戦いの鍵を握る人物になるような気がしてならなかった。

「さあ、引き上げよう」

セリアがそう言うとソレーヌと共にフェルデン在中軍も退却して行った。

一方のティファもセリアの実力を高く評価していた。

「しんがりで出てきたセリアという将たちの動き、見事だったね。あの人たちが最初からルンベルク要塞を率いていたら、おそらく城から一歩も出ずに私たちはなす術なく撤退する事になっていたろうね」

ティファはひと呼吸置いて話しを続けた。

「もし互角の条件で戦いを挑まれたら正直勝てるかどうかはわからない。セリアとの戦いの先に平和の道が開けるなら戦うのもやむを得ないと思うけど、出来れば彼女とはもう戦いたくないな」

「ティファだって相当な戦術家だし、オレは誰が相手であろうとティファが負けるなんて考えられないけどな」

「ロビー、それは買い被りすぎだよ。私は戦う事が好きではないし、苦労して打開策を見つけて戦うなんてタイプでもない。同じ戦うなら少しでも楽な方がいいもん。称賛すべき敵に出会えるのは騎士の栄誉って考える人も多いけど、私は手強い相手と正面からまともにぶつかって戦うような状況を作らないようにするのが一番だって思うな。それでももし正面から戦う事になってしまったら。。」

「なってしまったら?」

レイラの問いにティファは笑いながら答えた。

「これも私の運の悪さかなと諦めて味方の被害を最小限に食い止める戦いに徹するよ」

ストリナ平野の戦いは結果だけみれば帝国軍の圧勝であった。
レオニードは部下を置き去りにして逃げ出し、ティファたちの尽力がなければ出撃したタスタニア軍は全滅していたかも知れなかった。

一方の帝国軍も予期せぬティファたちの出現により完勝のところを犠牲者を出し、退却を余儀なくされた。
バスティアンにしてみれば不満もあったが、こちらもセリアたちの介入でその後は犠牲者を出す事なく戦場から徹底できた。

戦略的にはまったく無意味な戦いではあったが、タスタニア王国のティファニーとロマリア帝国のセリアが初めて顔を合わせたという歴史的な出来事であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

健太と美咲

廣瀬純一
ファンタジー
小学生の健太と美咲の体が入れ替わる話

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

処理中です...