ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

文字の大きさ
上 下
63 / 118
両雄激突編

出撃

しおりを挟む
一方のルンベルク要塞ではティファが指摘したように、要塞を守る皇帝ルーファスの次男、バスティアンは攻めてくるのを待つより待ち伏せして撃滅させる事を考えていた。

「我が軍の半数の兵力でこのルンベルク要塞に攻め込もうなど我らを侮るにも程がある。何もここで待ち構えている事もあるまい。待ち伏せしてこれを叩き己の無力を徹底的にわからせてやる」

バスティアンは兵士たちに出撃命令を出そうとしたが、応援部隊として派兵されたセリアが無駄とは思いつつ助言した。

「お待ち下さい。何も出て戦う必要はございません。このルンベルク要塞の防御力を持ってすれば、敵は攻め込む事は出来ません。こちらは機を見て一撃離脱攻撃を繰り返し行い兵力を削り取っていけば、敵は退却せざるを得なくなるでしょう」

「敵が退却だと?それにはどれくらいの期間がかかるのだ?三ヶ月後か?半年後か?」

「期間よりも自軍の兵力の消耗を気にすべきです」

「敵に対して倍近い兵力を保持しておきながら、殻に閉じこもっていたなどと皇帝陛下に知れたらどうなるか帝国兵士なら言わずともわかるであろう」

セリアは内心舌打ちした。

「では皇帝の考えは無意味に兵を動かして犠牲を出してまで敵に勝つ事を要請するという事なのですね」

「黙れ!汝如きが皇帝陛下に対して無礼であろう。モニカの顔を立てて今のは聞かなかった事にしてやるから早々に立ち去れい」

バスティアンに一喝されてセリアは今回は自分たちはあくまで応援部隊なのもあるが、敗れる要素も少ないのでここは大人しく引いた。

「セリア、どうだった?」

ソレーヌが戻ってきたセリアに聞いたが顔を見て返事を聞くまでもないとわかった。

「学生時代にも何度も言ったが、貴族や皇族というものはとにかく気位が高い生き物のようだな」

セリアが諦め顔でそう言うとジュディもため息混じりに話す。

「何も出て戦わなくてもここで守っていれば相手はなす術なく撤退するだろう。こちらは犠牲者も出ず労せずして相手を撃退出来るのにな」

「バスティアン卿に限らず帝国の貴族出身の騎士はだいたいこんなものだよ。まあ、今回は相手は我が軍の半数。私たちが危惧する事もないだろうけど」

エミリアがそう言うとジュディが珍しく投げやりな言葉を出した。

「バスティアン卿は皇族とは言え、帝国でも猛将で知られている騎士だからな。ま、今回はボクたちは遠巻きに見物でもしていればいいか」

セリアたちは応援部隊として来てはいたが、よもや相手が半分の兵力で攻めてくるとは思ってなかったのだ。

「レオニードというのはよほどの無能者か、そうでなければ気代の戦略家という事になるな。もっともそれほど優れた将がタスタニアにいるなら、このルンベルク要塞はとっくに敵の手に落ちているだろうから無能な方であろうが」

セリアは皮肉のつもりであったが、実際のレオニード評としてはほぼ当たっていた。
情報は筒抜け、半分の兵力で出来ますと言い張る根拠のない自信。

セリアは相手に優れた将がいないお陰で帝国も助かっているのだなと思う一方で、もし自分と同じ位の能力を有した将がタスタニアにいたら帝国は危機にさらされるとも考えていた。

「ユリア、どうしたんだ?」

浮かない表情をしているユリアにジュディが声をかけた。

「私も多少なりとも高貴な貴族の出身だから帝国貴族の気質と言うものをよくわかっているつもりではあるけど。私がバスティアン卿の立場なら城に篭って守る方を選択する。

でも父ならバスティアン卿と同じやり方をすると思う。そう考えると複雑でね。帝国の高貴貴族出身の騎士がみんなこうでないと言いたいけど、現実はこの通りだからね」

「あ。。そうだったな。少し言い過ぎたな、すまない」

「ううん。事実は事実だから仕方ないよ。私が少しでもその印象を変えていければと思ってるよ」

セリアがユリアに謝罪したが、ユリアは複雑ではあったが別に気にする事もなく自分の代で変えていけばいいと考えていた。

そしてキルス歴一〇九六年三月十五日。
レオニードによってブラウゼン要塞の兵士たちが集められ出撃前の訓示を聞かされていた。

「諸君、いよいよ我がタスタニア王国の命運を賭ける戦いが始まろうとしている。今回の進撃は普通に考えれば成功しないものであるかも知れぬ。しかし我々には帝国軍を凌駕する不屈の精神力がある。

矢の一本、二本が当たろうが、剣や槍で少々斬られ突かれようが意に介さず相手に突進すれば相手はその気迫に押されて敗走するであろう。兵力差はわずか二倍、一人が二人倒せは良いのだ」

その言葉を聞いてティファは呆れた表情でレイラに話しかけた。

「ねえ、レイラ。あの人本気であんな事思っているのかな?私には本心を疑うとしか言いようがないけど」

「本人にしてみたら至ってまともな事を言っていると思っているだろうね。都合の良い事しか考えていないし自身の言葉に酔いしれている。これで勝てたらよほど相手が無能無策としか言いようがない」

レイラも呆れ顔であったが、レオニードはさらに続ける。

「よいか、我々の作戦に失敗はない。成功あるのみだ。天運も我らに味方してくれよう。いざ出陣」

レオニードの号令と共に第一陣二千人がブラウゼンから出撃した。

「失敗はない。ねぇ。。成功はない。ならわかるけど」

ティファはそんな愚痴をこぼしていても仕方ないと切り替えて第一陣の後に付いて出陣した。

「シャローラ、昨夜も話したけど相手が待ち伏せしているとすればストラナ平野が一番危ないね。いつでも対応出来る様に注意しよう」

「了解だよ」

ティファはレイラとマリアに依頼して昨夜のうちに自分に割り当てられた五百人の兵士たちに指示を出していた。
ストラナ平原で戦闘が起きる可能性も含めて、ティファ配下の兵士たちは敵の攻撃がいつどこであっても対応出来るよう指揮系統が行き渡っていたのだ。

一方のロマリア帝国でもティファの予想通りストラナ平原で待ち伏せしてタスタニア軍を撃滅せんとバスティアンは意気揚々と兵を出撃させた。
ここにも乗り気でないセリアたちが後陣に控えていた。

「今回は私たちの出番はなさそうだな」

セリアがそう言うとジュディが少し残念そうな顔をしていた。

「腕が鈍るから丁度いい戦いが出来ると思ってたんだけどな。まあ戦いは楽に勝てた方がいい。ボクたちの出番がないに越した事はないからな」

セリアも今回はルンベルク要塞に篭って守る方が楽に勝てたと考えていたが、それでも帝国軍は相手の倍の兵力。
多少の犠牲者は覚悟しても敗れる可能性はほぼなかったので、応援部隊として従う事に徹するようにしたのだ。
しかし戦況はセリアたちの予想しなかった展開になっていったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...