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両雄激突編
激突 後編
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戦況は五分五分の展開だった。
しかし両軍とも本隊は既に退却している。
しんがり同士の戦いに互角も何もない。
セリアもティファもそう考えて引き際を見極めていた。
「やるな。あの部隊、おそらくタスタニアでも相当な実力者の集まった部隊だろう。あれがしんがりとは」
セリアはジュディたちがこれほど苦戦するのを初めて見て、ティファの部隊がしんがりでなく本気で戦ったらどうなるかを考えていた。
「相手のしんがり、やるね。これが本気で戦ったらどうなっただろう。今は考えたくもないな」
ティファも同様の言葉を口に出した。
セリアは自軍を少しずつ後退させて誘い込みをかけるが、ティファはその意図に気づき深追いしない。
レイラもマリアもジュディとエミリアの誘い込みに乗らず相手が後退してるとわかると自らも後退し始めた。
「こちらの誘い込みにもまったく乗って来ないか。必要以上の戦いはしない。戦術眼にも長けてる優秀な将のようだ」
セリアがそう言うとティファも同様の目で相手を見ていた。
「こちらが誘い込みに乗らないとわかれば、それ以上攻めて来ずに引き揚げて行く。あの将はいい判断をするな」
そして味方の兵士たちがすでに安全圏まで逃げている頃合いであろうとティファが合図をするとロビー、ソフィアたちも撤退を開始する。
それを見たセリアは「ここら辺が切り上げどきだな」とジュディたちに合図を送り自分たちも撤退を開始したが、その際にティファに向かって大声で叫んだ。
「タスタニアの将よ。見事なしんがりだった。私は帝国軍中尉セリア・フォン・フレーベルだ。今度会う時は互いに互角の条件で思う存分戦える事を望みたい」
それを聞いたティファはこの相手と再び戦うなど真っ平であったがセリアに対する返礼として答えた。
「私はタスタニア軍中尉ティファニー・オブ・エヴァンス。セリア中尉、あなたたちのしんがりも見事でした。でも私は出来ればあなたのような実力者とは戦いたくない。次に会う時にはこの戦争が終わって平和になっている事を望みます」
ティファはそう言うとくるりとセリアたちに背を向けて戦場から離脱していった。
セリアとティファ、この戦いでの二人の目的は明確であった。
「目的から外れた無駄な努力はしない」
この一点のみ。
「ティファニーか。私たちと変わらない歳に見えるが中尉と言う事は余程の実力者なんだろう。しかし次に会う時は平和な時とは不思議な人物だ」
セリアは気位の高い帝国軍の貴族を多くみていただけにティファの人柄がとても奇異に見えたがむしろ好印象を感じた。
「あのティファニーはこれから先、おそらく私たちの最大で最強の敵になる。それにティファニーを取り巻く騎士たちの強さ。今回は互いにしんがりで撤退が目的だったから手合わせ程度であったが、本気で戦ったらどちらかが確実に死ぬ事になるだろう」
ジュディもエミリアたち他のメンバーもみな同じ感想であった。
「称賛すべき敵に出会えるのは騎士の誉れという奴もいるが、出来れば避けたいものだな。戦いは少しでも楽に勝てる方がいい」
ソレーヌがそう言うとセリアも「ああ、そうだな」と返事をする。
それと同時にある予感が頭をよぎった。
「なあ、ソレーヌ。今回はレオニードとか言う無能者が指揮したから我々は勝ったが、あのティファニーが指揮してルンベルク要塞に攻め込んで来たら、ルンベルクは陥落させられていたんじゃないか?」
「ルンベルク要塞が陥落?そんな事は考えた事なかったが、セリアはあのティファニーをそれほどの将と見ているのか」
「私はまだあのティファニーという人物をよく知らぬが、何となくだ。もしもルンベルク要塞が陥落するような事があったらこの戦争は膠着状態から一気に動きだすかもしれないな」
