ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

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両雄激突編

崩壊 前編

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レオニードの部隊が出撃から五時間ほどでストラナ平野に到達しようとしていたが、その動きはすでにバスティアン率いる帝国軍に察知されていた。
帝国軍は何十人もの見張り兵を配置してレオニードの軍の進行を正確に把握していた。

レオニードは意気揚々と進軍していたが、よもや敵に待ち伏せされていようとは予想していなかったのである。
ストラナ平原に差し掛かった時、前方に帝国軍が横陣形で整列しているのを見てレオニードは驚きの声をあげた。

「ばかな。なぜ帝国軍がこんなところに?」

(十分予想出来た事に何をそんなに驚いているんだろう)

ティファは狼狽するレオニードを軽蔑の眼差しで見ていた。
自分の都合でしか物を考えないからこうなるんだと。
その狼狽ぶりをバスティアンがあざ笑う。

「何をそんなに驚いている。貴様らが攻めてくる事はとっくにお見通しだ。待ち伏せされてても何の不思議もあるまい。まさかルンベルク要塞まで何事もなく無傷で行けるなどと寝ぼけていた訳でもあるまい」

「うぬ、卑怯な奴らめ」

(卑怯でも何でもない、正攻法だよ。それすら予測出来ないあんたの方が相手の言う通り、寝ぼけているんだよ)

ティファはそう心の中で思ってはいたが口には出さなかった。
こういう時のティファはかなり辛辣である。

「シャローラ、相手はすでに陣を敷いて攻撃態勢に入っている。それに対してこちらはこれから慌てて陣を敷くところ。戦場にそれを待っていてくれるようなお人好しな敵将はまずいらっしゃらないだろうね」

「そんなお人好しな将がいたら是非お目にかかりたいものだね」

これが現代のテレビ番組の戦隊ヒーロー物だったら、主人公が変身してポーズを決めて戦闘態勢に入るまで敵は待っていてくれるだろうが、実戦でそんな事やっていたら、まず命取りである。

ティファがシャローラにそう言い終わらない内にバスティアンの号令がかかり帝国軍が一斉に仕掛けてきた。
レオニードは縦に二列の進軍状況で平野に入ったために、正面と左右の三箇所から一気に攻められあっという間に部隊は寸断されてしまった。

ティファたちはレオニードの部隊よりも五百メートルほど後方にいたため、その場に待機して様子を伺った。

「この分だと完全に瓦解して敗走するのは時間の問題だね。私たちは逃げてくる兵士たちをブラウゼンへ行かせてしんがりとして追ってくる帝国軍をここで食い止めるよ」

「了解だよ」

ティファの指示にレイラが返事をする。
セリアたちも同様にバスティアン部隊の後方に控えていたが、初っ端の攻撃ですでに勝敗が決したと見ていた。

「相手の将は事前に情報が漏れている上に待ち伏せされている事すら予想していなかったのか?無能以下のゴミだな」

「敵の事ながらあんな将の下で戦わされている兵士たちが気の毒になってきた」

セリアとソレーヌがレオニードのあまりの無策ぶりを呆れを通り越して苦笑していた。

「いや、訂正しよう。奴は有能な軍人のようだな。我々が出来なかったタスタニアの兵士たちをたくさん天国に送ったからな。無能な味方、それも上官ほど恐ろしい者はないな」

セリアが皮肉を込めてそうレオニードを評価した。

「レイラ、マリア、ロビー、ソフィア!行くよ」

ティファは最初の攻撃で寸断されてしまった自軍の兵士たちを一人でも多く救うべく動いた。
レオニードは兵士たちに怒号を浴びせる。

「怯むな。戦え。このような卑怯な奴らにやられたとあってはタスタニア兵士の名折れだぞ」

その声を聞いたバスティアンがレオニードに向かって来た。

「ならばお主が戦うがいい」

「誰だお前は?」

「ロマリア帝国王子のバスティアンだ。この軍の将のようだが無能者に名を聞く必要はないな」

「バスティアン卿だと?いつドレッセルと入れ替わったのだ。卑怯者め」

「戦争に卑怯もへったくりもあるか。情報を筒抜けにしているお前たちが間抜けなだけだ」

バスティアンとレオニードは数合打ち合ったが実力的には互角の展開も戦況の不利は明らかでレオニードは一騎討ちを早々に中断して敗走した。

レオニードは兵士たちには精神論をやたらと説いていたが、自分がやられた時には気合いも何もなく、レイラの言う通り部下を相手にけしかけておいて自分はその間に逃げ出したのだ。

それを見ていた他の兵士たちも次々と戦線を離脱して敗走し始めた。絵に書いたような完全崩壊である。

「逃すな、追え。徹底的に叩きのめしてやれ」

バスティアンの号令と共に帝国軍が横陣から縦陣に変形して逃げるタスタニア兵たちを追撃しようとしていたが、そこにティファたちの後続部隊が攻撃を仕掛けた。

ティファは逃げてくる兵士たちと交錯しないように迂回してバスティアン部隊の右側から攻撃を仕掛けた。
側面からバスティアン部隊に弓矢を浴びせたのだ。

「なんだ?貴様らは」

「我らはしんがりよ。仲間が無事に逃げられるまで足止めしてもらうぞ」

マリアがバスティアンにそう言うと猛然と斬りかかっていく。

「小癪な。蹴散らしてくれるわ」

バスティアンも応戦するが、マリアの強さはバスティアンの予想を上回っていた。
剣の速さ、重さ。数合打ち合ったところでバスティアンはこれは敵わないと悟り一騎討ちをやめてその場から離脱した。

マリアも味方を安全な場所まで逃すための時間稼ぎであるため、あえてこれを追わずに追撃しようとしている帝国軍を足止めする事に専念した。
レイラは帝国軍の縦陣を寸断しそのまま寸断した後続の部隊に弓矢を浴びせて進撃を止めていた。

マリアの部隊は前方の部隊に襲いかかり、前後に寸断されたバスティアンの部隊は大混乱を起こした。
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