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ロマリア帝国事件編
セリア初陣
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一方県令ファシエルの元にはモニカの命令でフェルデン在中軍がこのドナウゼン鉱山都市に向かっているという報告が入ってきた。
「ファシエル様、私めは士官学校時代にセリアたちに痛い目に合わされて奴らには恨みがございます。私にドナウゼン在中軍をお預け頂ければ、フェルデン在中軍など蹴散らしてご覧にいれましょう」
「その心意気や良し。ハインツ大尉に在中軍五百人を預ける。フェルデン在中軍を倒した暁には少佐への昇進とカランドロの次席幕僚にしてやろう」
「ありがたきお言葉」
ハインツは今こそ士官学校時代の恨みを晴らす時と在中軍五百人を率いてセリアたちの討伐に向かった。
ギアラエ鉱山都市から五キロほどの地点にある平原でハインツ率いるドナウゼン在中軍とセリアのフェルデン在中軍が対峙していた。
「ジュディにエミリア。よもやこんな所でお前たちに再会するとは思わなかったぞ。あの時の恨みを今こそ晴らしてやる」
「恨みとか言ってるぜ。それはこっちが言いたい台詞だけどな」
ジュディが呆れ顔で肩をすぼめる。
「セリア、あの男は自尊心が高いだけで戦術的な事は素人同然だから、誘い込んで一気に片付けてしまおう」
エミリアの言葉にセリアもうなづき、横陣からやや中央を後ろに下げる布陣を敷いた。
戦闘開始と告げる号令が双方から響くと、各兵士一斉に前進して行く。
しかし、セリアは前線の兵士たちを少し戦わせただけで、すぐに後退を始めた。
セリアが後退するとハインツはほくそ笑みを浮かべた。
「見ろ、平民出身の士官などあの程度だ。この機を逃さず一気にたたみ掛けろ」
ハインツの号令にドナウゼン在中軍が中央突破を仕掛けてきたが、それこそセリアが望んだ展開であった。
「無脳者が。戦いのやり方のほんのさわりだけ教えてやる」
セリアが手を振るとそれを合図に両翼のジュディとエミリアが一気にドナウゼン在中軍の側面を突き、ドナウゼン在中軍はみるみるうちに包囲され戦力を削られていく。
「初陣か。胸が高鳴るな」
オリビアは高揚を抑えるために胸を手を当てていると前からドナウゼン在中軍の兵士たちが襲いかかって来た。
「無抵抗の者と逃げる者は捕らえて、向かって来る者は斬り捨てて構わないんだったよね」
オリビアが剣を一閃させる。
鋭い斬撃音と同時に襲いかかった二人が倒れた。
「セリアさんたち、私の実力をよく見てて下さいね」
オリビアが剣を持って走り出す。
「さあ、かかって来い」
オリビアはまだ十六歳だ。
見た目もあどけなさが残る少女にドナウゼン在中軍兵士たちはこれは組しやすいと突っかかっていったが、その判断が間違っていた事に気づいた時は手遅れであった。
オリビアが剣を振るうと相手は一人、また一人と討ち取られていき、その実力がわかった時にようやく悲鳴を上げて逃げ出していった。
「やるな。あの歳であれだけの剣術を身につけている者はそういない」
セリアが思わず唸った。
実力のある者を味方につけたいと考えているセリアやジュディたちにとってもオリビアは願ってもない逸材であった。
「オリビア、深追いするな」
セリアの命令にオリビアは「はい」と返事して引き返す。
「なかなかの腕だな。正直予想以上で驚いている」
「お褒めいただき光栄です」
「戦闘はジュディたちに任せてオリビアはユリアと共に残党の制圧にあたってくれ」