セリアは今出会ったばかりのティファの事は当然ながらよく知らなかったが、この戦いの鍵を握る人物になるような気がしてならなかった。
「さあ、引き上げよう」
セリアがそう言うとソレーヌと共にフェルデン在中軍も退却して行った。
一方のティファもセリアの実力を高く評価していた。
「しんがりで出てきたセリアという将たちの動き、見事だったね。あの人たちが最初からルンベルク要塞を率いていたら、おそらく城から一歩も出ずに私たちはなす術なく撤退する事になっていたろうね」
ティファはひと呼吸置いて話しを続けた。
「もし互角の条件で戦いを挑まれたら正直勝てるかどうかはわからない。セリアとの戦いの先に平和の道が開けるなら戦うのもやむを得ないと思うけど、出来れば彼女とはもう戦いたくないな」
「ティファだって相当な戦術家だし、オレは誰が相手であろうとティファが負けるなんて考えられないけどな」
「ロビー、それは買い被りすぎだよ。私は戦う事が好きではないし、苦労して打開策を見つけて戦うなんてタイプでもない。同じ戦うなら少しでも楽な方がいいもん。称賛すべき敵に出会えるのは騎士の栄誉って考える人も多いけど、私は手強い相手と正面からまともにぶつかって戦うような状況を作らないようにするのが一番だって思うな。それでももし正面から戦う事になってしまったら。。」
「なってしまったら?」
レイラの問いにティファは笑いながら答えた。
「これも私の運の悪さかなと諦めて味方の被害を最小限に食い止める戦いに徹するよ」
ストリナ平野の戦いは結果だけみれば帝国軍の圧勝であった。
レオニードは部下を置き去りにして逃げ出し、ティファたちの尽力がなければ出撃したタスタニア軍は全滅していたかも知れなかった。
一方の帝国軍も予期せぬティファたちの出現により完勝のところを犠牲者を出し、退却を余儀なくされた。
バスティアンにしてみれば不満もあったが、こちらもセリアたちの介入でその後は犠牲者を出す事なく戦場から徹底できた。
戦略的にはまったく無意味な戦いではあったが、タスタニア王国のティファニーとロマリア帝国のセリアが初めて顔を合わせたという歴史的な出来事であった。
しかし両軍とも本隊は既に退却している。
しんがり同士の戦いに互角も何もない。
セリアもティファもそう考えて引き際を見極めていた。
「やるな。あの部隊、おそらくタスタニアでも相当な実力者の集まった部隊だろう。あれがしんがりとは」
セリアはジュディたちがこれほど苦戦するのを初めて見て、ティファの部隊がしんがりでなく本気で戦ったらどうなるかを考えていた。
「相手のしんがり、やるね。これが本気で戦ったらどうなっただろう。今は考えたくもないな」
ティファも同様の言葉を口に出した。
セリアは自軍を少しずつ後退させて誘い込みをかけるが、ティファはその意図に気づき深追いしない。
レイラもマリアもジュディとエミリアの誘い込みに乗らず相手が後退してるとわかると自らも後退し始めた。
「こちらの誘い込みにもまったく乗って来ないか。必要以上の戦いはしない。戦術眼にも長けてる優秀な将のようだ」
セリアがそう言うとティファも同様の目で相手を見ていた。
「こちらが誘い込みに乗らないとわかれば、それ以上攻めて来ずに引き揚げて行く。あの将はいい判断をするな」
そして味方の兵士たちがすでに安全圏まで逃げている頃合いであろうとティファが合図をするとロビー、ソフィアたちも撤退を開始する。
それを見たセリアは「ここら辺が切り上げどきだな」とジュディたちに合図を送り自分たちも撤退を開始したが、その際にティファに向かって大声で叫んだ。
「タスタニアの将よ。見事なしんがりだった。私は帝国軍中尉セリア・フォン・フレーベルだ。今度会う時は互いに互角の条件で思う存分戦える事を望みたい」
それを聞いたティファはこの相手と再び戦うなど真っ平であったがセリアに対する返礼として答えた。
「私はタスタニア軍中尉ティファニー・オブ・エヴァンス。セリア中尉、あなたたちのしんがりも見事でした。でも私は出来ればあなたのような実力者とは戦いたくない。次に会う時にはこの戦争が終わって平和になっている事を望みます」
