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ロマリア帝国事件編
ソレーヌ内偵調査 前編
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ギアラエ鉱山の一日は早朝から始まる。
朝起きたらまずは朝食を取り、所定の持ち場に集合して点呼と軽い準備体操をおこなう。午前中はそれぞれ分担しての仕事となる。
イアル民族の信者が担当するのは比較的楽な労働で清掃、裁縫、炊飯、畑仕事などである。
一方他民族は鉱山で昼夜を問わず労働させられている。
ソレーヌは畑仕事を任され、ここでも数人から話しを聞き出したが、返ってくる言葉はお茶を濁したようなものばかりであった。
「何かを恐れている。。何だ?」
何者かに常に監視されながら生活する社会の恐怖。
それは経験した者にしか理解出来ないものであろう。
ソレーヌがふとそんな事を考えていると、カランドロが一人の男を連れて県令のいる役所へ向かって行った。
その男の顔を見てソレーヌは渋い顔つきになった。
「あいつは確かハインツとか言ったな。何故あいつがここに」
ハインツ・ヨアヒム・ハプスブルク。
士官学校時代に仲間とつるんでエミリアを監禁した貴族子息である。
モニカの私衛兵によって逮捕され、その後数日は牢に入っていたが、ハプスブルク伯爵からの多額の保釈金で釈放され、その後は士官学校には戻らず遊び呆けていた。
しかし流石に十八歳過ぎて職にも付かないとなるとハプスブルク家の嫡子として体裁が悪い。
そこで父の七光を使い軍に入隊し、このドナウゼンへと配置された。
ハインツは自身がイアル民族でなおかつハプスブルク伯爵の地位を継ぐ者という自尊心が強く、士官学校時代に痛い目にあわされたセリアやジュディたちを逆恨みしていた。
ハインツはカランドロに連れられ県令室でファシエルと挨拶を交わす。
「県令ファシエル様、私はハインツ・ヨアヒム・ハプスブルクと申しまして名門貴族ハプスブルク家の嫡男でございます」
「おお、噂に名高いハプスブルク伯爵の御子息であられるか。よくぞこのドナウゼンに来て下さった。悪いようにはせぬから安心して公務についてくだされ」
強い者や権威のある者に頭が上がらないファシエルはハプスブルク家の子息であるハインツを贔屓し、少尉での配属であったが平民で中尉となった兵士たちよりも上の大尉に飛び石出世させた。
当然、兵士たちから不平不満を買うこととなった。
ハインツとの面談が一段落すると、ファビアンは豪華な絵画や彫刻が飾られた県令室に戻り、ワインを開けた。
「カランドロ、この週末までに用意する生贄はもう決まっておろうな?」
「もちろんでございます。きっとお嬢様も満足して頂ける逸材である事は私が保証します」
「その生贄は当日まで大切に扱ってやれ」
「承知致しました」
ソレーヌは監視の目を潜り抜け、先日自分を案内してくれた女性の元へ向かった。
イアル民族のソレーヌは他の民族と違いかなり監視の目が緩い。
(彼女なら何か知っていて話してくれるかも知れない)
女性はユージット民族で、比較的軽労働の作業に従事するのみで済んでいた。
ユージット民族はタスタニアの大半を占める民族でイアル民族と見た目はほとんど変わりない。
ここではイアル民族の次に位置付けられてはいるが、ルーファス法の下では何か落ち度があれば収容所行きの待遇である。
「仕事中すまない。少し話しを聞かせてもらえないかな?」
「あなたは昨日入って来た。。」
女性は昨日自分が案内したばかりのソレーヌを当然覚えていた。
ソレーヌは単刀直入にこのギアラエ鉱山内で何が起きているのかを聞いてみた。
「あなたは密偵?」
「し。あまり話してると怪しまれる。簡潔に済ませたい。この数ヶ月、このギアラエ鉱山内と近隣でネープ民族女性が失踪する事件に関して調べている。何でもいい。何か知っている事があれば話してもらえないか?」
女性は突然の事に戸惑っていた。
もしかしたら内偵に見せかけたファビアンの手の者かも知れないと疑ったからだ。
ソレーヌもそれを察したのか、相手を信用させるために自分の素性を打ち明けた。
「私はモニカ様配下でフェルデン在中軍少尉のソレーヌと申します。モニカ様の命によりこのギアラエ鉱山の内偵に入っています」
それを聞いて女性は疑惑の念が多少払拭されたようであった。
もちろんそれで全面的にソレーヌを信用した訳ではないが、少なくともソレーヌの目を見て嘘を言っていないと判断した。
「あなたが本当にモニカ様のご使者なのか私にはわかりません。ですがあなたが嘘を言っているようにも思えません。ここでの実態はいずれ明るみに出るでしょうし、そうでなければならないと思っていました。あなたになら私でわかる事であればお答え致します」
女性はこのギアラエ鉱山は、表向きは労働者の雇用を促進するといってルーファス法で行き場を無くした人たちに住まいと働く場を提供するという名目になっているが、その実態は低賃金で人を働かせてファビアンの懐を肥やすための施設だと言う事と、カラクリは金の採掘量を誤魔化す事を話してくれた。