セリアにそう言われてちょっぴり物足りなかったオリビアだったが、上官の命令には逆らえずユリアと共に残党を捕らえる役割に徹した。
「おのれ、まともな戦い方が出来ぬのか。卑怯者が。恥を知れ。ジュディ、エミリア。出てきて俺と勝負しろ」
「ジュディ、エミリア。ご指名を受けたが、どうする?」
「ボクは遠慮するよ。愚者を相手に無駄な踊りを踊りたくない」
「私もパス。愚将でありながら自らを智将と思い込んでいる者は真の愚者よ」
「俺を愚者と呼ぶか、平民風情が舐めやがって」
「戦いに貴族も平民も関係あるか。どんな地位にいようが負けて死ねばそれまでだ。最後に生き残った者が一番強い。それが戦いだ。違うというなら勝ってみろ」
セリアの言葉にハインツは怒りと勢いでついに下の下策に出た。
全軍玉砕命令を出したのだ。
しかし、ファシエルがお気に入り人事で大尉に出世させた事を根に持つ一部の兵士たちはこれに従わず、ドナウゼン在中軍の動きが止まった。
セリアも敵とは言え、戦う気のない兵士たちをこれ以上無闇に斬りたくはない。
セリアはため息をついてエミリアに命じた。
「エミリア、気が向かないだろうがハインツを葬ってくれ。あいつさえいなくなれば他の兵士たちは戦いをやめて逃げていくだろう」
「わかったわ」
エミリアはハインツに向かって馬を走らせた。
「おお、エミリア。やっと俺と戦う気になったか」
ハインツが剣を上段に構えたところでエミリアの鋭い剣先が喉元に突き刺さり、ハインツは馬から落ちて断末魔の悲鳴すら上げる事なく絶命した。
「もうお前の顔も見たくないし、声も聞きたくない。さっさと決めさせてもらったよ」
エミリアはつまらなそうにそう言って戦列に戻った。
指揮官と軍の半数以上を失ったドナウゼン在中軍は離散して逃げ出した。
「せめてもの情けだ。ハプスブルク伯爵には見事な最後であったと虚偽報告しておいてやる。それで喜ぶような伯爵ではあるまいが」
ドナウゼン在中軍を撃破したセリアたちフェルデン在中軍はギアラエ炭鉱都市に一気に進撃した。
「ファシエル様、私めは士官学校時代にセリアたちに痛い目に合わされて奴らには恨みがございます。私にドナウゼン在中軍をお預け頂ければ、フェルデン在中軍など蹴散らしてご覧にいれましょう」
「その心意気や良し。ハインツ大尉に在中軍五百人を預ける。フェルデン在中軍を倒した暁には少佐への昇進とカランドロの次席幕僚にしてやろう」
「ありがたきお言葉」
ハインツは今こそ士官学校時代の恨みを晴らす時と在中軍五百人を率いてセリアたちの討伐に向かった。
ギアラエ鉱山都市から五キロほどの地点にある平原でハインツ率いるドナウゼン在中軍とセリアのフェルデン在中軍が対峙していた。
「ジュディにエミリア。よもやこんな所でお前たちに再会するとは思わなかったぞ。あの時の恨みを今こそ晴らしてやる」
「恨みとか言ってるぜ。それはこっちが言いたい台詞だけどな」
ジュディが呆れ顔で肩をすぼめる。
「セリア、あの男は自尊心が高いだけで戦術的な事は素人同然だから、誘い込んで一気に片付けてしまおう」
エミリアの言葉にセリアもうなづき、横陣からやや中央を後ろに下げる布陣を敷いた。
戦闘開始と告げる号令が双方から響くと、各兵士一斉に前進して行く。
しかし、セリアは前線の兵士たちを少し戦わせただけで、すぐに後退を始めた。
セリアが後退するとハインツはほくそ笑みを浮かべた。
「見ろ、平民出身の士官などあの程度だ。この機を逃さず一気にたたみ掛けろ」
ハインツの号令にドナウゼン在中軍が中央突破を仕掛けてきたが、それこそセリアが望んだ展開であった。
「無脳者が。戦いのやり方のほんのさわりだけ教えてやる」
