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両雄激突編
辛抱 前編
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司令部一階の一番右奥にある司令官室は入り口が二つあり、手前がレオニードの部屋で奥にもう一つ部屋があった。
奥の部屋は何やら怪しい感じがしたが、後にレオニードが戦場で奪い取った戦利品が山のように積まれている倉庫の代わりであった事が判明した。
「失礼します」
部屋のドアをノックして開け、中に一歩入ったティファたち三人の前にレオニード少将はどっかりと座席に座って向かい入れた。
司令室は一部屋であるが、およそ百平方メートルの部屋を真ん中から二つの仕切りで区切り双方の部屋は行き来出来る様にドアが付いていた。
奥は戦利品の保管してある部屋である。
レオニードは年齢三十八歳であるが、軍事的な経験値はそれほどあるわけでもなく、他の同期が戦死していった中でうまく逃げ延びていまの地位を手にしたという人物であった。
建国以来の歴史の浅いタスタニアは人材もまだ乏しく、統率力や戦術に問題があるとオルジュでもわかっていながら、使わざるを得ない状況であったのだ。
「この度作戦に加わる事になりましたティファニー・オブ・エヴァンスと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「同じくロズヴィータ・フォン・ライストナーです」
「ソフィア・フォン・フィーメルです」
三人の挨拶を黙って聞いていたレオニードはひと通りの挨拶が終わると椅子に座ったまま話し出した。
「ご苦労。私がこのブラウゼンの総指揮レオニードだ」
レオニードは身長は一八〇センチそこそこといったところで中肉中背で狐目の目つきは悪く、睨みつけるような目で相手を見るのが癖のようで、初対面の人間には自分を大きく見せて相手を威圧するのがこの人物のやり方なんだなと思ったのがティファの第一印象であった。
「ティファニーとか言ったな、お前のベンタインでの活躍は私も耳にしているが、戦場は役所仕事と違って甘くはないからな。学校で習った机上の戦術など通用しないとよく肝に銘じておくがいい」
この高圧的な態度に真っ先にロビーが頭に血が上ったがかろうじて堪えた。
「はい、よく存じておりますし肝に銘じております」
ティファは当たり障りなくそう返答したが、続いて出てきた言葉はこれからルンベルク要塞を攻めようと言う指揮官からは考えられない事であった。
「ところでティファニー中尉、我々はいまルンベルク要塞都市を攻略せんと出陣の準備をしているが、ティファニー中尉はあの要害を陥落させる手段は何かお持ちかな?ぜひ考えを聞かせてもらいたいのだが」
この言葉を聞いてティファは驚いた。これから攻め込む要塞都市の攻略法を考えてないのであろうか。
ここで思っている事を話すのは用心した方が良いと考え、のらりくらりと当たり障りのない回答でかわす事にした。
「ルンベルク要塞都市ほどの要害を陥落させる方法となると、相手の倍以上の大軍を持って攻撃するという以外はやりようがございません」
「それでは何も考えずにブラウゼンに来た事になるな、今回与えられた戦力は相手の半数と言う事くらい事前に聞いておろう。その中でどうするかを考えていないのか?お主も軍の中で上を目指すならそれくらいは考えておかねばならぬ。ここに来た以上は役人ではない、軍人になるのだから少しは頭を使ってみたらどうだ?」
この言葉にソフィアが刀に手をかけそうになったが、それに気がついたティファがレオニードから見えないように手をトントンと叩いてかろうじて怒りを堪えた。
「そうは申されましても、私もまだ若輩の身。経験も浅く考えられる範囲も狭うございます。不才の身ではございますがこれからひとつずつ習得していく所存です」
再び当たり障りのない返答を返すとティファはもう一つ疑問を投げかけた。
「それと危惧すべき事もございます。それはこの作戦がすでに相当な範囲に広まってしまっている事です。相手も攻めてくる事がわかっていれば対策をしてくるでしょう。もう少し情報には統制を行うべきかと」
「よいか、今回の作戦は我々の名を知らしめるためでもあるのだ。これが成功した暁には帝国軍はレオニードの名を聞いただけで畏怖するようになるであろう。相手に攻撃を知られていようが対策されていようが、我が軍の不屈の闘志をもってすれば撃破出来よう」
(は?何を言っているんだこの人は?)