朝起きたらまずは朝食を取り、所定の持ち場に集合して点呼と軽い準備体操をおこなう。午前中はそれぞれ分担しての仕事となる。
イアル民族の信者が担当するのは比較的楽な労働で清掃、裁縫、炊飯、畑仕事などである。
一方他民族は鉱山で昼夜を問わず労働させられている。
ソレーヌは畑仕事を任され、ここでも数人から話しを聞き出したが、返ってくる言葉はお茶を濁したようなものばかりであった。
「何かを恐れている。。何だ?」
何者かに常に監視されながら生活する社会の恐怖。
それは経験した者にしか理解出来ないものであろう。
ソレーヌがふとそんな事を考えていると、カランドロが一人の男を連れて県令のいる役所へ向かって行った。
その男の顔を見てソレーヌは渋い顔つきになった。
「あいつは確かハインツとか言ったな。何故あいつがここに」
ハインツ・ヨアヒム・ハプスブルク。
士官学校時代に仲間とつるんでエミリアを監禁した貴族子息である。
モニカの私衛兵によって逮捕され、その後数日は牢に入っていたが、ハプスブルク伯爵からの多額の保釈金で釈放され、その後は士官学校には戻らず遊び呆けていた。
しかし流石に十八歳過ぎて職にも付かないとなるとハプスブルク家の嫡子として体裁が悪い。
そこで父の七光を使い軍に入隊し、このドナウゼンへと配置された。
ハインツは自身がイアル民族でなおかつハプスブルク伯爵の地位を継ぐ者という自尊心が強く、士官学校時代に痛い目にあわされたセリアやジュディたちを逆恨みしていた。
ハインツはカランドロに連れられ県令室でファシエルと挨拶を交わす。
「県令ファシエル様、私はハインツ・ヨアヒム・ハプスブルクと申しまして名門貴族ハプスブルク家の嫡男でございます」
「おお、噂に名高いハプスブルク伯爵の御子息であられるか。よくぞこのドナウゼンに来て下さった。悪いようにはせぬから安心して公務についてくだされ」
強い者や権威のある者に頭が上がらないファシエルはハプスブルク家の子息であるハインツを贔屓し、少尉での配属であったが平民で中尉となった兵士たちよりも上の大尉に飛び石出世させた。
当然、兵士たちから不平不満を買うこととなった。
ハインツとの面談が一段落すると、ファビアンは豪華な絵画や彫刻が飾られた県令室に戻り、ワインを開けた。
「カランドロ、この週末までに用意する生贄はもう決まっておろうな?」
「もちろんでございます。きっとお嬢様も満足して頂ける逸材である事は私が保証します」
「その生贄は当日まで大切に扱ってやれ」
「承知致しました」
ソレーヌは監視の目を潜り抜け、先日自分を案内してくれた女性の元へ向かった。
イアル民族のソレーヌは他の民族と違いかなり監視の目が緩い。
(彼女なら何か知っていて話してくれるかも知れない)
女性はユージット民族で、比較的軽労働の作業に従事するのみで済んでいた。
ユージット民族はタスタニアの大半を占める民族でイアル民族と見た目はほとんど変わりない。
ここではイアル民族の次に位置付けられてはいるが、ルーファス法の下では何か落ち度があれば収容所行きの待遇である。
「仕事中すまない。少し話しを聞かせてもらえないかな?」
「あなたは昨日入って来た。。」
女性は昨日自分が案内したばかりのソレーヌを当然覚えていた。
ソレーヌは単刀直入にこのギアラエ鉱山内で何が起きているのかを聞いてみた。
「あなたは密偵?」
「し。あまり話してると怪しまれる。簡潔に済ませたい。この数ヶ月、このギアラエ鉱山内と近隣でネープ民族女性が失踪する事件に関して調べている。何でもいい。何か知っている事があれば話してもらえないか?」
女性は突然の事に戸惑っていた。
もしかしたら内偵に見せかけたファビアンの手の者かも知れないと疑ったからだ。
ソレーヌもそれを察したのか、相手を信用させるために自分の素性を打ち明けた。
「私はモニカ様配下でフェルデン在中軍少尉のソレーヌと申します。モニカ様の命によりこのギアラエ鉱山の内偵に入っています」
それを聞いて女性は疑惑の念が多少払拭されたようであった。
もちろんそれで全面的にソレーヌを信用した訳ではないが、少なくともソレーヌの目を見て嘘を言っていないと判断した。
「あなたが本当にモニカ様のご使者なのか私にはわかりません。ですがあなたが嘘を言っているようにも思えません。ここでの実態はいずれ明るみに出るでしょうし、そうでなければならないと思っていました。あなたになら私でわかる事であればお答え致します」
女性はこのギアラエ鉱山は、表向きは労働者の雇用を促進するといってルーファス法で行き場を無くした人たちに住まいと働く場を提供するという名目になっているが、その実態は低賃金で人を働かせてファビアンの懐を肥やすための施設だと言う事と、カラクリは金の採掘量を誤魔化す事を話してくれた。
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