ティファはそう言うとくるりとセリアたちに背を向けて戦場から離脱していった。
セリアとティファ、この戦いでの二人の目的は明確であった。
「目的から外れた無駄な努力はしない」
この一点のみ。
「ティファニーか。私たちと変わらない歳に見えるが中尉と言う事は余程の実力者なんだろう。しかし次に会う時は平和な時とは不思議な人物だ」
セリアは気位の高い帝国軍の貴族を多くみていただけにティファの人柄がとても奇異に見えたがむしろ好印象を感じた。
「あのティファニーはこれから先、おそらく私たちの最大で最強の敵になる。それにティファニーを取り巻く騎士たちの強さ。今回は互いにしんがりで撤退が目的だったから手合わせ程度であったが、本気で戦ったらどちらかが確実に死ぬ事になるだろう」
ジュディもエミリアたち他のメンバーもみな同じ感想であった。
「称賛すべき敵に出会えるのは騎士の誉れという奴もいるが、出来れば避けたいものだな。戦いは少しでも楽に勝てる方がいい」
ソレーヌがそう言うとセリアも「ああ、そうだな」と返事をする。
それと同時にある予感が頭をよぎった。
「なあ、ソレーヌ。今回はレオニードとか言う無能者が指揮したから我々は勝ったが、あのティファニーが指揮してルンベルク要塞に攻め込んで来たら、ルンベルクは陥落させられていたんじゃないか?」
「ルンベルク要塞が陥落?そんな事は考えた事なかったが、セリアはあのティファニーをそれほどの将と見ているのか」
「私はまだあのティファニーという人物をよく知らぬが、何となくだ。もしもルンベルク要塞が陥落するような事があったらこの戦争は膠着状態から一気に動きだすかもしれないな」
セリアは今出会ったばかりのティファの事は当然ながらよく知らなかったが、この戦いの鍵を握る人物になるような気がしてならなかった。
「さあ、引き上げよう」
セリアがそう言うとソレーヌと共にフェルデン在中軍も退却して行った。
一方のティファもセリアの実力を高く評価していた。
「しんがりで出てきたセリアという将たちの動き、見事だったね。あの人たちが最初からルンベルク要塞を率いていたら、おそらく城から一歩も出ずに私たちはなす術なく撤退する事になっていたろうね」
ティファはひと呼吸置いて話しを続けた。
「もし互角の条件で戦いを挑まれたら正直勝てるかどうかはわからない。セリアとの戦いの先に平和の道が開けるなら戦うのもやむを得ないと思うけど、出来れば彼女とはもう戦いたくないな」
「ティファだって相当な戦術家だし、オレは誰が相手であろうとティファが負けるなんて考えられないけどな」
「ロビー、それは買い被りすぎだよ。私は戦う事が好きではないし、苦労して打開策を見つけて戦うなんてタイプでもない。同じ戦うなら少しでも楽な方がいいもん。称賛すべき敵に出会えるのは騎士の栄誉って考える人も多いけど、私は手強い相手と正面からまともにぶつかって戦うような状況を作らないようにするのが一番だって思うな。それでももし正面から戦う事になってしまったら。。」
「なってしまったら?」
レイラの問いにティファは笑いながら答えた。
「これも私の運の悪さかなと諦めて味方の被害を最小限に食い止める戦いに徹するよ」
ストリナ平野の戦いは結果だけみれば帝国軍の圧勝であった。
レオニードは部下を置き去りにして逃げ出し、ティファたちの尽力がなければ出撃したタスタニア軍は全滅していたかも知れなかった。
一方の帝国軍も予期せぬティファたちの出現により完勝のところを犠牲者を出し、退却を余儀なくされた。
バスティアンにしてみれば不満もあったが、こちらもセリアたちの介入でその後は犠牲者を出す事なく戦場から徹底できた。
戦略的にはまったく無意味な戦いではあったが、タスタニア王国のティファニーとロマリア帝国のセリアが初めて顔を合わせたという歴史的な出来事であった。
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