ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

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ロマリア帝国事件編

狂気の始まり

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アンナは父親の凶暴な部分と母親の美形を引き継いだ上に自己陶酔者であった。
自分の美に絶対の自信があり、若さと美の追求に異様に執着した。
幼少期に父親であるファビアンの暴力を間近で見ていたのもあるが、元々の性格でもあった。

アンナの母はファビアンは愛人の一人であったが、子供嫌いのファビアンはアンナが鳴き声を上げるたびに殴り、母親も殴られた。
アンナには物心ついた頃から父親の記憶は殴られた事しかなかった。

「ねえ、どうして殴るの？」

「お前のためにやってるんだ」

「私のために殴るの？」

「言う事を聞かないからだ」

「言う事を聞けば殴られないの？」

「うるさい！」

そう言ってはまた殴られた。

「私は本当に必要なの？」

「必要だから殴られるの？」

「殴られる事が必要とされる事なんだ。。」

アンナの中に狂気が芽生えていった。
お前のためと言われながら殴られた幼少期の日々により、自分にとって必要な人間を痛めつけるのはその人のためなんだと言うねじ曲がった考えが身に付いていった。

やがてファビアンは母とアンナを投げてるように捨てていき、アンナが五歳の時に母が心労から倒れて亡くなった。
母の死後、アンナは一人で生き抜くために剣の修行をしていた。
今やその実力はセリアたちに匹敵する。

ある日、三人組の盗賊に襲われて戦い、全員切り倒したが、返り血を腕に浴びる。

「汚らしいわね。。」

そう思いながら腕についた血を拭き取った時、返り血を浴びた腕の部分だけが肌が綺麗になったように思えた。
それから肌に血を付けると若さを保てると妄想を抱く。

「こんな薄汚い奴でも私の役に立つじゃない」

アンナの狂気はさらに増長していく。
自分のために他人を犠牲にしても構わない。
自分の糧になる事がその人の幸せなんだという考えに。
そこに父親が県令となりドナウゼンにいると知り、幼少期の自分を捨てた恨みを晴らすべくギアラエ鉱山都市へ乗り込んだ。

アンナは街に侵入するなり県令のいる市役所に飛び込むと、剣を抜いてファビアンを呼べとひと暴れした。
当然警備兵に加えて県令親衛隊もこれを取り押さえるべく出動するが、アンナは強くなかなか抑えられない。
そこへファビアンが姿を現した。

「何の騒ぎだ？」

「お前がファビアンか？私の顔を覚えているか？」

「お前の顔？」

ファビアンは怪訝な表情でアンナの顔を覗き込むが、次の瞬間驚きの声を上げた。

「お前は。。アンナか？」

「覚えていてくれて光栄だよ。ファビアン・ホルト」

ファビアンはアンナが自分の娘だとわかると警備兵たちを退かせた。

「皆の者、これはわしの娘だ。下がって良い。しばらく娘と二人だけで話しがしたい」

ファビアンの命令で警備兵たちは姿を消し、ファビアンとアンナの二人だけとなった。
アンナはファビアンを殺すつもりだったが、ファビアンは意外にもアンナに怯えるような態度を示した。
ファビアンは幼少の頃、ネープ民族であった母親に殴られた記憶からネープ民族女性の目を見るとその時の恐怖心が目覚めるのだ。

「お前が何故生きている？」

「生きてちゃ悪いのか？お前は私と母を捨ててのうのうと生きているくせに」

「金なら欲しいだけやるから、わしの前から消えてくれ」

「ほざくな！お前が私の前から消えろ」

アンナが刀を振り下ろそうとするとファビアンは命乞いをし始めた。

「待ってくれ。何が望みだ？わしの命以外なら何でもやる。命だけは助けてくれ。。」

「命以外。。お前の命以外に欲しいものがあってここに来てると思うか？」

「そこを何とか」

アンナは反吐が出る思いであった。
こんな奴のために私も母も地獄のような日々を送って来たのか。
こんな奴のために。。

（もはや殺す価値もないクズ）

そう思った時に何でもやるという言葉に咄嗟にひらめいた。
血を浴びて肌が綺麗になる事を。

「今何でもやると言ったな。その言葉に嘘はないか？」

「もちろんだ。お前の望むものなら何でもやる。だから命だけは。。」

「七日に一度、若い女の血を集めてよこせ」

「え？」

ファビアンは一瞬耳を疑った。

「若い女の血？」

「それも美人揃いのネープ民族の女の血を」

「それは、何のために」

「私の若さと美貌を保つためにさ。あんたには一つだけ感謝しているんだよ。私をこんな美人に産んでくれてね」

この女、頭のネジが数ヶ所外れている。
ファビアンはそう思ったが、なにせ自分の娘である。
自分の血が流れている以上、残忍な性格も自分譲りなのだろうと考えた。

「それは、何人くらい必要なんだ」

「風呂に入れるくらいだ。五、六人ってところだな。当然、専用の部屋と風呂場も用意してもらう」
「。。わかった。それでいいんだな」

「私は金には興味がない。あんたは鉱山と労働者を使って金儲けを自由にやればいい。私は美の追求が望みだからね。若い女の血さえ集めてくれれば良い」

「取引成立だ」

こうしてファビアンとアンナはギアラエ鉱山を利用して金儲けと若い女のを集めていった。

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