セリアが手を振るとそれを合図に両翼のジュディとエミリアが一気にドナウゼン在中軍の側面を突き、ドナウゼン在中軍はみるみるうちに包囲され戦力を削られていく。
「初陣か。胸が高鳴るな」
オリビアは高揚を抑えるために胸を手を当てていると前からドナウゼン在中軍の兵士たちが襲いかかって来た。
「無抵抗の者と逃げる者は捕らえて、向かって来る者は斬り捨てて構わないんだったよね」
オリビアが剣を一閃させる。
鋭い斬撃音と同時に襲いかかった二人が倒れた。
「セリアさんたち、私の実力をよく見てて下さいね」
オリビアが剣を持って走り出す。
「さあ、かかって来い」
オリビアはまだ十六歳だ。
見た目もあどけなさが残る少女にドナウゼン在中軍兵士たちはこれは組しやすいと突っかかっていったが、その判断が間違っていた事に気づいた時は手遅れであった。
オリビアが剣を振るうと相手は一人、また一人と討ち取られていき、その実力がわかった時にようやく悲鳴を上げて逃げ出していった。
「やるな。あの歳であれだけの剣術を身につけている者はそういない」
セリアが思わず唸った。
実力のある者を味方につけたいと考えているセリアやジュディたちにとってもオリビアは願ってもない逸材であった。
「オリビア、深追いするな」
セリアの命令にオリビアは「はい」と返事して引き返す。
「なかなかの腕だな。正直予想以上で驚いている」
「お褒めいただき光栄です」
「戦闘はジュディたちに任せてオリビアはユリアと共に残党の制圧にあたってくれ」
セリアにそう言われてちょっぴり物足りなかったオリビアだったが、上官の命令には逆らえずユリアと共に残党を捕らえる役割に徹した。
「おのれ、まともな戦い方が出来ぬのか。卑怯者が。恥を知れ。ジュディ、エミリア。出てきて俺と勝負しろ」
「ジュディ、エミリア。ご指名を受けたが、どうする?」
「ボクは遠慮するよ。愚者を相手に無駄な踊りを踊りたくない」
「私もパス。愚将でありながら自らを智将と思い込んでいる者は真の愚者よ」
「俺を愚者と呼ぶか、平民風情が舐めやがって」
「戦いに貴族も平民も関係あるか。どんな地位にいようが負けて死ねばそれまでだ。最後に生き残った者が一番強い。それが戦いだ。違うというなら勝ってみろ」
セリアの言葉にハインツは怒りと勢いでついに下の下策に出た。
全軍玉砕命令を出したのだ。
しかし、ファシエルがお気に入り人事で大尉に出世させた事を根に持つ一部の兵士たちはこれに従わず、ドナウゼン在中軍の動きが止まった。
セリアも敵とは言え、戦う気のない兵士たちをこれ以上無闇に斬りたくはない。
セリアはため息をついてエミリアに命じた。
「エミリア、気が向かないだろうがハインツを葬ってくれ。あいつさえいなくなれば他の兵士たちは戦いをやめて逃げていくだろう」
「わかったわ」
エミリアはハインツに向かって馬を走らせた。
「おお、エミリア。やっと俺と戦う気になったか」
ハインツが剣を上段に構えたところでエミリアの鋭い剣先が喉元に突き刺さり、ハインツは馬から落ちて断末魔の悲鳴すら上げる事なく絶命した。
「もうお前の顔も見たくないし、声も聞きたくない。さっさと決めさせてもらったよ」
エミリアはつまらなそうにそう言って戦列に戻った。
指揮官と軍の半数以上を失ったドナウゼン在中軍は離散して逃げ出した。
「せめてもの情けだ。ハプスブルク伯爵には見事な最後であったと虚偽報告しておいてやる。それで喜ぶような伯爵ではあるまいが」
ドナウゼン在中軍を撃破したセリアたちフェルデン在中軍はギアラエ炭鉱都市に一気に進撃した。
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