これにはティファも思わず声が出そうになったが、かろうじてとどまった。
(これが成功した暁って。。成功すると思っているんだ。。こういう考え方もあるんだね)
レオニードは精神力を説いてきた。
「戦い勝つには精神力、つまり気持ちの問題だ。兵力が少なくとも必勝の信念を持って戦えば不可能を可能にする事も出来るのだ。どうもお主はやる気があるように見えぬ。まだ戦いに出向く気持ちがなっておらぬな」
(精神力でどうにかなるなら兵力を維持する必要なんてないよ。気合ひとつで敵を撃滅させられるのであれば私は何もせずに昼寝でもしていられるのに)
ティファはそう思ってはいたがさすがにそれを言う訳にもいかず、子供に言い聞かせるつもりで答えた。
「戦場において精神力が求められるのは双方の兵力が互角の場合であって、兵力に差がある場合においては精神力など兵力差によって粉砕されてしまいます。
ましてや最初から精神力を頼みに戦いを起こして勝利したなどという戦争は少なくとも私は歴史書で読んだことも授業で聞いた事もございません」
ティファがそう答えるとレオニードがまったくその解答を意に介する事なく精神論を繰り返してきた。
奥の部屋は何やら怪しい感じがしたが、後にレオニードが戦場で奪い取った戦利品が山のように積まれている倉庫の代わりであった事が判明した。
「失礼します」
部屋のドアをノックして開け、中に一歩入ったティファたち三人の前にレオニード少将はどっかりと座席に座って向かい入れた。
司令室は一部屋であるが、およそ百平方メートルの部屋を真ん中から二つの仕切りで区切り双方の部屋は行き来出来る様にドアが付いていた。
奥は戦利品の保管してある部屋である。
レオニードは年齢三十八歳であるが、軍事的な経験値はそれほどあるわけでもなく、他の同期が戦死していった中でうまく逃げ延びていまの地位を手にしたという人物であった。
建国以来の歴史の浅いタスタニアは人材もまだ乏しく、統率力や戦術に問題があるとオルジュでもわかっていながら、使わざるを得ない状況であったのだ。
「この度作戦に加わる事になりましたティファニー・オブ・エヴァンスと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「同じくロズヴィータ・フォン・ライストナーです」
「ソフィア・フォン・フィーメルです」
三人の挨拶を黙って聞いていたレオニードはひと通りの挨拶が終わると椅子に座ったまま話し出した。
「ご苦労。私がこのブラウゼンの総指揮レオニードだ」
レオニードは身長は一八〇センチそこそこといったところで中肉中背で狐目の目つきは悪く、睨みつけるような目で相手を見るのが癖のようで、初対面の人間には自分を大きく見せて相手を威圧するのがこの人物のやり方なんだなと思ったのがティファの第一印象であった。
「ティファニーとか言ったな、お前のベンタインでの活躍は私も耳にしているが、戦場は役所仕事と違って甘くはないからな。学校で習った机上の戦術など通用しないとよく肝に銘じておくがいい」
この高圧的な態度に真っ先にロビーが頭に血が上ったがかろうじて堪えた。
「はい、よく存じておりますし肝に銘じております」
ティファは当たり障りなくそう返答したが、続いて出てきた言葉はこれからルンベルク要塞を攻めようと言う指揮官からは考えられない事であった。
「ところでティファニー中尉、我々はいまルンベルク要塞都市を攻略せんと出陣の準備をしているが、ティファニー中尉はあの要害を陥落させる手段は何かお持ちかな?ぜひ考えを聞かせてもらいたいのだが」
この言葉を聞いてティファは驚いた。これから攻め込む要塞都市の攻略法を考えてないのであろうか。
ここで思っている事を話すのは用心した方が良いと考え、のらりくらりと当たり障りのない回答でかわす事にした。
「ルンベルク要塞都市ほどの要害を陥落させる方法となると、相手の倍以上の大軍を持って攻撃するという以外はやりようがございません」
「それでは何も考えずにブラウゼンに来た事になるな、今回与えられた戦力は相手の半数と言う事くらい事前に聞いておろう。その中でどうするかを考えていないのか?お主も軍の中で上を目指すならそれくらいは考えておかねばならぬ。ここに来た以上は役人ではない、軍人になるのだから少しは頭を使ってみたらどうだ?」
この言葉にソフィアが刀に手をかけそうになったが、それに気がついたティファがレオニードから見えないように手をトントンと叩いてかろうじて怒りを堪えた。
「そうは申されましても、私もまだ若輩の身。経験も浅く考えられる範囲も狭うございます。不才の身ではございますがこれからひとつずつ習得していく所存です」
再び当たり障りのない返答を返すとティファはもう一つ疑問を投げかけた。
「それと危惧すべき事もございます。それはこの作戦がすでに相当な範囲に広まってしまっている事です。相手も攻めてくる事がわかっていれば対策をしてくるでしょう。もう少し情報には統制を行うべきかと」
「よいか、今回の作戦は我々の名を知らしめるためでもあるのだ。これが成功した暁には帝国軍はレオニードの名を聞いただけで畏怖するようになるであろう。相手に攻撃を知られていようが対策されていようが、我が軍の不屈の闘志をもってすれば撃破出来よう」
(は?何を言っているんだこの人は?)
これにはティファも思わず声が出そうになったが、かろうじてとどまった。
(これが成功した暁って。。成功すると思っているんだ。。こういう考え方もあるんだね)
レオニードは精神力を説いてきた。
「戦い勝つには精神力、つまり気持ちの問題だ。兵力が少なくとも必勝の信念を持って戦えば不可能を可能にする事も出来るのだ。どうもお主はやる気があるように見えぬ。まだ戦いに出向く気持ちがなっておらぬな」
(精神力でどうにかなるなら兵力を維持する必要なんてないよ。気合ひとつで敵を撃滅させられるのであれば私は何もせずに昼寝でもしていられるのに)
ティファはそう思ってはいたがさすがにそれを言う訳にもいかず、子供に言い聞かせるつもりで答えた。
「戦場において精神力が求められるのは双方の兵力が互角の場合であって、兵力に差がある場合においては精神力など兵力差によって粉砕されてしまいます。
ましてや最初から精神力を頼みに戦いを起こして勝利したなどという戦争は少なくとも私は歴史書で読んだことも授業で聞いた事もございません」
ティファがそう答えるとレオニードがまったくその解答を意に介する事なく精神論を繰り返してきた。
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